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お兄ちゃんとお昼ご飯

全体公開 トワスト 3 2260文字
2025-01-18 19:13:53

第22回トワスト、テーマ「お手製の」制作作品です。制作時間は約55分です。

 冷たい風が吹く中、朝恵ともえはいつもの道を歩いていた。まだ三学期が始まったばかりの時期だ。ジャケットを着ていてもなかなか寒い。

 今日はこのまま両親の経営するミヤコ屋に行くのではない。ミヤコ屋の隣の店、骨董品屋の『清遊堂せいゆうどう』へと向かうのだ。両親が不在で、祖母も出てくることが出来ないときは、隣のお兄ちゃん、黄真雅こうしんがが朝恵を預かってくれることがいつの間にか定番となっていた。お兄ちゃんが好きな朝恵としては、それはとても嬉しいひとときだったりする。

 小学校はまだ始まったばかり、ということで今日は給食が無かった。そのためお昼ご飯をどうすればいいか、朝恵の両親は真雅に尋ねたらしいが、真雅は朝恵は身一つで来てくれればいいと答えたらしい。もし、真雅にどこかのお店に連れてもらったり、出前を取ってもらったりしたら、ちゃんとお代金を払ってきなさいと朝恵は厳しく言いつかっているのだ。

 もうすぐ清遊堂の裏――真雅の家に着く。
 朝恵はパステルイエローのランドセルを背負い直すと、道の端を走り出した。




「お帰り、朝恵ちゃん。意外に早かったな」

 インターフォンを鳴らすと、すぐに真雅が出てきてくれた。真雅はいつも店に出るときの服装――ヘンリーネックのシャツにスキニーパンツ――の上から、黒のシンプルなエプロンを身に着けて、長いウェーブのかかった黒髪をひとつにまとめて括った上から三角巾をつけている。急いで出てきてくれたからか、足元も普段のロングブーツではなく、黒のサンダルだ。

「外は随分寒いな。――入ってくれ」

「おじゃまします、おにいちゃん」

 朝恵は真雅の家に入ると、玄関できちんと靴を揃えた。

「朝恵ちゃんは、靴もきちんと揃えられて偉いな。――思ったより朝恵ちゃんが早かったから、まだ準備が終わってないんだ。少し、そこの部屋で待っていてくれるか?」

「じゅんび?」

「昼食の準備だな。これから仕上げだから、少しかかるぞ」

「じゃあわたし、しゅくだいをしてまっているね」

「そこでしっかり宿題が出来るのが、朝恵ちゃんは本当に凄いな。――何かあったら、遠慮なく俺様を呼んでくれて良いからな」

 朝恵を一階の部屋――いつも朝恵が真雅を訪ねると入れてもらう定番の部屋だ――に案内すると、真雅は二階へと上がっていった。前に来たときと、部屋の掛軸が変わっている。今日の掛軸は、雪景色と鶴が美しかった。

 しっかり暖かくしてあった部屋でジャケットを脱いでランドセルをおろすと、朝恵は掘り炬燵で宿題のプリントを広げる。今日の宿題は漢字のプリントだ。

 お兄ちゃんが戻って来るまでに、宿題を終わらせなきゃ。朝恵は懸命に鉛筆を動かしたのである。




 宿題を終えて、ランドセルにプリントをしまい込んでいるところに、真雅がやって来た。

「丁度宿題が終わったところだったか。良い頃合いだったな」

 ふわりとご飯と味噌汁の香りがすると思ったら、真雅はふたり分の茶碗と味噌汁が入っていると思しき御椀を並べた。

「子ども用の茶碗までは俺様揃えてなくてな。それで勘弁してくれ」

 朝恵の前に置かれた茶碗には、内側に桜の花が咲いていた。――とても綺麗で、ここだけ春が来たかのようだ。

 もう一度行ってくる、と言い残して真雅はまた部屋を出ていく。次は何が出てくるのだろう、と朝恵がわくわくしながら待っていると、程なく真雅は戻ってきた。今度は先程茶碗などが並んでいた漆塗りの盆に、ふたり分の皿と箸を乗せて。

 ほのかな油の香りと、醤油の匂い。卵の少し甘い香りもする。皿に乗っていたのは、唐揚げと出汁巻き玉子であった。サラダも添えられていて、彩りも豊かだ。

「子ども用の箸も無くてな。今度、茶碗と一緒に揃えておくぜ」

 綺麗なガラス製の箸置きに、桜柄の箸が置かれる。

「とてもきれいだね、おにいちゃん」

「ありがとう。せっかくのお客様だ、これくらいしないとな」

 食べてくれ、と真雅がすすめてくれたので、いただきますをして朝恵は箸を手に取った。

「どうだ、味は?」

「とてもおいしいよ、おにいちゃん」

「そうか。口に合ったなら何よりだ」

 真雅は僅かにほっとした顔をした。

「唐揚げで良かったか? 昼食から出していいものなのか、俺様少し迷ったんだが」

「だいじょうぶだよ、おにいちゃん。――これ、おにいちゃんがつくってくれたの?」

――ああ。一度、朝恵ちゃんに俺様の料理を食べてもらっても良いかと思ってな」

「ありがとう、おにいちゃん。わたしに、とてもおいしいおひるごはんをつくってくれて」

 想像以上であった。真雅の作ったというお昼ご飯は、母親の作る味とは全然違ったが、どこか上品で、そして優しい味だ。どちらかと言うと、祖母の味に近いだろうか。

 味噌汁に口をつける。――真雅は出汁の素は嫌いだと宣言していたから、きっとこれは出汁から作った味噌汁なのだろう。

「ねえ、おにいちゃん。おみそしるのおだしはなに?」

「気になるか? 今日は、昆布と煮干しだな」

「おだしには、ふたつつかってもいいんだね」

「ああ、そうだぞ」

 真雅が少し目を細めて軽く笑う。釣られて朝恵も、笑みを浮かべた。

 真雅お手製の昼ご飯はどれもとても美味しくて、あっという間に空にしてしまった、朝恵であった。


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