高生宅バレンタイン2025応援小説です。1帰代変、2アキラ・アカツキ、3神無三十一に投票。
他の刑事探索者たちも友情出演しております。ネタバレはありません。
@rikka_trpg801
きっとそれは幸せの味
バレンタインデー――世の中がチョコレートや恋人たちで溢れかえるその日も、刑事たちは普通に仕事をしていた。
忙しい一日を終えて宿舎に帰ると、待っているのは厨房の主である帰代の作った夕飯だ。栄養バランスも量も味も申し分ない食事は日々のささやかな楽しみとなっている。自炊や外食では得られない何かがそこにはあった。
広々としたダイニングで揃って夕飯を終えたところで、食事の最中からそわそわと落ち着きのなかった神無が勢い良く席を立つ。
「ちょっと待ってて!」
パタパタとキッチンスペースへ駆け込むと、両手に洒落たバスケットを抱えて戻って来た。
「これ、俺から皆へ友チョコ! ハッピー・バレンタインデー!」
弾んだ声でそう言って、神無が一人一人に手のひらサイズの包みを配っていく。透明なビニール越しに見える中身に、感嘆の声や歓声が上がった。
「すごいですね」
この宿舎の一番の新人である糸冬が、笑みを浮かべてラッピングされたそれの表面を指でなぞる。それは、大きな一枚のクッキーであった。
しかし、ただのクッキーではない。ココアベースの香ばしいクッキーの表面は、アイシングによってそれぞれ違うデザインが施されているのだ。
糸冬のそれはいつも着けている赤いマフラーが描かれていた。他のデザインは愛飲している煙草のパッケージ、警察の制帽、ピンクのフレームの眼鏡、コーヒーの入ったカップ、風鈴、的当ての的、カエルの顔、太陽のピンバッジ――と、それぞれの刑事たちにちなんだものになっている。
「ありがとう、三十一ちゃん。それにしても凝ってるね~大変だったでしょ?」
コーヒーカップのクッキーを手に聖が神無を労う。神無ははにかんだ笑顔で首を振った。
「全然! 作ってたらどんどん楽しくなってきて、本当はもっと凝ったデザインにしようか迷ったんだけど、やり過ぎると食べ辛いかな? って」
「確かに、食べてしまうんが勿体無いですね……」
ぼそりと言った巻に同意の声が上がるも、神無はそれにも首を振った。
「一応日持ちするレシピで作ったけど、素人の手作りだから二、三日中には食べてくれよな」
鑑賞に値する見た目であっても、列記としたココアクッキーである。食べられずに腐らせる方が勿体無い。
各々大事に食べる旨を伝えれば、神無は満足そうに頷いた。
「じゃあ、次は俺からだ」
そんな神無の肩をぽんと叩き、アキラが食卓にカセットコンロを置く。何度かキッチンとダイニングを往復し、テーブルの上にトレーを並べた。
「何だ、これ?」
鈴風が怪訝そうな顔で見下ろしたトレーには、沢山のクラッカーが並んでいた。その半数には、板チョコが一欠けら乗っかっている。
「まあ、ちょっと待ってろって」
そう言ってウインクを飛ばしたアキラは、別のトレーに載っていた物――串に刺さったマシュマロを手に取った。
カセットコンロの火でマシュマロを炙れば、徐々に甘い匂いが漂い始める。表面に軽く焦げ目がついたところで、アキラは近くにいた神無の手に板チョコの乗ったクラッカーと、乗っていないクラッカーをそれぞれ持たせた。
「それでこいつを挟むんだ。強く押し過ぎるなよ?」
「あっ、わかった! 了解!」
神無がクラッカーでマシュマロを挟んだのを確認し、アキラが串を引き抜く。
炙られたマシュマロはクラッカーの間でクリームのように蕩けて広がり、その熱で板チョコも融け始める。
「スモアの出来上がりってな? 熱いから気を付けて食べろよ」
「うん!」
出来立て熱々のスモアにさっそくかぶりついた神無が、口いっぱいに広がる甘さに目を輝かせた。クラッカーの塩気が更に甘味を引き立ててくれる。
アキラが両手に串を持ってどんどんマシュマロを炙っていく。神無を筆頭に食べ終えた者が手伝いに加わっていき、ちょっとしたバーベキューのような雰囲気だ。
「熱くて甘くて美味い」
「出来立てを食べたのは初めてだが、簡単で美味いな」
周囲に花を飛ばしながら口いっぱいに頬張っている的中の横で、帰代も感心した様子で頷いている。
「本当はバーベキューとかキャンプファイヤーでやると更に美味いんだけど、真冬の日本だからなぁ」
「寒くてそれどころじゃなくなるでしょうし、こちらで正解です」
アキラの言葉に廉士が深く頷いている。元々アウトドアなど以ての外というタイプなので、カセットコンロでやる方がありがたいのだろう。
「日本の友チョコってやつを聞いてからやろうと思ってたんだが、喜んでもらえたみたいで良かったよ」
大盛況にアキラも満足げな表情を浮かべる。手作りとなると普段料理をしないアキラにはハードルが高いが、スモアなら板チョコを割ってマシュマロを炙るだけで済むと気付いて準備をしたのだ。
「今夜のデザートは十分だな? 俺もケーキを焼いておいたから、明日にでも――――」
帰代がそう言って片づけを始めようとした途端、テーブルからブーイングが上がった。
「もうお腹いっぱいでしょうが!」
「帰代先輩! 甘い物は別腹!」
「どうせ明日の朝には誰かが切って食べてるんだから、完全体を今のうちに見せてよ」
甘い物に目がない神無の主張に、聖が現実的な指摘を付け加えた。
帰代は仕方がないとばかりに溜息を吐くと、キッチンから二本のパウンドケーキを持って戻ってくる。チョコレート味らしく茶色でどちらもラップで包まれているが、一本には粉砂糖がかけられていた。
「粉砂糖の方がチョコチップ入りで、かかってない方がラムレーズンとラムシロップを使ったやつだ。ラムの方はそこそこ持つが、チョコチップの方は早めに食べきるように」
「ゲロゲロさすが~」
「紅茶のお供にぴったりですね」
広大がパチパチと拍手をし、廉士が手持ちの茶葉との組み合わせを考えて笑みを浮かべる。
「どっちも美味しそう……」
「両方食っていいよな?」
目移りする神無を尻目に尋ねる鈴風へ、帰代はメモリのついたまな板を掲げて見せた。
「ちゃんと十等分にするならな?」
それでは薄くなると他のメンバーからもブーイングが出たものの、そうしなければ誰かが食べられずに終わることになるのだ。
「仕方ないですって」
「糸冬は全然大丈夫で~す」
巻が宥める傍で糸冬がへらりと笑う。
結局どちらのパウンドケーキも十等分することになったようだ。あとは裏切り者が出ないことを願うのみである。
チョコレートの甘い香りに包まれて、夜は静かに更けていった。
そして翌日。
「一日遅れだけど、ハッピーバレンタイン!」
「俺たち皆からってことで」
バレンタインデー当日に手作りチョコレート菓子を用意した神無、アキラ、帰代の三人へ、他のメンバーから合同で一日遅れの友チョコが贈られた。
「めっちゃ嬉しい! 開けても良い?」
「もちろん!」
「日持ちしないんでできれば今日中に食べてくださいね」
鈴風と巻の言葉に神無がいそいそと箱を開ければ、そこには小さなホールケーキが入っていた。
艶やかなダークチョコレートでコーティングされ、リボンのようなチョコ細工や赤いベリーで飾られたケーキの上には、『Happy Valentine’s Day! Mitoi Kamina』と書かれたホワイトチョコのプレートが乗っている。
「うわぁ~綺麗だし美味しそう!」
「三十一ちゃんは食べ物とか向こうに持って帰れないし、ならすぐに食べる物にしようってなったんだ」
未来から出向している神無にはいろいろな制約が付きまとう。そこまで考えた上でのケーキに、紫の目が感動で潤んだ。
「みんな、ありがとう……!」
「喜んでもらえて良かった~それで、アキアキにはこれね」
広大の手からアキラに渡されたのは、両手で抱えなければならないほどに大きな包みだった。
「でかっ!?」
「お菓子をいっぱい詰めた」
「日本のチョコ菓子の詰め合わせです。持って帰って皆さんでどうぞ」
一仕事やり切ったとばかりに鼻息を吐く的中の横で、糸冬がにこりと笑う。
巨大な包みの中身は、日本の有名菓子メーカーのチョコ菓子だ。様々な種類をたっぷりと詰め込んであるため一人で食べるとチョコレートが嫌いになるかもしれないが、アキアカネ班を筆頭としたFBIの仲間たちに配るには丁度良い。
「サンキュー! みんな喜ぶぜ」
「一応、税関で持ち込みが許可されている種類のみにしています。持ち帰るのは大変かもしれませんけど」
予定よりかなり大きくなった包みから目を逸らす廉士に、アキラは「まあ、何とかなるだろ」と苦笑する。
「日本のコンビニとかで売ってる菓子って美味いからな。きっとあっという間になくなるぜ?」
「アキラ先輩が食べ損ねないようにね」
茶化すように言った神無に「本当にな?」とアキラも笑う。
「で、変ちゃんにはこれ」
聖が帰代に差し出したのは、包装からして高級感溢れる小さな箱だった。
受け取った帰代は「開けるぞ?」と一言断るとその包み紙を丁寧に取り去り、金で箔押しされた箱の蓋を開ける。
箱の中には小さなボンボンショコラが六粒入っていた。一つ一つ表面の模様が違うので、味も違うのだろう。
「安心安定の市販品です。老舗ブランドで味も折り紙つきですよ」
廉士が得意げに言うように、ヨーロッパの有名ブランドの逸品だ。チョコレートに詳しくない帰代でもロゴを見たことがある。
仕事関係でチョコレートを貰う数は多いものの、帰代はそのほとんどを口にしない。何が入っているかわからないからだ。そんな帰代を慮って、きちんとパッケージングされた物を買って来たのだろう。
「ありがたく貰っておく」
このメンバーが選んで買って来たのなら大丈夫だろう。捨てずに食べることを決め、帰代は蓋を閉め直した。
「未開封なら持つけど、中のフィルムを開けたらお早めにってさ」
「だろうな。まあ、この数ならすぐに食えるだろ」
聖に答えながらリボンまで綺麗に結び直した箱を置き、帰代が席を立つ。
「さて、神無もそのケーキを食べるだろうし、昨日のケーキの残りも切って出すか」
朝の内に少し切り取られていたが、パウンドケーキはまだほぼその原型を留めている。
「なら私は紅茶を」
「俺はコーヒーだな。他に飲む人~」
廉士と聖が希望を取って飲み物を用意し始める。
チョコレート味の幸せな時間は、バレンタインが終わってもしばらく続くのであった。
<おまけ>
広「実は三人への友チョコ、全部同じ値段なんだ」(予算は割り勘)
ア「えっ!? この大量の菓子と三十一のケーキ、帰代の六粒が同じ値段!?」
巻「びっくりしはりますよね? でもそうなんです」
神「(モグモグ)それくらいするだろうな~とは思った」(←スイーツ詳しい)
糸「小さいとはいえホールケーキですから」
廉「それにブランドのチョコは驚くほど高いです」
鈴「えぐいよな~」
聖「そしてほとんどの女性はプレゼントではなく自分用に買って行くという……」
帰「まあ、高いチョコの良さが伝わる男の方が少数派だろうしな」(←安物と高級品の違いは分かるが、高級品と最高級品の違いは正直分からない)
的「(パウンドケーキモグモグ)美味い」
(あとがき)
バレンタイン企画応援小説! 帰代さんはTOP5入り、アキラさんと神無さんもTOP10入り目指して頑張ってください!
1位投票:帰代変
公安の潜入捜査官で、優秀で、でも周囲に振り回されて、そんな中でも世話焼きを発揮してしまう貴方が大好きです! そして帰代さんのセッションを見て私の感情は揺さぶられたので貴方は十二分にエモいです。自信を持ってください!
2位投票:アキラ・アカツキ
リーダーかっこいい! 撃ち抜いて! 仲間想いで強くてでも脆い一面もある、そんな貴方を応援しています。あとオッドアイがめちゃくちゃ素敵。
3位投票:神無三十一
優れた頭脳を持ちながら、若さゆえの愚かさも懸命さも持ち合わせているところが愛おしい……きっとこれからも成長し続けるキャラのはず! 頑張れ~!