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多喜の怪談話4/ショーウィンドウの話

全体公開 創作話 3376文字
2025-01-05 17:13:08

ホラー注意
多喜の怪談話です。ショーウィンドウの話。

Posted by @lianmiso

 百貨店ショーウィンドウの中に人がいるって?
 ……ああ、夜も遅いでしょう。
 ショーウィンドウの用意をしているのさ。
 季節が変わる。季節が変わればSALEが終わる。
 SALEがもう終わった。と言ってもすぐ次のSALEが始まる。
 お客様がいるうちにバタバタしてるとみっともないって言われていたから街が寝静まった頃にショーウィンドウの用意が始まるんだ。
 清掃会社もきちんと入って朝にはピッカピカのショーウィンドウに目玉商品が並ぶって分けた。
 ……少なくとも僕がまだ居た時は。
 今はどうだろうね。
 うん、昔より労働環境も良くなったと思いたいよ。
 君もそう思うかい。……ありがとう。
 今。百貨店で働く子達はきちんと家に帰れているといいな。
 夜は夜で楽しい事はあったけどね。
 警備員やショーウィンドウ担当の人にばったり喫煙所で会うと話をしたっけ。深夜なのに盛り上がってさ。
 深夜ってテンション上がらないかい?
 ……やけっぱち?そうかもしれないね。でも、建前も隠し事もなく本音で喋ってさ、楽しかった。
 喫煙室は個室だ。誰にも聞かれない。
 あらかじめ百貨店に人がいないか確認してさ。
 聞かれると大変な事になっちゃうからね。忙しい時は呑みにすら行けなかったからいい気晴らしだった。
 度胸ある人はお酒を呑んでいたらしいけど、僕にはそんな事できなかったよ。
 君の知ってる通り、強くないしね。
 すっきりするとネタが出てきてね。
 手も動くようになる。
 朝になってお互い展示を見て「いい仕事したね」と言って笑ったっけ。
 僕の仕事と通ずるところもあるしねぇ。
 ん?人の目を引かないといけない所が一緒だと思ってるかな?なんて、僕もまだ知識が足りないんだけどね。
 季節感、流行り廃り、テーマに無茶振りする上層部の口出し……お互い愚痴を言い合ったりしたっけ。
 顔が浮かないって?
 あぁ、働いていた時の事を思い出してね。
 また何かあったんだろうって?
 そうなんだ。
 働いていた百貨店の一角にあるショーウィンドウがあった。
 角を利用した、曲がるとすぐ裏通りに入る……ギリギリ表になるかな?
 小さなショーウィンドウだった。
 人1人入れるくらいのね。
「変な言い伝えがあるから大事にしろって言われてるけど俺はそんなの気にしねぇぜ!」
 彼はSALEが始まるたびにそんなこと言ってたっけ。
 彼の担当するショーウィンドウは本当に評判が良かった。
 あぁ、君に少し似てたかな。
 ショーウィンドウを見ると、本人の熱意さより品がありながらも思わず足を止めてしまう暖かさがあってね。マネキンたちも心なしか生き生きしていたよ。
 街中の人や他社からも評判が良かったんだ。
 そんな実力派の彼だ。上からの期待が大きくてね。
 部下が付くのにそう時間が掛からなかった。
 原野げんのって子が部下になった。
 小さくてかわいらしい子だったよ。あいつからも可愛がられてたし、みんなからも親しまれてげんちゃんって呼ばれてた。
 いろんな売り場に顔を出してたから尚更かわいかったんだろうね。お調子者な子でさ。いるだけでもその場が明るくなる子。
 売り物でおどけて……あぁ、もちろんそんな酷い物じゃないよ。
 ……惚れてたかって?
 いいや、歳は離れていたからね。
 それに画廊には来なかったな……うん。
 季節感やイベントを大事にする子ではなかった。
 高額な新商品を煌びやかに飾る子だったから、みんなで首を傾げていたよ。あんなにリサーチするのにさ。豪華さと派手さが勝負で……彼にライバル心があったのかもしれない。
 上司である彼は「サボりだ」って言ってたっけ。でも嬉しそうに笑ってた。可愛くて仕方がなかったんだよ。
 サボりだとしてもだ。
 それでも愛らしかったし、アイディアは斬新だから許されていたけど、あれだけは許されなかった。
 例のショーウィンドウに入って写真を撮ったんだ。
 深夜だから誰にも見られなくてよかったんだけどね。
 顛末書書かされてさ。……流石に半べそ掻いてたって彼が言ってた。
「どう慰めればいい?」なんて相談されてさ。
 よくある若気の至り。
 それで済めばよかったんだけど……
 うん。それだけじゃ済まなかったんだよね。
 顛末書書かされた理由もわからないでしょ。
 そう、あのショーウィンドウさ。
 百貨店はあのショーウィンドウを大事にしていたのさ。
 あのショーウィンドウにはね、SALE1日前に商品を入れると、どんな物でも売れるって言う言い伝えがあって上層部もそれを信じていた。
 なんでも売れる?百貨店で1番高い品を入れておけばって?
 あぁ、そんな美味い話じゃなくて何年も百貨店にあってギリギリ高額商品くらい。……1万円〜5万円くらい?
 うん。そう。
 そのショーウィンドウの中に人が入った。
 どうなったと思う?
 寿退社さ。
 意外?そうだよね。
 おめでたい事なのに暗い顔してるって?
 彼から聞いた話なんだけど。
 彼女に告白したのは通りすがりのお金持ちさ。医療系の芸術家って言ったっけ。僕もその名前は知っていたさ。
 あのショーウィンドウに入っている所を見て、美しいと思ったらしいよ。
 まるで一つの芸術品のようだって。
 うん、気づいたかい。
 彼女がショーウィンドウに入ったのは深夜。
 今と同じくらい。
 シンデレラの魔法も解ける0時過ぎさ。
 いくら都会だからと言っても何かおかしい。
 百貨店の近くで大きなパーティがあったって訳でもない。
 パーティ前に一度こちらに寄る方もいるかもしれないだろう?だから、もしパーティがあったなら気を引き締めなければいけない。
 そんな情報があったらすぐに百貨店に入るだろうさ。
 色々準備もあるしね。でも、パーティなんてなかった。
 何事もない日にお金持ちが通る。それも深夜に。
 そう偶然が重なる事ってあるだろうか。
 運命だって?
 意外とロマンチストだね。
 恥ずかしがらないでよ。僕もそう思っていたよ。
 真似する人もいただろうって?
 単に幸せな話だったら、恋愛スポットとして全面に出されていただろうさ。
 現にそんな話があった。
 そうしようとした上層部にあいつは反対したよ。
 「原野の幸せが見せ物みたいで嫌だ」
 僕もそう思ったよ。
 あの百貨店は近隣に響くほど嫌な噂だらけだった。
 「不気味だ」って次に続く人はいなかったね。
 彼女がどうなったかって?
 うん、結婚式には百貨店の誰も呼ばれなかった。彼女の上司でさえも。そして、旦那さんと一緒に何処か遠くへ引っ越していったのさ。
 行き先?誰も知らなかったよ。
 ……僕が彼女を見たのは画廊の関係で海外のニュースを見ている時だった。
 ある事件のニュースを見つけた。
 『芸術作品に本物を使用した疑いで逮捕』
 『妻は行方不明』
 一気に血の気が引いたよ。
 彼女の写真が乗っていた。
 さっき話したように彼女の旦那さんは芸術家。
 彼の作品は医療系だ。ホルマリン漬けも含む。
 捕まったんだよ。そして、原野さんは奥さんだ。
 何が一体どうなっているのか。
 原野さんはどこに行ったのか。
 すぐ調べたよ。
 でも、情報は出てこなかった。無責任な憶測ばかり。
 どうやってPCをシャットダウンしたか覚えていない。
 真っ先に彼に電話を掛けたことだけは覚えてる。
 彼女を可愛がっていたから彼もショックだろうって?
 ……彼はね、上層部の売り出しに反対したせいか退職させられていたよ。
 理由?理由なんてどうとでもなる。
 電話を掛けたら「そうか」と一言だけ。
 それきりさ。すぐ切られた。
 彼かい?
 最近調べてみたら元気そうだから安心したよ。
 この事務所に入るまでは年賀状のやり取りもしていたんだ。
 まだ別の所のショーウィンドウを担当しているって。
 うん。僕も会いたいんだけど、この職業でしょ?
 お互い会わない方がいいんじゃないかって。
 別にそんな事ないって?優しいな君は。
 でも、いつか会いに行きたいな。
 あの百貨店の思い出話もあるしね……


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