12歳差人間AUアジクロ
@otohitoe_
「服?」
「冬服欲しい」
「わたしでいいの?」
「おまえ以外誰誘うんだよ」
「だって…」
週末は空いてるかと尋ねられたところまではよかった。ただ、その誘いの内容に少し戸惑った。アジラフェルにはおしゃれのことなどさっぱりわからない。正直言って服にそこまで思い入れもなく、人並みの恰好であれば何でもいいという質で、それを見兼ねて…というほどでもないと信じたいが…クロウリーがついこの間見立ててくれたところだ。ひょいひょいラックから取り出してはアジラフェルに当て、店員とよくわからない横文字であれこれ喋っているクロウリーをアジラフェルはただぼんやり見つめていただけだった。
自分じゃ選ばない服を見立てられるから楽しい、と微笑むクロウリーの言葉に嘘はなさそうで、楽しそうなクロウリーを見ているだけでアジラフェルもうれしかった。それもクロウリーにはすぐにバレて、自分の着るものなのだからちゃんと集中しろと叱られた。それすらうれしかった。
そうして選んでもらった服が、ついこの前同期生から「似合ってるね」とひと言褒められた。そんなことを言われたのは初めてで、若干戸惑いつつありがとうと返したものだ。きっとクロウリーは良いセンスを持っているのだろう。勿論最初から疑ってもいなかったが。
要するに、アジラフェルがクロウリーの身につけるものに対して口出しするような隙があろうはずがない。服選びのお供など完全に不適任だ。
「一緒に行っても、たぶん何の役にも立てないよ」
ベッドの縁に腰掛けているクロウリーを見上げて遠慮がちに言うと、クロウリーは心底意外そうに眉を持ち上げ首を傾けた。
「ていう口実でデートに誘ったつもりなんだが」
「…あ、え、」
「ほんとに他のやつと済ませてもいいのか?」
「えっ、だめ…」
思わず膝に手を置いた。
「あ、…」
つい触れてしまったこととその膝蓋骨の小ささにびっくりして、アジラフェルはすぐに手を引いた。
しまった。と思った。手を引いたことで余計に恥ずかしくなってしまった。クロウリーはきっとこの程度のこと気にもしていないだろう。
数拍、クロウリーはひっそりと固唾を飲むアジラフェルを表情を変えないまま見下ろしていたが、すぐにふ…と笑みを漏らしてアジラフェルの頬を撫でた。左手の指の背がひたと触れ、おそらく人差し指がすいと目尻に向かって頬を滑る。
アジラフェルは気恥ずかしさから一瞬目を逸らしたものの、勇気を出してすぐにもう一度見上げた。クロウリーはただ優しく微笑んだままだった。何も言わず、ただそれを待っていた。
アジラフェルは心臓をどきどき鳴らしながら膝を床につけ、背を伸ばしてぎこちなくキスをした。
重なった唇から「ふふふ…」と笑い声が漏れたかと思うとそのままぎゅうっと抱きしめられて、アジラフェルもおずおずとベッドに腰を下ろした。
「ク…クロウリー、その」
「うん」
「行きたくないって意味じゃなかった。デートはしたい」
「わかってる。じゃ、明後日な。アウトレット行こう」
「遠くない?」
「あ、車で行く。昼前におまえんちまで迎えに行くよ」
「車?きみの?」
「あれ…見たことなかったか?裏に停めてあるやつ」
「見たことない…」
「そうか。まあ、あるんだよ」
クロウリーの秘密がまたひとつ明らかになった。本人は秘密のつもりなんてちっともないんだろうけど。知り合いになって二年、正式に付き合い始めて二か月と少し経つが、アジラフェルももうあまり驚かなくなってきていた。きっと何がどうであったって結局好きなことには変わりはないんだろうし、と腹を括ったとも言える。
「おまえって何にでも良いって言ってくれるし、それを嘘だとは思ってないけどさ。そろそろちゃんと好みくらい聞いときたい」
「好み…が、あるのかな。自分でもよくわからない…」
「でも黒いエプロンより緑のほうが好きだろ?」
「え!」
「そういうのを知りたいだけだ。だから別に気負う必要はない」
「どうしてそんな…違う、どっちも好きだよ」
確かに緑色のエプロン姿のクロウリーは好きだ。好きだが、上下とも黒色の服が多い赤い髪のクロウリーとよく似合っているように見えるからというだけで、黒色のエプロンだって同じくらい好きだ。けれどそれを弁明しようとすればするほど説得力に欠ける気がして、結局うう…と言葉を飲んでしまう。クロウリーは可笑しそうに目を細め、再びアジラフェルの頬を指先でちょんと撫でた。
「楽しみだな。明後日」
「…うん」
アジラフェルに新しい目標ができた。自動車免許の取得、車の購入。自分で選んだ服をクロウリーに贈ること。
…まずは帰りにコンビニでも寄って、ファッション誌の一冊を買うことから始めよう。