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お姫様の暗躍

全体公開 双六陸受け 21 61 3886文字
2025-01-07 16:53:43

👼👿(+悪魔体)
シナリオ匂わせあり

 

 「む"ー!んむ、ゔーっ!!」

 布によって塞がれた口で懸命に声を上げる双六陸だが、人気のない倉庫にそのくぐもった声は響くことなく、周囲の男たちの下卑た笑い声にかき消されてしまう。

 「無理だってりっくーん、そんな細い体じゃ逃げらんねぇよ」
 「つーか動画で見るより肌白くね?配信者って言っても引きこもりかー」

 好き勝手に話す男たちを睨む陸は、後ろ手に固く縛られてしまった紐を引っ張って抵抗を試みる。
 しかし、彼らのいう通りきつく結ばれた紐は陸の力では到底解くことができそうにない。周囲の機材で切ろうにも、男たちに見下ろされている今では不可能だった。
 
 帰宅途中、背後から押さえ込まれてしまった双六陸は、抵抗する暇もなくこの場所へと連れ込まれてしまったのだ。
 どうやら単なる人攫いではなく陸の活動を詳しく知っているらしく、言いながら彼らは鞄を漁って身分証の写真を撮っている。
 
 「すごろくりく?へー!りっくんってマジでりっくんだったんだー!」
 「なぁなぁ、この連絡先のみーちゃんってやつ環雅じゃね?!」
 「ッ、んん"ーっ!!んー!!」

 スマートフォンの着信履歴を見ていた男のひとりが、声を上げて仲間たちに画面を共有する。
 このままでは雅にまで迷惑が掛かってしまうと必死に暴れてスマートフォンを取り返そうとする陸だが、そんな彼に目もくれず男たちは楽しげに通話を繋げてしまった。

 『どしたんりっくん、コンビニ遅いけど』
 「りっくんならもう帰らねぇよ」

 出掛けたきりの陸に声を掛けた雅は、通話越しに聞こえた陸ではない男の声に口を噤む。
 やがてスピーカー越しに聞こえた彼の声は、今まで一度も陸が聞いたことのない怒りと憎悪を孕む低く掠れたものだった。

 『……誰だ?』
 「落ち着けよおっかねぇなぁ、愛しのりっくんが怯えちまうだろ?」

 腕を掴まれた陸は、雅と通話が繋がっているスマートフォンの前まで引き摺り出される。
 近づいた人の息遣いに気付いた雅は一瞬言葉を詰まらせると、すぐにその正体を察して声を上げた。

 『りっくん!!りっくん大丈夫か!!』
 「っん……んん!ッん"ぅ!!」

 ひとまず無事であることや、自分がどこにいるのかを伝えたい陸だが、猿轡がそれを許してくれない。
 どうにか声を出そうと模索する陸の腕を掴むと、男は乱暴にその体を倉庫の隅へ放り投げた。

 「ん"っ」
 『りっくん!りっくん!!テメェらりっくんに何してんだよ!!』
 「あーあ、王子様は大変だねぇ」
 「でもさぁ、いざってときにそばにいないならなんの意味ないよなぁ?」

 通話越しに聞こえるばたばたという足音は、おそらく彼が自分を探して街を駆け回っている証拠なのだろう。
 このままこの場所に雅が来てしまえば相手の思う壺だ。おそらく男たちは、陸ではなく雅に対して恨みを持った人間である。
 モデルとして業界に身を置きながら配信業を行う彼の敵は多く、特に同業者の男性からはいい顔をされないことがあった。
 男たちはそのうちの過激かつ、雅が最も苦しむ方法は陸への攻撃であることを的確に理解している悪質な連中だ。

 「ん、ゔ〜っ!!ん!んんっ!」
 「りっくん無駄だって、お前みたいな小鹿ちゃんには外せねぇよ」

 抵抗を嘲笑った男の一人が陸の前に膝をつく。
 そんな男の顔をきっと睨みつけた陸は、咄嗟に彼の鳩尾を目掛けて強烈な頭突きを繰り出した。

 「ぐ、ッ?!」
 「は!?おいテメェ!なにすんだ!!」
 「んんッ!」

 空気を吐いた男が地面に転がり、仲間たちが陸の体を押さえつける。
 地面に押し付けられた鈍い痛みに陸が呻けば、頭突きを食らった男が額に青筋を浮かべて起き上がった。

 「舐めた真似しやがって!!」
 「ッ、ん"!!」
 
 男の振り下ろした拳が陸の頬を捉える。
 反動を逃すこともできない彼は、焼けるように痛む頬と揺れる頭に意識を朦朧とさせた。
 ぐったりと地面に倒れて動かない陸を見下ろした男たちは、さらに彼を踏みつけようとする男を慌てて宥める。

 「おいバカ!顔はやめろって!」
 「馬鹿にしてんのはコイツだろ!手出さないと思っていい気になりやがって!」
 『ーーーりっくん!?りっくん!!』

 通話越しに聞こえた鈍い音に、最悪の想像をした雅は顔面蒼白で必死に名前を呼ぶ。
 その声に反応もできない陸が意識を手放すのと、男たちが雅との通話を終了させるのは、ほぼ同時のことだった。

 「どうする?」
 「さすがに痕があると警察呼ばれたら言い逃れできねぇし、打ち合わせ通りあれだけ撮ってから引くか?」

 こうなった以上雅が警察を頼る可能性が高い。ここは一度引いた方が良いだろうと意見をまとめた男たちは、去る前に陸と雅の弱みをひとつ握っておこうと考えついたのだ。
 それは陸の服を剥いだ姿を写真に収めることだった。それを自分たちが握っているというだけで、彼らは写真をネットに公開されることを恐れて警察への通報ができなくなるのだから。

 「あーあ、ったく……じゃあ適当に服脱がせて、」

 話しながら男が倒れる陸へと手を伸ばす。

 ぶちん。
 そんな何かが千切れる音が、倉庫の中に木霊した。
 至近距離に立っていた男のひとりがその音の主が目の前の陸であると気付くと同時に、ひゅっと風を切る音が男の耳元で響く。

 「え?」

 疑問の声を最後に男の体は吹き飛ばされた。
 宙を舞って地面に転がった男の姿を、仲間たちは理解が追いつかず呆然と眺める。

 「いってぇなぁ……思いっきり殴っただろ。陸の体に傷つけやがって」

 そんな彼らの耳に次いで届いた声に、彼らの背筋は自然と凍りついた。
 声の主は目の前に居る陸のものに違いないが、声質は同じでありながらその色も凄みも雰囲気もまるで違うのだ。
 怒りを孕むその声に促されて視線を辿った男たちは、地面に倒れていたはずの陸がいつの間にか二本の足で立っていることに気がついた。
 彼の両手両足に拘束はなく、地面には千切れた縄が転がっている。その切り口はまるで力尽くで引きちぎったように見えるが、先ほどまでの非力な陸では到底不可能であるはずだ。

 「……あんた、なんなんだ?」
 「んあぁ、俺?」

 手首を軽く回して顔を上げた彼の赤と桃の瞳が暗闇に瞬く。その雰囲気に威圧されて口を噤む彼らを見下ろして、リクは勝ち誇った笑みを浮かべた。

 「俺はただ、あくまで悪魔なだけだよ」

 とん、と地面を蹴ったリクの背に翼が生える。夢でも見ているのだろうかと目を疑う男たちと一瞬で距離を詰めた彼は、硬い靴裏で先頭に立つ男の顔を踏みつけた。
 慌てて我に帰りリクを拘束しようと手を伸ばす男たちだが、彼は反対にひょいとその腕を引くと男の腹に蹴りを叩き込む。

 「ぐ……ッ、」
 「なんだこいつ……?!」
 「ば、化け物?!」
 「あー?悪魔つったろ?耳腐ってんのか」

 倒れ蹲る男のひとりがスマートフォンを取り落とした。
 ふとそちらに意識を向けたリクは、腰が抜けた数人の男を置いてそちらに歩み寄ると、すいすいと画面を操作して撮影された陸の身分証を削除していく。
 そうして最後に画面を割り砕いた彼は、ゆらりと腰を抜かした男のひとりの胸ぐらを掴んだ。

 「ひ、」

 至近距離で覗く美しい桃色の瞳に映る苛立ちの感情に男が息を呑む。そんな男に向けて、リクは吐き捨てるように言葉を投げるのだ。

 「いいかお前ら、次にまた陸に指一本触れてみろ。来世まで地獄に叩き落としてやるからな」

 涙目でこくこくと頷く男たちを満足そうに眺めたリクはにこりと笑うと、そのまま胸ぐらを掴んでいた男を腰を抜かした男たちに向かって投げ飛ばす。
 成人男性ひとりの衝突する衝撃に耐えきれなかった彼らがぐったりと気を失うのを見届けた頃、倉庫のそばから足音が聞こえたことにリクは気がついた。

 「お、ダーリン到着〜♡」
 
 ばたばたと自分を探して走り回る彼に会いたい気持ちは山々だが、ここは助けに駆けつけた王子様に少しくらい花を持たせてやるのも優しさだろう。
 そう考えたリクはまだ見えない彼に名残惜しげにキスを落とすと、自身の体を陸へと戻した。
 どさりと音を立てて陸がその場に崩れ落ちたとき、倉庫の扉が開け放たれて雅が室内に転がり込む。

 「りっくん!!!」

 息を切らして到着した彼は、倉庫の中央で気を失って倒れる陸の元へと駆け寄った。
 助け起こして顔を覗き込めば、陸の頬は殴られて赤く腫れている。顔を歪めた雅は応急処置の代わりにハンカチを当てると、周囲の伸びて動かない男たちを怪訝な表情で見回した。

 「……こいつら、一体誰が?」

 自分がこの場所に来るより早く、誰かがここで男たちを退けて陸の拘束を解いたらしい。
 一体誰がそこまで助けてくれたのだろうかと首を傾げる雅だったが、今は陸を安全な場所に運んで早く手当てを受けさせるべきだと頭を振った。

 「救急車と警察呼ばねぇと……!」

 雅の腕に抱えられた陸は、素知らぬ顔をしてすやすやと眠り続ける。
 せっかくなら目覚めのキスくらい強請っておけばよかった。そう頭の後ろで手を組んだ内なる悪魔は、こんな危機などものともせず呑気に呟くのだった。




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