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贖罪の灯

全体公開 TF 86 5390文字
2024-12-26 02:50:49

ちょっと遅れましたがメリークリスマス。
ONEからESに繋がる時空のオプメガです。
クリスマスネタなのになんかシリアスになった。

街頭や壁面、街路樹に張り巡らされた電飾に照らされた煌びやかな街並み。降り積もった雪をキャンバスに映り変わる色彩は騒々しく、火花を思わせるそれはまるで街全体が笑い声を上げているかのよう。

「メガトロン。どうした?」
……いいや。いつ見ても、人間とは面白いことをするな、と」
「ああ。彼らの発想にはいつも驚かされるよ。特に電気の扱い方は、我々以上かもしれないな」

街並みを見つめるメガトロンの視線を追って、オプティマスは笑みを零す。
赤に青に、黄色に緑。色取多彩の光で描かれた、サンタにトナカイ、プレゼント。
灯りを灯りとしてではなく、装飾として、絵筆として、華やかに飾り付ける発想はサイバトロニアンには持ちえない。
この時期は何処に行っても楽し気で、長きに渡る戦いの果てに多くのサイバトロニアンが忘れてしまった感情を呼び起こしてくれる。オプティマスにはそれが何より嬉しく、愛おしく、そして何よりも、羨ましいとすら、思ってしまう。

………………
「メガトロン?」

そんな街の雰囲気とは裏腹に、何処か浮かない顔の友人に気付いたオプティマスはメガトロンの顔を覗き込む。遠くを見つめるオプティックは、街並みを見ているようで、見ていない。

──ああ、まただ。
また、彼が遠くに行ってしまう。

彼がオプティマスの手を取ってくれたあの日から十五年。時折、彼はこんな表情をする。
すぐそばに居るはずなのに、なぜか遠く感じてしまう。
隣に居るのに、隣に居ない。
手を伸ばしても、指先からすり抜けて行ってしまいそうだ。

「メガトロン」

もう一度、彼の名前を強く呼ぶ。
ぼんやりとしたオプティックが僅かにオプティマスを向いた、その瞬間に。彼の手を取り引き寄せた。
確かに触れたことに、彼の手を掴めたことに安堵して笑みを見せる。

「今日の任務は終わりだろう? 少し、付き合ってくれないか」
「は? おい、オプティマス、何処に……
「何、そう遠くはないさ。きっと驚くぞ」

戸惑う彼を引っ張って、作戦区域から出る直前にトランスフォームすれば彼も渋々ビークルに変形し空へと飛び立つ。
ここから先は個人回線。誰にも聞かれない二人だけの会話になる。

「オプティマス、報告書は──」
「エリータに任せてる。任せろ。後悔はさせないさ」
「また『良いアイディア』って奴か?」
「そう言うことだ」

呆れたような声音が何処か懐かしく、オプティマスが上機嫌に速度を上げれば、「法定速度を守れ」と間髪入れずに苦言が飛んできた。



…………

呆けたように立ち竦み、ぱちぱちとアイセンサーを瞬かせるメガトロンにオプティマスはその顔が見たかったのだと笑みを浮かべてメガトロンを促した。

「ほら、どうだ!? すごいだろ!!」
…………

連れてきたのは、街の外れにある森に見つけた大きな洞窟。奥深い場所にあるそこは滅多に人間が入り込むことはない。加えて入口はホログラムで上手く隠しているので、まず人間には見つからないだろう。

洞窟の奥、特に広大な空間に作り上げた、サイバトロニアンサイズのホームパーティ場。
テーブルに並べられたエネルゴンに、嗜好品として加工されたエンジェックスの瓶。
大きな木を一本丸ごと引き抜いて持ち込んだツリーには、大小さまざまなオーナメントを吊り下げて。天辺にはマトリクスを模した模型を戴かせている。
そのすぐ横に置かれた二人掛けのソファ。大型機が並べるように造った特注品に、ローテーブルにはプロジェクター。磨き上げた壁面に映せば立派なホームシアターになる。

人間の家を真似て作られたそこは、二人用にこじんまりとした造りにはなっているが、会心の出来だと自負している。
何せ作るのに数年掛かった。地球のクリスマスを初めて見た時から、ずっとやってみたいと思っていたのだが。
まずは場所を見つけるのにも苦労したし、出来る限り人間の家に近づけようとすれば家具の調達すら困難だ。時間を見つけて材料を調達してせっせと作り上げた、二人の為の小さな──人間からすれば巨大な──空間。
あのメガトロンも、驚きに声を失くしている。

「彼らの電飾を参考にしていたんだが、毎年形を変えて年々洗練されていくものだから大変だったんだ。古い装飾を譲ってもらって、それを元に作り直してみたり。ほら、この電飾は面白いぞ。スイッチ一つで色が変わるし、グラデーションなんかも再現できるんだ! 色が変わっているだけなのに、まるで動いているみたいじゃないか!? それにこのマトリクスも会心の出来なんだ! このボタンを押すと光る!! 音楽も流れる! 楽しいだろ!?」

プロジェクター用に壁を磨くのにも時間がかかって大変だった、と聞かれてもいない苦労話を続けながら、どれほどこの日を待ちわびていたかを揚々に語っていく。

……オプティマス」
「どうした? 感動して泣きそうか?」
…………お前馬鹿か?」

てっきり喜んでいるのかと思いきや。冷ややかな赤いオプティックに見据えられて、用意していた赤い帽子が手から落ちる。

「この用意周到さにその言い分からすると昨日今日の話じゃないな。一体いつから、何をしていたんだお前は」
「ま、待ってくれ誤解だ、多分」
「時折どこかに行ってコソコソしているのは知っていたが、まさかこれを造るためだったとか言うなよ」
「いつもここに居たわけじゃない! ここはその、息抜きとか、気分転換とか、その、まあ、多分、毎回、じゃないと思う……まあ、何度かはここを造っていたかもしれないが……
「俺に報告書を直させている間にお前はせっせとDIYに夢中になっていたと言うわけか」
「嵌ると中々楽しくて……

徐々に言葉尻を弱くしてしまうオプティマスに、メガトロンは深く排気をつくとそのまま踵を返してしまう。

「パーティーをやりたいなら先にそう言えばいいだろう。残りの仕事は俺が片付けておくから、バンブルビーやエリータ達と楽しむと良い」
「うん?」
「折角これだけ準備していたんだ。今晩とは言わず、明日一日くらいならゴーストの相手も俺がしてやる。お前もたまには休みが欲しいだろうしな」

やれやれ、なんて呆れたように。仕方ないと苦笑を零して、さっさと出て行こうとするメガトロンにオプティマスは慌ててメガトロンを引き留める。

「ちょっと待て、メガトロン。何か勘違いしてるぞ」
「何が?」
「ここのどこに我々が何人も過ごせるスペースがあると言うんだ。明日の夜までお前の分も休暇届けだしているんだからな」
「は?」

目を丸くした親友に笑って、落ちた帽子を拾って被ると、もう一つ。同じ帽子を取り出して彼の頭に乗せてやる。

「この場所は、俺達の為に作ったんだぞ、ディー」
「俺、は……

懐かしい呼び名に、メガトロンの目が大きく揺れる。戸惑っているらしい親友に、オプティマスは微笑を浮かべて彼の言葉を待つ。
本心では、嬉しいと感じてくれているのだろう。
共に楽しみたいと、願ってくれているのだろう。
だが彼は自分にそれを許さない。
相変わらずの真面目さが愛おしく、オプティマスよりもディセプティコンへの責任を取る彼に少し妬けてしまう。

「気持ちは、嬉しい。だが、俺は……素直には、楽しめない」
「うん。分かってる。分かってるよ、ディー」

楽しんでいいのかが分からない。
許されていいはずがない。
そんな権利など、あるはずがない。

そう告げるメガトロンに、オプティマスは優しく微笑む。

「本当に、ディーの真面目は変わらないなぁ」
……オプティマス」

クスクスと笑うオプティマスに、メガトロンは困ったように眉尻を下げて名前を呼ぶ。
分かっている。
どれだけオプティマスがそれを望んでも、彼はもう、「パックス」とは呼んでくれない。
それが彼なりのけじめなのだと、良く分かっているし、彼の意思も、その覚悟も、尊重している。

それでもやはり、妬けてしまう。だから、これはちょっとした意地悪で、小さな小さな独占欲。四百万年も彼を独占していた彼らに対する、意趣返し。そろそろ少しくらい、彼を返してくれてもいいだろう。

「だったらさ、俺の為だと思ってくれ。たまには休暇が欲しいんだ。大丈夫。ディセプティコンの奴らが怒ってきたら、俺が何とかするさ」

そう言い訳して、握った拳を持ち上げた。

「これからも、いつでも守ってやる」

向けられた拳に対して、メガトロンは自らの手に視線を落とす。
幾度となくオプティマスと戦い、彼を傷つけてきた手。
彼の仲間を、かつての同胞を、幾つものスパークを消してきた手。
今更、どの口で言えばいいのだろう。
震えるその手を握り込み、顔を上げれば目前には未だ待ち続けるオプティマスの拳。疑うことを知らないマトリクスブルーのオプティック。

振り払うのは容易にできる。
彼の望み通りにしてやることだって。
全く本当に、意地が悪い。
どちらをとっても、彼の優しさに甘えてしまうことになる。

根負けしたのは、メガトロンの方だった。

……何があっても。今度こそ」

打ち鳴らされた拳の音に、スパークに広がる温もり。
それと同時に、それはスパークを軋ませる。

かつて裏切った誓いを再び立てることに。
残してしまった同胞を裏切る行為に。

彼の優しさと、彼らの叫びがスパークに絡みつく。



メガトロンの心情を知ってか知らずか、オプティマスは拳を開くとそのままメガトロンの拳を包み込んで引き寄せた。
祈るように、慈しむように。口元に寄せて、彼の仲間を、部下を、多くの同胞を屠ったその手に触れるだけのキスを落とす。

「分かっているよ。ディーの後悔も、メガトロンの覚悟も。十五年前の、あの日の君の決断も。全部分かってる」

未だ戸惑う彼のオプティックが、金色に見えたのは照明のせいではないだろう。
赤に、金に、揺らめく色は炎の色。
時に激しく、時に静かに。
激情を胸に全てを焼き払う劫火でもあり、暗闇を照らし道を拓く光でもあり、そっと寄り添い温もりを与えてくれる、優しく愛しい、炎を宿したオプティック。

これでもまだオプティマスの想いが伝わらない彼に、そんなところも可愛いらしい、と今度は強く抱き寄せる。途端に暴れて逃げようとする彼を抑えつけて、二度と離さないとばかりに力を籠める。

「分かって無いだろ。俺はディーの全部が好きなんだ。大好きなんだよ。今も昔も、それだけは変わらない」
「俺は、裏切者だぞ。かつてお前を裏切って、皆を裏切って……こんな俺に着いてきてくれた彼らも、裏切った。
……お前の想いには、応えられない。応えて、しまったら、俺はきっと、駄目になってしまうから。許されたと、勘違いしてしまいそうになる」

オプティマスの優しさを受け入れてしまったら。
彼の優しさに痛みを感じられなくなってしまったら。
それは、何よりも、彼らに対する酷い裏切りになってしまう。
かつて親友を裏切り仲間を裏切って、ついてきてくれた部下たちすらも裏切ってきた。それでも、この一線だけは超えられない。それは今の自分を受け入れてくれた旧友たちも、命を捧げて戦ってくれた部下たちも、何もかもを裏切ることに他ならない。

それだけはできないと、訥々と告げるメガトロンに、それでもオプティマスは柔らかな笑みを浮かべて告げる。何度も言っているだろうに。

「言っただろ。全部好きなんだ」

受け入れてくれない事なんて分かっている。彼が望んでいないことも、オプティマスの想いが彼のスパークを軋ませていることにだって、気付いているのだ。気付いていても、抑えきれない。
傷付けると分かっていても、伝えずにはいられない。

その羽があれば、オプティマスから離れることもできるだろうに。前線から引いて、ディセプティコンからも身を隠すことなど容易だろうに。
彼はオプティマスから離れない。ディセプティコンから逃げはしない。
自ら心を砕いて、傷付くと分かっている場所に留まり続ける。一度背負った責任からは目を逸らしたくないと立ち続けるその姿は、かつて泥にまみれて共に並んでいた頃と何一つとして変わっていない。

「お前の贖罪すべてが、愛おしい」

そんな彼だからこそ、オプティマスは心の底から愛しているのだ。

「メリークリスマス、ディー。今夜は、君と一緒に居たいんだ」

全て理解した上で、尚も愛を語るオプティマスにメガトロンは目を見開く。
自らの想いがメガトロンの贖罪の一部になるのなら、それでも構わない。報われなくていいのだ、と言い切るオプティマスに呆れてしまった。
その優しさが痛いのだと、本当に分かっているのだろうか。分かっていてこれでは、甘えてしまいたくなるじゃないか。
そんなことは許されないのだと言ったばかりなのに。
構わないと言った癖に、自分の欲求を押し付けてくるのは昔から変わらない。

……お前は、本当に馬鹿だな」
「お互い様だろ、頑固者め」

泣きそうな顔で笑ったメガトロンに、オプティマスは破顔した。


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