ピクスク様のオールジャンルイベント『宝石に夢中』参加作品の2作目です。
こちらも、両片思い期のΔドラヒナになります。
大侵攻前の時間軸、本部長が持って来た見合いの為に、シンヨコを離れるΔ隊長を見送りに来たヒナイチくん。
Δ版ホワイトスノープリンセス風味を混ぜると、何故か切ないお話になりました。
実は、裏設定として
太陽の王子様は、一人では国を砂漠が広がる不毛の地にしてしまう程の強い力を持っています。なので、お姫様と結ばれる事で、後々、実り豊かな地になる…そういうイメージで見て頂ければ。ちょっとこの辺り、『魔神英雄伝ワタル』の、灼熱の剣と極寒の盾・極寒の剣と灼熱の盾(アツサムとウララ)のイメージも混ざっていますね。
他のΔドラヒナのお話は、こちらから読めます →https://privatter.net/category/51192
@kw42431393
*捏造設定になります。
・Δ隊長は、父親のドラウスさんは人間、母親のミラさんが吸血鬼という設定です。ヒナイチくんより一回り年上。ルーマニア育ちの日系ハーフ。なので、独り言や鼻唄に突然ルーマニア語が混じったりする。生まれつき虚弱体質だが、ブーストを使えば短期戦の戦闘参加は可能で、本編よりは体力もある。幼い頃から「ダンピールとしての、突出した探知能力で市民を守る」という夢の為に突っ走ってきたので、子供時代の話や、普通の高校生をしているヒナイチくんと喋る時、寂しそうな顔になる癖があります。
・Δジョンは元々ミラさんの使い魔で「体の弱い息子をよろしく頼む」と言われ、Δ隊長を主人として尊敬し、行動を共にしている設定になっています。なので、Δジョンの方がΔ隊長よりちょっと年上です。この世界でも新横浜のアイドル。
・ΔヒナイチくんとΔ隊長の出会いは、彼女が幼い頃に下等吸血鬼に襲われていたところをΔ隊長が助けた、という事になっています。Δ隊長は幼い頃からの憧れの人で、常にキラキラした目で見上げています。元々和菓子党だったが、幼い頃に貰ったクッキーを食べてから、現在はクッキー党。バーの娘なので、他の世界線に比べて料理は上手で、コミュニケーション能力もそこそこ高い。
「クソッタレ…」
「ヌンヌン。」
いつもなら、ここで勤労…と続く所だ。
もはや、ただの口癖。
大学、警察学校と飛び級で卒業し、ブラック企業ばりの激務を課されて、ずっとこの道を走り抜けてきたのだ。
アラサーともなってしまえば、鼻で笑ってしまえるとも。どうしようもなくやるせない時は…少しだけ、煙草の力を借りる事もある。
うん、少しだけだとも。これでも、かなり減ったのだよ?
「どうしたんだ?ドラルク隊長?」
疲れたおじさんを見せたくない…そう思える、少女が現れたから。
「気をつけて、いってらっしゃい。帰って来るまで、街の事は私達に任せてくれ。」
「わざわざ、見送りすまないね。約束を果たせなくてごめん。せめて、出張とかなら諦めもつくのだけど。」
「いいんだ…実質、仕事じゃないか。本部長が持って来た…み、見合いだろう?」
新幹線を待つまでの間、待合室でそんな話をする。
そう。『勤労』なら、まだよかったのだ。
あのクソッタレ本部長が、お父様に打診して…
『お前も、そろそろいい歳だからな。本家や両親の事も考えろ。』
喧しい。そんな暇さえない程の仕事量を回してくるのは、どこのどいつだ。
なけなしの有給まで使って、何が悲しくて…
「い、従妹の女性なんだってな…綺麗な人なんだろう?」
ヌ~ン、綺麗は綺麗ヌけど。なんと言ったら、いいのかヌ。
「まぁ、幼馴染だね。昔から馬は合わないんだけど、何故か、親達は仲良しだと思ってる。」
向こうだって嫌がってるのに。
本家がどうだの、親族がセッティングした見合いだの…いつの時代だ?昭和か?
まぁ、私がスーツケースを引きずっているのは、そういう訳だ。
ため息をつく。だって、約束があったのだから。
目の前にいる、思いを告げようとしている意中の少女の…
「見たかったよ。君が演じる、凛々しい太陽の国の王子様を…。」
「ヌンヌ。」
約束があったのだ。なんでも、今度のバレンタインイベントで行われる演目があって…ヒナイチくんが、王子様役に選ばれたのだから。
題名は、『ホワイトスノープリンセスと、太陽の王子』。
さっくりと、説明すると…所謂、触れた相手を凍らせてしまう能力を持ち、孤独を抱えたお姫様と、何故か彼女に触れても平気な、温かい心を持った青年が、主人公だ。
二人は隠れて交流を続けていたが、王女様もいつしか18の誕生日を迎ええる。そして、掟によって縁談が持ち上がる。相手は、遠国の太陽の国の王子様。意中の相手がいるお姫様は隠れてしまい、さらに力が暴走して、国中が大雪で閉ざされてしまう。そんな彼女の捜索に現れた、縁談相手の王子様は、実は…
という、お話だと思ってくれればいい。
私から言わせると、彼女は、周りが思っている以上に母性的で女性らしい。プリンセスもよく似合うだろう。
しかし、心を閉ざしたお姫様を包み込む、柔らかな笑顔は太陽の役をするのに相応しい。
私はそう思っているし、周りもそう思って推薦したのだろう。
『私は、ガサツな人間だからな…王子様の仕草というか振る舞いに自信がなくて。練習につき合って貰えないだろうか。』
『え…私かね?いいよ、時間が許せる限り、協力させて貰うとも。』
そうやって、誰もいない公園で、報告書を持ってきた時間に隊長室で…貴族的な立ち振る舞いを練習してきたのだ。
『特に、ラストの誓いのシーン。隊長の仕草を…時々、私の手にキスをしてくれるだろ?あれを参考にしたいんだ。ダメかな?』
『ラストの?だ、大夫かな。セクハラになったりしたら…な~んて。アハハ。』
練習はね…大変だった。セクハラ?まさか、とんでもない。
あと、腰も痛いよ。ずっと、背を屈めてないといけなかったし…え?何故かって?
『私』が、『ホワイトスノープリンセス』の役をしたんだ。
「なぁ、ドラルク隊長。手袋を取って貰っていいか?」
もうそろそろ、ホームに行かなくちゃ…そう思っていた時だった。
ヒナイチくんが、妙に真剣な顔でそう言ったのは。
「ちょっと、誓いのシーンを練習したくって…ダメか?」
「ん。い、いいよ…今なら、ジョンしかいないし。」
習慣的に嵌めている、手袋を外す。そして、カバンから小さな小箱を取り出して、彼女に渡した。
今回は親族の集まりでもあるので、本家の者である事を示す…竜鱗を象った指輪を着けないといけない。だから、自分でも久しぶりに見た気がする。
これを着けてもいいのは…うちの血筋の直系の者とその配偶者だけ…着けたい相手は、決まっている。
いっそ、途中で宝石商によって、指輪のサイズを合わせて貰って…君を連れて行きたいぐらいなのに。
『プリンセス。さあ、お手を…この指輪を受け取って下さい。』
王子様役になったヒナイチくんは、椅子に座ったままの私に跪く。
そして、小箱から取り出した指輪を手に取った。お話の中で、凍りついたお姫様は、手を握りしめて動かない。薬指に指輪を受け入れる事は、求婚を承諾した事になるからだ。
温かい感触を、左手に感じた。白くて健康的なその手に、血色の悪い私の手が重なる。
そのまま、彼女の柔らかな唇は、左手の薬指にそっと触れた。
王子様に触れられた指の氷は、ゆっくりと溶け出して…慌てたお姫様は、左手を隠してしまう。あくまでも、求婚を拒むつもりだから。
『さぁ、目を開けて下さい。僕を見て…初めて会った時から、ずっとこの瞬間を待っていたんですよ?』
瞼に、柔らかい感触が落ちる。瞼の氷も溶け出して…そして、やっと気づくのだ。
その相手が、初恋の想い人であった事に…
『あっ!?こ、これは…一体。』
『アハッ!!やっと、分かってくれたんだ。そう、僕だよ!ほ~んと、君ったら一回凍っちゃうと、頑固なんだから!!』
そして、紫に光る指輪に改めて口づけを落としてから…ヒナイチくんは、私の指に指輪を嵌めてくれた。
やっぱり、劇を見なくてよかったかもしれない。実際のホワイトスノープリンセス役の女性に、私が嫉妬してしまいそうだ。
彼女への想いを自覚してから、何度となく見た夢…ウェディングドレスを着た君に、この指輪を嵌めて貰う瞬間は、他の誰にも譲りたくない。
『僕もね。あの時、君に会えて嬉しかったんだ。僕も一緒なんだ。僕に触れられた者達は…炎に焼かれてしまうのだから。』
そして、王子様の口づけを受けて、国中の大雪は止み、暖かい太陽に照らされて…
「隊長…ごめんな?」
『そう、それで私に触れられても…え?隊長って…?』
「ヌッ!?」
突然、私の唇にも、温かい感触が落ちた。
あれ?唇?
練習…だよね?本気出し過ぎじゃない?
「ひ、ヒナ…?」
『君が初めてだったんだ。僕の事を、『熱い』じゃなく『暖かい』って、言ってくれたのは…本当に嬉しかった。もう永遠に、一緒だよ?僕の大切な…ホワイトスノープリンセス。』
「ごめんなさい。ドラルク隊長。」
新幹線で出発した、想い人を見送ってから…私は、ギルドへの帰途につく。
イベントは明日だから、ギルドで最後の打ち合わせをしなければ…そうなんだけど。
「グスッ…お見合い、か。」
本人は、『馬が合わない相手』だと言う。でも、何年も離れてたんだ。
久しぶりに再会したら…そりゃ、うまくいった方がいいに決まっている。少なくとも、由緒正しい竜の血族の血を引き、吸血鬼対策課創設者の孫でもあるあの人に…一般人の私が、釣り合うはずがない。
「ダメだ…もうちょっと、目の腫れが収まってから帰ろう。」
だから、一緒に練習したあの公園に入る。ハンカチを水に浸して、目に当てる。
『隊長、もう少し屈んで。練習なんだぞ?そんなに、緊張しないでくれ。』
『ん、ん〝ん…ち、近いよ、ヒナイチくん。若い娘さんに、そんなにジッと見られたら。』
駄目だ。そこの滑り台で練習した時の事が、思い出されて…また、じわじわと涙が滲んでくるのが止められない。
「もし、うまくいったら…あれが、ラストチャンスだから。練習だって…嘘をついて、ごめんなさい。」
演じる予定の王子様と違って…現実の私には、勇気がなかった。
『隊長、断れないのか?小さい頃に、助けて貰ってから…ずっと、貴方が好きだったんだ。』
その一言が、言えなかった。
だから、貴方が誰かと家庭を築く前に…ずっと抱いてきた、ささやかな夢を少しだけ。
そうなったら、今日の思い出を胸にしまって諦めるから…だから、少しだけ。
練習にかこつけて、触れた唇を指で撫でる…その時の感触を思い出しながら、私はここで練習した時の台詞を呟いた。
「そんな顔をしないで。ずっと、僕が守ってあげる。僕のたいせ…つな…はつこいの…ひ、と。」
私の心を代弁したかの様な、王子様の台詞を。
貴方に気づかれる事なく散っていく…この言葉を。