マニはヒューゴの異母弟前提、芳醇な愛のレマーテ後時空、CPなし
マニ目線
@vmon1202
【ロスト ハートレス】マニ編
「マニ、何か嬉しいことでもあったの?」
工房に来た書記生は、僕の顔を見ながら聞いた。
たぶん、今の僕の顔は微笑んでいるのだろう。嬉しい気持ちが表に出ていたから、そう聞かれたのだ。
「お母さんから手紙が届いたんだ。」
そう答え、書記生に理由を伝える。そして、この幸せな気持ちを友達と分かち合いたくて、さらに詳しく話した。
「ミーティアでの出来事を手紙でお母さんに伝えると、お母さんが返信をくれるんだ。」
それを聞いた書記生は微笑んで。
「マニは親に愛されて育ったから、こんなに優しくて、愛を理解している人になったんだね。」
「え、えっ? ありがとう。」
突然褒められて、恥ずかしくなった。でも、なぜそう言われたのか思い当たらず、首をかしげる。
「あっ、今日は“愛の日”だから、そう思ったんだよ。」
疑問に思っていた僕に、書記生はそう説明し、続けて言葉を紡いだ。
「前に、マニには家族愛があるって話しましたよね? それに、俺やオリヴァーたちのことを大切に思っている。だからこそ、マニは愛にあふれた人だと思います。」
僕はただ、みんなからもらった優しさを返したいだけ。
でも、みんなに優しくして、想ってくれる書記生と比べたら、僕は自己中心な人だ。
秘密がバレないように人を避けて、自分の居場所を作るために誰かの後ろに隠れて……
こんな僕が「優しい人」だと思われていいのかな?
でも、それを言ったら、きっともっと褒められて、短所も長所に言い換えられてしまう。
だから、言葉に出すのはやめた。ただ、書記生の言葉を待つだけ。
「こんな素敵なマニに、いい知らせがあります!」
書記生は高揚した声で、手の甲のステラの中から紙を取り出し、それを僕の目の前に差し出した。
「じゃんじゃん! マニが欲しがった術具のレシピ!」
「わあ! 書記生、探してくれたの? ありがとう!」
突然のサプライズが嬉しくて、感謝しながらレシピを受け取った。
「違うよ、俺じゃない。このレシピは、とある不器用な先輩が俺に託し、マニに渡してくれたものなんだ。」
でも、書記生は首を振り、次に出る言葉に、僕は思わず「えっ?」と疑問の声を上げた。
「俺はね、誰にでも愛はあると信じてる。ただ、表現の仕方は人それぞれだ。素直に正直に伝えられる人もいれば、逆にそれができない人もいる。
そのせいで想いがすれ違ってしまうのは、寂しいことだと思う。だからこそ、伝えられるときに、ちゃんと伝えるべきなんじゃないかな。」
書記生は目を伏せ、少しお節介なほどに想いを伝えてくれた。
その声も言葉も、あまりにも優しくて温かくて、少しも嫌な気分にならない。
だって、その言葉を口にしているということは、きっともう僕の秘密に気づいているのだろう。
ずっと僕たちを見てきた書記生だから。
でも、口にはしなかった。僕がまだ言葉にしていないから、話す時を待ってくれているのだろう。
それでも、僕たちのことを気にかけてくれている。
きっと、みんなを愛しているからこそ。
そうだよ、君こそ愛にあふれた人だ。君の想いに応えたい。
でも、そうしたいのなら、あの人と向き合わなければいけない。
昔のように無表情で関わらずにいられたのなら、ずっと避けていればよかったのに。
だけど、こんなにも感情があることを見てしまった。知ってしまった。
あの人にも友達ができて、人間らしく見えるようになったから。
こんなの……こんなの、ずるいじゃないか。
「……無理しなくてもいいよ。さっきのことは、なかったことにしてもいい。」
黙って考え込む僕に、書記生は申し訳なさそうにまだ目を伏せた。
僕の大切な友達が、ここまで思い悩むなんて。
もし、あの人が応えられないのなら――僕が応えよう。
この優しい人は、報われるべきだ。
「ここには、身分も立場もない。みんな同じ、ただの学生です。」
カシム先輩の言葉を思い出す。
仮面をかぶれば、何者でもなくなる。
「……僕たちは、ただの先輩と後輩ですよね。
ありがとう、書記生。」
決意を固めた僕に、書記生は後ろの扉へと視線を向けた。その意味を理解した僕は頷き、書記生は微笑んで見送った。
工房を出ると、すぐそこに、大きな背中があった。
「ヒューゴ先輩!」
逃げられないように、大声で呼び止めた。
足が止まるのを確認し、振り向かないことにほっとする。
今の僕は、どんな表情をすればいいのかわからない。
もしあの人の顔を見てしまったら、また避けたくなるかもしれない。
見なくてよかった、と思った。
でも、もう口にしてしまったのだから、言わなきゃ。
「あの……レシピ、ありがとうございます……」
礼を言っても、あの人は何の反応も示さず、ただそこに立っているだけだった。
僕と書記生の会話を聞いていたはずだ。
でも、僕がこんな行動を取るとは思わなかったのだろう。
僕自身も、思っていなかったから。
「……」
伝えるべき言葉は伝えた。
書記生の元へ戻ろうとすると、あの人は右手を軽く振り、そのまま黙って去っていった。
それは、拒絶ではなく、受け入れの意思表示なのだと思う。
書記生の言った通り、不器用な人だね。
僕も人のことは言えないけれど……
でも、いつかお互い素直に向き合える日が来たら、みんな、喜んでくれるのだろうか?
(終わり)