X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

炒飯、味噌汁、青椒肉絲

全体公開 193 5118文字
2025-01-21 06:19:43

【必読】五夏/if/みんな生きてる/何故か自信をなくしているらしい忄吾と、その自信を取り戻してあげたい亻桀の話

私を癒すためだけの二次創作です。大変なことは何も怒りません。五夏が𝑳‌𝑶‌𝑽‌𝑬𝑳‌𝑶‌𝑽‌𝑬してるだけです。

Posted by @itou_888

「──つまり、君はすごくいい奴だ。何があったか知らないが、自信をなくすには早いんじゃないかな」
 寝間着姿の五条を見つめながら、そう締めくくる。なんとも言えない表情を見せる友人に、夏油は今朝のことを思い出していた。



 呪術高専を卒業して数年。夜蛾への恩返しのつもりで呪術高専所属の呪術師になった夏油は、いつものように任務の報告書を提出するため、古びた校舎を歩いていた。
 相変わらず人手不足が著しいらしく、空き教室が散見される。それでもいくつかの教室では、制服に身を包んだ学生たちが座学を受けていた。懐かしい景色に頬を緩ませながら、夜蛾が居るであろう学長室を目指した。
「夏油さーん!」
 自分を呼び止める声が聞こえたのは、学長室が視界に入るか入らないかの距離だった。立ち止まって振り返れば、後輩が駆け寄よる姿が視界に映る。
「や、灰原。元気だったかい」
「はい! 夏油さんもお元気そうですね!」
「まあね。この仕事、体が資本みたいなところがあるから」
「確かにそうです」
 頬に大きな傷がある後輩が満面の笑みを浮かべるものだから、その頭をぐしゃぐしゃと撫でてやった。先輩である庵も灰原同様、顔に傷を負っている。ここでは誰もが傷つきながら、懸命に呪いと戦っていた。
「それで、どうかしたのかな」
「いえ、夏油さんの姿が見えたので声をかけてしまいました」
「フフッ、そうか。久しぶりに何か奢ってあげよう」
「ええっ、悪いですよ! ちなみになんですが、この前、麓にラーメン屋ができたんです!」
「いいね。そこにしようか」
 聞けば、灰原も夜蛾に用事があったらしく、二人並んで向かうことになった。和やかな時間だった。
 人の負の感情から生まれる呪いとばかり向き合っていると、憂鬱な気分になることも少なくない。凄惨な現場に立ち会うこともある。この後輩が傷を負った任務など、思い出したくないくらいには辛い状況だった。
 だから、今こうして笑顔で過ごせる時間を大事にしたいと思う。夏油に関わる全ての仲間たちが笑顔であればいい、などと、いい歳をして、そんな夢想をする日々だ。
「そういえば、五条さんのことで、ちょっと」
 灰原の友人であり夏油の後輩でもある七海が、最近、お気に入りのパン屋を見つけたという話で盛り上がっていると、ふいにそう切り出された。
「悟?」
「はい。ちら、と耳にしたんですが、最近、自信がないと家入さんに相談していたらしくて」
「それって本当に私たちの知っている五条悟?」
「僕たちの知っている五条悟だと思います」
 夏油たちの脳内に、自信満々の表情で口角をあげ、仁王立ちする青年の姿が思い浮かぶ。最強の無下限呪術使いとして名を馳せる五条は、常に自信に満ち溢れていた。それも、根拠のない自信ではなく努力に裏打ちされた自信だ。何でもできると豪語するに相応しい器用さで、昨日も手打ち蕎麦を披露してくれたばかりだが、その五条が自信をなくすくらい悩んでいたなんて知らなかった。
 一昨年から、家賃や諸々の手続きが面倒だからとルームシェアを提案され、同じ家に住んでいた。照れくさくて口に出したことはないものの、親友だと思っている。
 精神的にも物理的にも近い距離に居たはずなのに、夏油には相談がなかった。そのことを少し寂しく思う。
「そうか。悟が」
……以前、七海にも似たような時期がありました。その時は、偶然、夜蛾先生に相談しているところに出くわして知ったんです。呪術師を続けるかどうかっていう悩みでした」
 かつて灰原が大怪我を負った際、意識が戻らない彼のベッドに伏して嘆いていた背中を知っている。自らも怪我を負っているにも関わらず、一時も離れようとしなかった七海は、灰原が回復した後、様々なことに悩んでいた。かくいう夏油も相談を受けた一人だ。なるべく多くの呪術師から意見を聞きたかったのだろう。
 七海が一番に灰原へ相談しなかった理由が、夏油には分かる。呪術師を続けることに疑問を抱いたきっかけが自分だなんて、灰原には思ってほしくなかったのだ。
「正直、相談されなかったのは寂しかったです。でも、僕にだって七海がそうしなかった理由の察しはつきます」
「灰原……
 目の前の後輩は、明るく朗らかであるだけではなく、非常に理知的でもある。言葉にしない七海の思いにも気づいていたらしい。
「だから、僕は、僕にできることをやりました。七海のすごいと思うところ、かっこいいと思うところ、尊敬しているところを全部全部伝えたんです。七海が呪術師を続けても、続けなくても、自信を持って前に進めるように」
 廊下の窓から差し込む光が灰原の傷ついた頬を照らす。呪術師なのが信じられないくらい眩しい後輩だ。そんな灰原に背中を押された気がして、夏油もひとつの決意をした。



……それが、夏油傑による、スーパー五条悟褒め褒めタイムだったわけ」
「そうだね」
「そうだねって」
 長身の二人が並んで座っても余りあるソファに、自分と揃いの寝間着を身にまとった夏油が腰かけている。夏油の両手は五条の両手をしっかりと握っており、風呂上がりのせいかぽかぽかと温かかった。
 身近な体温と真剣な眼差しに貫かれてどうにかなりそうだ。既にどうにかなっているから、こんなザマを晒しているわけだが。
「悟がそんなに悩んでいたなんて、知らなかったんだ。そりゃ、君にだって色々あるだろう。でも自信をなくすって相当だ。友人贔屓が入っていることは否定しないけれど、悟は本当にいい奴だよ」
「分かった、分かったから」
 夏油の言葉を遮って、なるべくそっと振りほどいた手で顔を覆う。すると、空いた手で背中を撫でられるものだから、いっそ全部ぶちまけてしまおう、と腹が決まった。
「俺が、自信ないって硝子に愚痴ったのは本当」
「うん」
……それで、何に自信がなかったかっていうと」
「聞かせてくれるのかい」
「ここまできたらもういい。聞いてよ」
「分かった」
 撫でる手を止めた夏油を指の間から、ちらりと見る。五条の言葉を一つも聞き漏らさないよう、耳を傾けている姿が見えてしまい、そして、やはり、そんなところも。
「告白しようと思ってたんだ」
 目を丸くした夏油の両手を、今度は五条が包む。
「オマエに」
「私に」
「その顔は全然予想していませんでしたってやつ?」
「いや、そうじゃない」
 驚いた表情をみせる夏油に苦笑すると、何故か眉間に皺を寄せられ、その勢いで頭突きされた。
「意外だったのは、私に告白することに対して自信がなかったという事実だよ。今でもピンときてない。スーパー五条悟褒め褒めタイムの内容をちゃんと聞いていたのか?」
「聞いてたよ。むしろアレで吹っ切れたわ」
「じゃあ、なおさら不思議だ。悟が私を好きなんだろうなっていうのは、前から知っていたし」
「あっそ……え゙!?」
 衝撃的なことを言い出した夏油から一旦離れようとしたものの、逆に握り込まれてしまった両手のせいで動けない。いや、離れたくないから、動かないのか。自分の心と体がしっちゃかめっちゃかだった。
「無下限呪術をオートで展開できるようになるまで、君のパーソナルスペースはそれなりに広かった。悟はスキンシップが多いと誤解されがちだけどね。例外は私。違うかい」
……ちがわない」
 現にこうして無下限呪術を解いて夏油に触れているのだから、違うと誤魔化したってなんの意味もない。素直に認めた五条へ、夏油は当然のように頷いた。
「ルームシェアについてもそうだ。高専を卒業して、私たちはそれぞれの場所で暮らしていたけれど、今はこの通りだろう。離れていたのは数ヶ月くらいかな。本来パーソナルスペースが広い人間が、わざわざルームシェアに誘うんだから、まあ、好意を抱かれていないとは思わないよね」
「あっっっそ!」
「そしてそれは、私にも言えることだ」
 掴まれた手をぐい、と引かれ夏油の胸板にもたれ掛かる。見上げた先の親友は頬を薄らと赤くして微笑んでいた。
「私だって、悟とじゃなきゃ、ルームシェアしようなんて思わないよ」
「好き」
 我慢できず、口から愛の言葉がこぼれ落ちていた。
「好きだよ、傑。いつからなんて覚えてないくらい、ずっと前から。今まで告白できなかったのは、オマエに嫌な思いをさせたくなかったから。モテるくせに相手も作らず、ストイックに仕事馬鹿やってるオマエは、そういうのうんざりなんだと思ってたから。でもさ、こんだけ理由を並べても、結局、俺は自信がなかったから告白できなかったんだ」
「あの悟がねえ」
「そうだよ。あの五条悟が、オマエに関してだけは自信をなくすんだよ」
「ふうん、認識のすり合わせは大事だね」
 掴んでいた手が離され、五条の両頬に添えられる。
「悟は私が好きで、私は悟が好き。告白っていうのは、そうやってお互いの認識を確認し合う作業みたいなものだ。君が自信をなくす必要はなかったんだよ」
「すき。すぐる、すき」
 ふふ、と笑う夏油をソファに引き倒し、上から覆い被さる。解けた長い黒髪が、海のように広がっている。その真ん中で微笑み続ける夏油に、止まらない告白をぽろぽろと零しながら口付けた。
「はは、悟は私の口にキスできるんだよな」
「なに当たり前のこと言ってんの」
「だって、私だ。六眼持ちの君に分からないはずがない」
「だから、なにが」
「呪霊操術」
「それが……あ゙、なに? 口から呪いを取り込むから? あー、俺、今ほど六眼持ちで良かったと思ったことねえわ」
「大袈裟だな」
「大袈裟じゃねえ。六眼持ちじゃなかったら、傑に触れても、呪いが見えないから触れるんだとか勘違いされたままだったってことだろ。おら、口開けろ。見えてるよ、オマエの呪力。ぜーんぶすっげえ好きだから、観念しろ」
 ぢゅ、ぢゅ、と嘘みたいな音をたてながら夏油の息まで食らうようなキスをする。暫くして背中を叩かれたので、渋々、顔を離した。夏油の濡れた口元を指で拭ってやる。
「自信を取り戻した途端、これだ。やっぱり君はいい男だよ。私にはもったいない」
「おい」
「でも誰かに譲る気もない。好きだよ、悟」
「もうさ……もうさあ!!」
 ぎゅう、としがみついて離れないように力を込める。背中にまわった手が同じくらいの力で抱きしめてくるので、なんだか、ようやく、五条は夏油に関する自信のようなものがとくとくと満たされていくような心地がした。



 期限が近い書類を提出するため、廊下を走っていた灰原は、学長室の前に立つ長身の人影に気づいた。向こうはとっくに気づいていたらしく、灰原が五条に視線を向けたのと同時にひらひらと手を振って応える。
「五条さんだ。珍しいですね」
「人を待ってたんだよ」
「誰ですか」
 首を傾げる灰原に、ぴっと節くれだった人差し指が向けられた。振り向いても誰もいないので、それは灰原を指しているらしかった。
「僕、なんかしましたっけ」
「お礼言っとこうと思ってさ」
 なんだろう。五条に対して何かをした覚えがない。感謝されるようなことなど、更に思いつかなかった。首を傾げ続ける灰原の目の前に、ぴらりと二枚の高額紙幣が現れる。五条のポケットマネーらしい。
「これでなんか食いに行けよ。七海でも誘って」
「七海ですか?」
「ほら、後ろ」
 慌てて振り向くと、こちらを警戒しながら近づくべきか否かを考えあぐねている友人がいた。
「その、五条さんは一緒に行かないんですか」
 手のひらに乗せられた紙幣と、少し高い位置にある先輩の顔とを見比べる。その口角がにいっと上がった瞬間、灰原は大体を察した。
「それがさー! なんか、傑が飯作って待ってるらしいんだよねー! さっき連絡きちゃって、だからオマエらだけで行ってこいよ。やー、まいったね。傑が作って俺を待ってるから!」
 ははあ、と内心で頷いた灰原は、にこやかに対応した。きっと五条が灰原に礼を言いたいというのも嘘ではないが、本命はこっちだろう。夏油が作った料理を食べられる、ということを自慢したいのだ。
 どうやら、五条の悩みごととやらは解決されたらしい。それは、良いことだ。ご機嫌な先輩の姿を目の前にした七海が、じわりと後退りしたのを見て、灰原は頬を緩めて軽やかに笑った。

mainへ戻る


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.