本の中の世界で冒険の旅と至高のティーパーティーが待っている。
ツイステ二次創作、シル監ラブストーリー第34話。
※創作女監督生の名前が出ます
※夢主以外のオリキャラが出ます
※捏造設定あり
@natsu_luv
澄みきった冷たい空気にふわりと灰色の空を舞う雪、賢者の島にも冬が訪れた。
学園内を歩いていると、生徒たちの賑やかな話し声が自然と耳に入ってくる。
もうすぐウインターホリデー、話題のほとんどが連休中に何をするか、どこへ旅行に行くかという内容だ。
私はグリムと二人きりで暖炉のあるオンボロ寮でお留守番だ。
たまに麓の街へ行くこともあるだろうけど、ほとんどは学園内で日々を過ごすことになるだろう。
次の授業はトレイン先生の魔法史だ。
私は眠たそうにしているグリムを引き連れ、教室へと向かった。
エースくんとデュースくんと並んで座り、授業中はグリムを大人しくさせながらトレイン先生の話に耳を傾けていた。
授業の最後の方で、トレイン先生からレポートの課題を出された。
溜め込むと後が大変だから、放課後は資料探しに図書館へ寄ることにした。
図書館に着いた私達は、さっそく資料を探しに本棚の方へと向かった。
今回のレポートの課題は『日常生活における魔法の歴史』、私は文化史の本が置かれている棚からいくつか資料になりそうな本を手に取った。
本を抱えながらテーブルへと向かっていたその時、私達は同じく資料探しをしていたシルバー先輩とばったり会った。
「ニコル、お前も魔法史の宿題を出されたのか?」
「そうなんですよ。レポートの課題だから、早めにやっておきたくて」
「確かに、レポートは早めにやっておくに越したことはないな。ニコル、良かったら一緒に座らないか?」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
私はシルバー先輩と向かい合わせに座り、資料を見ながら必要そうな箇所をノートにメモしていった。
一方で、隣に座っているグリムは退屈そうにあくびをしている。
じっとしていられなくなったのか、グリムは一冊の絵本を本棚から引っ張り出してきた。
絵本の表紙には、うさぎの獣人族の少女と紅茶やケーキが描かれている。
グリムが嬉々とした表情を浮かべながら本を開いた。
どうやら、グリムは美味しそうなお茶菓子の絵に惹かれたようだ。
「ふなぁ、この絵本面白いんだゾ」
「こら、グリム。図書館の中では静かにしないとダメだよ」
「おっ、美味そうな菓子が出てきたんだゾ……ふなぁ!?」
「どうしたの、きゃあ!」
「辺り一面に光が……!」
突然、絵本の中から真っ白な光が溢れ出した。
絵本の近くにいた私は、グリムとシルバー先輩と一緒に溢れんばかりの光に包まれた。
まるで何事も無いかのように、館内にいる他の生徒たちは普通に過ごしている。
やがて、その光景も白い光にかき消されていった。
あまりの眩しさに私はぎゅっと目を閉じた。
少ししてから目を開けると、私達は見たことのない場所に降り立っていた。
天井には宝石が散りばめられた豪勢なシャンデリアがあり、周りの白い壁にはティーカップとポットが描かれている。
足元には鮮やかな赤が目を引く絨毯が敷かれている。
その先にある玉座に老齢のロップイヤーの獣人族の男性が座っていた。
小柄で丸みのある体格、にっこりと笑ったように見える糸目が特徴的な顔、煌びやかなネイビーのクラシックコート。
出立ちからすると、おそらく貴族階級の男性だろう。
「ようこそ、オレンジペコ公国へ。お主たちが異世界の勇者たちじゃな」
「ふなっ、誰なんだゾ!?」
「吾輩はハイペリオン伯爵、至高のティーパーティーを開くためにお主たちを呼び寄せた者じゃ」
「至高のティーパーティー……?」
「そうじゃ。お主たちには各地に散らばるアフタヌーンティーセットの材料を集めてもらうぞ」
ハイペリオン伯爵が私達に茶色い巻物を手渡した。
巻物にはオレンジペコ公国という名の国の地図が描かれていた。
ニルギリ山、ウバ峡谷、ダージリン川、ディンブラ池、アッサム平原、キームン城、といった特異な名前の場所に印が付けられている。
アフタヌーンティーセットの材料を揃えるには、この印の付いた場所へ行く必要があるらしい。
「だがしかし、俺たちはこの国を全く知らない。材料を集めるのは至難の業だ」
「心配はいらぬ。お主たちには同行者をつける。エオストレよ、参れ」
「はい、只今!」
玉座の後ろにある扉から颯爽とうさぎの獣人族の少女が現れた。
ピンクブロンドの巻き毛をツインテールにし、燕尾服の上着にショートパンツというアクティブな格好をしている。
彼女はハイペリオン伯爵の従者か何かなのだろうか。
あれこれ考えを巡らせていると、彼女が私達の方へと歩み寄ってきた。
「はじめまして。私はハイペリオン伯爵の侍女、エオストレと申します」
「私はニコル・シャーロンです」
「シルバーだ」
「オレ様はグリム様なんだゾ」
「ニコルさん、シルバーさん、グリムさんですね。よろしくお願いします! それでは、さっそく今回の任務についてお話ししますね」
エオストレさんがオレンジペコ公国の地図を広げながら、私達に課せられた任務の内容を簡単に説明してくれた。
地図には『ファストトラベル』という名の魔法がかけられており、マークに触れるだけで瞬間移動ができるそうだ。
これを駆使しながら各地にあるアフタヌーンティーの材料を集めていく。
そして、材料を無事に集められたらハイペリオン伯爵に渡してアフタヌーンティーセットを用意してもらう。
以上が今回の任務の概要らしい。
「まずは、空が明るいうちに行った方が良い場所へ向かいましょう。ニルギリ山が良さそうですね」
「ニルギリ山にあるのは……黄金のきのこですね」
「はい、とても香りが良くて美味しいきのこですよ。探すのは大変なのですが」
「さっそく向かうとしよう」
私とシルバー先輩はエオストレさんの指示に従い、地図上のニルギリ山のマークに指を当てた。
その瞬間、景色があっという間に溢れんばかりの光に包まれた。
光が消え去った途端、蒼天に向かってそびえる美しい青緑色の山が視界に入ってきた。
この高い山が最初の冒険の地であるニルギリ山だ。
黄金のきのこを見つけるには、日が明るい内に探す方が良い。
さっそく、私達はニルギリ山の中へと進んでいった。
ニルギリ山は比較的安全な山だと言われており、きのこの採取のために舗装された登山道を辿っていけば問題ないとエオストレさんが話してくれた。
市場に出回る一般的なきのこは、歩いている途中でたくさん見かける。
だけど、黄金のきのこは辺りを見回しても全く見つからない。
それだけ希少価値のあるきのこなのだろう。
「エオストレさんの言うとおりですね。全然見つからないです」
「もしかしたら、もう少し上の方にあるかもしれません。ニコルさん、グリムさん、シルバーさん、大丈夫ですか?」
「心配ない。鍛錬のために何度も山登りをしてきたからな」
「シルバーさん、頼もしいですね」
シルバー先輩の方を振り返ったエオストレさんが、汗ばんだ笑顔を浮かべた。
黄金のきのこは地中に埋まっているので、目を凝らしながら一歩ずつ登山道を進んでいく。
すると、カサカサと草葉が擦れる音が聞こえてきた。
何者かが草むらの中に潜んでいるのか。
それを確かめるために、私達はゆっくりと草むらの方へと振り向いた。
草むらから聞こえる音がだんだんと大きくなっていく。
私達が後ずさりしようとしたその時、けたたましい咆哮が山中に響いた。
登山道に大きな熊が現れたのだ。
いかにも凶暴そうな熊を目にした瞬間、私とグリムとエオストレさんは思わず悲鳴をあげてしまった。
「きゃああっ!」
「ふなぁぁっ、熊が出たんだゾ!」
「そんな、登山道には出ないと聞いていたのに〜!」
「ここは俺が行く! お前たちはそのまま大人しくしていろ」
颯爽とシルバー先輩が大熊の前に出た。
シルバー先輩は警棒を向けることをせず、右手を真っ直ぐに大熊の方へと差し出した。
自分たちには敵意はないと何度も声を掛け、すっかり大熊を手懐けてしまった。
「俺たちを信じてくれるのか? ありがとう」
「あんなに吠えてた熊が大人しくなった……」
「さすが、シルバー先輩ですね」
「ん、黄金のきのこの在処を教えてくれるのか?」
シルバー先輩に向かって、大熊はこくりと頷いた。
私達はゆっくりと大熊の後ろを歩いていった。
大熊が足を止めた時、光り輝く地面が見えてきた。
近くまで行って見てみると、黄金のきのこの頭がひょっこりと地上に飛び出しているのを確認できた。
慎重に周りの土を掘り出していくと、金色に輝く肉厚で大きなきのこが姿を表した。
ふんわりと芳醇な香りが鼻を掠める。
「すごい! 立派なきのこですね」
「初めて見るきのこだな。香りも良い」
「このくらいの大きさならば、キッシュを作るのにも充分足りますね」
「キッシュか! 美味そうなんだゾ!」
「さぁ、皆さん。道案内してくれた熊さんにお礼を言いましょう」
「ありがとうございます!」
私はエオストレさんと一緒に大熊に頭を下げてお礼を言った。
グリムとシルバー先輩も一礼していた。
黄金のきのこを大事に抱え、私達はニルギリ山の登山道を下った。
次の行き先はニルギリ山の近くにあるウバ峡谷にすることにした。
ウバ峡谷には三羽の鳥が住んでいるという。
それぞれの鳥たちから信頼の証である宝石を貰うことが目的だ。
ウバ峡谷はニルギリ山から歩いて行ける距離にあるという。
私達は転送魔法で黄金のきのこをハイペリオン伯爵に贈ってから、ウバ峡谷の方へ向かった。
ごつごつとした大きな岩がひしめき合っている。
この地がウバ峡谷だとエオストレさんが教えてくれた。
谷の狭間に山葡萄の木が生えている。
この山葡萄を三羽の鳥の巣に届けることと自分に敵意がないことを伝えることで、信頼の証を貰うことができるという。
「ただ、ウバ峡谷に住む三羽の鳥は知性が高いのです。人語を理解できる上に、嘘をついていることも見抜けます」
「それで躓いた冒険者たちもいそうですね」
「ハイペリオン伯爵も同じことを仰ってましたよ」
「それでも、俺たちはやるしかない」
「シルバー先輩の仰るとおりですね」
鳥たちに山葡萄を届けるだけでは終わらない、簡単そうで難しいクエスト。
クリア出来ないナイトレイブンカレッジの生徒たちが何人か出てきそうだ。
だけど、シルバー先輩ならば問題なくこなせそうだろう。
私達は三手に分かれて、鳥たちに山葡萄を届けることにした。
私とグリムは一番低い場所にいる赤い鳥の巣へ向かう。
高い位置の巣は、体力のあるシルバー先輩と跳躍力に長けたエオストレさんが行ってくれる。
山葡萄を摘み、私達は鳥たちの巣へと近付いていった。
慎重に崖に開かれた道を歩いていき、私とグリムは赤い鳥の巣にたどり着いた。
じっと私達の方を見つめる赤い鳥に、私は山葡萄の果実を差し出した。
巣の中にはふわふわの雛鳥が何羽かいた。
大きな音を立てないように、私とグリムは雛鳥たちに山葡萄の果実を一つずつ渡していった。
「大丈夫だよ。私達はあなた達の敵じゃないよ」
「だから、安心するんだゾ」
さすがに雛鳥が相手だからか、グリムも小声になっている。
すると、親鳥が真っ赤な宝石を運んできた。
親鳥は私の手の平に宝石をのせてくれた。
どうやら、私とグリムは赤い鳥から『信頼の証』を受け取ることができたらしい。
宝石を受け取った後、私とグリムは高い場所の巣へ行っていた二人と合流した。
シルバー先輩は緑の宝石、エオストレさんは青い宝石を手にしている。
二人とも鳥たちから信頼を得ることができたようだ。
「これで信頼の証が三色揃いましたね」
「宝石もハイペリオン伯爵に贈りますか?」
「いいえ、この宝石はキームン城の入口の扉を開けるのに必要なので持っておきます」
私とシルバー先輩はエオストレさんに宝石を預かってもらった。
キームン城の門扉が開くのは夕方頃らしいので、次はウバ峡谷の近くに流れているダージリン川へと向かうことになった。
私とグリムとシルバー先輩は、道中でエオストレさんから次のクエストの内容を聞いた。
ダージリン川の近くでは、レインボーストーンを採取できるという。
レインボーストーンはテーブルクロスの重石代わりとして使われるらしい。
「レインボーストーンはダージリン川の中流から下流の川辺で採取できます。そこまで苦労はしないでしょう」
「じゃあ、皆で手分けして探せばいいですね!」
「そうですね。皆さん、こちらがダージリン川ですよ」
澄みきった水がさらさらと流れている。
川辺がきらきらと輝いているのは、レインボーストーンが落ちているからなのだろうか。
マイナスイオンを感じられるような景観に、私とシルバー先輩もすっかり癒されていた。
さっそく川辺の方へ行ってみた。
予想通り、所々にレインボーストーンが散らばっている。
「テーブルクロスの重石にするなら、ある程度大きくて重い方がいいですね」
「そうだな。これならどうだろうか?」
「ちょうどいい大きさと重さですね。では、シルバーさんが採ってきたものを基準にしましょうか」
シルバー先輩が拾ってきたレインボーストーンは、丸みがあって少しずっしりとしていた。
角が無い方が見栄えも良いし、重過ぎないので私やグリムも抱えられる。
テーブルクロスの重石に必要なレインボーストーンの数は八個、私達は手分けして二つずつ集めた。
集めたレインボーストーンを転送魔法で贈った後、私達はファストトラベルの魔法を使ってディンブラ池へと向かうことにした。
ディンブラ池のクエストの内容は、プラチナトラウトを釣り上げることだとエオストレさんが教えてくれた。
プラチナトラウトはディンブラ池にしか生息していない希少価値のある魚で、燻製にすると美味しいらしい。
ただ、プラチナトラウトは警戒心が強い上に、大きくて重いから釣り上げるのは難しいという。
夕方頃になるとさらに難易度が上がるので、日が高い今くらいの時間帯が狙い目だそうだ。
「こちらの船と釣具をお借りしましょう。皆さん、船酔いと落下には気をつけてくださいね」
「よし、プラチナトラウトを釣るんだゾ!」
「グリム、ボートの上で飛び跳ねないの!」
「ひとまず、池の中腹までボートを漕ぎましょうか」
「わかった。俺も手伝おう」
エオストレさんとシルバー先輩に舵取りを任せ、私とグリムは全員分の釣具に擬似餌を取り付けた。
池の中腹までたどり着いてから、私達はプラチナトラウト釣りを始めた。
池の中に擬似餌を放り込み、しばらく待った。
ここからは忍耐力がクエスト達成の鍵になる。
一時間ほど経っても、一向に釣れる気配がない。
退屈になって盛大にあくびをするグリムをなだめつつ、私は釣竿を持ってじっと耐えた。
「そろそろ、俺たちが釣りを始めて二時間ほどになるな」
「ふなぁ……。本当にこの池にプラチナトラウトがいるのか……?」
「グリム、しっかりして。釣竿から手が離れそうになってるよ。それにしても、全然釣れませんね……」
「プラチナトラウト釣りは大変だと聞いてはいましたけどね……。お疲れのところ申し訳ないですが、もう少しだけ耐えてください」
シルバー先輩とエオストレさんの顔にも疲れが出ている。
それでも、私達はクエスト達成のために釣竿を握り、プラチナトラウトが引っかかるのをひたすら待った。
その時、急激に釣竿が重くなった。
プラチナトラウトが釣り針に引っ掛かったらしい。
私とグリムはプラチナトラウトの重さに負けないように、力を合わせてリールを巻いた。
途中からシルバー先輩も釣竿を支えてくれた。
プラチナトラウトが水面から飛び出してきた。
だけど、それと同時に釣り糸もブチっと切れてしまった。
「ああっ、プラチナトラウトが……!」
「ふなぁぁっ、せっかく釣ったのに〜!」
努力が水の泡になってしまうと落ち込みそうになった時、網を持ったエオストレさんが果敢にヘッドスライディングを決めてくれた。
プラチナトラウトは無事に網の中に入り、エオストレさんは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「皆さん、お見事です! プラチナトラウトを確保しましたよ!」
「エオストレさん! ありがとうございます!」
きらきらと輝く白金の鱗、肉厚で引き締まった体格、間違いなくプラチナトラウトだ。
私達はボート乗り場まで戻り、捕まえたプラチナトラウトをハイペリオン伯爵の元へと届けた。
それから、ディンブラ池から歩いて行ける距離にあるアッサム平原へと向かった。
アッサム平原にはオーロラデイジーという名の花が咲いているという。
オーロラデイジーで花冠を作ることが、アッサム平原でのクエストだ。
「着きましたよ。ここがアッサム平原です」
「うわぁ、綺麗な花がいっぱい!」
視線の先に紫と青のグラデーションが綺麗な花々が辺り一面に咲いている。
この花がオーロラデイジーだとエオストレさんが教えてくれた。
私の隣でシルバー先輩が自分の瞳の色と同じ色をした花を不思議そうに見ていた。
花が咲いている方へと向かい、私達は花冠作りを始めた。
エオストレさんに教えてもらいながら、花々を編み上げていく。
「ちょっと不恰好だけど、何とか形に出来ました!」
「オレ様も作れたんだゾ!」
「これで問題ないか?」
「皆さんそれぞれ味があって良いですね。さて、ハイペリオン伯爵の元へ届けましょうか」
エオストレさんが作ったものみたいに綺麗ではないけれど、無事に花冠を完成させることができた。
転送魔法で花冠をハイペリオン伯爵の元へ届けた後、私達は地図を広げてファストトラベルの魔法を使った。
気付けば、あっという間に夕方になっていた。
そろそろキームン城の門扉が開く。
私達は最後のクエストの目的地であるキームン城へとワープした。
オレンジペコ公国の外れの平原に寂れた古城がそびえ立つ。
くすんだ青色の屋根、少し崩れかかった灰色の外壁、まるで古びたナイトレイブンカレッジの校舎のようだ。
この城がキームン城だとエオストレさんが教えてくれた。
私達を迎えるように門扉が開いた。
そのまま城の入口へと向かい、ウバ峡谷で手に入れた三色の宝石を扉に埋め込んだ。
「ふなっ、宝石が光ったんだゾ!」
「音まで鳴り出しましたよ」
一番最初に赤色の宝石が光り、その次に緑色と青色の宝石がきらりと光った。
それと同時に、ピアノの音色に似たような音が鳴った。
赤色の光と深みのある低音、緑色の光と明瞭な中音域の音、青色の光と突き抜けるような高音。
それらが重なり合い、美しい音楽を奏でる。
音楽が鳴り止んだタイミングで、ゆっくりと扉が開き出した。
「入口の扉が開いた……!」
「ひとまず、中へ入りましょう」
城内に入った途端、小さな火の球が私達の方へと漂ってきた。
火の球をランタン代わりにしながら、私達は一歩ずつ進んでいく。
火球に導かれた先に螺旋階段がある。
この階段を登っていけばいいらしい。
階段を登っていくと、がらんと静まり返った大広間に出た。
目の前に茶色い宝箱がぽつんと置かれている。
宝箱が目に入った瞬間、グリムが宝箱の方へと一目散に走っていった。
「お宝発見なんだゾ!」
「あっ、こら! グリム、待って!」
「グリム、罠かもしれないぞ……!」
「中身はなんだろうなぁ……ふなぁぁっ!!」
「あぁ、ひと足遅かったか……」
宝箱を開けようとしたグリムが涙を浮かべて悲鳴を上げた。
シルバー先輩が警告したとおり、宝箱に罠が仕掛けられていたようだ。
宝箱の正体は一般的なロールプレイングゲームに出てくるモンスターでお馴染みのミミックだった。
ぎょろっとした単眼と長い舌を見せながら、ミミックがグリムを喰らおうとし始めた。
グリムは泣き叫びながら炎を吹き出して応戦している。
「ふなぁぁっ、来るななんだゾ〜!」
「グリム、こっちに逃げて!」
「この場は任せろ! 光よ!」
「ミミックが怯みましたね。今のうちに退散しましょう!」
シルバー先輩がカメラのフラッシュのような光を魔法で放ってくれた。
ミミックが目をくらませている間に、私達は大広間から逃げた。
息が上がりそうになりつつも、私達はまた螺旋階段を登っていく。
ひたすら階段を駆け上がっていると、塔の最上階に辿り着いていた。
最上階の広間には、絢爛豪華な飾り付けを施された宝箱と白銀の甲冑が置かれている。
「綺麗な宝箱ですね」
「またミミックである可能性もありますから、慎重に開けましょうか。えっ、固い!開かない……!」
「何処かに鍵が落ちていないか探してみよう」
「そうですね。あれっ、何か音がしたような……」
金属が擦れ合う音が微かに聞こえた。
振り返ると、ずらりと並んでいた甲冑がこちらへ向かってゆっくりと歩き出していた。
いったん退却しようと扉を開けようとしたけれど、扉は一向に開かない。
甲冑たちがどんどん迫ってきている。
やがて、一列に並んだ甲冑たちが剣を抜いた。
急激に動くスピードを上げ、甲冑たちが私達に斬り掛かってくる。
「きゃああっ!!」
「ふなぁぁっ〜!!」
「ニコル、エオストレ、下がっていてくれ。甲冑たちは俺が相手をする!」
シルバー先輩が持っていた警棒を構え、甲冑たちを迎撃した。
茨の谷の近衛兵だったお父様直伝の剣術と体術を駆使しながら、迫り来る甲冑たちを薙ぎ倒していく。
グリムも逃げ回りながら火を吹いて、シルバー先輩を援護している。
だけど、甲冑たちは倒されても倒されても復活してしまう。
シルバー先輩とグリムが疲弊し始めているけれど、私とエオストレさんは攻撃を回避することしかできない。
甲冑たちの剣撃を避けながら動き回っていると、足元に何か落ちているのを見つけた。
「これは……石板?」
「そのようですね。三色の宝石と鍵盤が埋め込まれてます」
「もしかして……!」
私は赤い宝石と一番左にある鍵盤に触れた。
それから、緑色の宝石と真ん中の鍵盤、青色の宝石と一番右の鍵盤に指を当てた。
すると、入口で聞いた音楽が石板から流れてきた。
甲冑たちの動きが止まり、宝箱がゆっくりと開いた。
宝箱の中には三色の宝石があしらわれた首飾りが入っていた。
「うわぁ、綺麗」
「この首飾りは至高のティーパーティーの卓上に飾るためのものなんですよ」
「テーブルが華やかになるな」
「これで至高のティーパーティーに必要なものが全て揃いましたね。さぁ、ハイペリオン伯爵の元へ戻りましょう」
外はすっかり夜になっていた。
私達はキームン城を後にし、すぐにファストトラベルの魔法を使った。
ハイペリオン伯爵の元に帰ったら、豪勢なアフタヌーンティーセットが待っている。
私達は皆揃って至高のティーパーティーを楽しみにしていた。
眩い光に包まれた後、私達は再びハイペリオン伯爵の玉座の前に足を踏み入れた。
私達の姿を一目見たハイペリオン伯爵は、玉座から立ち上がって温かく迎えてくれた。
邸内のお抱えシェフと執事たちがアフタヌーンティーセットを用意してくれているらしい。
ハイペリオン伯爵に案内され、私達はティーパーティーの会場へと向かった。
「お主たち、よくぞやってくれた。褒めて遣わすぞ。さぁ、座れ、座れ」
「ありがとうございます」
ハイペリオン伯爵はテーブルの上にあったオーロラデイジーの花冠を被り、私達に席に着くように促した。
私達もハイペリオン伯爵に倣い、オーロラデイジーの花冠を頭に被った。
執事たちがティースタンドと人数分の紅茶を運んできた。
カップに紅茶が入った後すぐに、ハイペリオン伯爵は頭上にティーカップを掲げた。
「勇敢な冒険者たちの功績を讃えよう。さぁ、至高のティーパーティーの始まりじゃ!」
ハイペリオン伯爵がティーパーティー開始の挨拶の言葉を告げた。
それと同時に、シェフと執事たちによる拍手と歓声が部屋中に鳴り響いた。
冷めないうちに、私は紅茶をひと口頂いた。
芳醇な香りと茶葉の甘み、心地良い渋みを感じられて美味しい。
それから、ティーフードにも手をつけた。
まずは、一番下の段にある黄金きのこのキッシュとプラチナトラウトの燻製ときゅうりのサンドイッチから頂く。
「美味い……! 肉厚で香りも良いな。こんなに美味いきのこは久しぶりに食べた」
「サンドイッチも美味しいですね。プラチナトラウトの塩味と旨みがちょうど良いです」
「いくらでも食べられるんだゾ」
「どちらも苦労して採取した甲斐がありましたね」
エオストレさんの言葉をきっかけに、私は冒険の記憶を思い起こした。
普段の学園生活では経験することがないであろう出来事を一日で体験するとは思わなかった。
セイボリーの段の料理を食べ終わった後は、二段目のスコーンの番だ。
魔法の力でお皿がほんのり温かくなっているので、スコーンはほぼ焼きたての状態を保っている。
「やっぱり、スコーンと紅茶の組み合わせは最高ですね」
「外はさっくり、中はふんわりで美味しいです」
「一番上のケーキも美味そうなんだゾ」
「ヴィクトリアサンドイッチケーキとレモンドリズルケーキ、苺のタルトもありますね」
「そちらも頂くとするか」
スコーンを食べてから、私達は一番上の段のケーキを頂くことにした。
どのケーキもアフタヌーンティーの定番として有名なものである。
ヴィクトリアサンドイッチケーキは甘酸っぱいラズベリージャムとスポンジケーキの相性が良い。
レモンドリズルケーキはケーキの上にかかったアイシングが爽やかな味わいを演出してくれている。
「この苺のタルトも美味しいですね。苺が宝石みたいで綺麗……」
「吾輩が特別に用意したものじゃ。至高のティーパーティーに相応しいスイーツじゃからのう」
「ハイペリオン伯爵、シェフの皆さんもありがとうございます」
貴重な食材で作られたセイボリー、焼きたてのスコーンに見栄えの良いスイーツ。
美味しい紅茶と親しい仲間たちと一緒に囲むことで、特別なティータイムを過ごすことができる。
私達は時間の許す限り、至高のティーパーティーを堪能した。
ティースタンドが真っ白になり、紅茶のポットも空になった。
元の世界に繋がるゲートが開いたとエオストレさんが知らせてくれた。
私達はエオストレさんに誘導され、ゲートの方へと向かった。
案内された場所は玉座の近くの部屋だった。
元の世界へと繋がっているであろう扉から微かに光が溢れている。
「名残惜しいが、お主たちとはここでお別れじゃ。達者でな!」
「さようなら。あなた達のこれからの人生に幸多からんことを……」
「ハイペリオン伯爵、エオストレさん、さようなら!」
ハイペリオン伯爵とエオストレさんに向かって手を振りながら、私達は扉の向こうへと足を踏み入れた。
溢れんばかりの光が辺りを包み込む。
次々と冒険した場所の景色が映し出されていく。
やがて、映し出されていた景色と光が収束し、私達は元の世界の地に足をつけていた。
私はシルバー先輩と居眠りでもしていたのだろうか。
グリムが図書館の本棚から取り出してきた絵本から光が溢れた後、何が起こったのかわからない。
ほんの少しの違和感を胸に抱きながら、私は課題のレポート作成の続きを再開した。
相変わらず、グリムは課題そっちのけで絵本に夢中になっている。
「ふなぁ、美味そうなアフタヌーンティーセットが出てきたんだゾ」
「グリム、レポートもやらないとダメでしょ」
「レポートはニコルに任せるんだゾ」
「レポートやらないなら、今日の晩ごはん抜きにしちゃうよ」
「……それは嫌なんだゾ!」
私はグリムを宥め、自分の隣に着席させた。
グリムにも手伝ってもらいながら、私は必要な箇所のメモ取りを終えた。
残りはオンボロ寮に帰ってから仕上げることにした。
そろそろ日が暮れようとしている。
私は本を何冊か借りてから図書館を出た。
それから、シルバー先輩にオンボロ寮の前まで送ってもらった。
「さて、レポートの続きをやらないと」
「ふなっ、資料用の本の中に絵本が混ざってるんだゾ」
「私も読んでみたくなったんだ。レポートが終わってから一緒に読もうね」
私は資料用の本の間に挟まっていた絵本を取り出した。
表紙にはうさぎの獣人族の少女と美味しそうなお茶菓子が描かれている。
本の題名は『お伽話のティールーム』、これから読み進めるのが楽しみだ。
温かい紅茶を淹れた後、私とグリムは課題のレポートの仕上げを始めた。