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食い違う思い

全体公開 人魚姫ドラヒナ 6088文字
2025-02-08 06:26:15

続きもので書いている、人魚姫ドラヒナのお話です。
この話から、そのまま続いています(執念が実る前 https://privatter.net/p/11363092)。陸と海を繋げる計画は実行され、魔女達の執念が実った喜びに浸る暇もなく、深海では別の局面が動いています。同時進行で、友人夫妻の手を借りて、もう一つの計画を実行するヒナイチ姫。
 シャコガイジョンのお尻(?)から伸びているのは、足糸らしいですね。これは、かなりの災害時にも剥がれず、自身を岩場に縛り付ける強固でしなやかな物だそうで、民芸品も存在するそうですよ。
2024/03/08に上げました。

Posted by @kw42431393

 「もう出来たんスか?サンズ姫。」
 「はい!ロナルド王子が、早くに他の材料を集めてくれてたからです。ヒナイチは?」  

 鍋に残った煮凝りを、ビンに詰めます。このままだと飲みにくいでしょうね。
 あいつは甘党ですから、飲みやすい様に、蜜水を加えてやります。
 どう見ても、パンケーキにかけるシロップにしか見えませんね。
 これが飲んだ者を、不老不死に変えるのです。
 サンズちゃん達、人間どころか長命種の魔女さえ、不老不死に出来るのです。
 「いい匂いだな?出来たのか、サンズニャン?」
 噂をすればというやつですね。でも、大丈夫なのでしょうか?
 「こんな時でも、食い気かよ。もっと、休んでるです。左手の具合は、どうですか?」
 「大丈夫だ。なんか興奮してしまって、眠れないな。生き人形の手は、私の魔法と連動させてるから、普段と変わらないぞ?」
 ヒナイチが笑いながら、左手を開いたり閉じたりしてくれます。継ぎ目も、ほとんど分かりません。
 さすが、サンズちゃんです。どちらも、上手く出来たと思いますよ。
 「ヒナイチよく我慢したな。俺達もシャチで、ドラルクの別宅に向かう。一緒に乗っていこうぜ。」
 そう、サンズちゃん達がやって来た『陸と海を繋げる計画』は、先ほど始まったのです。
 人魚から人間になった者達、人間から人魚になった者達を優先に、移動が始まっています。
 ドラルクとカズサ王が交わした契約は、完遂されたのです。

 魔女はこれに命を賭けたのだから、この話を聞くと油断するでしょう。
 あとは、魔女を騙して、ヒナイチが契約を結んで、この薬を飲ませるだけ。
 病気を治す事は出来ませんが、不老不死になればサンズちゃん達が蓬莱島に行って、万能薬を作って持ち帰るまで、死にはしません。帰ってくるまで、何十年でも、あの別宅で寝てるやがるといいです。
 「ええ、行きましょう。氷笑卿のノースディンは有名な女好きですが、実子はいません。猶更、恩人であり、親友でもある竜子公の息子あのタコを子供替わりにしてるです。」
 「あ~、俺も聞いた事あるっスよ。『20代から、私は魔女として独立開業していたんだ。いつまで干渉する気だ、あの髭。』だと。208にもなって、あいつの親父さんの溺愛っぷりもヤベーらしいがその辺は、俺達と概念が違うのかな。」
 「ノースディンか。」



 あいつを連れ帰られると、大変です。
 ヒナイチに届けられた手紙に、ある人魚の貴族令嬢が行方不明になっている事と、ラブカが別宅に向かっているのは関係があると、書いてありました。
 北海は、ノースディンが人間と表層の者達を嫌っているので、あの近辺を迂回して通らないといけねーぐらい、警備が固いのです。
 だから、サンズちゃん達がドラルクを救出するのは大変です。
 そして、その女性はおそらく骨も残らず。
 「その貴族令嬢というのは、傍系ながら王族の血を引いているんだ。だから、狙ったのだろうな。ドラルクに、食べさせる為に。」
 「本当は、王族の人魚の肉が欲しかったんだろ。とはいえ、ホイホイ出歩いてる人魚姫は、そうそういない。お前ぐらいなもんだろ。」
 「うるさい、悪かったな!」
 どっちにしても、酷い話ですよ。
 昨日から一睡もしないで、ヒナイチが駆け回ってる事も、知らねーで。

 「合意の上を示唆する内容ですがサンズちゃんが調べた所によると、氷笑卿は、魅了の術が上手いんですよ。その女性は何をされても、抵抗しねーです。そして、一人では済みません。何人でも、連れて来るでしょう。」
 「早く行こうぜ。あいつは、納得してないだろ?ドラルクはヒナイチと結婚する為に、足を洗うつもりでいる。だから、人魚達を騙すのを辞めたんだ。無理矢理喰わされたら、これまでの苦労が水の泡じゃねえか。」
 「。」
 どうしたんでしょう。さっきから、ずっとヒナイチは無言です。
 そもそも、一度魔女を守る為に別宅へ戻るという選択肢もあったのに、薬を作る事を優先したのです。
 今までのこいつらしくない、と思います。
 その反面でそれが正解だと、思いますです。
 「なぁ。ロナルド王子、サンズ。頼みがある。」
 そこから、ヒナイチが言った事は、驚きました。ますますもって、ヒナイチらしくないとも、思いました。
 「逆に、チャンスかもしれない。彼が大事にしているドラルクを助けられるのはそして、交渉のカードで一番強いのは、魔女の妻となった私自身のはずだ。」
 今のヒナイチは、協会に属している新米魔女なのです。
 『悪い魔女に助ける為に、ヴィランになる』という覚悟は、口先だけではないのです。
 そして、これからサンズちゃん達がやろうとしている事を考えると、その必要性を感じます。
 「しかしよ、ヒナイチ。お前は、体が万全じゃないんだ。一人は、危ねえ。」
 そこなのです。氷笑卿は、元々サンズちゃん達と同じ人間です。
 追い詰められても、契約に従うお前達とは違うのです。それに魔女の手記で、ヒナイチの術耐性が低い事が示唆されていました。
 お前が魅了されては、意味がありません。だから

 「分かりました。北海へは、サンズちゃんが一人で行きます。ロナルド王子は、ヒナイチ達を守って下さい。」
 「お願いします。サンズ姫、気を付けて下さいよ。」
 にゃっ!!今のロナルド王子すごく、かっこよかったです!
 なんか、全てを任されてるっていうか、くすぐったいですよ!!
 「サンズだって、危ないぞ!あそこは、特に閉鎖的だと、言ってたじゃないか!」
 忘れてやがるですか?ひでーですよ?
 「大丈夫だぜ、ヒナイチ。だって、うちの嫁さんは、さ。」
 「そーですよ!サンズちゃんは、優秀なくノ一なんです。その令嬢を盗み出すぐらい、訳ねーですよ。」
 陸と表層、深海の間で交流が始まろうとしている大事な時に、その女性が誘拐されたとなればましてや、無理矢理食い殺されたとなれば下手をすると、戦争になりかねません。
 ノースディンからすれば、切実だったのかもしれません。しかし、こっちにも言い分はありますよ。
 これまで、サンズちゃん達がやってきた事が、パーになっちまうじゃねーですか。
 だから、魅了にかかって何も覚えていない間に、盗み出して、親元に返すです。
 「それよりよ。ヒナイチこそ、大丈夫か?お前、術にかかりやすくて、チョロいって聞いたぜ?」
 そこなんです。しかし、選択肢もさほどありません。
 だから、サンズちゃんも北海に向かう準備を始めます。
 私室に向かおうとすると、ますますあいつらしくない、不穏な声が聞こえてきました。
 それもそうですね、そういう意味では安心ですが。
 やはりロナルド王子、頼みますです。

 「あぁ。『今回』は、問題ないだろう。氷笑卿と対面する頃にはとっくに、『切れている』だろうからな。」

 サンズちゃんの能天気で、無鉄砲な親友を頼みます。



 「手を焼かせるのも、いい加減にしろ!さっきから聞いていれば、一人で生きてきた様な口を!人間や表層の者共とつきあって、表層へ陸へと行く度に!ドラウスが、どれだけ心配したと思っているのだ!?」
 「っ!!」
 「ヌヌヌヌヌヌ?」
 水温がさらに下がった。胸の奥の鈍痛が激痛となって、再び湧いてくるのを感じる。
 環境の変化が、一番のリスクファクターなのにむしろ貴方が、私を殺す気ですかね。
 容体が顔に出ると、ますます、彼は強硬手段に出るだろう。
 だから、努めて平常を装う。

 協会からは、『魔女達は、パスポートの埋め込み作業に追われている。ドラルク殿の護衛に、使い魔達を送る。用心されたし。』と言われている。
 だから、彼らが来るまで時間を稼ぎたい。
 何より、埋め込みが行われているという事は、今日明日には、私の執念が実るはずなのだ。
 「はぁヒナイチ姫。貴女に会えないなら、せめてこの契約書が光る瞬間を見る為だけに極力、動かない様にしてきたのに。」
 「ヌー。」
 ノースディンの言い分も、分からないでもない。売り出し中の時期は、実家に頼っていた事は認める。
 しかし、今や大抵の事は、協会と契約した者達、何よりジョンの助けを借りて、自活してきたのだ。実家と距離を置いていたのは、自分の手を汚し過ぎたからだ。
 だからと言って、私が拒否しているのに、監禁して人魚の肉を食べさせ、友人達から引き離すというのは、理に適っていない。本人も、正気ではないのだろう。
 病気持ちの甥が、心配だというのも、分からなくもない。
 しかし、私の仕事内容について、添削文を送ってきたり、セデューマも嫌がっているのに、見合いさせようとしたり有難迷惑な人だと、思う。
 誰だって、いつ死んでしまうか分からないと知っている、従兄と結婚したくはないだろう。

 「お父様達には、悪いと思っております。だから、今度の契約に賭けたのです。これだけの大事業だ。立役者の私の悪事は、全て清算できるはず足を洗って、ヒナイチ姫を連れて、堂々と帰郷出来るはずでした。ロナルド王子達の伝手があれば、治療薬を作る事が可能で、この体を治せる予定だったのです。結果がこうなっただけの話彼らが『人間』『表層の者』だからと、逆恨みするのはやめて頂きたい。」
 「もう構わん。その首に縄をかけてでも、連れて帰るぞ。』
 ますます、彼の顔が険しくなっていく。
 相手を煽るメリットはないが、これだけは言ってやりたかった。
 あの充実した、4人と1匹で過ごした時間を否定するのは許さない。
 「縄ですか。そちらが縄なら、こちらは
 「ヌン!」
 出入口に立っていたノースディンが、こちらに向かってくる。ゴボリッと、尾鰭が荒々しい音を立てた。
 特に『人間』というワードは、彼にとって禁句なのだ。
 言ってやる私の性格も、つくづく悪いと思うが

 ガキッ!!

 「こ、これは!?」
 ノースディンが、私の腕を引っ張ろうとしたが、私の体はビクともしない。
 動かそうとするなら、据え付けのこのベッドを破壊してそれごと運ぶか、私の皮ごと剥がすしかあるまい。
 「うぐっ!!どうですかね?師匠……あ、貴方が軽蔑している、協会に属していた甲斐が、あったでしょう?」
 「こ、これは足糸!?」
 「はぁはぁ。協会から、連絡があったんですよ。だから、ジョンに頼んで、私をベッドに括り付けて貰いました。ど、どうです?ただのシャコガイでも、簡単には剥がせません。それが、私と契約した最高のシャコガイの、足糸ですよ?貴方でも決して切れない、絆の糸、なんてど、どうですか?アハ、ハハハ。」
 本気で、笑えなくなってきた。
 3つの心臓が、出鱈目な動きをしているそんな感じだ。
 とにかく、使い魔達が来るまで、時間を稼がなければ



 「師匠が反対したいなら、それでか、構いませんがねこの計画は、深海にもメリットが、ある。あんたに、分からないのですか?」
 「反対するに、決まっているだろう。奴ら特に、人間共に土足で踏み荒らされてみろ。奴らが欲しい資源が、唸るほどあるのだ。少なくとも、私の領海でそれは許さん!見るに耐えんわ!」

 ああ。やっぱり、個人的な恨みじゃないか。
 そうならない為に、こちらは陸の者達とも、会合を重ねてきたというのに。
 「知っての通り、し、深海は光も餌も少ない。だから、時間によって表層に移動する者、表層から落ちてくるもので、必要なエネルギーを賄っているじゃあ、積極的に、エネルギー豊富な世界の者達と交易すればお、お分かりでしょ?」
 「。」
 バクバクと心臓が歪に拍動する。平常を装うのは、もう限界だ。
 胸に爪を立てる。立てた所で、何も変わらない。
 「膨大な利益が、それぞれ世界にもたらされるはずはぁはぁ。その矢先に、個人的な理由で、人魚の女性など誘拐されては困るんですよ。下手をすると、戦争になる。あ、あなたは、私の邪魔をしたいのですか?」
 「それは
 い、いけるか?彼が私とお父様に弱いのは、強みのはず。
 このまま
 「か、可愛い弟子の邪魔なんて、しませんよね?師匠ぐっ!?」 
 「お、おい!どうした!?」
 ああ、ここまでか胸から競り上がってくるこの感じ。
 もう少しなのに。泣き落としで、追い返せたかもしれないのに。
 「ドラルク!!やめんか!こ、このままでは、死ぬぞ!!」
 「い、今更、北海にいそう出来るとでも?あ、あきらめその女性をかいほぐ、ぐえええっ!?」
 咄嗟に口を手で押さえるが、また吹き出て来たのは、銅を含んだ青い血。
 急に、視界が暗くなる。

 「おい!ドラルク!!」
 「かかひゅあぁ、せ、せめてせめけいやく。ヒナイチひめ
 掴んできた彼の手を払うと、なんとか枕元の契約書に手を伸ばす。
 紫に光っている様な気がする、カズサ王との契約書に。
 これが光ってくれさえすれば少しは納得して、死ねるのに。
  
 「ば、バカ者!!この期に及んでおい!シャコガイ、主人を殺す気か?足糸を外せ!!」

 嫌ヌ、お前のせいだヌ!帰ってヌ!ヌン達は、とっくに覚悟してたんだヌ!

 真っ暗な中で、微かに聞こえるのは、ノースディンとジョンの怒鳴り合う声。
 ごめんね、ジョン。せめて、君だけでも明るい所に、返してやりたかったのに。

 「氷笑卿!お待ちくださいませ!」
 「貴方がやっている事は、違反行為です。」
 「今なら、間に合います!協会の要請に、従って下さいませ!」
 「どうか、お引き取りを!!」

 続いて聞こえてきたのは荒々しく扉が開く音と、派遣された使い魔達の声遅いよ。
 そもそも、使い魔ごときで彼が怯む訳がない。私と彼の交渉の場における、立会人として期待していただけ
 
 『ヒナイチ姫、ロナルド王子、待って下さい!魔女様が、来ないでって。』
 『坊や、いいんだ!私が、ノースディンと話がある!』
 『おいおい、頼もしいな。今日のヒナイチは、最強の魔女様だからな!』

 あれ?ヒナイチ姫とロナルド王子の声
 幻聴か?一番聞きたかった貴女達の声あいつと鉢合わせするには、一番最悪のタイミングじゃないか。

 『待て!氷笑卿!』

 ヒカリキンメダイの伝言だけでなく玄関まで足糸で、封鎖しておくべきだったか
 間に合えば、一目だけでも会いたいそう考えていた、自身の詰めの甘さを呪いながら、私の意識は落ちていった。
 


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