X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

天体観測

全体公開 ォョ関連 20 1538文字
2024-12-15 18:52:16

ォョ

Posted by @kurato0o

もう歩きたくない。
彼女は立ち止まって、自分を包むように丸い夜空を見上げた。丘の上でぽつねんと立ち止まる少女を囲い込むように、ヒスイの夜空はどこまでも広く、遠くまできらきらと瞬きを宿して遥か彼方ゆったりとぼんやりとした色の雲を流す。そんな光景になんだか泣きなくなって、途方もなくなってしまう。
いつまで歩けば、ゆるしてもらえるのだろう。
孤独と焦燥感、やるせなさが小さな胸を締め付ける。あの日、唯一微笑みかけてくれた人ももういない。ここには誰もいない。自分以外の、何もない。涙を流したとて解決はしない。いつか家路につける日が来るかどうかもわからない。叶う夢があるかどうかさえ曖昧な自分には、ただ歩き続けるより他なくて、この寂しさに打ち震えながらひたむきに歩くしかなくて、寄る辺もなく、最早甘言を囁く悪魔さえいない。示されたひとつの道。それを進むしかない。
拭っても拭っても溢れる涙。
止めてくれる人は――



……やっと起きた」
不意に聞こえる低い声は、機嫌が悪そうでまるで獣の唸り声のようだった。
ショウは何度か目をぱちぱちとさせて、はあっと息を大きく吸い込んで、同時に自分が息を止めていたことに気付いた。
長い黒髪の先を、指でくるくると巻いて弄ぶ男は寝巻きを着崩したままこちらを見下ろしている。がっぱりと開いた着流しから白い肌が見えている。自分より歳上だということを思わせない肌艶に目を奪われるが、頭上の男の無言の圧にすぐに唇を結んだ。
「愉快な夢でも見ていたようで」
じっとりと怪訝な視線を送られ、ショウはまた目を瞬かせた。
愉快な夢?
そうだったろうか……
気付けば肌がじっとりと嫌に汗ばんでいる。
「そうでしょうか……
「魘されていましたよ」
答える男はやはりつまらなそうだ。
ショウの髪を弄りながら、ふうと色っぽい溜息を吐いてみせた。
「隣にワタクシというものがありながら随分と、余裕なもんで」
――怒っている。
いや、拗ねている――
よく、わからない。
起きていの一番に罵声を浴びせてくる男に、ショウは混乱を隠しきれない。が、反論する余力もない。
きっと、嫌な夢を見たのだろう。
内容は覚えていないけれど、そんな気がする。
曲がりなりにも隣で寝ている女の子が苦しみながら起きて、怒りをぶつけてくる男がいるだろうか。魘されていたというなら優しくしてくれてもいい気がするが、まあそんなことを求めたところで仕方がないというのはどこかで分かりきったことでもある。
……ウォロさん」
「はい?」
寝転がりながら、ショウは男の方へ身体を傾けた。
男は依然不貞腐れた顔をしている。
息はまだ荒い。
まだこわい。
なにがこわいのかもわからないが、ずっとこわい。
男の服の裾を掴み、額を寄せて小さく呟いた。
「夢にも出てきて」
……はい?」
「夢の中にもいて。それで絶対、どこにもいかないで」
小さくなって訴えかける。
暫しの沈黙の後、彼の服を掴んでいた手をぐっと握られ引き剥がされる。身を切られるような痛みの後、そのまま地面に縫い付けられる。大きく目を見開いた先には、うっそりと微笑んだ男がこちらを見下ろして、長い髪がばらばらと落ちてきた。
――可愛い人」
「あっ……
頬を親指で撫でられ、太い脚が自分の合間に割り入れられる。思わず甘い声が喉から出てしまう。
いつの間にか機嫌を持ち直した男が、ショウのこめかみに口付けを落としながら、大きな手で肌に触れる。身動ぎするショウに、男は低い声で告げる。
「そのまま一生怯えていろ」
男に囲われた狭い天井。どうしてか泣きたくなって、そのまま手を伸ばす。
掴めなかった夜空の代わりに、男の手が彼女の指に絡んだ。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.