戦争後遺症のバリエーションについて考える(最低)
@azisaitsumuri
安物のドレスを裂いたような声に飛び起きた。
唐突に眠りから起こされた衝撃に、わたしとしたことが記憶を混濁させ、原因の致すところが自分(が連れ込んだお嬢さん)にあるかと思った。
しかし横を見れば、さめざめとして泣いているのは、小柄でも決して女の体などしていないことをよく知った相手だった。反射で手を引くどころか元凶を押さえ込もうとするような男だ。
けれどこの寝惚けた傭兵は、今はそれこそ「安物のドレスを身に纏ったお嬢さん」なのだろう。少しでもわざとらしければ嫌悪感を抱く自分が、自然と女性相手に触れる時と同じ手付きになるくらいには。
けれどそれではいけない。
普段の自分を振り払うつもりで、淑女を扱うには乱暴なくらいの勢いで、がたがたと震える肩を掴む。
「一般人だな。直ぐにここから離れろ。」
どこ迄実際に遭ったことなのかは分からぬが、華奢だったのだろう相手に触れたのは、この傭兵だった筈だ。自分が扱った相手側に自分を投影して、追体験しているのだ。
どうしてそんなしち面倒臭い記憶の追従をしているのか分からないが、これをこちらが普段通り傭兵として扱ったり、面倒臭さに抗うことなく放っておいたりしたものなら、それはそれで気味の悪い事態に陥るのだ。
「殺すんでしょう。」
既に死体みたいな顔をこちらに向けて、そんなことを言うのだ。早とちりで自分が死んだものだと勘違いで死に急ぐのも大概にしてほしい。
だから見ず知らずの悲鳴を上げる幼くか弱いお嬢さん、否、この男を戦場から遠去けてやらねばならないのだ。
どこ迄実際に遭ったことなのかは分からない。どうせ朝になればこの男は覚えていない。だからこの模擬追体験が、事実なのか妄想なのか、実際逃せたのか願望だったのか、知ったこっちゃない。
ただどうあっても、わたしにとってこの相手は、わたしの抱き枕として共寝を許した傭兵のお人形なのだ。
わたしは、それが分かっているにもかかわらず、否、充分分かっているからこそ、こうして夜な夜なこの男のままごとに付き合ってやっているのだ。
一晩でさえこの男を殺さず、殺させないために。当然でしょう。だって、誰の横で寝てるおつもりで。