再会を果たしたばかりの頃、Δ隊長(28歳)×Δヒナイチくん(16歳)が、かき氷を食べるお話です。
両片思い期というよりは、ヒナイチくんは初恋の人と再会出来て少し押し気味。Δ隊長は、「昔助けた、ヤンチャなヒナちゃん。綺麗なお嬢さんになったね」で、ドラヒナというより、若干片思い気味です。
こっそり考えていた、駄菓子屋のおばちゃんのエピソードを追加しました。
皆さんにも、ここの「ここのおばちゃん、今もやってるんやね。私が物心ついた頃から、お店してはるよ。」な人は、いましたでしょうか?
2024/08/01 に上げました。
@kw42431393
「ヒナちゃん、バイバイ。また、明日ね~。」
「あぁ、またな。」
今日も、楽しかったな。
夏の昼下がり…うだるような暑さだが、そんな事も気にならないほど、楽しかったんだ。
学校は、夏休み。
朝は、トレーニングや部活に勤しんで、友達とスナバでお昼を食べて、プールに寄って、今から家に帰る所だ。
…え?宿題は…って?
…ボチボチ、やってるぞ?
ほんとだぞ…分からない所は、隊長さんがギルドに来た時、ついでに教えて貰っているんだから。
今年は全部、百点満点のはずなんだ。
『宿題か…いいよ。明日は、ギルドに用事があるから、持っておいで。教えてあげる。』
『はい!ありがとうございます!』
『顔がにやけてるぞ、ヒナイチ。あ~、隊長さん。妹以外にも、おやつを頼む。この前のババロアは、美味かった。』
『兄さんは、黙っててくれ!』
新横浜警察署吸血鬼対策課ドラルク隊の、隊長さん。
幼い頃、下等吸血鬼から私を助けてくれた、憧れの人。
今年に入って、まさか、地元の警察署に赴任してくるなんて…実家のギルドや通学後で、会う事が出来るなんて。
だから、にやけたって、仕方ないじゃないか。
美味しいおやつだけじゃなくて、あの人と一緒にいられるチャンスが、増えたんだから。
「おばさん、こんにちは。また、2つ下さい。」
「あぁ、こんにちは。ヒナちゃん、今日も暑いわねえ。何にする?」
幼い頃から通ってる、馴染みの駄菓子屋さんに入る。
友達と別れて、家に帰る道すがら…結構、いい時間になっていたんだ。
氷の文字の暖簾が、川風に揺れている。
プール帰りの濡れた体に、この風が心地よい。
「う~ん、イチゴは確定として…もう一つは、何にしようかな。」
ここの駄菓子屋さんのかき氷は、地元の子供達にずっと愛されている、名物の様なものだ。
兄が子供の頃も、通っていたと聞いている。
「イチゴ、好きね。それにしても…ウフフ。2つも食べてくれるのは嬉しいけれど、お腹を冷やしちゃ駄目よ?」
「大丈夫だぞ。それに、今時、かき氷が1つ100円って、安いもの。氷も蜜も、たっぷりだし。」
「値上げはね、したくないわ。おばちゃんは、み~んな子供の頃から知ってるもの。カズサくんなんて、5つぐらい食べてたわね。」
シャッシャッ…と小気味よく削られて、カップに盛り上がっていくかき氷。
幼い頃は、棚に顎を乗せてワクワクしながら、見ていたな。
目の前で、鮮やかなイチゴシロップがかけられて…
「はい、どうぞ。もう一つは、何にする?」
「そうだなぁ…う~ん。」
壁に張られた、メニューを見る。
この前は、メロンにしたから、今回は…
「…ブルーハワイで、お願いします。」
「いいわよ。珍しいわね。」
クスクスと笑う、おばちゃんに苦笑いして…私は2つのかき氷を持って、店を出た。
「こういうの、推し概念っていうのかな。」
真っ白な氷にかけられた、目が覚める様な青い蜜。
今年、再会したあの人の制服と同じ色。
きっと、世界で一番、青と白が似合う隊長さん。
これから、宿題を見て貰う約束があるから、なんとなく、あの人の姿が思い浮かんだんだと思う。
「さて、いつもの場所で食べよう。」
夏の日差しの中を、かき氷を両手に持って、川べりに沿って歩く。
地元民だから、知っている。
この先に大きな木があって、そこは、とてもいい川風が吹くんだ。
ここの駄菓子屋でかき氷を買うと、よく友達とその木陰で座って、食べながらたべったり、魚を捕ったりして遊んだものだ。
「あれ?あそこにいるのは…。」
視線の先には、先客がいた。
木に凭れている、細長い影。
傍には、丸くて小さい影が、寄り添っている。
「隊長さ~ん!」
思わず、大きな声で呼びかけながら、私は一人と一匹に駆け寄った。
ドラルク様、大丈夫ヌ?
「アハハ…大丈夫。ここの風に当たっていれば、少しはよくなるよ。」
いやはや、毎年の事ながら…情けないものだ。
私も半分日系の血を引いているし、大学を卒業してから、ずっと日本で暮らしているから、湿度を伴う日本の暑さを知らない訳ではなかったけど…自身の虚弱体質と相まって、体に堪えるものだ。
「ギルドに向かう前に、ちょっと下見に来ただけなのにね。」
今夜、ギルドに行く用事がある。
来週、この川原で開催される花火大会について、打ち合わせを行う予定なのだ。
地域アイドルを兼ねている退治人達は、イベント会場や、駐車場に、屋台の設置。
私達吸血鬼対策課は、お客さん達の誘導や、畏怖欲からくるイタズラ目的の吸血鬼事件への対策。
そして…
『ちょっと、宿題で分からない所があって…隊長さん、教えてくれないか?』
大学、警察学校と卒業してすぐの頃。
一新米隊員ドラルクだった頃に、下等吸血鬼から助けた、ヤンチャなヒナちゃん。
偶然にも、赴任してきたこの新横浜で、私達は再会を果たした。
『つよいたいじにんになって、みんなをまもるんだ!』
そう言っていた幼子は、着実に夢に向かって…そして、素敵なレディに成長していた。
警察官になって、よかった…忙しさに本分を忘れかけていた私を、憧れの眼差しで見上げてくれる、ヒナイチくん。
伊達に、飛び級で卒業した訳では、ないのだよ。
宿題ぐらい、いくらでも見てあげようとも…その予定だったのに。
ドラルク様、ヌンが、ポカリか何か買ってくるヌ。
お願いしようかな。今日日、熱中症って笑えるものではないもの。
「そうだね、ジョン。じゃあ…。」
「隊長さ~ん!ジョ~ン!」
元気な声に、振り返る。
まさに、昼の子を体現した様な、華やかな少女がこちらに駆けてくるのが見えた。両手に、何かカップの様なものを持っている。
「あぁ、ヒナイチくん。こんにちは。」
「ヌンヌンヌ。」
「はぁ、はぁ…こんにちは。どうしたんだ?こんな所で?」
首を傾げる少女に、苦笑する。尊敬されている身としては、いつでもカッコいい所を見せたいよね。
それに、今は夏休みだ。制服やギルドで会うバーテンの恰好ではなく、涼しそうで動きやすい、タンクトップにホットパンツを履いたその姿は…新鮮で、とても眩しく見える。
「アハハ…来週の花火大会の会場をね。下見に来たんだけど…この暑さに、やられちゃって。ここで、涼んでいるところだとも。」
「そうか…ここを選んだのは、正解だと思うぞ。涼しい川風が吹く。私達もいつも…そうだ。これ!ジョンと食べてくれ。」
そう言って、彼女はカップを一つ、こちらに差し出してくれた。
イチゴ味のかき氷だ。そういえば、そうかもしれない。
ショートケーキを差し入れた時、イチゴをフォークで挿して頬張る彼女は、とても幸せそうに見えた。
イチゴが、好物なのかもしれない。
「い、いいよ。2つ、持ってるじゃないか。友達と待ち合わせてたとか…。」
「いいんだ!2つとも、私が食べるつもりで買ったものだから…熱中症の時に、かき氷を食べると、水分補給と体が冷えて、いいんだってな。ちょうどいいから、一緒に食べよう!」
見上げると、どちらが原因なのか分からない…クラクラする。君の眩しい笑顔があった。断れる訳がない。
明日にでも、イチゴを使った冷たいスイーツを作って、お返ししようと思う。
「ありがとう。じゃあ、早速。」
「ヌリヌヌー。」
ジョンと分けっこしながら、氷を口に運ぶ。喫茶店のと違って、素朴で、何故か懐かしい味がする。
「…ん、おいし…っーー!」
「ヌーッ!」
「アハハ。二人共、面白い顔になってるぞ!」
いやあ。レディの前で、益々、格好がつかなくて…まだ、頭がキーンとするよ。
効果は、抜群だった。熱を持って、火照っていた感覚がなくなっていく。
そして、吹いてくる川風と、涼しげな風景を堪能する。
彼女が「かき氷を買うと、皆ここで食べるんだぞ!」と、言ってた理由が分かる気がするよ。
ヒナイチくん、舌が真っ青ヌよ!
「そうか?ジョンこそ、真っ赤だぞ!」
隣に、視線を戻す。そこには、ジョンとヒナイチくんが、舌を見せあって笑っていた。
いや、何この可愛い生き物達は。激務に次ぐ激務に、この風景は癒し過ぎる。
「あれ?ヒナイチくん。それ…」
「何だ?」
違和感に、彼女の手元を指差す。とっくに食べ終わった彼女は、底の蜜を啜ってる。
「ブルーハワイ、好きなのかね?」
てっきり、イチゴが好きだと思ってたのに。
それとも、気を使って、オードソックスなのを譲ってくれたのだろうか…だとしたら、申し訳ない。
「いや、好きなのはイチゴだが…まあ、これは。あれだ…推し概念…って、いうか。」
頬を染めて、ヒナイチくんは最後の溶けた蜜を飲んでしまった。開いた口から見えた、青い色。
推し概念か…。
彼女と一回り離れているが、それが分からない程、おじさんじゃない。
彼女の憧れてるアイドルか、スポーツ選手が、青い服、あるいはユニフォームを着ているのか…。
なんだろう…時折、下校中の彼女が、同級生とおぼしき男子学生と歩いている姿を見た時に感じる…この感覚。
自分が嫌になる…このどす黒い感情は…
「ヌヌヌヌヌヌ?」
「大丈夫か?隊長さん?」
鈴を転がす様な、一人と一玉の声に、我に返る。
そうだ、考えるのはよそう。この暑さで、頭が混乱しているんだ…この子は、私の大事な妹みたいな子。
そうでなければ…
「ウフ。隊長さんも、赤くなったな。」
目の前のヒナイチくんが、満足そうに笑う。木漏れ日の様な翡翠の瞳は、私の口元を見ていた。
もしかして、シロップが付いてるのか、と口元を拭ったが何もない。そういえば、ジョンと舌の話をしていた。
私の舌もイチゴの色がついたと、言いたいのだろう。
「かもね。本当にご馳走様、おかげでよくなったよ。」
もう少し休んだら、私もギルドに向かわなければ…。
「隊長さん。私、退治人になったら、兄の衣装を引き継ぐ予定なんだぞ。」
「そう…とても、よく似合うだろうね。」
赤い帽子を被り、鮮やかなジャケットを閃かせて…幼い頃の夢を叶えて希望に満ちた、可愛い退治人さん。
きっと、皆が君を憧れの眼差しで見るのだろう。
「赤は…いつか、私のトレードカラーになるんだ。だから、その色を…。」
「赤色を…えっ!?」
その時、突然、向こう岸で大きなクラクションが鳴り響いた。
だから、大事な所が聞こえなかった。
「待って…何て、言ったの?」
「じゃあ、また後でな!」
ここで、聞き逃してはいけない気がした。
だから、軽やかに木陰から飛び出していく、少女を追いかけようとした…だけど。
「ヒナイチくん、まっ…うわっ!?」
ドラルク様、もう少し休んだ方がいいヌ。
まだ、足腰に力が入らなくて、追うことが出来なかった。
そして、後でも意気地がなくて、聞く事も出来なかった。
赤いシロップと青いシロップ
何故、トレードカラーになる赤を、私に渡したの?
私の赤く染まった舌を見て、何故、満足そうに笑っていたの?
『だから、その色を…。』
…後になって思えば、彼女が自分の想いを打ち明けようとした、精一杯の行動だったのかもしれないのに。
「おばちゃ~ん、こんにちは。今年も楽しみにしてたよ。」
「あらあら、ありがとうね。今年も食べに来てくれて、嬉しいわ。」
今年も、楽しみの夏休みがやって来たわ。
子供達だけでなく、私にとっても。
勿論、冬だってお店はやっているし、寒がっている子供達に、たい焼きを焼いて出したりはするけれど…
「えっとね、きょうはレモン!」
「おれは…やっぱり、イチゴ!はつものだもんな!」
「はいはい。ちょっと、待っててね。今、作るわよ~。」
冷凍庫を開けて、とっておきの氷を出す。
皆がやってくる夏休みに合わせて、選びに選んだ湧き水を汲んできて、自分の『能力』でゆっくりゆっくり凍らせた…特製の氷を、機械に乗せる。
有名な氷笑卿ほど強いの能力ではないけれど、だからこそ、純度の高い綺麗な氷が出来るのよ。
ええ、そうよ。おばちゃんはね…実は、人間から転化した吸血鬼なの。
だから、この子達のお爺ちゃん、お婆ちゃんが小さかった頃の事も知ってるわ。
夜の短い夏が苦手な吸血鬼は多いけれど、この氷化能力をフル活用して作ったかき氷を食べて貰える…この季節が、一番大好き。
そして…
『ああ、その店だ。シンヨコの夏休みは、このかき氷を食べる事から始まるんだぞ。』
『ふ~ん、そうなん?さてと。俺、練乳たっぷりのバナナな!』
ヌフフ、ロナルドくんらしいヌね~。
『お~い、ドラ公。早く、早く。遅えぞ~!』
『はぁ、はぁ…まったく、この五歳は。もう少し、ゆっくり歩いてくれ給え。』
そして、おばちゃんが一番大好きな事はね。
「おばさん、こんにちは!今年も来たぞ!!」
「いらっしゃい、ヒナちゃん。ロナルドくんは、うちのかき氷初めてよね?隊長さんとヌーくんも、ゆっくりしていってね。」
ここに通っていた子供達が大人になって、可愛い子供達や…
「はぁ、はぁ…こんにちは。吸血ヒルの発生場所の、下見をしていた帰りでして…ふう。かき氷の暖簾が出ていたので、寄せて頂きました。」
「へえ、綺麗な氷だなぁ。それに、すごくふわふわだ。」
子供達や…新たに出会った大切な人達を、ここに連れてきてくれる事なのよ。
その人達に、そう言って貰える事なのよ。