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【サンプル】鯨の詩

全体公開 TF 5992文字
2025-02-02 22:27:19

3/16 WAR OF THE PLANETにて発行予定。
文庫サイズ 本文P120 800円くらい※会場価格

インパクターやターミナスとの出会いやらなにやら色々捏造・自己解釈多数。
炭鉱夫時代~LostLightまでのメガトロンと、彼と共に居た彼らの話です。

Impactor

 メガトロンの詩は綺麗だ。

 学の無かったインパクターでも、それくらいは感じ取ることができる。
 とはいえそれだけで、そこに含まれている感情の機微だとか、言葉の裏に隠された意味だとかはまるで分からないのだが。無理やり読まされているうちに彼の論文もそれなりに理解できるようにはなった。

 彼の詠む詩は好きだ。それを伝えてしまえば、余計に読ませてくるようになるのだろう。それが分かっているから、敢えて口にしたことは無いが。
 以前に一度だけ、中でも気に入った詩があったものだから、それを伝えてしまった時には暫く詩を読ませ続けられてしまって辟易したものだ。以来まともな感想は避けるようになってしまったのだが、メガトロンにはそれでも充分らしい。こうして今でも書き上げた詩と論文を持ってくる。
 流石に反省したのか、最近は詩の頻度が減って、更に論文が増えてきたように思う。こんなことになるくらいなら、もう少し詩にも反応してやった方が良いのだろうが、生憎インパクターはメガトロンのような感性や語彙を持ち合わせてはいない。
 故に好きか嫌いか、その二つでしか語れない。付け加えて言ってしまえば、彼の詩を嫌ったことは一度も無かった。反面、メガトロンが書く論文を好きになったことも、一度も無かった。今日のは特に酷い。
 興味が無い風を装って、データパッドに浮かぶ文字を追っていく。
 表面上は上手く取り繕っているが、言葉の裏に秘められた、マグマのように煮え滾る薄暗い何かが垣間見えてしまうのだ。いつも以上に気を遣っているのか、表現は丁寧なもので、淡々と現セイバートロンの政策について論じているだけなのに。
 インパクターが読み終わるのを静かに待つメガトロンを盗み見る。いつものように、穏やかな表情で、それでいてどこか子供の様に感想を待ち望むのは普段と何も変わらない。だと言うのに、何故こうもスパークがざわつくのだろう。
 メガトロンは気付いていないのだろうか。自らが書き上げたこの論文に、どれほどの怒りと絶望が織り込まれているのか。だとすると、これは随分とタチが悪い。
 まるで眠っているマグマのようだ。画面を埋め尽くす文字が、まさに冷えて固まり黒い泥となった溶岩に見えてくる。見かけはすっかり冷え切っているのに、その奥底では熱は一切冷めずに解放されるのを待ち望んでいる。
 今は文字に埋もれて隠されているが、それが表面化し言葉を破って飛び出してきたその時は、一体どれほどの激情を伴って襲い掛かるのだろう。何もかも燃やし尽くして灰にしてしまいそうなほど、熱と勢いを持ちながらもどろりと蟠るそれの存在から目を背けるように、インパクターは途中で論文を読むのをやめて顔を上げた。
……お前の論文は、いつも面倒なことばかり書いてくるな」
「そう、だろうか?」
 インパクターが途中で読むのを辞めてしまうことも珍しくはない。メガトロンもそれ以上は無理に読ませることは無く、仕方ないと苦笑を零す程度だ。
「読んでて目が滑る。もっと気楽な題材で書いたのはねぇのか?」
「最近はずっとそれに掛かり切りだったからな……
 詩の一つも書けなかったというメガトロンに、道理でいつもより気に喰わないわけだと一人納得する。どれほどの時間を掛けたのかは知らないが、よくもまあこれだけの感情を文字に昇華できるものだ。
 綺麗に並んだ文字列が今にも溶けだして画面から飛び出しこちらを呑み込んできそうだ、なんてらしくもない想像が頭を過る。
 喧嘩が苦手な彼の攻撃手段がこれなのだろう。拳を奮った方が早いのに、難儀なものだと嫌な想像を払拭するようにデータを閉じれば、論文の他にも書きかけらしいデータを見つけて開く。
「へえ……こっちのデータは?」
「あ、それはダメだ!」
 メガトロンが焦ったようにデータパッドを奪おうと腕を伸ばしてきたが、さらりとかわして開かれた文字を追ってみた。
 論文ではなく、詩のようだ。制止の声も無視して、好奇心のままに読み進める。


Lost Light

 メガトロンがロストライト号に乗船してから、彼がウルトラマグナスと議論を重ねることは珍しくない日常になっていた。議論と言っても何か意見の相違があったというわけでもなく、ただ法律や政治の在り方について互いの知識と意見を交わすお遊びのようなものだ。傍から聞いているだけでは堅苦しい言葉の応酬を、二人はとても楽し気に続けるものだから同じ部屋で聞かされているロディマスは堪ったものではない。
 同じ言語を用いているはずなのに、言葉として認識するのをブレインが拒絶してしまう。一度「頼むから同じ言葉で喋ってくれないか」と言ってみたところ、二人は酷く不思議そうな顔をしていたのでその点に関してだけは一生分かり合えないだろう。
 今日も船長室に戻ってみれば、二人でメガトロンのデータパッドを覗き込みながらなにやら話し込んでいる。ロディマスが戻ってきたことにも気付いていないらしい。
 仲が良いのは結構だが、面白くないのは当然ロディマスだ。船長は自分なのに、のけ者にされているような気がしてきてしまう。子供の様な感情だと言うのはわかっているが、仕方ないだろう。笑い声が遠く感じるのは、気のせいだろうか。
 溜まっている仕事を片付ける気分でもなく、戻ってきたばかりだが踵を返してそっと部屋から抜け出してみれば思った通り、二人は何も気付いていない。これ幸いとロディマスは今日は何して遊ぼうか、なんて鼻唄交じりに船内を歩き出した。

 船内の散歩にも飽きて、最近のお気に入りの場所で休んでいればロディマスの端末に通知が届いていたことに気が付いた。どうやらロストライトのサーバーに新しいデータがアップされたらしい。先程あの二人が話していた論文でも完成したのだろう。
 メガトロンが書く趣味の論文や詩は全てロストライト号の共有サーバーにアップされる。ロストライトの船員は誰でも自由に閲覧できる状態だ。船員への娯楽の提供と、メガトロンが危険思想を残していないか監視の意味も含めてそれが義務付けられていた。元は後者の意味しかなかったはずなのだが、今となっては監視の意味を覚えている者はマグナスとラングくらいのものだろうか。
 メガトロンによる講義が案外好評で、定期的に行われるようになったばかりか触発されて詩を書き始めたという船員まで出始めたくらいだ。未だメガトロンに良い感情を持たない船員も多いが、オートボットばかりのこの船内でここまで早く打ち解けられている事実には驚かされる。危ういバランスではあるが、それでも表向きには問題は無いほどに。

 ──(中略)──

 メガトロンは天性の人たらしだ。
 彼らのやり取りを見守っていたロディマスは考える。スワーブスの一角で、今度はパーセプターと彼の研究についてなにやら話し込んでいる。ブラスターが出て行ってから暫くしてやってきたパーセプターは、当然のようにメガトロンの隣に座ったのだ。それからずっとあんな調子。
 彼らの会話の内容もロディマスにはまるで暗号のように聞こえてしまうのだけれど。戦争中はすっかり感情を見せなくなっていたパーセプターが、あのメガトロンを相手に、自らの研究成果を楽しそうに話している。少し前であれば信じられない光景だった。
 彼らの話が落ち着いた頃合いに、今度はノーティカに声をかけられ気安く応じ、彼女の手にあるデータパッドに微笑んだ。きっとまた、彼女がオススメの本の紹介に来たのか、それともメガトロンに薦められた本を読み終わったとか、そんなところなのだろう。
 少し前までは、そこにトレイルカッターも一緒にいて、良く三人でなにやら楽しそうに話していたのが懐かしい。トレイルカッターの場合、メガトロンの著書を読んでいる途中で気になったところを良く聞きに行ってたようだった。
 曰く、本当はこの時何があったのか、だとか、これを言ったのは誰だったんだ、だとか。果ては本当にこれはノンフィクションなのか、だとか。書かれていないところまで根掘り葉掘り聞いてくるものだから、さしものメガトロンも困った様子で、それでもわざわざ事実を確かめに来るトレイルカッターを決して邪険には扱わなかった。
 今ではもう見れなくなった光景を思い出し、一人寂しく思っていれば、二人の元にスワーブが追加のエンジェックスを持ってくるのが見えて再び観察に戻る。意外にも、というべきか、それともやはりと言うべきか。メガトロンは高級品よりも安物の方がお気に入りらしい。慣れた味の方が安心すると言っていたが、スワーブスの中でも粗悪品と言っていいほどのエンジェックスを好むメガトロンに、スワーブも興味を惹かれたのだろう。時折悪戯と称して色んなエンジェックスを混ぜてはメガトロンを驚かせようと画策しているらしいが、今のところそれが成功した試しがない。
 どんなに不味いエンジェックスだろうとメガトロンは一度顔を顰めるだけで、あとは一息に飲み干してしまう。時折本当に美味いカクテルが作られるものだから、その時はメガトロンもゆっくりと味わって飲む。その反応を賭けにして、美味いカクテルであれば周りの奴らも同じものをと注文し始める。遊びに使われていることが癪だったのか、一度メガトロンは不味いカクテルを随分と美味そうに飲んで見せたものだから、その日は一日バーが地獄になっていた。もちろんロディマスもそれに引っ掛かって、スワーブスの床に転がっていた一人だ。その様子を見て笑っていたのはメガトロンとラヴィッジで、二人にしてやられたのだとスワーブは反省するどころか悪戯の過激さを増してきた。
 今日はどうだろうかと見ていれば、グラスに口を付けたメガトロンの手が止まる。暫くその状態で固まって、やがてゆっくりとグラスはテーブルに戻されるとメガトロンは片手で顔を覆って項垂れた。ため息と共に口が動く。あれは多分、「何を入れた?」と聞いているのだろう。スワーブは答えずに笑って拳を突き上げる。近くに居たパーセプターやノーティカはもちろん、彼らのやり取りを見守っていたバーに集まっている船員達も皆笑っていた。


Terminus

 メガトロンの論文は綺麗だ。

 読みやすく、柔らかい表現で一見すると平和主義を装いながら、よく読むと機能主義社会を厳しく糾弾している。ターミナスは彼の論文を好いていた。
 多くの論文は草稿から見せてもらっているために内容は既に熟知しているのだが、最後まで書き上げられた論文を読むこの時間が、何よりも好ましい。
(知っているかい、メガトロン。世界は君が思っている程綺麗じゃない)
 論文の一つ二つで是正できる社会であれば、セイバートロンはこんなことにはなっていない。それでも何かできるはずだと論文を書き続けるメガトロンが愛おしく、それを続けさせる自分は傍から見ればひどく滑稽に見えるのだろう。
 ちらりとメガトロンを盗み見れば、期待の中にどこか不安そうな気配を交えてターミナスが読み終わるのを待っている。その視線が向けられるのは自分だけだと思うと、優越感でスパークが満ちてくる。
「よく書けているよ」
「本当か!」
 率直な感想を告げれば、子供の様に顔を明るくするメガトロンにターミナスも微笑を返す。
 彼に論文の書き方を教えてもうどれほど経ったのだろう。驚く程純粋に知識を吸収していくメガトロンは、書く度に練度を上げていく。今ではターミナスの校正も数える程だ。
 その純粋さが眩しく、失い難い物であると同時に、知識を与える程に現実を教えていかなければいけない事実に目を逸らしたくなる。
「ああ。強いて言うならば、ここの表現が少し遠まわしすぎるくらいだ。もう少しはっきりと言ってしまっても良いだろう」
「だが、あまり明瞭にし過ぎては危険じゃないか? ただでさえ最近は規制も厳しくなってきていると聞くし……
「構わないさ。君の言葉を真っ直ぐに届けることの方が大事だ」
「ターミナス……
 いくらメガトロンの心根が純粋であると言っても、彼らの生きる場所が場所だ。完全に純であることはできない。事実メガトロンが論文の書き方をターミナスに請うたのも、そうした事実を目の当たりにしてきたから。生まれや性能だけで人生が決められ、奴隷のように一生を終える者がいれば、こちらからは考えつかない程の贅沢の中で暮らす者がいる。考えてみれば理不尽でしかない仕打ちも、そう生まれてきてしまえば疑問にも思えない。
 この現状に疑問を抱いた。それだけも彼が他とは違うとすぐに気づいた。更にそこから行動を起こせる者など、今のセイバートロン星に一体どれほどいるのだろう。ターミナスが知る限りではただ一人、メガトロンだけが本気でこの星を変えようと足掻いていた。
 だからこそ、ターミナスは彼が、彼こそがセイバートロンの希望だと信じている。

 彼と出会って、どれほど経ったのだろう。鉱山で働いているとどうしても時間の感覚が曖昧になってしまう。それでも、彼と出会った日のことは良く覚えていた。


 新しいルームメイトは口数が少なく、生きる気力も失くしているようだった。
 話しかけても放っておいてくれと言わんばかりに視線を逸らし、口を噤む。一応治療は受けているようだが、真新しい傷が目立つ機体に、既に心を折られているのか、世界の全てに失望しているとばかりに曇ったオプティック。
 セイバートロンで何をしでかしたのか。装備すら替えられずにこの場所に送り込まれているということは、政府にとって何か都合が悪いことを知ってしまったのだろうか。事故に見せかけて死なせるのに、この場所は打ってつけなのだろう。
 彼が配属される直前、この鉱山の管理者からは新人にはあまり詮索しないようにと命令され、言外に彼が早々に脱落するようにとすら命令された事が気になった。
 今までもそういった相手が送り込まれてくることもあったが、ここまであからさまに告げられたのは初めてだ。
 肝心のルームメイトは自ら死ぬつもりはないが、だからと言って生きるつもりも無いらしく、放っておけばすぐに死んでしまいそうなほどだったが、思いのほか長く保っている。意外に思いながらも、どこか危なっかしい彼から次第に目が離せなくなっていた。

──サンプルここまで──

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