了遊(付き合ってない)。気づかないタイプの作。了見はいません。
いつもの本編後、遊作とAiちゃん戻ってる次元です
@d9_bond
2月14日──バレンタインデー。
1月半ばを過ぎた頃から世間が喧伝し騒ぎ立てチョコレートスイーツの祭典と化しているイベントだ。カフェナギでも便乗し、期間限定でホットチョコレートの提供を行いそこそこ利益を上げている。
年頃の男子ならば気もそぞろになりそうな一日だが、カフェナギのカウンターに立つ遊作はいつもと変わらない様子だ。客の途切れた合間にそつなくカウンター周りを清掃し、備品を補充しと次に備える様は手馴れたものだ。
追加の仕込みをしながら草薙は考える。遊作自身はああいったイベントに興味を持たないタイプではあるが、周りはそうでもないだろう。浮いた話のひとつもあってもいい頃ではないか。遊作側としては迷惑かもしれないが若人の青春模様に触れたいのが大人の心情である。
というか平たく言うと好奇心から、草薙は話を振ってみた。
「今日はどうだった、遊作」
「どうって?」
手を止めて、きょとんとして首を傾げる。
「おいおい、今日はバレンタインだろ? 貰えたのか」
冗談めかして問えば、そういう話かと遊作はあきれ顔で首を振った。
「俺がもらえると思うのか」
「いやいや今日家に帰ったらポストに、とか分からないぞ? そうじゃなくても義理でも何かないのか」
「ああ、財前から聞かれはしたな。義理で周りに配っているから甘いものが苦手でなければ、という話だったが断った」
「そうか……って、お前甘いものは平気だったろ」
先月の話であるが、ホットチョコレートを始める前に試食として出したことがある。その際遊作は普通においしいと飲んでいた。
「確かに甘いもの自体は嫌いじゃない。ただタイミングが悪くて断ってしまった」
「というと」
「実は、先月末くらいから了見が、やたらと仕事先からチョコレート菓子を送ってくるんだ。それで間に合っているから」
予想外の名前が出て、草薙は手を止めた。
「彼が? 遊作宛に?」
「ああ。人気のものみたいだ。おすそ分けみたいなことを言っていたな」
今日もおやつに食べていた、と遊作が述べたメーカー名は草薙でも分かる海外の有名高級ブランドだ。
「経緯は知らないが、ずいぶんもらったらしい。俺がもらった分を食べ終わりそうになると次のものが届くんだ。おかげで今月はずっと毎日チョコレートを食べている」
「なるほど……毎日、か……」
遊作の方は了見の言葉を額面通りに受け取っているようで、「今日のはざくざくしてて少しオレンジの香りがしておいしかった」などと平和な食レポを述べている。
「……Aiは何か言っていなかったか?」
「牽制だとか婉曲すぎるとか騒いでいたが、あいつは基本的に了見のやることには騒ぐからな。いつものことだ」
「ああ……そうだったな」
作戦勝ちとするべきなのか、そこまでするなら覚悟を決めろと言うべきなのか。どちらにしろ遊作が困っていないのなら自分が口をはさむことでもないと、草薙はあえてあまり深く考えないことにした。仕込みを再開する。
「そうだ。あのおいしいやつなんだがまだ少し残っているんだ、草薙さんも食べてみないか?」
「絶対いらないな」
それだけははっきり全力で断っておいた。