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おくりものをあなたと

全体公開 神無三十一受け 7 19 4537文字
2024-12-25 16:52:28

カルみと クリスマスの話
シナリオネタバレあり

 

 オーブントースターの任務完了を知らせる音を聞いた神無三十一は、ミトンを手におそるおそる扉を開けて中を覗いた。

 「おぉ……ちゃんとできてる」

 トースターの中に行儀良く並んでいた二つの耐熱皿の中では、冬野菜ときのこのホワイトソースを掛けたグラタンがふつふつとチーズをとろけさせている。
 
 「さすが帰代先輩だなー……レシピ分かりやすいし、すっごく簡単だった……

 感心したように呟く彼は、両手で皿を持つと慎重にダイニングテーブルへグラタンを運んでいく。テーブルの上にはすでに、色鮮やかなサラダやスープ、チキンの準備が整っていた。
 ランチョンマットを引いた互いの席の前に今しがた焼き上がったグラタンを置いた彼がよしと息を吐くと同時、室内にインターホンが鳴り響く。

 「お、タイミングばっちり」

 空中に指をスライドして表示した玄関のモニターには、カメラ越しに笑顔でひらひらと手を振る恋人の姿があった。
 指先ひとつで玄関扉の施錠を解除した神無は、インターホンをスピーカーモードに切り替えて声を掛ける。

 「鍵開けたから上がってきていいよ」
 『はいはーい』

 まもなく扉を開く音が玄関の方から響くと、おじゃましまーす、と間延びした声が律儀にも聞こえてきた。
 エプロンを脱いでキッチンの隅に畳んだ神無は、食器棚のガラスに映る自分の姿を確かめると髪を軽く手櫛で梳いて廊下へ顔を出す。

 「先輩っ!いらっしゃい!」
 「こんばんは、神無ちゃん」

 玄関近くのコート掛けにコートを預けた縞斑にぱたぱたと駆け寄った神無は、両手を持ち上げると縞斑の頬に両手を当てた。
 外気に冷やされたひんやりする頬に、神無は思わず驚いた声を上げる。一方縞斑は、そんな神無のぬくい両手にほっと息を吐いて笑った。

 「うひゃ、つめた」
 「外は極寒だよ。明日は雪が降るかもね」
 「それはちょっと楽しみかも!」

 寒い廊下から部屋に入るように促せば、リビングに並ぶ食事を目にした縞斑がおぉと感心したように声を上げる。
 本日12月24日、神無と縞斑は夜を一緒に過ごす約束をしていた。
 というのも、明日25日は縞斑はスパローでアサギリや子供たちと、神無は公休を利用して自宅でディーノとゆったり過ごそうと考えていたからだ。
 恋人との時間はクリスマスイブに過ごそうと二人で話し合って決めた彼らは、仕事を終えてそれぞれ料理担当とケーキ担当に別れて神無の自宅に集まったのである。

 「先輩、ケーキ買えた?」
 「あぁうん。どっちがいいか分からなかったからふたつ買ってきたけど、神無ちゃんなら食べきれそうだね」

 言いながらテーブルに置かれた紙箱の中身を神無がそっと覗けば、そこには綺麗に化粧をしたバターケーキとブッシュドノエルが入っていた。
 ふたつのケーキにちょこんと乗ったサンタクロースのマジパンと、クリスマス仕様の文字と模様が記されたチョコレートプレートを見た神無は、頬を緩めて嬉しそうに縞斑を見上げる。

 「だらだら先輩ナイスチョイス!バターケーキとブッシュドノエルがあるとクリスマスって感じする!」
 「お褒めに預かり光栄ですよ。今夜はディーノちゃんには内緒ね」
 「もちろん!しー、だからな!」

 最近はディーノに厳しく砂糖の使用量を管理されている神無だが、今夜だけはクリスマスなのだから特別に許してもらおう。
 そう秘密の話をするように唇を指を当てて笑う縞斑を見上げた神無は、同じように仕草を真似て唇に指を当て笑って見せた。

 一度ケーキを冷蔵庫にしまった二人は、改めて支度を整えるとダイニングテーブルに向かい合って座る。
 テーブルに広がる料理の数々を眺めた縞斑は、感心したようにそれらを眺めながら口を開いた。

 「すごく美味しそう、さすが神無ちゃん」
 「ふふーん、そうだろ!天才は準備だって怠らないからな!」

 帰代にあらかじめクリスマスメニューを相談しておいて正解だったと内心安堵した神無は、得意げに胸を張って冷蔵庫から冷やしておいたシャンパンを取り出す。
 用意してあったシャンパングラスに丁寧に注げば、待ってましたと言わんばかりに目を輝かせた縞斑が悪戯っ子のようにくすりと笑った。

 「シャンメリーじゃなくて平気?」
 「お、俺はそんな飲まないもん!」
 「あはは。酔っ払った神無ちゃんもかわいいけど、今夜はほどほどでよろしくね」
 
 すでに縞斑の前で酒に酔った失態を晒している神無は、ぐぬぬと悔しそうにテーブルの下で縞斑の足をスリッパの先で突く。

 「いて、あいて、」
 「ほら!いいから乾杯しろよっ!」
 「ごめんごめん、それじゃあ……

 改めて持ち上げたふたりのシャンパングラスが重なる。部屋に響いた上品な音が、平和なひと時の始まりの合図だった。
 神無の作った料理に舌鼓を打つ縞斑を満足そうに眺め、仕事のことを忘れて他愛もない話で盛り上がれば時間はあっという間だ。
 宣言通り早めにシャンパンを縞斑に託してジュースに切り替えた神無は、少しだけ赤い顔と程良い心地良さに身を任せて明るく話している。
 そんな神無の様子を微笑ましく見守りながら、縞斑は引き受けたシャンパンとそれに合うように作られた食事をゆっくりと味わった。


 「さてと、」

 食事が終わり、神無お楽しみのケーキを目前にして一服をする空気となる。
 二人掛かりで洗い物を終えて席につけば、彼らはどちらともなく鞄に入れてあったプレゼントを取り出して互いに差し出した。

 「メリークリスマスだらだら先輩!」
 「メリークリスマス、神無ちゃん。開けてもいい?」
 「もちろん!」

 縞斑が綺麗にラッピングされた包装を解いてみれば、中にはネクタイピンが入っている。

 「おぉ、かなり上等なものじゃない。いいの?」
 「今は先輩が交渉に出る機会多いだろ?一目で分かるくらい良いもの付けてた方が、相手も簡単に舐めたりしないからさ」
 「なるほど……持ってるスーツにも合いそうだ。ありがとうね」
 「へへ、どういたしまして!」
 
 神無からのプレゼントを嬉しそうに受け取る縞斑の様子を眺めた神無は、内心ガッツポーズをして喜んでいた。
 一回り以上年上の恋人に贈るプレゼントを探して店という店を巡り、過去の世界で相談に相談を重ねた結果、こちらも公安局に所属するため交渉の機会が多い帰代からのアドバイスを受けて購入したのである。

 「俺のは何かなー?」

 縞斑がプレゼントを喜んでくれたことに安堵した神無は、自分も受け取ったプレゼントの包装を解く。
 そっと紙箱を開けてみれば、そこには焼き菓子の詰め合わせとマグネットピアスの収められた小箱が入っていた。

 「ピアス……?」
 「公務員だからホールは開けられないけど、神無ちゃんはおしゃれさんだからこういうのも似合うんじゃないかと思ってね」

 喜んでもらえるだろうかと緊張したように話す縞斑の声を聞きながら、翡翠の小さな涙型ストーンを手に取った神無は目を丸くしてぽつりと口を開く。

 「……はじめてかも」
 「え?」
 「先輩が消え物以外をくれたの……はじめてだよ」

 これまでも縞斑から何度か贈り物を受け取ったことはあったが、いつも焼き菓子や紅茶、コーヒーなどの消耗品ばかりだった。
 プレゼントを貰うだけで十分嬉しいが、それがまるでいつ離れても思い出が残らないように選んでいるように感じた神無は少しだけ不安を抱えていたのだ。
 神無の言葉を聞いた縞斑は、指摘されて初めて自覚した様子で気まずそうに頬を掻いて視線を泳がせる。

 「……そうだっけ?」
 「そうだよ。自覚なかったの?」
 「あー……はは、無意識だったな。いなくなったときに物が残ると寂しいかなと思ってね」

 神無の不安は的中していたらしく、縞斑は無意識のうちに神無の手元に自分の贈ったものが残らないように選んでいたらしい。
 苦笑いを浮かべてどうにか重たい空気を散らそうとする縞斑だが、そんな誤魔化しに流されるほど神無は子供ではなかった。眉を下げた神無は贈り物をぎゅっと抱きしめて俯く。

 「それでも俺は……思い出がほしい」
 「……後悔しない?」
 「後悔なんかさせんなよばか」
 「確かに失言だった、ごめん」

 臆病になりすぎて縁起でもないことを口にしたと自覚した縞斑が素直に謝ると、神無は唇を尖らせたまま渋々と言った様子で頷いて許した。
 そうして彼は改めて贈り物を見つめると、マグネットピアスを手に取って耳に当ててみせる。

 「似合う?」
 「……とても似合ってるよ。俺センスいいかも?」
 「あはは、自分で言うなよー!今度のデートでつける!」

 嬉しそうに笑った神無は縞斑の失言を許すと、大事にする、と改めてお礼を言って大切そうにプレゼントをしまった。

 「さて、そろそろケーキ食べようか」
 「あ、じゃあ紅茶淹れよ!この前レミが誕生日にくれた紅茶があるから」
 「はーい、どこにある?」
 「戸棚の上の段!箱の中にあるからわかると思う!」

 言いながら神無は上機嫌で冷蔵庫へケーキを迎えに行く。そんな彼を横目にくすりと笑った縞斑は、彼から聞いた戸棚を開いて上の段に視線を向けた。

 「……ん?」

 そうしてふと、彼は見覚えのある箱に視線を止める。
 それは去年のクリスマスに縞斑が神無に送ったお菓子の容器だった。鉄製の小さな容器には可愛らしく鮮やかな装飾が施されていて、縞斑はそのデザインに惹かれて購入を決めたのだ。
 手に取って蓋を開けてみれば、中には神無の言うレミからの贈り物らしい紅茶のティーパックが詰められている。

 「神無ちゃん、これ?」
 「あぁそれそ…………………
 「俺のあげた容器だよね」
 「…………か、かわいかった、から……

 視線を泳がせた神無の言葉は、先ほどの消耗品ばかりで不安だったという話を聞いた後だと信憑性が低かった。
 
 「ふーん……そっかそっかぁ」
 「なんだよ……!」
 「いや?寂しがりの神無ちゃんのためにも、これからは手元に残る贈り物を考えないとなぁと思って」
 「ッ〜〜そういうんじゃないっ!!」

 顔を真っ赤にして抗議する神無は、どうやら図星らしい。
 縞斑からの贈り物を受け取ったという証が欲しかった彼が、お菓子を食べ終えたあとも大事に容器を取っておいたのだと思うと、その健気さに自然と笑みが漏れた。

 「うんうん、紅茶淹れようね〜」
 「先輩!そういうんじゃないからな!!勘違いすんなよマジで!!」
 「はいはい、ケーキ食べようね〜」
 「ちょ……聞いてんのかよっ!!先輩っ!先輩ってばぁ!!ほんとに違うからな!!」

 必死に威厳を保とうと神無を笑顔でいなした縞斑は、ポットに湯を注いで紅茶を淹れ始める。
 ぐぬぬと奥歯を噛んでいた神無は、やがて諦めるとケーキで機嫌を直そうと唇を尖らせて冷蔵庫に歩いて行くのだった。




 


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