了遊(ほんのり)。短いよ
@d9_bond
「──顔色が悪いな」
かけられた言葉に、顔をあげる。
店が空いているのをいいことにカフェナギの一角でタブレットとにらめっこしていた遊作は、思わぬ姿に目を瞬いた。
「了見」
「言っておくが、近くに来たから寄っただけだ」
「……そうか」
見上げたまま、素早く考える。顔色が悪いというのは昨夜、Aiと一緒に見ていたドラマの先がつい気になって遅くまで起きていたせいだ。が、睡眠不足で──と正直に言うのは憚られる。
「別に、いつもと変わらない」
言い訳めいていると思いながら目線をタブレットに戻すと、小さなため息が聞こえた。す、と視界の端に端正な指先が映ったかと思うと次の瞬間には顎をとられ、上を向かされる。
了見のもう片方の手がさらりと遊作の額をなで、やたら整った顔が近づくと何を思う間もなくそっと互いの額が触れた。
触れた時は少しだけひやりと感じた額は、すぐに同じ温度になる。焦点が合わないほどの近くに顔があるその状況に、遊作は茫然と間近で伏せられたまつ毛の形を眺めるしかできなかった。
「熱はないようだな」
ややあって、了見は触れた時と同じほどの唐突さで離れた。
「だが体調不良の前触れの可能性もある。勉強も結構だが、今日は早めに休むことを勧め──」
言いかけて了見は眉を寄せた。
「顔が赤いな」
「それは、お前があんな急に……」
言いながら遊作は赤くなった頬を誤魔化すように意味もなく手のひらで頬を撫でた。
「他に、やりようあっただろ」
「……別に他意はない。簡単な方法をとっただけだ」
了見は、とにかく休めと念押しして席を離れるとキッチンカーへ向かう。それを見送り遊作はタブレットを閉じた。
「他意はないとか……」
呟く。
そんなことを言う了見の頬もほんのり染まっていたので。