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revenge bouquet

全体公開 神無三十一受け 6 11 2205文字
2024-12-27 16:52:41

カルみと 花の話
シナリオネタバレあり

 

 なんとなく、本当になんとなく足を止めた。
 いつも通る駅前、変わらない店。
 けれどその日はやけに、店先に並ぶ黄色の鮮やかさに目を奪われたのだ。
 まるで彼のようだと愛しい恋人の笑顔を思い浮かべて足を止めた縞斑は、蝋のようになめらかな花びらを撫でると店内へ足を踏み入れるのだった。

 ※

 「はい、神無ちゃん」

 出迎えの玄関先で縞斑から色鮮やかな花束を受け取った神無は、ぽかんと口を開いて手の中のそれを見下ろし首を傾げた。

 「……今日って何かの記念日だっけ?」
 「いや?ただの平日だと思うけど」
 「そう……だよね?」

 記念日を忘れない性格の神無は、何度記憶を振り返っても今日は記念日に該当しないことを確かめて反対方向に首を捻る。
 そんな神無の不思議そうな顔をしばらく眺めていた縞斑は、腰を折って彼の腕の中の花を突くと言葉を続けた。

 「なんとなくだよ」
 「なんとなくで花……なんかフィクションみたい」

 まじまじと花束を眺めた神無はそう呟くと、やがてはにかんで縞斑の顔を見上げる。
 
 「こういうのってドラマや映画の中だけの話だと思ってた」

 バラの花束を抱えて愛の告白をしたり、結婚記念日に色とりどりのブーケを贈るワンシーンは、昔のドラマや映画を観ているとよくあることだ。
 その光景に憧れとは言わなくとも、分かりやすい愛情の証としてぼんやりと眺めていた神無にとって、縞斑の贈り物は胸の奥をくすぐられるようなむず痒い喜びがあった。
 一方縞斑はというと、神無の言葉に納得した様子で小さく頷いて首を傾げて見せる。

 「そんな特別なものにしなくてもいいんじゃない?」
 「そう?」
 「だってそうでしょ。渡したいと思ったのものを、記念日でもないのにって理由で止める方がもったいないよ」

 渡したいと思うものが見つかったのに時期を理由に控えるのは互いに損だという縞斑の言葉を聞いた神無は、自分の中には全くなかった考えにぱちぱちと目を瞬いた。

 「……先輩ってときどき、すごい考え方するよね」
 「考え方というより生き方かな。喜んでくれた?」
 「もちろん!すっごく嬉しい!」

 喜びが伝わるように何度も頷いた神無は、大切そうに両手で花束を抱えて笑う。
 思い浮かべていた笑顔以上の眩しさを目にした縞斑は思わず、こちらも欲しいものを十二分に貰ってしまったなと目を細めた。

 「大事に飾る!」
 「ならよかった」
 「うん!さっそく明日花瓶買わなきゃな〜」

 呟いた神無は、花に水を与えようと一時的な避難場所代わりになる皿を探していそいそと背を向ける。
 喜びだけでは説明がつかないほど赤い神無の耳の頭を見た縞斑は、食器棚を前に思案している彼を背後から抱き寄せた。

 「わ、ぅど、どしたの先輩?」
 「照れてるなーと思って」
 「そりゃあ花束なんて貰ったことないし、」
 「……本当にそれだけ?」

 腕の中で照れ隠しにけらけらと笑っていた神無の体がぴくりと小さく跳ねる。
 それまでと一転して口を噤み俯く神無の丸い後頭部を眺めていた縞斑は、ふむ、と自身の予想が的中していることを確信して耳元に唇を寄せた。
 ぎしりと緊張に固まる初心な神無の姿に笑みを漏らした縞斑は、彼の形の良い真っ赤な耳に直接吹き込むように囁く。

 「……君と一緒なら幸せだよ」
 「っ……!?」

 ぼっと音を立ててさらに赤い顔を上げた神無は、驚いたように目を白黒させて縞斑の顔を見上げる。
 彼は涙目でぱくぱくと口を開閉させながら、腕の中に抱えた黄色のヒヤシンスを中心に構成される色鮮やかな花束を交互に見て懸命に言葉を探した。
 
 「し……知ってたの?」
 「店員さんが教えてくれたんだよね」

 元々目を惹かれた鮮やかなその黄色が映えるように花束を注文した縞斑だったが、そんな彼に親切な店員は花言葉を教えたらしい。
 黄色のヒヤシンスの花言葉を前々から知っていたらしい神無は、それが例え縞斑が選んだ偶然だとしても、込められた意味も含めて受け取った花束を嬉しく思ったのだろう。

 「うぁ、えっと……その、」

 勝手に花言葉まで受け取って照れている自分が恥ずかしいと考えていた神無は、縞斑から向けられた同じ意味と愛の重さに動揺して視線を泳がせる。
 そんな神無を見下ろして笑った縞斑が鼻先に口付ければ、ついに神無はぷしゅうと湯気を吹く勢いで熱をもった顔を覆い隠し俯いた。

 「……やっぱ記念日くらいでちょうどいいのかも」
 「どうして?」
 「直球すぎて、口で伝えられるよりも照れる…………

 縞斑は元々自分の思っていることをあまり口にする方ではない。それもあいまって、渡された花束に込められたたくさんの愛言葉を一度に受け取った神無は恥ずかしくてたまらなくなってしまったのだ。
 
 「かわいいねぇ、神無ちゃんは」
 「…………うるさいなぁもぉー……

 愛おしいブロンドの髪に頬擦りをした縞斑がいつもより素直に愛を囁いて笑えば、神無は唇を尖らせて照れ隠しにもぞもぞと呟いてその両腕をきゅっと抱きしめ返す。

 今度駅前に寄る機会があったら、絶対に花束を買って帰ろう。
 縞斑にもこの気恥ずかしさとまっすぐな愛情を返してやらないと、このままでは割に合わないから。




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