マニ編を先に読んでください
マニはヒューゴの異母弟前提、芳醇な愛のレマーテ後時空、CPなし
ヒューゴ目線
@vmon1202
【ロスト・ハートレス】ヒューゴ編
「書記生、これからマニのところに行くだろう?これをマニに渡してくれ。」
工房へ向かう後輩を呼び止め、用事を伝える。
以前、たまたま二人の会話を耳にしたことがあった。思い当たるレシピを手に入れ、渡したいと思った。ただし、自分の手ではなく、他人の手を借りて。
「これは!?マニが欲しがってた術具のレシピ!……で、盗み聞きでもしてた?」
「風の噂だよ。」
人聞きが悪いな。俺をそう見てるのかな?いや、前科があるからかもしれないな。
「……なんで自分で渡さないの?」
溜息混じりに後輩が言う。その瞳は憂いを帯びつつ泳いでいる。
聞くことに戸惑っているのだろう。
あの子が俺と一緒にいると気まずくなるのを知っているし、俺が気遣って距離を取っていることも分かっている。
それでもなお、こうして聞いてくるのは、何か期待しているのだろうか。
「俺みたいな先輩が突然会いに行ったら、マニも驚くだろう?」
“その期待、応えられなくで、ごめんね”と思いながら、何でもないような顔で笑ってみせると、後輩もそれ以上は続けてしない。
「分かりました。でも……マニ、絶対に喜びますよ。だから、先輩も少しだけ覗いてみたらどうですか?」
考えられない提案だ。なるほど、相手の喜ぶ顔を見ることで、それを自分へのお礼のように感じるというわけか。
あの子の笑顔が見られるなんて、十年以前の俺には想像もできなかっただろう。
あの国を離れたからか?友達ができたからか?
それとも――君がいたからか?
「……なんでついてきてるんですか?」
「たまたま同じ方向だっただけだよ。」
君の提案に乗り、工房に辿り着き、扉の影に隠れたまま後輩たちの会話を耳にする。
笑顔で喜びを分かち合うその光景には、どこか温かさがあり、感慨深い気持ちが浮かび上がった。同時に、自分への苦笑いを浮かべ、この感覚を心の奥に押しやる。
もしミゲルがここにいたら、きっとこう言うだろう――「これは人間の感情だ」って。
『マニが欲しがった術具のレシピ!』
『わあ!書記生、探してくれたの?ありがとう!』
扉の隙間から、工房の中を覗くと、書記生がマニに笑顔で語りかけていた。その光景は誰もが微笑ましいだろう。
『違うよ、俺じゃない。』
ダメだよ、本当のことなんて言ったら、あの子を困らせるだけだろう?
真実を綴る書記生だから?それとも、俺たちに何かを変えてほしいと期待しているから?
……いや、分かっている。俺たちには「今」しかないからだ。今、伝えなければ、もう伝える機会はないから。
そう思う時点で、きっと俺も変わった証拠だろう。
あの子も、昔のように人見知りで怯えた内向的な姿とは違う。今では友達と笑い合い、誰かに背中を押されると、自分の力で前に進めるようになった。
『……僕たちは、ただの先輩と後輩ですよね。ありがとう、書記生。』
だから、もうこれ以上ここにいてはいけない。歩幅を踏み出したその時、背後から呼び声が響いた。
「ヒューゴ先輩!」
背後から響いた声に、一瞬足が止まる。思わず眉間に力が入った。やっぱり――呼ばれてしまったか。
逃げるべきか、振り向くべきか。そんな迷いが頭をよぎる。でも、振り向いてしまったら、どんな顔をすればいいのか分からない。きっと、あの子も同じだろう。
俺たちの間にある距離は、埋められないほど深いはずなのに――。
「あの……レシピ、ありがとうございます……」
否定しないと、俺が用意したものだと認めることになる。でも、声に出して誤魔化そうとすると、それはそれで俺の悪い癖だとミゲルに叱られるだろう。
仕方なく、言葉の代わりに右手を軽く振るだけにした。
俺の周りには、優しすぎる子ばかりだ。
(終わり)