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きっかけなんて、こんなもの

全体公開 ドラヒナ以外のお話 5 4114文字
2025-01-27 17:32:33

カップリング要素は薄めの、本編ロナルドくんの誕生日のお話です。
ドラルクさんが来るまで、ギルドに行くのも疎遠になっていたという話から、彼の一人暮らしは侘しいものだったんじゃないかなそう思っております。
雪解けしてからの木下家兄の誕生日祝いに出かけた相棒を見る、ドラルクさんのモノローグを追加しました。
2024/08/08に上げました。

Posted by @kw42431393

 「ただいまぁ~。」
 パチリ、と電気を付ける。

 依頼があって飛び出した時から、そのままの事務所。
 時計を見ると、11時。
 もうすぐ店じまいだが、俺達吸血鬼退治人の仕事柄、まだ依頼人が来る可能性がある。
 ヴァミマの袋を机に投げ出す。簡単に片づけをしておかねえと
 「はぁ、めんどくせえ。誰かやってくんねえかななんて。」
 やけっぱちに言う。
 こんな安い物件が見つかって、地道に地域活動にも参加して、地域アイドルとして顔も売って同世代で一番早く独立開業出来たんだ。贅沢言っちゃいけないのは、分かってっけど。
 「兄貴は、すげえよな。これで、学校行って、俺達を育てて実力も人気も、ナンバーワンだったんだから。」
 俺がバカしなかったら、今頃どうしてたのかな。
 そんな事を考えながら、ポケットから携帯も出して、机に置こうとした。
 その時
 「あれ?8時頃にヒマリから、RINEが来てる。気づかなかったな、何かあったか?」
 高校を卒業して退治人になって、独立したらますます忙しくってほとんど会っていなかった、大事な妹。
 心が躍らせながら、トーク画面を立ち上げる。

 『ちいに た おめ』

 いつも言葉を省略しがちな、無口な妹は、文章でもこんな感じだ。とはいえ、内容ぐらい分かるぜ。 
 「そっか。誕生日だっけ俺の。」
 時計を見る。8月8日が終わるまで、あと1時間を切った。
 すっかり忘れていたもっかいヴァミマ行って、ケーキ買ってこようかな。
 「いや、めんどくせえ。明日でもいっか。」
 コンビニ弁当の袋を持って、事務所からリビングに向かう。
 今日は、日中から下等吸血鬼の巣を下見に行ったり、ギルドに顔を出したりしてたから、昼飯に掻き込んだカップ麺の容器とお茶椀が、そのままだ。
 それらをシンクに置いて、さきに弁当を開ける。
 「せめて、もっと豪勢なのにすりゃよかったか大盛オムライスと唐揚げと、ナポリタンと。」



 『こりゃ、ヒデオ。ちゃんと、サラダも食べんか。』
 『ちいに めっ』

 口元をケチャップで真っ赤にしながら食べた、オムライス。
 レッドバレッドの異名を取った、精悍で紳士的で、モテモテなのに驕る事もなかった、イケメン兄貴の困った顔を思い出す。
 まだ、幼かったヒマリのこましゃくれた顔も
 「サラダなんかねえかな。」
 ほとんど使っていない、野菜室を開ける。
 自炊をしない、ぶきっちょな俺の冷蔵庫は、基本惣菜しか入ってない。惣菜ったって、肉類とか揚げ物ばっかりだ。
 一人だと、好きなものしか買わねえから
 『仕方ない奴じゃ、ヒデオは。』

 帰りたい。願っちゃいけねえ兄貴の夢を潰したのは、俺なんだ。
 時計を見る。12時を回った。
 もう、店を閉めて寝よう。
 明日も、日中から仕事もあるし、ロナ戦の原稿だって仕上げなきゃならねえんだから

 『にーに、ヒマリ。おやすみ~。』
 『おや』
 『ああ、先に寝とれ。俺は、片付けがあるからな。』

 やっぱ、兄貴はすげえよな。



 「若造。そろそろ、吸血ムカデの駆除に行く時間だろう?あと、帰る途中に、ロナ戦の新刊をギルドに持って行く約束だろう?ほれ、忘れておったな?」

 同居人が、ペシペシと本で小突いてくる。
 こう人を煽ってくるの、なんとかならねえかな。
 「うるせー。お前は、俺のお袋かよ。」
 「ヌフフフ。」

 あれから、1年経った。
 どういう巡り合わせか、勘違いで俺は、無実の吸血鬼の城を爆破しその責任を取る形で、クソザコのおっさん吸血鬼と可愛いアルマジロのジョンと、一緒に暮らしている。
 ジョンがうるうるして頼むから、仕方なく置いてやってるそのはずの共同生活を、迷惑に思わない自分がい

 「サンキュー。じゃあ、そろそろでかけぎゃーーー!!てめー、また、セロリ栞を挟みやがって!!」
 「スナァ!!ピッピロピー、何も学習しないゴリラ。これで何度目でちゅかね~?」
 いや、いねえよ。マジで、迷惑だわ。
 退屈しないだけだわあと。
 ため息をついて、部屋を見回す。
 料理と家事が趣味のこいつと同居してからは、いつ帰って来ても綺麗な事務所。
 片付けられた部屋。栄養管理された食事そして。

 「お~い、ヒナイチ。そろそろ、出るぞ。お前も来るだろ?」
 床下の扉を叩く。
 芋虫の監視の為に、潜んでいる同居人の言葉を借りれば『餌付けし甲斐のある、ハムスター』。
 俺にとっては
 「ちん!勿論、私も行くぞ。じゃあ、ドラルク、ジョン。準備を頼むぞ。」
 「うむ、任された。」
 「ヌーヌイ!」
 こう言っちゃなんだが、実の妹以上に気の置けない、妹みたいな奴と。
 この事務所で、三人と一匹と退屈しなくて、健康的な生活を送ってる。
 こいつが転がり込んで、ヒナイチが来る様になって、なんかわやわやあって、兄貴が退治人を辞めた理由の誤解も解けてギクシャクしていた家族団らんの時間だって、取れる様になった。
 そのきっかけが、こいつな訳で。
 でも、それを素直に言いたくねえ。
 「さあ、二人とも行った、行った!寄り道しないで、早く帰ってきなさいよ!」
 「だから、お前が仕切んな!いってきます!」
 「ちん、いってくるぞ!ご馳走、楽しみにしてるからな。」

 気心のしれた、ヒナイチと一緒に、騒がしい夜の街に飛び出す。
 これも、いつの間にか慣れた風景だ。
 独立開業した直後は、一人で気負って、サテツやショットにも手伝って貰う事を遠慮していた俺だけど今は。



 「ところで、ロナルド。誕生日、おめでとう。」
 「あ~、そうだった。お前、昨日からウキウキしてたもんな。ご馳走が楽しみって、人んちの食費を圧迫しやがって。」

 冗談交じりに、ヒナイチを小突く。
 俺に劣らないほどよく食うこいつが、エンゲル係数を上げているのは認めるがまぁ、本気で言った訳じゃない。ヒナイチにも、分かっているのだろう。
 ぷぅとヒマワリの種を詰め込んだリスみたいに、頬を膨らませたその顔も、怒ったものではなかった。
 「んで家主の俺に、ヒナイチも何か用意してくれてるのか?」
 「うむ、ジョンの舌を信じてるからな。今回の誕生日ケーキとクッキーは、私が焼いたんだ。帰ったら、お前に一番大きいのをやるぞ!」

 そっかそういや、昨日、キッチンでドラ公と何かしてたもんな。
 いちゃついてたんじゃなくて、ケーキとクッキーを教えて貰ってたのか。
 「ありがとよ。そいつは、楽しみだ。」
 「ちん!楽しみにしてくれ。あ、あの家だったな?」

 いつの間にか、依頼があった家の前まで来ていた。
 テーブルの上に並べられた、オムライスに唐揚げ、スープにシーザーサラダジョンの審査が通った最高の料理が並び〆は、ヒナイチの焼いたケーキとクッキーを、皆で食べる事になるのだろう。

 「あ~あ、誕生日だってのに。でも、仕事だかんな。さっさと終わらせて、帰ろうぜ!」



 「じゃあ、行ってくるわ。依頼人が来たら、連絡頼むぜ。」
 そう言って、うちの幼い家主は、鏡の中を覗き込む。
 本人は、特別かっこよく決めたつもりなのだろう。
 何しろ、これから可愛い実妹を駅に迎えに行って、一緒に憧れの実兄の誕生日祝いをしようというのだから。
 「せっかくの、家族団欒の時間だ。楽しんでおいで。」
 え?どんな格好か諸君も想像つくだろう?あのセンスは、どうにかならないものかね。
 若造。君がモテないの、そういう所だからな。
 
 「ヌッヌヌッヌイ!」
 「正月だが、街の事は気にするな。お兄さんにも、よろしくな。」
 うちが誇るマスコット達の声援を受けて、困った様にロナルドくんは、この事務所を後にした。
 それにしても
 「私も、一度会ってみたいものだな。伝説の退治人だったのだろう?」

 ヌン。礼儀正しくて、優しくて、かっこいいヌよ。ヌンも、尊敬してるヌ。

 いつまで、これで通すつもりなのかね。それより、何故
 「ヒマリちゃんの誕生日は、ここで祝ったのにな。気にせず、ここに呼べばいいものを。」
 あんなにそっくりな兄弟に、誰も気づかないのだろうね。あと、君んちじゃないから。ここ。
 ジョンと、こっそりため息をつく。まぁ、分かったら分かったらでいや、当時と違って、バレてもどうという事もない気がするが。
 「そういえば、ヒヨシ隊長も誕生日が。」
 「ヌッ!?」
 「あ~そういえば、ヒナイチくん。そろそろ、今夜は隊長代理として、出勤しないといけないんじゃないかね?」
 そうだね。もう少し、隠しておいてあげよう。あの一家は、何から何まで私に感謝して貰わなければ
 「うむ。そうだったな。じゃあ、私もいっておいしい。」
 とどめに、可愛いハムスターの口元にクッキーを押し込む。これで、もう大丈夫。
 クッキーモンスターの頭からは、『ヒヨシ隊長とロナルドの兄は、誕生日が同じなのでは?』という疑問は、すっかり消えているだろう。
 「いってきます!」
 そう言って、軽やかに事務所を飛び出すヒナイチくんも送り出すと、私はジョンを抱いて、リビングに足を向ける。

 「やれやれこんな風に、あの家族がここに勢揃い出来る様になるのは、何年後の正月なのだろうねぇ?」
 「ヌ~ン。」
 今年いや、もう去年になったのか。
 棚に飾ってある、ヒマリ嬢の誕生日を祝った日の写真を覗き込む。
 みっぴきに囲まれて、ケーキを持った彼女が仄かに笑っている、その写真を
 
 「来年は、無理かね。それでも、いつか実現してみせようとも。」
 「ヌン!」
 いつか、この写真の隣に飾ろう。
 私が作った、最高のお節とバースデーケーキが並んだ、この席で木下家3人と私達の笑顔が写っている、最高の写真を


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