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それの良さはわからない

全体公開 トワスト 2 1936文字
2025-02-09 15:29:15

第24回トワスト、テーマ「鳴らない目覚まし時計」参加作品(遅刻参加)です。制作時間は約50分です。

 この時代で過ごす場所も何とか整った――

 ジェフは、荷物を運び込んだ部屋を見渡した。気に入りの道具に、吟味して選んだ器具。これならば、気持ちよく住んでいられるだろう。

「だいぶ住処も整ったね、ジェフ」

「まあな」

 一緒に荷物を運ぶのを手伝ってくれたランフォードが、微笑んでジェフの肩を軽く叩く。

「店はいつから始めるんだね?」

「もう少しかかりそうだな。必要な資格だとかを取っておかないといけないからな」

 この時代では、刀剣ひとつ扱うのにも資格が必要らしい。面倒だ、と思わなくはないが、住む時代に合わせるのが礼儀だとジェフは考えている。――そう、自分たち異種族である魔族は、ここに住ませてもらう立場であるのだから。

「そうそう。君に贈り物があるのだよ。受け取ってくれるかね?」

 ランフォードは持ってきていた革製の手提げから、包装された箱のようなものを取り出すと、ジェフに手渡した。

――何だ、これは?」

「開けてみてよ。この時代で生活をするには必要なものだから」

 ランフォードに促されたので、ジェフは包装紙を丁寧に剥がすと、中身を見た。

 箱の中から出てきたのは、時計であった。デジタル文字とやらで数字が刻まれているそれは、ジェフの好みに合うかと言うと、率直に言って合わなかった。

「ラン。時計くらい、俺様も持っているぞ」

「これはただの時計ではないのだよ。目覚まし時計と言ってね、現代生活においては必須の品物だよ」

――そうなのか?」

「そうだよ。お店も決まった時間に開ける必要があるからね。――早速今日から使ってみれば良い。どんなものか、よくわかると思うから」

「わかった。そうしよう」

 普通の時計との差異がまだいまいちわかっていなかったが、ジェフはそれを寝室に置いた。




……目覚めようと思う時間に、これを合わせるのか。――それで何が起こるんだ?」

 その夜、寝間着に着替えたジェフは、ランフォードに貰った時計の取扱説明書をじっくりと読んだ。

 どうやらこれは、目覚めようと思う時間に、何かが起こる時計のようだ。

 一体何が起こるのだろう。そう思いながらも適当な時間にセットして、時計を枕元に置いた。

 あまり普段しない力仕事をして、今日は疲れている。ベッドに入ると、珍しくすぐに眠りに落ちた――




 そして、次の朝。

……んん……まだ、こんな時間か……

 乱れたウェーブした黒髪を撫でつけながら、ジェフは枕元の昨日貰った時計をぼんやりと見る。

 頭がまだぼんやりしている。もう少し眠ろう――ジェフが再び目を閉じて、うとうとしはじめた、そのときだった。

 枕元の時計が、突然大きな音を立てたのは。

――な、何だ?」

 心地よい眠りは一瞬で破られた。けたたましい、ジリリリリという音によって。その音はどんどん大きくなっていくようであった。

――煩い!」

 寝乱れた格好のまま、ジェフは素早く呪文を唱える。『停止』の呪文だ。呪文がかかると一瞬時計は沈黙したが、呪文の効果が解けるとまた大騒ぎをはじめた。

「まだ騒ぐか、性懲りもなく……!」

 ぼんやりした頭で、ジェフは次の呪文を唱えた。瞬間、青白い電撃が放たれ時計を貫く――

 電撃を放たれては流石の目覚まし時計も沈黙するしかなかった。――永遠の沈黙だ。

 やっと黙ったか……これでもう少し、眠れる……

 はだけていた胸元をなおすと、ジェフはもう一度布団に潜り込んだのであった。




「目覚まし時計はどうだったね、ジェフ?」

 その日の夜、仕事帰りのランフォードがジェフの元を訪ねてきた。

――あれか? とんでもない代物だったぞ。何だあの騒ぎは!」

「ああいう品物だよ。起きなければいけない時間にしっかり起こしてくれるのが、目覚まし時計というものだからね。……どうしたんだね、ジェフ?」

「俺様には不要だ。あれの良さは全くわからん。あんなに耳元で騒がれるくらいなら、自分でしっかり起きる」

「そうなんだね。まあ、君が目覚まし時計なしでも起きられるなら、それでいいと思うけど」

 ランフォードは苦笑いを浮かべる。――そんなに自力では起きられないのか、この時代の人間というものは。まだこの時代に来て日の浅いジェフには、それがどうしても飲み込めなかったのである。




 ――それから、数年が経ったが。

 ジェフは相変わらず目覚ましを使っていない。

 枕元にあるのは、永遠に沈黙し続ける、鳴らない目覚まし時計だけ。

 時を刻むことのない時計を置いて、今日もジェフは眠りにつくのであった。


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