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調子どォ?

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2025-01-12 07:15:43

暫定。

Posted by @kurato0o

調子どォ?



目が眩むような、明るいネオンの光。それらに照らされながら少女はそそくさと息を潜めて街中を進む。いつの日か手渡されたスマートフォンには最低限の機能しか求めておらず、今も時間と場所を確認するためだけに手にしっかりと握っている。冬のビル街の風は異様に冷たく、そして強かった。
今日、少女は一五歳の誕生日を迎える。
長い、一五年だった。そんな感覚に陥るのはどうしてだろう。ひとりでいることが多かったからなのか、それとも年齢による、思春期特有の孤独感や焦燥感がそう思わせるのか、少女には分からなかった。生まれてから数年間の記憶や感覚なんて覚えていないはずなのに、なんとなくこの世に生まれ落ちたその瞬間から今までが長かったと感じる。
都会の喧騒はそんな思考さえ遮ってくるほどけたたましい。一歩進む度に知らない誰かにぶつかりそうになるのをどうにか避けながら、少女はなんとか前に進んでいく。こんなことももう慣れてきてしまった。有象無象の中で自分だけがまともな人間な気がしてくるのは、皆が皆、倦み疲れた表情で歩き、そうでないものはへべれけになってよろよろと歩くのもやっとという具合で、まるで彼女の視界に映るすべての人間には自我なんて持ち合わせていないようにも見えるからだろう。
目的地の店のビルまでやっとの思いで到着して、エレベーターのボタンを連打する。時間が微妙なのもあっていつもより人が少なかった。エレベーターの先頭でバッグの紐をぎゅっと握り締めて、後続に喋りかけられないように口を噤んで、目の前をしっかりと見据えて、存在感を極限まで消す。下手に俯かないようにするというのはここ数年で学んだことでもあった。おじょうちゃん、今ひとり?大人の人は?そう聞かれたことは一度や二度ではない。今後ろにいるのは若者の集団で、バラバラの制服を着ていて皆が思い思いに気崩している。甲高い嬌声が耳をつんざく。到着したエレベーターでもこの人達と密着しなければならないのかと思うと少しげんなりした。それもいつものことだった。
そんなこんなでようやく店に着く。忙しない様子で彼女に一名様ですか?と聞きに来た店員に待ち合わせですと言うと、顔も見ずにどうぞと通される。初めて見る人だった。都会のお店は人が変わりやすい。
きょろきょろと店内を見渡す。肝心の席の場所までは毎回教えてくれないのだから、困ったものだった。溜息を吐く余裕も隙もない。ここでも気合いを入れていないとすぐにでも人にぶつかりそうな混雑具合だ。隅まで見渡して、ようやく猫背気味になった長身の男がひとりソファー席に座ってワイングラスを傾けているのが見えた。小走りになりそうになるものの、危険すぎて諦める。これもいつものことだった。
「ウォロさん」
長身の人物の名前を呼ぶと、珍しい白磁の瞳が少女を捉えた。
「遅い」
開口一番罵られ、少女は肩を落とした。
「ウォロさんの連絡がいつもぎりぎりなんじゃないですか……。うう、寒かった」
「はやくすわんなさい」
「はいはい……
顎でくいと目の前の席を指され、少女はダウンをいそいそと脱いで椅子に掛けた。この分厚いダウンもいつか貰ったものだ。
「何飲みます?」
「ウォロさん、取りにも行かないくせに聞かないで」
「わはは」
既に酔っている。
少女は席に座るより先にお決まりの質問を投げかけてくる男に半ば辟易としながら、席に座って電子パネルでドリンクバーだけ選択して注文ボタンを押した。
「取ってくる」
少女がそう言うと、男はワインを煽りながら片手をぶらりと上げる。
今日の席はドリンクバーからさほど遠い席ではなかったが、ファミレスという場所のドリンクバーが暇な時間は稀だろう。いつも通り先に並んでいる人たち、しかも連れ合いで何飲むー?というのんびりとしたやり取りを見ながら待つ。多分これが個人個人の列だったならばもっと早く済むのだろうと思うが、友達同士で来ていたらそりゃあ一緒に選んだ方が楽しいだろうな、と少女はいつも思う。少女が選ぶ時はいつもひとりだし、もう何にしようかなと思うほどラインナップに心躍ることもなくなってしまった。透明なマスカットのジュースを注いで、すぐに席に戻った。男のテーブルには既に二本目のワインが届けられていて、生ハムとソーセージの盛り合わせと、ピクルスくらいがほとんど手を付けられずに並んでいる。
「戻りました」
「はい、乾杯」
「かんぱーい」
グラスを傾ける男に、こつんとプラスチックのコップをぶつける。ぐっと一気に白いワインを煽る男を見ながら、少女はストローをちゅうちゅうと啜った。
既に結構酔っていると見た。
まあそれもいつものことだった。
「頼んでいいですか?」
「いっぱい食べなさい」
これは酔っていても酔っていなくても同じように言う内容だった。
少女はハンバーグのセットを手慣れた手付きで注文ボタンまで進めて、食べていい?と加工精肉の乗った皿を指さす。食べなさいとまた同じ台詞を言われるので、少女はそのままハンバーグの待ち時間に男の頼んだ、つまみ以外の何者でもないものにフォークを伸ばす。
「で?」
「はい」
「最近調子どう?」
――でたわね。
少女はじっとりとした視線を男に向ける。生ハムを一口放り込んで、咀嚼してからジュースで流し込む。空腹だった胃が刺激されてきゅうと唸った。
「ぼちぼちです」
「はっ」
少女の返答に男は鼻で一笑した。馬鹿にしている、というより可笑しいといった具合に。
「おっさんみたいな返事ですね」
明るくそう笑ってまたワインを煽る。
それもそうだろうと少女は疎ましく思った。
男のことじゃない。言葉のことだ。
「毎日聞いてくるからでしょうが…………
「え?なんて?」
「なんでもなぁい」
男を無視して皿の上のものをぺろりと平らげる。育ち盛りは食べ盛りなのだ。
そうしている間に早くもハンバーグとごはんが運ばれてくる。いただきますと手を合わせる少女を、男はいつものように眺めながらワインを一口含んだ。
少女の名前はショウ。今日も保護者の男の酒に付き合ってやっている。
調子は、ぼちぼちである。





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