反転ドラヒナで、土用の丑の日ネタのお話です。
彼女への想いが、庇護欲から執着に移行したのを自覚した時期。ヒナイチくんは気づいておらず、ドラルクさんが拗れております。行動と脳内がちぐはぐな…そんな文章を目指したら、読みづらくなってしまいました。
お嬢ルドくんと合流し、心身共に結ばれた反転ドラヒナが、冬の土用を迎えるシーンを追加しました。
2024/07/25 に上げました。
@kw42431393
「ドラルク、今夜も監視に来たぞ。」
「いらっしゃい、ヒナイチくん。」
「ヌンヌンヌ。」
日が暮れても、熱気が残る昨今の夏。
我々吸血鬼は日が暮れてからの活動となるが、それでも、年々過ごしにくくなってきたと感じている。
昼間は昼間で会議や下見、夜は夜で吸血鬼事件のパトロールや退治に駆け回っている…この昼の子は、大丈夫なのだろうか。
「さあ、おかけ。疲れただろう?」
「…そうでもない。貴様に心配される謂れはない、伊達に鍛えてないぞ。」
私の引いた椅子に、無理に姿勢を正して座る、君を見下ろす。
意地っ張りな君が、正直に言うはずがない。
私が話しかけるまで、疲れた顔をしていたのだ…私の手で、栄養管理しているのにも関わらず、だ。
世間では、大暑だ。一年で、最も暑さが厳しい時期。
真夏日どころか猛暑日も、珍しくなくなってきた。
その時間帯は、私はとっくに冷房のきいた棺桶に入っていて、ピンとこないが…ニュースを眺めていると、熱中症警戒アラートで、この地域も真っ赤に染まっている。
昼の子への興味なぞ、『退屈を紛らわしてくれる、遊び相手になれば儲けもの』でしかなかった時代だったら、それを見て何も感じなかったろう。
「気にするとも。棺桶にいる私には、想像出来ない状況なのでね。たまには、日中休み給え。」
「ヌー…。」
「…監視には来い、というのか?都合のいい奴だ。私は、退屈しのぎの玩具ではないぞ。」
玩具に見ていた時期もあったが…今は、違うのだ。そうでなければ、気遣いの言葉さえかける訳がない。
「アラートは出ているが、体に不調がない限り、皆、仕事を休んだりしないぞ。引き籠りをやめて、外に興味を持つのはいい事だとは思う。でも、ニュースを真に受けすぎだ。」
確かに…この右目を潰されてから療養と称して、世間から離れていたのは事実だ。
ジョンからは、引き籠っていた数十年間に、浮世離れしてしまった…と苦笑いされている。
それを差っ引いても…だ。現に、救急車に担ぎ込まれている者達もいるじゃないか。
だから、可愛い君をここから出したくなくなる。
この城自体を、君専用の大きな鳥駕籠にしても構わない…そんな考えが、また頭をもたげる。
意地を張って、いつも怒った様な顔をした、どこか寂し気な少女…ヒナイチくんへの庇護欲が、執着に移行していた時期だったので、猶更だった。
「まぁ、いい。ジョンと、これをお食べ。その間に、食事の用意をさせて貰おう。」
「あ、土用餅か。そうだな、もう時期だものな。」
ヌフフ。今日はクッキーじゃないヌけど、本当は和菓子が好きって言ってたヌものね。
私が得意なのはクッキーだが、半分は日系の母の血を引いている。
私の母は、家庭を大事にする人だ。
料理は得意ではなかったが、よく父と並んでキッチンに立っていたものだ。
幼い私もそこに立って、一緒に捏ねていたのを覚えている。今の自分からは考えもつかない、素直な時分の話だ。
土用餅は暑気払いとして、この時期に食べられているものだ。栄養学的にも、甘党の君にも、よいと思う。
「さあ、どうぞ。」
「頂こう。」
冷たい麦茶と置いてやると、喉が渇いていたのだろう。
顎を上向けて、ゴクゴクと、小気味よい音を立てて…
「ぷはっ…ホッとするな。つい、一気に飲んでしまった。」
…グラスから口を離して、君はため息をつく。
体を冷やすからゆっくり飲め、とお小言の一つも言ってやろうと、思ったのだが…
「…」
アンテナをハートマークにしながら、あんころ餅を口にする彼女から、目を離せない。
麦茶を飲み込む時に露わになった、透き通る様に白くて細い首。
私の片手でへし折れるだろう、華奢で美しい…その下には…
「うん…おいしいな。甘さも控え目で、上品で。」
ヌン。ドラルク様が作ったお餅ヌもの。ヒナイチくんの口に、合わない訳がないヌ。
彼女が私の元へ、監視に来る様になったのは、春も落ち着いた頃だった。
あの頃のヒナイチくんは、寮の食堂かコンビニ弁当で食事を賄っていたらしい。彼女はフードファイター並みに食べる健啖家なので、激務をこなしながら自炊する事が、出来なかったのだ。
栄養状態もよくなかったのだろう。こうして見ると、当時の肌は色艶も悪かったし、鍛えてはいたが、上腕や腰回り、足回りなど、肉体を動かすのに重要な部位の肉づきだって、貧弱だった。
私が誘う剣試合でも、近頃、いい勝負が出来る様になってきた。
この体は、私が作ったモノだ…だから、おそらく…
「どうした?ぼんやりして?」
「…何でもないよ。じゃあ、食事を持って来よう。丑の日だから、ウナギを捌いておいた。いいのが、手に入ったのでね…精をつけて、体を壊さないように。」
その下には、極上の処女の血が、流れているに違いない。
あれから、数か月経った。朝食も弁当も私の手製だから、ほどんど、血液は入れ替わっているはずだ。
師匠には苦い顔をされるが、私は、元々あまり血液の味に拘りはない。
畏怖くないと言われるから、特1級の血液ボトルを常飲しているだけに過ぎない。
戦場を駆け、殺した相手や捕虜の絶望した顔を見ながら飲む血液こそ、極上のものだと思って、生きてきたのだ。しかも、相手が強ければ強い程、手こずらせたなら手こずらせただけ…旨いものだ。
じゃあ、自分の手料理で仕上げた処女の血は…?
「う~ん、気を遣うな。今日日、高いものだろう?」
斬り伏せて、這いつくばらせて…絶望した彼女から手に入る、自分の手で育て上げた戦士の血は…どんな味が、するのだろう?
「君への餌付けも、私の趣味だからね。支払いは実家持ちだから、糸目はつけない。君が通う様になってから、懇意になった食料品店の店主にとって、私はかなり上客らしいのだ。たいていの物は、手に入れてくれる。」
「ヌヌヌヌヌヌ!」
「ジョンも言ってるが、そういう問題ではないだろう。屋根裏を私の仮眠室に改造したり、庭園を広げたり…実家が金持ちだから、出来る事だぞ。」
「実家から言わせれば、私がこうして趣味に勤しんでいる間は、反人間派の同胞に与して問題を起こす真似はしない。だから、遠慮せずに食べてくれ給え。土用卵のだし巻きと、シジミ汁に柴漬けも用意しておいた。」
私の監視が行き届かない、昼の世界に帰る君が、倒れたりしないか心配だから…
明日もここに元気な姿を見せて欲しいから…
「だから、人の話を…お前を心配している、お父上達の気持ちも考えろ、と言って…だから、話を聞け!」
「ヌー…。」
どうも、ヒナイチくんの首を見てから、口にする事と考えている事がちぐはぐだ。
このまま一緒にいたら、胸中に抑え込んでいる欲望を実行しかねない。
まだ、何も知らない雛鳥にそれを悟られたら、怯えて逃げてしまうだろう。
「楽しみに、待っておいで…。」
だから、苦言を呈する一人と一匹を残して、一方的に会話を切る。
少し一人になって、頭を冷やさねばなるまい。
キッチンから戻って来るまでに、胸中で渦巻いている『何か』を鎮めなければ…そう考えながら。
「ドラルク、おい!!」
ごめんヌよ、ヒナイチくん。
諦めのため息を背中で聞きながら…扉を閉める。
「雛鳥か…ずっとこの城にいてくれたら、永遠に守ってやれるものを。」
気づけば気づく程、その願いは濃く、深く固着していく。
「夜の者にしてしまえば…願わくば、彼女自身の意志でこちらに来たいと思わせる事が、出来るなら…。」
元々この城自体が、『当時、戦いに飽きた』私が実家に迷惑をかけない様に、『再び、戦場に出る』気にさせない様に、設えられた鳥籠だったのだ。
そこに、つがうならこの娘だと初めて意識した、赤い小鳥を招き入れる事が出来たなら。
常時、その姿を鑑賞する事が出来たなら…どんなに心安らかに過ごせるだろうか。
「ただいま、ドラルク。いい匂いだな。今夜は、鰻か?」
「フフ、おかえり。赤い小鳥が、香ばしい匂いに釣られて来てしまったらしい。」
「ヌフフフ。」
キッチンの扉が開いて、部屋着に着替えた君が顔を見せる。
「笑うなんて、酷いぞ。あ、ジョンまで…もう。」
あの当時では、想像もつかない素直な笑顔で…
あれから、ロナルドくんが私達と合流し、私達にも紆余屈折あって…お互い意地が原因で、拗れに拗れた関係も姿を変え…
「今日は、冬の土用だ。風邪を引かない様に、何か精のつくものを…と思っていたのでね。お腹いっぱい食べておくれ。」
「そうなのか?鰻って、夏に食べるものだと思っていたな。」
本当の旬は、秋から冬ヌね。冬の土用は、「ひ」が付く食べ物と、赤い食べ物を食べるんだヌ。
隠していた本音を打ち明け合った私達は、心身共に結ばれて…こうして、共に暮らしている。
人間達と我々の抗争が終わり、彼女の戦闘力が必要なくなった世界になったなら、私の血を受け入れて夜の世界に来る…そういう契約を取り付けた上で。
「そうだよ。だから、うな重ではなく『ひつまぶし』にしたのだ。ただの迷信だとは思うが、まぁ、こういうのは気の持ちようだから。」
「なるほどな…しかし、このお櫃は大きすぎないか?」
「君『達』なら、このぐらいは必要だろう?むしろ、足りないかもしれないねえ?」
「『達』?ロナルドも、ここに来ているのだな。食堂か?」
「ロナ戦の最終チェックをしているよ。君も、行っておあげ。」
せめて、配膳ぐらい手伝うぞ…そう言って、ジョンと共に、お櫃と薬味、出汁を乗せたお盆を手に取って、キッチンを出ていく。どうせ後で分かる事ではあるのだが、もう言ってしまおうか。
だから、その背中に、私はもう一声かけた。少しでも早く、クルリとハートマークを描く、君のアンテナを見たいから。
「デザートは、真っ赤なイチゴのムースにしたよ。イチゴ、大好きだろう?」
「そうか。赤い食べ物も、だったな。勿論、期待しているぞ!」
「フフ、期待しておくれ。今夜だけでなく、明日も、明後日も、いや…永遠に。」
彼女を閉じ込める鳥籠にしようと考えていたこの城は、今や、彼女が帰る家となっていた。
たった、一言でよかったのだ。ジョンの次に大切にしていた、プライドを捨てて…
「君と共にいたい。君の心と使命が落ち着くまで、何十年でも待つから、考えて欲しい。この言葉を信じて欲しい。」
たった、一言。そう言えば、よかったのだ。
飛び立とうとする雛鳥を、押さえつける必要など、なかったのだ。
扉を開けて待っていれば、元から私に想いがあったヒナイチくんは、この巣へと帰ってきてくれるはずだったのだから。