両片思い期の本編ドラヒナで、トウモロコシご飯のお話です。微かに記憶に残る、ビチビチを添えて。
赤毛に緑の目は、魔女や吸血鬼と関連しているのは、有名な話だと思います。人間なのに、吸血鬼の様に『招かれないと入れない』彼女に、チャレンジしてみたり。
妹からの報告書を確認する、諸悪の根源カズサ本部長のモノローグを追加しました。
2024/06/25 に上げました。
@kw42431393
「はぁ…毎年の事だが。嫌な季節に、なってきたな。」
「急に、湧いてきたな。昨日はデカい蚊で、今夜は吸血ナメクジの大量発生とは、な。」
チラリと、公園の方に目を向ける。市民の避難誘導をしている、サギョウやモエギ達の姿を確認する。
梅雨に入ったのだ、仕方あるまい…そう言いたいが、汗で粘ついて気持ち悪い。思ったより、駆除も進まない。
『そちらの監視に行くのが、遅くなりそうだ。すまないな。』
『若造も、下水のスラミドロの駆除に呼ばれて、出て行ったよ。忙しないねえ。』
任務に入る前に、電話でドラルクと交わした会話を思い出す。
ああ、ついてないな。だって…
『オータムから、トウモロコシを貰ったんだよ。今、トウモロコシご飯を炊いている所さ。好きだったでしょ?』
『トウモロコシご飯!?よし!早く終わらせて、向かうからな!』
だから、いつも以上に気合はこもっていたんだけど…はあ。
時間を確認する。もうすぐ、11時が回る。
グゥ~、とお腹が情けない音を立てた。
事務所に寄る事もなかったから、元気の素、もとい『ドラルクのクッキー』を、今夜はまだ口にしていない。
気を利かせたモエギが、ヴァミマで塩にぎりとお茶を買って来てくれたのだが…全然、治まってくれそうにない。
今夜は、事務所に行く余裕はないのかな…このままでは、食べ損ねてしまいそうだ。
「夜ご飯、トウモロコシご飯なのに…。」
思わず漏れた独り言…とうもろこしご飯か。
昔もあったな。あ…った…のかな?
「副隊長!10時の方向だ!デカイのが、いるぞ!」
半田の声に、現実に戻される。
そうだ、とうもろこしご飯の心配をしている場合じゃないぞ。
終わらせてから、12時までに事務所に行けばいいだけだ!
「了解!半田、お前は後ろを頼むぞ!」
両手に剣を携えて、10時の方向に跳躍する。
その先にいるのは…
「吸血ムカデか!逃がしはせんぞ!あと、食べ物の恨みは、恐ろしいんだからな!」
あぁ、やっぱりダメだったか。
急いで向かったけれども…ロナルド事務所は、『本日閉店』の札がぶら下がっていた。
時計を確認する。
とっくに、日付を超えていた。これでは、『監視任務』という大義名分も立たない。
「う~ん。」
『誰でもお気軽にお入り下さい』の看板と、手元にあるみっぴきお揃いで作った合鍵を前に、考え込む。
家族同然の私達だけど…やっぱり、な。いくらなんでも…
グゥ~
お腹は、正直だ。
ロナルドももう帰っているのかな、ドラルクとジョンはいるはずだ。
トウモロコシご飯は、残っていないかもしれないけれども、クッキーぐらい残っていないかな。
すっかり、ドラルクに餌付けされてしまった頭が、そんな事を考える。
「うん…今夜は、寮に帰ろう。途中でヴァミマに寄らなきゃ。」
ほとんど、寮に帰ってないから、冷蔵庫の中は何もない。
外食もすっかり減ったから…いや、あいつの手料理を知ってから…「食べた気がしない」時もザラだ。何より…
『ちょっと、遠慮しろよな。全く、うちのエンゲル係数、どんだけ上げる気だよ。』
『細かい事は、気にするな。私だって、多少は出してるぞ。』
『ヌーン。』
『尻の穴の小さい事を、言わない。いいじゃないか。君だって、ヒナイチくんがいる方が楽しいだろう?』
『あ~。ま、な。』
あの風景のない、食事なんて考えられない。
甘ったれてるな…少し前まで、一人暮らししてたじゃないか。
テレビと携帯だけをお供に、あるいは寮の食堂で、周りの会話を聞きながらの食事風景…それが、普通だったのに。
「おや、いるじゃないか。待ってたよ、ヒナイチくん。」
「ヌヌッヌイ!」
「ちん!?」
突然、目の前の扉が開いて、飛び上がる。
目の前のドラルクの腕には、カバンがぶら下がっていた。これから、どこかに出かけようとしていたのだろうか。
どうしよう…さっきまでの、意地汚い自分が恥ずかしくなる。
「いらっしゃい。大変だったね。さあ、お入り。」
「ヌヌイヌヌン!ヌッヌ、ヌッヌ。」
「あ、あぁ…ちん。その。」
断ろうと、口は動くのだが、意味を持った言葉は、出てこない。
動揺している私を尻目に、ドラルクは私の手を引いて、事務所に招き入れる。
「お腹空いたよね?先に、シャワー浴びておいで。その間に、用意しているよ。」
着替えを取っておいで…と、髪にいつもの口づけを落とされて。
「う、うむ。分かった。こんな時間に、すまないな。」
「こんな時間?ウフフ…私にとっては、当たり前の時間だとも。」
魅了にでもかかった様に、私は床下に降りていく。
何だか、悩んでいた事の方が妙だと、言われている様で…そっちの方が普通なのに。
こんな時間に、お腹が空いて、入れなくて、すぐに帰ろうとしないで、迷っていたら、招かれて…うん。
人としてどうなんだろう。
むしろ、吸血鬼に近くなってきた様な…。
着替えを持って、梯子に向かう。
すると、とても香ばしい、醤油とトウモロコシのいい匂いがしてきた。
「おー、ヒナイチ。お疲れさん。」
「あぁ、ロナルドも大変だったな。」
床下から出た所で、事務所にやってきたロナルドと鉢合わせる。
これから、彼はパソコンに向かうのだろうか。
あれ?それは…?
「どした?あ、これか?」
私に話しかける、ロナルドの手元を見る。彼が食べているのは…
「焼きおにぎり…?」
「おうよ。夕食に出てた、トウモロコシご飯をな。ドラルクが、署のお前に差し入れようとして、ついでに半田にもって握ってたもんだ。けど、お前が帰ってきたから、今温め直してんだよ。マメな奴…。」
「す、すまんな。私の分、置いててくれたのか。」
「たりめーだろ。どした?」
『あ~!にいさん、トウモロコシごはんがない!』
『うむ!俺が、全部食べた。約束を1つしか守れなかった罰…っと。甘いな、妹よ。』
『うえ~ん。せっかく、たのしみにかえってきたのに~。』
『ところで、お前がさっき言っていた、ビチビチ…痛ッ!!』
『どうだ!これで、きょう、わるいやつを、2つもやっつけたぞ!』
思い出した。昔、一人で山に遊びに行って、遠くに行きすぎて、一人で悪い吸血鬼をやっつけて…トウモロコシご飯を食べ損ねたんだ。
一人…あれ?もう一人いた様な…いや、ひとり?いっぴき…ビチビチした、こう…
「ヒナイチくん。どうしたの?」
何故か、いつも聞いているのに懐かしい声に、振り返る。
エプロンを着たあいつの手には、おたまが握られていた。
よく嗅ぐと、香ばしい焼きおにぎりの香りに混ざって、味噌汁の匂いもする。
ますます、お腹が空いてきて…
「あ、ありがとうな。私の分、取っててくれて…。」
何だか…あの時の心残りを、取り戻した気分だ。
実家以上に実家らしい、この場所で…今晩も、一番楽しい時間を過ごせるとは思わなかったから。
「何を言ってるの。連絡がなかったもの。夜が明けても、君が帰ってくるのを、待つに決まってるでしょ。」
「ヌンヌン。」
「待つも何も、署まで迎えに行こうとしてたろうが。お前は、こいつのお袋かよ。」
「ば、バカ造!そういうのをバラす…スナァ!!」
「ヌエ~ン!」
いつもの風景に苦笑しながら、私は着替えを持って、お風呂場に向かう。
仕事中も、楽しみで楽しみで仕方がなかった…トウモロコシご飯を脳裏に浮かべながら…
『こまったなぁ…よるごはん、とうもろこしごはんなのに。』
『家族が心配しているとか、言えんのか。小僧。』
そういえば、さっきから断片的に思い出される、ドラルクとよく似た声は、誰だろう?
『引き続き励めよ、妹よ。』
こうなるのは、決まっていたのかもしれんな。
新横浜警察署から回されてきた、『吸血鬼ドラルクの監視報告書』…もとい『イモ虫観察日誌』を確認する。
初めに、妹から勘違いだらけの報告書が回ってきた時は、『そんな事もあるものか』と、思っただけだった。
幼い頃に、森で会ったという…自称『畏怖すべき吸血鬼』。妹に言わせれば、『変なビチビチ』。
埼玉の古城でひっそりと暮らす、竜の血族の嫡孫である吸血鬼だと、若い頃の俺は気づいていた。
『ところで、お前がさっき言っていた、ビチビチ…痛ッ!!』
妹を助けてくれた礼…むしろ、妹が『大事な血族の後継ぎ』を助けたという事実をダシに…誼を通じておこうと、当時の俺は考えた。
今でこそ、人間と吸血鬼。相反する両種族は、共生の道を歩んでいる。
吸血鬼ドラルクの祖父である、✕✕✕✕✕とヘルシングの友情によって。
さらに、彼らの天敵である『吸血鬼殺し』として、生を受けた我が妹を噛ませる事が出来れば…どうだろう。
あと6年もすれば、ヒナイチも『吸血鬼共が涎を垂らさずにはおれない程の、美味しそうな美少女』になるだろう。幸い、彼は従妹との縁談も破断になったと聞いている。その後、浮いた噂もない。
再び、両種族の関係が険悪になった時の布石として、今の内に、ヒナイチを彼に懐かせておこう。
そう考えた事もあったのだ。何故、過去形なのか…だと。それはな。
『どうだ!これで、きょう、わるいやつを、2つもやっつけたぞ!』
俺にトウモロコシご飯を食べられた腹いせに、脛を蹴飛ばしたあどない妹を見て、とりあえず諦めたのだ。まあ、彼らと誼を通じるには、他にも手段はあろう。そう思ったのだ。そう思っていたのに…
『吸血鬼ドラルクの、脅威は計り知れない。監視任務に、自分を就かせてくれ!』
当時の因縁をすっかり忘れた本人が、そんな申し出をしてこようとは。
『吸血ナメクジの大量発生。駆除、市民の避難、全て問題なく終えた。日を股越えてから、吸血鬼ドラルクの監視任務に就く。トウモロコシご飯の焼きおにぎりと、味噌汁と、唐揚げを食べた。美味しい。勿論、クッキーも…』
想像以上に、ヒナイチは彼らの世界に溶け込んでいる。
家主の退治人ロナルドとの関係も、良好。実の兄妹以上に、兄妹らしい。
吸血鬼ドラルクは、ヒナイチの事を『餌付けし甲斐のある、ハムスター』と公言して憚らない。
「フフ、ハムスター…か。」
思わず、口角が上がる。
『ヒナイチくんは、まだ戻らんかね。』
抜き打ちで上がりこんだ時に見た、奴の顔を思い出す。保護者の仮面を被っていても、俺には分かる。
妹に本性を知られて、逃げられたくないのだろう…その下には、ドロリとした人ならざる者達が持つ、情念が滲んでいた。
「ヒナイチが大人になるのを、待っているのか。結論を後回しにしているだけか。いつまで、こんなおままごとを続けるつもりなのだろうな。」
苦笑して、報告書の最後の一文をなぞる。
『遠慮するべきとは、分かっているが。やはり、事務所に帰ってきてよかった。ドラルクは、私に『夜が明けても、帰ってくるのを待ってる』と、言ってくれたんだ。』