第23回トワスト、テーマ「さよなら、と君は笑った」参加作品です。制作時間は約55分です。
@xxxyueyunxxx
そこは、随分と乾いた土地であった。
「ねえジェフ。ここは見渡す限り砂ばかりなんだね」
「――そうだな。変わった、土地だ」
ランフォードは白い手袋を外すと、その砂に触れてみた。掬い取った砂は、すぐにさらさらと指の間を落ちていく。思ったよりも、滑らかな手触りだ。
「面白いね。この砂を持って帰って砂時計にしても良さそうだよ」
「お前がそう思うなら、やってみれば良いのではないか、ラン? ……しかし、ここは焼け付くような日差しだな……」
少々肌が痛いぞ、とその鋭いシトリンの瞳で空を見やりながらジェフはぼやいた。
「そうかも知れないね、ジェフ。私もここは、少々暑いと感じるよ。おまけに全身、砂だらけだ」
黒のマントをなおしながら、ランフォードは苦笑いを浮かべる。
「どこか休める場所が欲しいね。良いところは無いかな」
「――少し、待っていろ」
ジェフは小さく呪文を唱えた。『遠視』の魔法だ。しばらく周囲を見回していたジェフだったが、まっすぐにひとつの方向を指し示した。
「――この方向に、緑が豊富な場所がある。そこなら、休めるのではないか。ただ、少し距離があるぞ」
「そうなんだね。では、飛んでいこうか」
ランフォードは砂を蹴って飛び上がる。その後に、隠していた黒い翼を広げたジェフが続いた。
砂ばかりの土地の真ん中にあった緑の地には、済んだ水で満たされた泉もあった。
「あんなに砂ばかりの土地の中に、このようなところがあるんだね」
ランフォードは水辺にしゃがみこむと、渇いていた喉を潤した。
「ジェフは大丈夫なのかね? あまり我慢をすると、いかな私たちが魔族だとはいえ、暑さと渇きで倒れてしまうよ」
「……それも、そうだな」
渇きを癒してから、この緑の多い土地を散策した。見たことのない果実があり、植物が生えている。その全てが魔界にあるものとは異なり、ランフォードは改めて感じた。――この、魔界と並行して存在する世界は、本当に豊かで美しい土地だと。
「……ここは、本当に素晴らしい土地だね……」
「お前はそればかりだな、ラン。まあ――俺様も、その言葉は否定せんが」
ランフォードは沈みゆく燃えるような光を、感慨深げに眺めた。この光の美しさもまた、魔界には無いものだ。隣に立ったジェフも、じっとそのオレンジの光を見つめているようだった。
「あれ? 気のせいかな。さっきよりだいぶ、冷えないかね」
「――気の所為……ではないな。ここはそういう土地なのではないか?」
「そうかも知れないね。また興味深いことが増えてしまったよ」
このままここにいたらどうなるだろう。わくわくしてくると同時に、思い出した。――そろそろ、魔界に戻らないといけない時間であることを。
「そうだった……そろそろ、戻る時間だったよ」
ランフォードは肩を落とす。その黒曜石の瞳は、あからさまにつまらないといった様子を見せていた。
「そんなに不貞腐れるな、ラン。また来ればいいだろう」
「でもね、ジェフ。――君と共に来れるのは、まただいぶ先になってしまうじゃないか」
ランフォードとジェフは、別の部族に属する魔族である。おまけにふたりとも長という立場だ。更に言うと、ランフォードは先代から長を引き継いだばかりで、ジェフは病み上がりだ。そう長い間、自らの持ち場を離れてはいられない。
「私はもっと君と一緒にいたいんだよ。こんなに短い時間で、さよならは寂しいじゃないか」
ランフォードは少し高いところにあるジェフの瞳を見つめる。そのシトリンの瞳は、何を考えているのか見せなかったが――ややあってから、ふいと視線を逸らしたかと思うとぽつりと口を開いた。
「部族の者が言っていたことだが――さよならは、次の会う約束があるからこその言葉らしいぞ、ラン」
「――そう、なのかね?」
「そうなのだと、その者は言っていた。――だから、あれは笑って言えば良い言葉なのだとな」
それは――とても良い考えだ。また会う約束がある。だからあれは、笑って言う言葉だというのは。
「だから、その――そんな顔をせずとも……ラン?」
「ありがとう、ジェフ。とても良い話を聞かせてくれて」
ランフォードは思わずジェフのほっそりとした身体を抱きしめた。痛いぞ、と口では言いながらも、ジェフもランフォードの腕をほどこうとはしない。
「じゃあ、私たちも笑って言わなければね。もちろん、また何度でも、会うつもりがあるのだから」
「――ああ」
「じゃあ、またの機会に。――今日は、さよならだね、ジェフ」
「ああ。今日のところは、さよならだな、ラン」
空はもう暗くなろうとしている。
鮮やかな笑みを浮かべたジェフが、先に呪文を唱えて己の土地へと帰っていく。さよなら、ともう一度呟いてから。
それを見送ってから、ランフォードも『転移』の呪文を唱えた。