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照らしたくない瑠璃と玻璃

全体公開 神無三十一受け 9 29 4701文字
2025-01-29 16:53:58

カルみと
微エロ匂わせ 女装あり
シナリオネタバレあり

 久しぶりに盛大なミスをしてしまった。
 そう舌打ちをした縞斑は、背後に聞こえる足音を振り払うように廊下を駆けていた。

 アンドロイドの違法取引と部品の売買の証拠を掴むためにパーティに参加していた縞斑は、顧客の情報を抜き取る最中にスタッフに見つかってしまったのだ。
 幸い騒ぎを避けたいらしい彼らが発砲することはなく、咄嗟に閃光弾を放ったおかげで顔を見られることはなかったが、警戒態勢を敷かれる前に撤退をしなければならない。

 「……ひとまずあいつらを撒かないとな」

 都合の悪い情報を握る不審者を確保しようとしつこく追い掛けてくる足音に顔を顰めた縞斑は、辿り着いた客室フロアを見回した。
 適当な無人の部屋に入って追っ手をやり過ごそうと考えた縞斑は、奥から三番目の気配のない部屋へ近づく。
 あらかじめアサギリから受け取っていた小型機をカード認証装置に押し付けると、まもなくハッキングによって扉は音を立てて開いた。
 薄く扉を開いて素早く身を滑り込ませた縞斑は部屋に足を踏み入れた途端、視界の端にひらりと揺れる紫が滑ったことに気がついて反射的に防御姿勢を取る。

 「ッ、」
 
 側頭部を狙って繰り出された上段の蹴りは、咄嗟に翳した腕によってどうにか受け止めることができた。
 確かに部屋から人の気配はないと踏んだ縞斑だったが、どうやら室内の客は意図的に息を潜めていたらしい。
 主催側の用意した罠かと冷や汗をかいた縞斑は、侵入者に対して迷わず不意をついて攻撃を放った優秀な相手の姿を視界に収める。

 「………え?」

 そこには、見覚えのあるアメジストの瞳がこぼれ落ちそうなほど大きく見開かれていた。

 「だ……だらだら先輩?」
 「……神無ちゃん?」

 蹴りを放ったままの姿勢で固まっていたのは、元職場の後輩であり恋仲にある神無三十一だ。
 しかしその姿は、普段に比べて随分と様相が異なっている。
 シャンタン生地の艶のある紫のロングスリットドレスの膨らんだ胸元から背中にかけては繊細なレースがあしらわれており、セミロングの金髪は揃いの色の髪飾りで綺麗に結い上げられていた。
 一目見ただけでは何処ぞの金持ちの美しい令嬢にしか見えないが、その声を聞けば縞斑もさすがに確信を持てる。

 「な、なんでここに!」

 はっと足を下ろした神無は、スカートのしわを撫で付けながら赤い顔でそう尋ねる。
 おおかた神無たちドロ課も同じ事件を追ってこの場所に潜入していたのだろう。情報を共有したい気持ちは山々だが、生憎縞斑には時間があまり残されていない。

 「悪い、邪魔した」
 「え?!ま、待ってよ先輩!!」

 このまま部屋にとどまれば、身分を偽って潜入をしている神無にまで被害が及ぶ可能性が高い。
 咄嗟に扉を開けて部屋を出て行こうとした縞斑だが、神無は慌ててそんな彼の裾を掴んで引き留めた。

 「追われてるんだろ!?今出たら見つかるって!!」
 「離してくれないかな?神無ちゃんまで疑われるよ」

 巻き込むわけにはいかないと鋭い声で神無を拒絶すれば、驚いてびくりと肩を震わせた彼が不安げに表情を曇らせる。
 焦っているとはいえ、言葉選びが良くなかったかもしれない。無事に逃げ延びることができたらきちんと誤解を解かなければ。
 そう考えながら手を振り解こうとした縞斑だが、意外にも彼は覚悟を決めた様子できっと顔を上げると改めて縞斑の腕を取った。

 「俺に任せて!」
 「は?」

 力強く頷いた神無は、唖然とする縞斑の腕を引くと彼を部屋の奥へ連れていく。
 万が一扉を開けられてもすぐには姿が見えない部屋の死角に身を潜ませた神無は、外から聞こえる足音が徐々に近づいていることを確かめてひそひそと言葉を続けた。

 「先輩は念のためにここにいて」
 「いや神無ちゃん一体何を、」
 「いいから!」

 食い下がろうとする縞斑を強引に押し留めた神無は、扉の前に駆け寄ると背を預けて耳を澄ませる。
 やがて足音と共に聞こえてきたのは、息を切らす男二人の焦った話し声だった。

 「くそ!見失った!!」
 「どうすんだよ、あの顧客データが流出したら俺たちただじゃすまねぇぞ!!」
 「わかってるよ!とにかく見つけるしかねぇだろ!!客室に隠れてる可能性があるから、片っ端から開けて回るぞ!!」
 
 ご丁寧に状況を説明してくれて助かる。そう呆れたように小さく笑った神無は、近くの客室の扉が開かれる音を聞きながらタイミングを伺った。
 このまま部屋に押し入られたら神無まで危険な目に遭うかもしれない。部屋を飛び出そうと悩む縞斑に視線を向けた神無は、唇に指を当てて密やかに笑うと口を開いた。

 「んッ!ぁ!あッあぁ、あっ!」

 神無が唐突に漏らしたのは、艶を纏う甘ったるい嬌声だ。
 思わず縞斑はもちろん、扉越しの男たちも硬直してその場に立ち止まる。
 扉に背を預けた神無は、がたがたと扉に体重をかけてわざと音を鳴らしながらとろける声を上げた。

 「ぁんっん!ぁあッ!ゃ、ああぁ、っあ!」

 意図的に喉を絞って女のように高い声を上げる神無の姿は、見た目も相まって淫らに性欲を追い求める痴女のようだ。
 廊下越しの足音が気まずそうにこの場を離れていく。さすがにこの部屋には居ないだろうとあたりをつけたらしい。
 他の部屋を調べながら徐々に遠ざかっていく足音に耳を澄ませていた神無は、完全に気配が消えたことを確かめると小さく息を吐いて部屋の奥へ声を掛ける。

 「先輩、もう大丈夫だよ」
 「……君、役者になれるんじゃない?」
 「褒め言葉として受け取っとく」

 ひらりと手を振った神無は、高い声を上げて掠れた喉を水で潤してから明るい笑顔を浮かべて見せた。

 「パパのお金で遊び歩いてるお嬢さまって設定で来てるから、まぁせいぜい部屋に男連れ込んで遊んでたって噂が歩くだけだし」

 上手く誤魔化せただろうと言いたげに得意げな表情を浮かべる神無は、確かに縞斑が手こずっていた追跡者を演技一つで黙らせた。
 その見事な手腕を素直に賞賛したい気持ちは山々だが、割り切れない私情が邪魔をして縞斑の表情は複雑なものになる。

 「助かったよ、ありがとね」
 「ありがとうって言う時の顔じゃないだろ、それ」

 たとえ演技だとしても、神無の甘い声を自分の失態で見ず知らずの男たちに聞かせてしまったことが悔しくて堪らない。
 顔を顰めたまま礼を言うちぐはぐな縞斑を笑った神無は、けらけらと笑って縞斑の眉間の皺を指でなぞり首へと両腕を絡める。

 「心配しなくても、俺がほんとはどんな声出すのかはあんたが一番知ってるだろ?」

 そう囁いて不敵に笑った神無は、縞斑を挑発するようにその唇へ触れるだけの口付けを贈った。
 ふわりと神無から香る酒の匂いに、縞斑はいつもより大胆な彼の振る舞いの正体に気がついて納得の声を上げる。
 おそらくサロンで付き合いとして一杯飲まされたのだろう。記憶がなくなるほどではないが、念のために部屋で火照りを冷ましていたのかもしれない。
 縞斑にやきもちを焼かせたことが嬉しいのか、良い気分で唇を離そうとする神無に若干の悪戯心が湧き上がる。

 「え、わっ」

 離れようとした神無の腰を引き寄せた縞斑は、目の前の華奢な体を強く引き寄せてもう一度唇を重ねた。
 驚いて息を呑む半開きの唇を舌で割り開くのは容易く、縮こまることも忘れた神無の舌を捕まえて擦り合わせる。

 「んッ!ふ……ぁ、ぅんっ」

 酒で火照った口内を荒らせば、神無は風呂を嫌がる子猫のように慌てて飛び退こうとした。そうはさせまいと後頭部を支えた縞斑は、口付けをさらに深いものへと変える。
 敏感になっている上顎や歯列をくすぐられてしまうと、途端に神無は縞斑に縋ることが精一杯になってしまった。
 アルコールも相まってか、与えられる快感はふわふわと心地良く、次第に塞がった唇の隙間からは神無の甘い声が漏れる。

 「ん、んッ、ぁ……ふ、あぅ、」

 かくかくと震える足でどうにか立っている神無を視界の端で確かめた縞斑は、悪戯にぐいと神無の足の間に足を割り込ませた。
 熱い中心を押し上げるように軽く動かしてみせれば、わかりやすく目の前の体がびくりと跳ね上がる。

 「ふ、んんッ?!ぁ、んッん!」

 アメジストの瞳をぎゅうと伏せて全身をめぐる快感に震えた神無の目尻から、ぽたりと一粒の涙がこぼれ落ちる。
 化粧を落としてしまう前に指先でそっと掬った縞斑は、それを合図にひとしきり堪能した唇をようやく解放した。

 「っぷは……ぁ、ぅ……?」
 「確かに、こうして聞くと全然違うな」

 男に聞かせた声とはまるで違う、甘露のようにとろける甘い声は間違いなく縞斑だけが知るものだ。
 それを確かめた縞斑は満足げな笑みを浮かべて頬を撫でる。肩を震わせて縞斑の顔をふわふわと見上げていた神無は、縞斑がやたらとヤケになって自分を攻め立てた理由に気がついて顔から火が出るような熱を覚えた。

 「じ、じじ、じっ実際にすることないだろ!?」
 「誘ってるのかなと思って」
 「ちがうよ!大人気ないなあんた!!」

 我に返って酔いも覚めてしまった神無が慌てて飛び退けば、縞斑はいつもの調子を取り戻したようにくすくすと楽しげに笑う。
 どうやら主導権を握れたのはわずか一瞬だけだったらしい。唇を尖らせた神無はふいとそっぽを向いて部屋の奥へと歩き出す。

 「俺は少ししたらサロンに戻るけど、先輩はあいつら居なくなるまでここにいてもいいからね」
 「俺ももう出るよ。アサギリちゃんが逃走ルートを確保してくれてるから、合流して撤退する」

 無事に撤退できるか心配していた神無だが、アサギリが来ているのであれば大丈夫だろう。ほっと胸を撫で下ろした彼は、火照った体を冷まそうとボトルを手にベッドへ向かう。
 その背を眺めていた縞斑は、あぁ、と何かを思いついた様子で呟くと神無へ歩み寄った。
 気配に気がついて振り返った神無の手を取った彼は、にっこりと満面の笑みを浮かべて言葉を続ける。

 「大人気ないついでに、もうひとつ」
 「へ?」

 ぐいと引き寄せられた神無は慣れないヒールを履いていることもあってか、容易く縞斑の腕の中に収まった。
 急に抱き寄せられて困惑する神無の首筋にキスをした縞斑は、レースがあしらわれて見え隠れする鎖骨のそばまで唇を落とすと強く吸い上げる。

 「んッ、」

 ちくりと刺すような痛みに神無が息を詰めれば、縞斑はそっと唇を離してぽつりと咲いた赤色を満足げに撫でた。

 「男を連れ込んでたなら、これくらいついてた方がリアルだと思わない?」
 「は……な、なんえ?!」

 赤い顔で口をぱくぱくと開閉させる神無の姿を堪能した縞斑は、離れ側にするりと彼の長い髪に口付けて今度こそ踵を返す。
 扉の向こうに人の気配がないことを再度確かめると、彼は立ち尽くす恋人に笑顔でひらりと手を振った。

 「じゃあまた、それが消える前に会おうね」

 返事を待たずに扉を開いて廊下へ出る。
 男たちが去っていった方向とは逆方向に歩き出すこと十数歩、背後から癇癪を起こす神無の声と投げつけたらしい枕が扉に当たるぼすんという物音に縞斑はひとり吹き出すのだった。



 


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