第24回トワスト、テーマ「鳴らない目覚まし時計」参加作品(遅刻参加)です。制作時間は約50分です。
@xxxyueyunxxx
この時代で過ごす場所も何とか整った――
ジェフは、荷物を運び込んだ部屋を見渡した。気に入りの道具に、吟味して選んだ器具。これならば、気持ちよく住んでいられるだろう。
「だいぶ住処も整ったね、ジェフ」
「まあな」
一緒に荷物を運ぶのを手伝ってくれたランフォードが、微笑んでジェフの肩を軽く叩く。
「店はいつから始めるんだね?」
「もう少しかかりそうだな。必要な資格だとかを取っておかないといけないからな」
この時代では、刀剣ひとつ扱うのにも資格が必要らしい。面倒だ、と思わなくはないが、住む時代に合わせるのが礼儀だとジェフは考えている。――そう、自分たち異種族である魔族は、ここに住ませてもらう立場であるのだから。
「そうそう。君に贈り物があるのだよ。受け取ってくれるかね?」
ランフォードは持ってきていた革製の手提げから、包装された箱のようなものを取り出すと、ジェフに手渡した。
「――何だ、これは?」
「開けてみてよ。この時代で生活をするには必要なものだから」
ランフォードに促されたので、ジェフは包装紙を丁寧に剥がすと、中身を見た。
箱の中から出てきたのは、時計であった。デジタル文字とやらで数字が刻まれているそれは、ジェフの好みに合うかと言うと、率直に言って合わなかった。
「ラン。時計くらい、俺様も持っているぞ」
「これはただの時計ではないのだよ。目覚まし時計と言ってね、現代生活においては必須の品物だよ」
「――そうなのか?」
「そうだよ。お店も決まった時間に開ける必要があるからね。――早速今日から使ってみれば良い。どんなものか、よくわかると思うから」
「わかった。そうしよう」
普通の時計との差異がまだいまいちわかっていなかったが、ジェフはそれを寝室に置いた。
「……目覚めようと思う時間に、これを合わせるのか。――それで何が起こるんだ?」
その夜、寝間着に着替えたジェフは、ランフォードに貰った時計の取扱説明書をじっくりと読んだ。
どうやらこれは、目覚めようと思う時間に、何かが起こる時計のようだ。
一体何が起こるのだろう。そう思いながらも適当な時間にセットして、時計を枕元に置いた。
あまり普段しない力仕事をして、今日は疲れている。ベッドに入ると、珍しくすぐに眠りに落ちた――
そして、次の朝。
「……んん……まだ、こんな時間か……」
乱れたウェーブした黒髪を撫でつけながら、ジェフは枕元の昨日貰った時計をぼんやりと見る。
頭がまだぼんやりしている。もう少し眠ろう――ジェフが再び目を閉じて、うとうとしはじめた、そのときだった。
枕元の時計が、突然大きな音を立てたのは。
「――な、何だ?」
心地よい眠りは一瞬で破られた。けたたましい、ジリリリリという音によって。その音はどんどん大きくなっていくようであった。
「――煩い!」
寝乱れた格好のまま、ジェフは素早く呪文を唱える。『停止』の呪文だ。呪文がかかると一瞬時計は沈黙したが、呪文の効果が解けるとまた大騒ぎをはじめた。
「まだ騒ぐか、性懲りもなく……!」
ぼんやりした頭で、ジェフは次の呪文を唱えた。瞬間、青白い電撃が放たれ時計を貫く――!
電撃を放たれては流石の目覚まし時計も沈黙するしかなかった。――永遠の沈黙だ。
やっと黙ったか……これでもう少し、眠れる……。
はだけていた胸元をなおすと、ジェフはもう一度布団に潜り込んだのであった。
「目覚まし時計はどうだったね、ジェフ?」
その日の夜、仕事帰りのランフォードがジェフの元を訪ねてきた。
「――あれか? とんでもない代物だったぞ。何だあの騒ぎは!」
「ああいう品物だよ。起きなければいけない時間にしっかり起こしてくれるのが、目覚まし時計というものだからね。……どうしたんだね、ジェフ?」
「俺様には不要だ。あれの良さは全くわからん。あんなに耳元で騒がれるくらいなら、自分でしっかり起きる」
「そうなんだね。まあ、君が目覚まし時計なしでも起きられるなら、それでいいと思うけど」
ランフォードは苦笑いを浮かべる。――そんなに自力では起きられないのか、この時代の人間というものは。まだこの時代に来て日の浅いジェフには、それがどうしても飲み込めなかったのである。
――それから、数年が経ったが。
ジェフは相変わらず目覚ましを使っていない。
枕元にあるのは、永遠に沈黙し続ける、鳴らない目覚まし時計だけ。
時を刻むことのない時計を置いて、今日もジェフは眠りにつくのであった。