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キリシタンすり抜け主と刀剣男士〜本丸の春一番と春二番〜

2025-02-13 18:54:00

伊達組と伊達家の話を絡めた平和なお話

前作(黄金の花弁に抱かれて眠れ)
→ https://privatter.net/p/11399930

春の一号とは
その家における史上の宝のこと。

《本丸の春一番と春二番》

ぶわ、と鮮やかな春風が吹き抜けた。

髪を巻き上げ、木々を大きく揺らしたその突風に、主は「わっ」と髪を押さえた。
縁側でのんびりと片胡座をかいた鶴丸が「おっ」と鷹揚に笑った。

「驚きの突風だったな」
「春一番だね」

ほのぼのと笑う彼女がそう口にして、穏やかな春の景観を眺めた。
平和な春の庭には、美しい陽射しがきらきらと降り注ぎ、木漏れ日が揺れている。

そんな彼女の背後に、足音を消してひっそりと忍び寄る気配が一つ。
気付いている鶴丸は、けれど素知らぬ顔をした。

抜き足差し足した人影が、彼女の背中まで慎重に近寄って「わっ!」と大声を上げる。
彼女は座ったままピャッと跳ねた。

軽やかな笑い声に振り返ると、太鼓鐘が仁王立ちしていた。

「春二番様がド派手に登場だぜ!」
「貞ちゃん!」

太鼓鐘の陽気な掛け声に、彼女はパッと表情を明るくして、嬉しげに笑った。
「わ、珍しいね! もう帰ってきたの?」
「おう、順調だったからな、少し早く切り上げて帰ってきたんだ。主の顔も早く見たかったしな」
「遠征隊長お疲れさま!」
「おうよ。後で他の連中も労わってやってくれよな。今回は火車切がすげー頑張ってたぜ」
「そうなんだ!」

元気な太鼓鐘と嬉しげな主との間で、ほのぼのと交わされる平和なやり取りに
「いいねえ、実に派手な南風じゃないか」
と鶴丸がのんびりと笑った。

こてん、と不思議そうに小首を傾げた彼女に、太鼓鐘は心得たようにニカッと笑って、自慢げに拳で胸を叩いた。

「オレ達がいた伊達の家ではな、貴重な刀剣に番号を振って春夏秋冬に分けて大事に管理してたんだ。中でも貴重とされてたのが『春』で、俺は春の二号、伽羅ちゃんが春三号だったんだぜ」
「わ、そうなんだ! そっか、それで! すごく風流な名前だね!」

主は両手をパッと合わせて、花のように笑った。

「春の二番風と三番風かあ。春二番が吹くと桜が咲いて、春三番が吹くと桜が散るって言うよね。貞ちゃんの名前と伽羅ちゃんの名前、すごく素敵だなあ」
「サンキュー主、そう手放しで褒められると照れるな!」

手を頭の後ろで組んで、太鼓鐘は嬉しげに笑うと、照れくさげに鼻の下を擦った。
彼女はふと瞬いて、期待に満ちた目で隣を振り返った。

「じゃあ、鶴るんにもあるの? 春夏秋冬の名前」
「いやあ、それがなあ。付いてたかもしれんが、残念ながら伝来そのものが途中で途切れちまってて、オレ自身も忘れちまったんだよなあ」

鶴丸はそう言いながら腕を組み、記憶を手繰って考え込むように、ぐいーっと首を捻った。

「オレはあちこちを転々としてたせいか少し記憶が曖昧な部分もあってなぁ。伊達の家で長いこと世話になったのは確実だし、とりわけ貴重な逸品として扱われてたのは間違いないはずなんだが、なぜか後世に伝わってる春夏秋冬のどこにも号の記録が無いんだよなあ」
「そうなんだ、不思議だね」
「鶴さんに限らず、伊達家の貴重な刀で号が不明なの、特に随一の名刀に何振かいるんだ。伊達の家にはかなりの数の刀があったからさ。誰が割り振られてたか良く分からなくなっちまった春の号、実は結構あるんだよなー」
「別の蔵で特別に管理されてたのか、伝わる途中で書き損じられたのか……まあ分からんな! 思い出せんものはしょーがない」

からりと笑った鶴丸に、彼女は小首を傾げてふわりと笑った。

「そっかあ。伽羅ちゃんが春三番、貞ちゃんが春二番って呼ばれてたなら、てっきり二人より古くに打たれた鶴るんが春一番なのかなって思ったけど、違うんだね」
「そうだな、ちょいと記憶は曖昧だが、春の一号はオレとは違う太刀だったと記憶してるぜ」
「春一番、突然吹いて人を驚かせる暖かい突風、鶴るんにぴったりだと思ったんだけど」
「ふは、そいつぁ光栄だな」

「あれ、伊達家の話? 懐かしい話をしているね」
光忠がおやつの盆を持って縁側にひょこっと顔を出した。

「ああ、貞坊や伽羅坊と違って、オレは春夏の号をどうにも忘れちまったんだよなーって話をな」
「みっちゃんは?」
「僕の場合、鶴さんとはちょっと事情が違って、実は伊達の家にあった光忠作の刀は僕だけじゃないんだ。同じ太刀の他に、脇差の光忠もいたと記憶してるよ」
「わ、そうなんだ! みっちゃんでも福ちゃんでもない兄弟刀がいたんだね」
「うん、だから、白鞘の向こうで光忠の名前を呼ぶ人の声が入り乱れててさ。僕の記憶だけだと、どの光忠のことを呼んでたのか、よく分からないのが正直なんだよね。だから『多分これ』って分類と号は記憶にあるんだけど、明言は避けさせてもらってるんだ。伝来として記録に残ってる番号も、多分これ、ってとこまでは絞り込めるんだけどね。それに、僕はその分類がきちんと完成する頃には、もう伊達の家を離れてしまっていたから」
「そっかあ。じゃあ春二番と春三番って名前がはっきり残ってる貞ちゃんと伽羅ちゃんは、いろんな誰かが二人を大事にしてくれた、貴重で幸運な積み重ねの結果なんだね」
「そういうことだな」
「さっすが主、いいこと言うじゃん」

風に導かれるように、つい、と鶴丸が外へ視線をやった。

「さて、きみ、そろそろ桜に霊力を流す時間じゃないか?」
「あ、そうだね。行かなきゃ」
「せっかくだ、主、俺と行こうぜ!」
「ふふ、そうだね貞ちゃん。春二番は桜が咲くんだもんね」
「おうよ、ド派手に咲かせようぜ!」

とたとたと華やかに駆けていく足音二つが遠ざかっていくのを見送り、鶴丸はのんびりと外の景色に目をやった。
光忠が「どら焼き、鶴さん食べる?」と隣にゆったりと腰を落とすと、鶴丸はのんびりと「頂くぜ」と笑った。

甘味の甘やかさを舌でゆったりと堪能する鶴丸の視線は、丘の向こうの桜へと熱心に注がれている。
待っているとやがて、ぶわりと金色の霊力が満ち、春風のようにきらきらと流れ始めた。

「ま、やっぱりオレじゃあないな。春の一番は」
手についた餡子をぺろりと拭う。肘をついて手のひらに顎を乗せ、鶴丸は遠くを見やった。

心地良い陽光が差し込む、丘の向こうで。
彼女の霊力を吸った金色の桜が、花も盛りとばかりにぶわりと美しく咲き誇った。

光り輝くような黄金の花弁が
春風に乗ってきらきらと舞い散る。

「この本丸の春一番いっとうのはるは、やっぱり彼女あれだろ」
「そうだね、春の一号は、その家にとって一番大切な宝のことだもんね」

温かな春の平穏を、風が揺らしてる。

《本丸の春一番と春二番》


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