キス待ち顔
@azisaitsumuri
こちらが匙の先に食べ物を仕留めたところで顔を寄せれば、それを自身の口に入れて貰えると思って居る図々しい小男が居る。
ああまたか。
今フォークの先に有るのはブッシュドノエルだ。クリスマスの定番だが、別にクリスマス以外に食べては成ら無いと言うことも無いだろう。とっくに年を越したところで「松の木です」と言い張って東洋の縁起を担いで作ったものだ。験担ぎとは言い切ったもの勝ちと言う印象が有るのだが、はて、違ったろうか。
「あ。」
少し考えて居たら、大口が鳴いて急かして来た。
ほんと図々しい。
だからその食らおうとしてあいて居る口を、逆に食らってやった。
「……え」
今度は驚きに鳴く食いしん坊。
とは言え実際起こったことは、やっぱりこちらが食われたのかも知れ無い。どちらか分から無い。どちらでもいい。どちらにせよ、自分とこの男との間だけで起こったことだ。どちらなのか分から無いくらい、めちゃくちゃでいい。めちゃくちゃに成れば良い。
だから殊更意地悪く言って遣るのだ。
「おや、キスでも待ってるのかと思ったのですが、違いましたかねえ?」
「待って無え。」
むっとして食って掛かられる。
「あら。待って無い?」
「否!……待ってた。」
慌てたように食い付かれる。
あゝ美味しい!
愉快に一頻り笑ったこちらを、今度こそ男は待っていた。顰めっ面で辛抱強く。
「はいはい。これが食べたかったんですよね。」
「……キスを待って居た」
「分かった分かった。で、食べるんでしょう?」
「食べる。……でも」
男は少し考えるように、味を思い出すように。
「それよりもさっきのほうが甘いと思う。」
ケーキよりキスのほうが?食べる前から何を甘ったるいことを。
さっさとケーキとキスさせた。