ASMRにハマり不動の声に敏感になってしまう鬼道有人のふどきどになる予定の小説ですがまだ始まりも始まりで説明部分のようなものしかないです。大人ふどきど。
普段小説は全く書かないので違和感感じるところが多々あると思いますが目を瞑っていただけたら幸いです。お手柔らかにお願いします…
@dxthxunchi
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「鬼道くんってASMR好きそう」
週末の居酒屋は騒がしい。少し年季を感じさせるその店は低い天井に赤い提灯が点々と吊るされ客を招くように揺れている。料理を運ぶ店員は威勢のいい声を出しながら狭い通路を忙しなく横切る。声の主…テーブルを挟み向かいに座る不動が頬杖をつきながらこちらをじっと見ていた。遠くの方でワッと笑い声が上がる。
「えーえす…?」
「ASMR」
「なんだそれは」
「なーんだ知らねえの?」
そう言うと不動はちょっとまってろとなにやらスマホの画面を触り始めた。
今日は不動と居酒屋に来ていた。実はこれは初めてではない。もう両手で数えきれないほどこうして2人で食事を共にしている。
ゴッドエデンでの出来事を経てから不動とはなにかと顔を合わせることが増えていた。だがお互い自分の仕事があるためすれ違いだったり、軽口を叩く程度のものがほとんどだった。
その日は久々に仕事が早く片付いた。最近佐久間に残業時間の指摘を受けたばかりだったのでこれで少しはその心配が晴れてくれるだろうかと思いながら総帥室を出たところにたまたま不動と鉢合わせた。どうやら不動も帰るところだったらしい。
「腹減ったな〜鬼道くん帰って何食うの」
「まだ決めてないな」
一応常にストックしている作り置きがあるはず。だがそれもそろそろ底を尽きるところだったか。何を作ろうか冷蔵庫の中身を思い出していると不動がじゃあさと言う。
「一緒に飯行かね?」
その日は俺が誘ったしと不動のおすすめだと言うイタリア料理の店に入った。実は事前の予約が必要なほどの超人気店なのだそうだが、その日はたまたま1席空いていた。ラッキーと口笛を吹く不動を横に、本場イタリアの料理を何度も口にしていた鬼道は内心どんなものかと片眉を吊り上げていた。しかしひとたび料理を口に入れればそんなな気持ちも霧散した。前菜はあっさりとしたルッコラとレモンのサラダから始まり、イカのフリットにチキン、中でも実の大きなムール貝が乗った海鮮とレモンのパスタは鬼道の舌を唸らせた。店主は日本人だそうだがこのレモンの取り入れ方を見るにナポリで修行を積んだのだろうか。そんなことをふんわり考えていると不動がすっかり空いていたグラスにワインを注ぐ。なんだかんだ顔を合わせることが増えたとはいえこうしてゆっくり腰を据えて話す時間は中々とれない。お互いの現役時代の話に現在の監督業、そしてホーリーロードのこと。声をあげて笑うようなおかしな話から声を潜めて話すような真剣な話まで思っていた以上に会話は弾みに弾んだ。
FFIでの経験を経て、出会った頃のような険悪な関係ではないとはいえ、あの時から顔を合わせなくなりずいぶん時が経つ。それにこんなふうにわざわざ食事の場を設け、語らう未来が訪れることが想像できるような関係ではなかった。時というのは人を柔らかくさせると言うが本当にその通りなのかもしれない。美味しい料理と酒に弾む会話。気づけば閉店時間ギリギリまで過ごしていた。
帰り際、少しだけ後ろ髪引かれる思いでいると不動は思い出したように「今度は鬼道くんが店紹介する番な」と軽い調子で言うのですっかり冗談だと思っていたが、2週間後「店決まったか?」とメッセージが届きそれからお互いの好きな店を交互に行き、食事を共にするようになっていた。
今日は不動セレクトの店だ。
「ほら、これ」
そう言って不動の見せたスマホの画面には女性だろうか、口元だけが写っていてやけにマイクに近づきながら何かを口に入れる様子を写した動画だった。
「煎餅を食べているな」
「まあ、そうだな。でもこれは動画ってよりも音がメインなんだけど……これじゃあな」
いつもはここまでうるさくねえんだけどさと店内を指すように横目を使う。確かに店内は大賑わいだ。ここから少し離れた一角ではかなりの人数が集まった宴会が行われているようだった。
ここ選んだの失敗だったか?と言う不動にそんなことは断じてないと首を振る。こういった店に入るのは不動と食事に行くようになってからだが気取らなさが心地いい。それにここの海鮮はどれも絶品だった。残り一切れになったかつおのたたきをいただきビールに口をつけていると、不動は愛用している斜めがけのボディバッグを開け何かを探し始めた。それで荷物が全部入るのかと言いたいくらいコンパクトなそれからお目当ての物はすぐに見つかったようだった。
「これつけて」
渡されたのは最新型のワイヤレスイヤホンだった。
不動は潔癖ではないと思うが他人の耳に入れられることを嫌に思う人もいるだろう。不動に視線を移すといいからと言う。ではありがたくと礼を言う。自分のとは形の違うそれに少々手こずりながら耳に入れると見計らっていたように音声が再生される。
聞こえたのは煎餅を食べる咀嚼音だ。だがただの咀嚼音ではない。音が粒立っていて非常に鮮明だ。歯と煎餅が当たる音すら聞こえる。この手のものにはあまり詳しくはないが相当値の張るマイクを使ってることが伺えた。ガリッでもないゴリッでもない言葉にできない音はなんというか、すごく生々しい。だが不快ではない。それどころか音が耳に入るたびなんだか心地が良くて腰から背筋を何かが登るような、脳天の手穴が開くような感覚がした。
これは………
「…いいな」
「だろ?やっぱり」
不動は歯を見せると他にもいろいろあってさ〜とスマホの画面をスライドさせる。
「じゃあ次鬼道くんの番な」
「ああ」
今日は少し早めの解散だった。明日はお互い朝が早い。
「前みたいな固っ苦しいところはやめろよな」
鬼道の胸の辺りを軽くど突きながら念を押すように不動は言う。
「善処する」
「信用ならねー!」
思わず笑いがこぼれる。
タクシーを捕まえると運転手に自宅周辺の住所を伝え一息つく。
不動はいつも電車で帰る。特別電車が好きだというわけではないが高い代金を出す程タクシーに価値を見出せないらしい。これはきっと幼少期からの彼の気質だろう。
今回の食事もすごく良かった。しばらく仕事が立て込んでいるので次はいつになるだろうか。そんなことを考えているといやに車内の静かさが気になった。運転手とベラベラ会話をするような質でもないので運転手がラジオをかけるタイプか相当なおしゃべりで話しかけてくるタイプでもない限り大体車内は静かになることが多い。それなのに、なぜ…。考え込んでいると、耳の奥で何かを感じた。それは段々と大きくなって音になる。ガリッでもないゴリッでもない……。サングラスの下で目を見開く。先程不動に教えてもらった咀嚼音だ。あれは…本当に良かった。他にも色々聞かせてもらったがどれも耳に残っていて今更余韻のように耳の奥で咀嚼音が反響する。
なんだったか、確か…エーエス…
「ASMR」
ですか?と前の方から声がした。
どうやらいつのまにか声が漏れていたらしい。運転手がバックミラー越しにこちらを見ていた。
「実は私も好きでして…」
と照れくさそうに呟く運転手はかなりのASMR好きなようでここ1年くらいは耳かきASMRとやらを聞きながら寝ているらしかった。不動に教えてもらったものはほんの一部でASMRはかなり種類に富んでいるようだ。
鬼道は運転手に礼を言うと、スマホを操作しアプリを立ち上げた。ASMRで検索すると膨大な数の動画がヒットする。どれを聞いてみるか悩んでいるとイヤホンが必要だったことを思い出す。最近出番がなかったのでもしかしたら家に置いてきているかもしれないと思いながらもバッグの中を探る。運良く目当ての物は見つかった。ポーチからそれを取り出すとコードをスマホに差し込む。イヤホンを耳に入れると小さく深呼吸して、再生ボタンを押した。