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真夜中のパーティ

全体公開 創作話 6674文字
2024-12-25 03:18:10

2024クリスマス
理央、雪宗、多喜、R.Xです。

Posted by @lianmiso

「諸君!クリスマスが憎いか?」
「憎い!」「憎い!」「憎い!」
「店に充満する甘ったるい香りが憎いか!」
「憎い!」「憎い!」「憎い!」
「忘年会、新年会があるのにスケジュールを圧迫し、油物、酒で胃にダメージを与えるクリスマスが憎いか!」
「憎い!」「憎い!」「それはちょっとわからない」
「何よりも恋人たちが憎い!嫉ましい!何故我々には恋人がいないのか。そうだ!イケメンだ!イケメンがすべてを掻っ攫ってしまう!ならばーーー我々はいつも通りだ!いつもの通り顔が良い人間の本性を暴きーーー!」
 ホワイトクリスマスと真逆のブラックな幕には【聖夜終了のお知らせ】と血文字が滲んでいた。

「それにしても、クリスマスにバンでキャンプとはねぇ」
「ふふ、たまにはこういうのもいいだろう?」
 理央がマグカップを掲げる。ぱちぱちと爆ぜる薪を挟んで雪宗が薪越しににっこりと笑った。
「バラエティ番組か何かですか?」
「むう……雪宗の意地悪」
「駐車場ではないだけまだ風情がありますかねぇ」
 仕事用のバンを山中に止め、ただ薪を焚べ、2人で向かい合わせに座る。
 お世辞にもお洒落なバンキャンプとはいえないが、普段これよりも酷い野宿をしているのだ。天国と言っていいだろう。
 野犬も理央がいる限り寄ってこない。
「パーティ誘われたんでしょう?行かないんですか?」
 事務所の穏健組がささやかなクリスマスパーティを開いていたはずだ。理央は声を掛けられていた。雪宗は誘われなかったが……
「パーティに行くなら腕を振る舞わないといけないだろ?以前、お前が教えてくれたじゃないか。青い顔して来なくていいと言われたよ。台所出禁だとか」
「素晴らしいサプライズなのに何故でしょうね!」
「だろう!この後、雪宗にも……!」
「僕が作りますねぇ」
「ん?いいのか?」
「ええ、理央さんと同じく誘われたサプラーイズ!って奴ですよ」
「そうかそうか」と頷きながらごそごそと荷物袋を漁り始めた理央に雪宗は笑顔を安堵の物に変えた。
(僕は投薬の末に毒への耐性を身につけたのですが、理央さんの料理はそれを超えてきますからね)
 自然と自分の腹を撫でる。
 以前食べた時、意識が飛んだ。
 起きてからも痛いどころではない。自分の腹の中が地獄の釜の中身になった。寒いのか熱いのかもわからず腹を裏返して絶えず上下逆さまになったような気分だった。
「腹、減ったか?色々買って来たぞ!鶏肉に海老に鮭、トマト缶にチリソース、クラッカー、林檎、チーズだろ?ワインにお前の好きなジャム各種とウォッカ、上等な砂糖。それに××産の〇〇」
 色とりどりの食材の中に怪しく蠢く黒い物体が瓶の中で動いている。
「それはいりません」
「そうか」と心なしかしゅんとする理央から食材を受け取る。
 理央の料理が年々凶悪性を増しているのは……
(僕らに栄養を摂らせようとするのもありますが、彼女の背に宿る大百足のせいですかねぇ)
 感覚がどんどん狂っているのだろう。防ぐ術は見つかっていない。
「他に使い道はあるでしょう。さ、元気を出して!ちゃちゃっと作ってしまいますから!」
「ウォッカとジャムは入れるなよ」
「はいはい、わかっていますって」
 宣言通り雪宗は手際良く料理を作る。前菜にチーズの盛り合わせ、クリームチーズにチリソースを混ぜてディップソースに。
 新鮮な海老は焼くだけでも美味しいが鮭とトマト煮に。
「まさか山の中でフライドチキンが食べられるとは思わなかった」
「ふふ、サプライズ大成功ですねぇ」
 お腹いっぱい。キラキラに目を輝かす理央に満足な笑みを浮かべ、テキパキと後片付けをしていく。
「魔法か!?」
「魔法じゃないですよぉ。さ、あとはメイン。ケーキですねぇ。お茶やコーヒーと一緒に……
 雪宗がバンのトランクを開ける。
 瞬間爆発した。
「敵襲!大丈夫か!雪宗」
「惜しい命を亡くしました……
「生きてるじゃないか!怪我もない」
「無事じゃないですよ。職人さんの尊い命、魂が籠ったケーキがね
 バンと雪宗は焦げてすらいないが、雪宗の両手には灰しかない。
「えっ、何あれ……普通車と人間吹き飛ばない?」
 ぼそぼそした声が茂みの中から聞こえる。
「我が食後の楽しみを奪うとは何奴!何者だ!名を名乗れ!」
 理央がびしりと茂みを指差す。生徒を当てる先生の如く。
「真正面から言って出て来ますかねぇ。茂みに隠れて野生動物用ロケット花火打ってくる人たちですよ?卑怯ですよ卑怯」
 ケーキの消失に呆然しているように見えて雪宗は見逃さなかった。
「お前より卑怯でないと思う!」
「これは……味方から刺されるとは。参りましたねぇ」
「ど、どうする?変な奴らだよ!」
「今更引けるか!」
 茂みからローブを被った不審者が飛び出る。
「やあやあ!我こそは【秘密結社恋ノ邪魔者】!聖夜の本来の意味を忘れ、仲良く戯れるこいび……恋人よ!今すぐに別れ、こたつに入り、史上最大のプレゼントショーでも見るが良い!」
「サンタがTVでショーでもするのか?」
何も知らないローブのーーー声からして男が恐れ慄く。
「史上最大のプレゼントショーを知らないとは……
「バラエティ番組は意外に見ないんですよねこの人」
「ううう、うるさーい!とにかくとっとと別れろ!」
 騒ぐローブの男に雪宗は笑みを深める。
「僕は許しますよ。早くここから出ていきなさい」
「何を!偉そうに!痛い目に遭いたいのか!」
 片手にロケット花火6本、もう片手にライター。
「もう一度……!」
 ぶちかましてやろうとしたが雪宗の隣に理央はいない。
「僕は止めましたからね」
 何処だ何処だと黒ローブが辺りを見渡す。
「職人さんが魂込めたケーキを吹き飛ばし、恋人たちのみならず友人との聖夜を乱す不届き者よ」
 声が上から降ってくる。
 太い木の枝の上に理央は仁王立ちし、ささやかなパーティをぶち壊した下手人を見下ろしていた。
「慈悲深き静かな夜が暴虐すら許そうとも天と地とこの私が許さん!」
 とう!と飛び降りると理央はケープの下から剣を抜く。
「やっぱりやばいよ!あの人、螺子が取れてるよ!逃げようよ!」
「煩い!俺はヒーロー気取りの奴が心底嫌いなんだ!ロケット花火喰らえ!」
 理央の顔面にロケット花火が直撃する。
 煙が晴れる。
 理央は何処も怪我をしていない。
「ヒッ!」
 雪宗がずいと黒ローブの1人に顔を近づける。ローブがなければ鼻がぶつかっていただろう。
「なんでぶつけた方が怯えるんですかぁ?ぶつけることを選んだのは貴方でしょうに。よかったじゃないですかぁ。警察に捕まらなくて。誰も怪我してないんだから
「魔具。そのロケット花火、魔具だな。何処で」
 言い終わる前に二筋の光が2人と1人の間に割って入る。
 紺色の乗用車はあっという間に去り、黒ローブはそこにおらず。
 理央と雪宗、爆散したケーキが後に残された。
「追うぞ!あの魔具は放っておけない!」
「こんなこともあろうと発信機つけておきましたよ、えぇ」
 バンに飛び乗る!真夏より熱い聖夜はこれからだ!

「おっとと……
(ちょっと買いすぎちゃったかな)
 プレゼントするのが好きな性分にお人好しがプラスされ、多喜の腕の中には箱の塔が出来ていた。
(お砂糖、スパイス壱樹くんが使ってくれるよね。湊くんも喜ぶし霧凍くんもなんだかんだ最近空気がわかりやすい)
 1人で笑ってしまう。
(素敵な何か、みんな持ってるよね)
 チームを組んでしばらく経った。自分たちのチームは事務所内で1番ではないか?と自慢したくなるくらい。自慢できる相手は限られているが。こう、守秘義務で。魔術師として手の内を明かすわけにはいかない。
 足取り軽くーーーそのまま体が浮いた。
「やぁ!多喜!奇遇だな!その大荷物大変だろう?送るから手伝ってくれ!」
 暑苦しい大声にきらんと歯を覗かせ、顔も覗かせたのは理央。
 バックミラー越しに手を挙げたのは雪宗。運転手だ。
「時間指定はできなそうだね……
 魔法で1人帰ってしまおうとしたが、車の隅で縮こまる男が1人。
「君はR.Xくん?」
「職場にいたら捕まって……
「運送班ですからねぇ。この車、追跡機能、使うとナビ使えないんですよぉ」
 多喜はため息ひとつ吐くと、ポケットからスマホを取り出した。
「もしもし?壱樹くん?ごめん、ブラックサンタに捕まっちゃってさ。うん?悪いところに来るサンタ。そうそう、ちょっと説得して帰るから先に始めちゃってて。深夜には帰るから」
 スマホをしまうと、ため息をもう一つ。
 荷物を収納魔法でしまう。社内であれば人の目を気にしなくて良い。
「で?僕はバンを誤魔化せばいいんだよね」
「話が早い」
 理央が多喜に事情を話す。ため息は増えるばかり。
「R.Xくん、ナビを。早く済ませてケーキ食べちゃおう。元のクリスマスに戻すんだ」
「意外に肝が据わってるんですね。USBケーブルは……これは酷い」
 助手席の理央と交換しながら、エアコン下部分を弄るR.X。目当てのコードは見つからない。絡まりだんご状になっている。
「最後に使ったのは妙信だったか」
「だから煙草臭いんだね。後でファブリーズ、使わなきゃ」
「いまの時代、USB……
 運転しながら雪宗が笑顔を苦いものに変える。
「す、好きでUSBの端子がついたわけじゃないですよ!」
 首の左側面をスライドさせると、端子が現れる。ギュッと目を瞑り、R.Xはケーブルを刺した。
「次の交差点を直進!」
「了解です!」
 雪宗がアクセルを踏み込んだ。R.Xの指示が飛ぶと共に急ハンドル、急ブレーキが連続し、車内の人間がガクンガクンと揺さぶられる。洗濯機みたいだ。シートベルトがなければ体が投げ出されていただろう。
「うっぷ……運転変われば良かったかな」
「しまった!」
 R.Xが悲鳴を上げた。
「どうした!」
「私の内蔵ナビも古かったんです!」
 目の前には何処までも暗く、雲の合間から差し込む月の光まで飲み込む海。
 古びたバンの中にむわりとした潮の香りが入り込む。
「エアコン効かないんですよねぇ。このバン。外気モードだと海の空気がそのまま入ってくるから湿っぽくて塩っぽいです」
「海だからね。ちゃんと洗車はもちろん車内もクリーニングしてね」
「海が塩じゃなくて砂糖ならいいのに」
「それは甘ったるくて嫌だなぁ」
 雪宗は甘党。多喜は辛党である。
「それか酒」
「葡萄酒を海水で割るのは昔何処かであったみたいだけど」
「どうしましょう、道を戻って……
「カーナビで見る発信機の反応は海の真ん中。うん、現在修理中の島と本土を繋ぐ大橋だな」
 理央が身を乗り出し移動し続ける発信機の反応を人差し指でなぞる。
「工事も流石にクリスマスは休みですし逃げるのにはうってつけですね。どうします?」
「三十木には連絡済。海辺なら水気も多い。僕も術を使いやすいよ」
「ありがとう、多喜。それにR.X。ナイスナビゲーション。君達がいて良かった。いなかったらここまで来れなかったーーーこれからもな。雪宗、アクセル全開!」
「承知しました」
「えっ?ちょっと目の前は!」
 R.Xの言葉に鼻歌を重ね、雪宗はアクセルを踏み込んだ。エンジンが唸りを上げ、バンは飛ぶ。
 海上へ!
「うわーぁぁぁあぁぁ、ああああぁぁぁぁぁぁ!!」
 R.Xの悲鳴に負けぬくらいの大声で理央が叫ぶ!
「日の本、根の国支える我が友大百足よ!今ここに姿を現したまえ!」
「ーーー霧よ。全てを覆え。月も星の明かりから我が身を隠せ」
 海中から海を割り、赤い巨大な物がが現れる。見る人が見れば大百足とわかるだろう。バンが飛び乗ってもびくともしない。
 そして、海面から湯気のように上がる水蒸気はみるみるうちに濃く、深くなり、歩いていたなら足の先も見えなくなっていただろう。
 霧は大百足をすっぽりと覆い隠す。
「大百足の道?」
「あぁ!これで先回りできる!止まれ!止まらんとぶつかるぞ!」
 先程まで追いかけてきた車が前から現れた。慌てた相手はUターンをする。
「逃がしませんよぉ?」
 雪宗の台詞と共に窓から何かを投げる。相手の車が不自然に止まった。
「やった!今がチャンス!」
 理央がバンから飛び降りる。
……何したの?」
 じろりと多喜が雪宗を睨む。ぺかりと雪宗は笑った。突いても破れなそうな厚さこそあるが、薄っぺらい笑みだ。
「何もしていませんよ?」
「相手の車のスペックを引き出し、エンストを引き出した。そうでしょ。危ないからあまりやっちゃダメだよ」
「いいえ、あれを投げたんです」
「あれ?」
「××産の〇〇。能力引き出してまさか接着剤になるとは」

「さぁ!下手人よ!おとなしく投降しろ!今なら君たち自身も助かる!」
 車が止まろうとも素早く降り、影から
「イケメン集団め!くたばれ!」「モテ男ー!消えちまえ!」などと黒ローブたちは叫ぶ。
「ーーー化け物!」
 飛んできた石礫を上半身を少し傾け、ひょいと躱す。
「っ!まだ言うか!」
 理央が叫ぶ。ビリビリと空気が震えた。
「そんな人の不幸を願い、隣人や友人の幸せを願えないからモテないのだ!説教されて故郷に帰れ!愛に飢えた獣共よ!ーーー堕ちろ!大百足!」
 巨体が宙から現れ、落ちる。
 大百足が車諸共2人を潰した。
「想い人に逃げられる私がイケメンでモテるだと?節穴すぎる……どいつもこいつも……私も……あぁ、化け物は当たっているか」

 三十木に事情を説明し、2人を引き渡した。
 現物を持っており、多喜の隠蔽がうまくいったからか取り調べもなあなあに理央と多喜は解放された。多喜はあくびひとつすると袖を少し捲り、腕時計を確認する。
「ギリギリパーティに間に合うんだよね」
「付き合ってもらって悪かったな」
 「ううん」と多喜は笑って首を横にゆるく振った。
「カップルにロケット花火ぶつけるような奴は放っておけないよ」
「そうか。そうだよな」
「元気ないね。怪我した?」
「雪宗がどこかに行ってしまってな。これからどうするか考えていたんだ」
(こんな化け物とは一緒に過ごしたくないのかもしれない。……なんてな!あいつ表情があればなんでもいいから。気持ちが弱ってるぞ!)
 理央がパァンと自分の両頬を叩く。
「な、何?」
「気合いの入れ直しだ!」
「そ、そう。ねぇ、理央さんがよかったら荷物運ぶの手伝って欲しいんだけど」
「おう!任せろ!」
 バンで30分。混雑もなく寮に着く。多喜、理央、それにR.Xの3人であればすぐ荷物も降ろし終わるだろう。
「おう、理央!料理の味見してくれ」
 部屋まで運ぶと、食堂から壱樹が飛び出して理央の手を掴んで引き摺る。
「壱樹?私は台所に入るな!と……
「人には向き不向きがある!味見なら完璧だろ?」
「怪物、なのに」
「ちゃんと人のことを考えられて動ける奴が怪物か?誰かにそう言われたならぶん殴ってやる!そいつの方が怪物だ!俺のおたまが唸るぜ!」
 おたまを振り回す壱樹。飛沫を避けながら理央はふっと息をついた。
「とりあえず体も心もあっためようぜ!飯食って美味いって思えるなら大丈夫!駄目そうだったらちょっと休もう。いつも調子いいって訳じゃねーだろ。誰だってさ」
……そうだな。そうだ。台所が焦げ臭いぞ」
「わー!?火を止め忘れてた!」
 壱樹が台所に走る。ざわざわと後ろ髪を揺らしながら暖簾を潜っていった。
「やれやれ………ありがとな、壱樹」
 R.Xも交えてパーティに参加。余韻を噛み締めながら、自室に帰る。
 鍵を差し込み、回すが……
(開いている?)
 扉を開ければ、パァンと破裂音。
 花火ではない。クラッカーの音だ。
「メリークリスマス、理央さん!ケーキ買ってきましたよ」
「ケーキ買うなら連絡しろ!」
 と言いながらも理央の顔からにやけは取れない。
 雪ちらつく中、雪宗はケーキを買ってきてくれたのだ。1年の中で1番品薄なケーキを。
 そして、雪宗の背後にちらつく輝く金髪は……
 彼の名を呼び、理央は部屋の奥へと駆けていった。
 扉が閉まる。
 後は3人だけのクリスマスだ。


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