12歳差人間AUアジクロ
@otohitoe_
「年々増えてないか?」
「顔見知りが増えてるだけ」
車に積んだままにしてある買い物用のでかいトートバッグいっぱいに大小様々な包みを詰め込んで帰ってきたアジラフェルを見て、クロウリーは自分までほくほくした気分になった。
包みの正体はもちろんチョコレート。今年のバレンタインデーは明日だがあいにくアジラフェルは休日だ。
いくつかは紙袋で貰ってきたらしく、普段あまり家の中では見ることのない色合いとデザインの小さなペーパーバッグも二、三個あった。
「うわ」
アジラフェルが無造作に置いたそのペーパーバッグのうちのひとつには見覚えがあった。上品なブルーグレーに金色のロゴ。昔からあるチョコレートの老舗ブランドだ。
「おまえこれ、絶対本命だぞ」
拾い上げた上質な紙の袋の隙間から中をそろりと覗く。十粒くらい入っていそうな綺麗な箱が見えた。
「どうしてわかるの?」
「良いチョコだから。めちゃくちゃ仲良い相手?」
「うーん…いや」
「この紙袋のままくれたのか?」
「そうだね」
「つまりおまえだけに買ってるってことだろ。うわあ、おまえ…本命チョコなんかもらってくるようになって…」
「そうだとわかってたら断ってた」
「あ、言っとくが別に妬いてない。全く。これっぽっちも」
「少しも?」
「少しも妬いてない。悪いな。なあこれカードとか入ってないのか?」
アジラフェルにチョコを返して中を見るよう促すが、何故か「うん…」と渋い顔をするだけで中を確認する素振りがない。
「そんなにわかりやすい?」
「貰ったとき何も言われなかったのか?まあ、それはそれで察するところもあるが…」
「きみにあげる」
「いや、さすがにおまえがちゃんと食ったほうがいい」
「本命だから?」
「ド本命だから」
「じゃあきみが全部食べて」
「なんでそうなるんだよ」
「きみへのチョコだから」
クロウリーははたとアジラフェルを見つめた。共通の知り合いはほとんどいない。
「…おれ?」
「そう」
「誰から?」
そもそもこれだけ本命だと言い切っているクロウリーに対して、じゃあきみが、と相手も明かさず渡してくるアジラフェルも変だ。
あ、と思わず呟くと、アジラフェルはようやく安堵したように肩を落とした。だからさっきからなんとも言えない神妙な表情をしてたのか!
「おまえか!」
「うん」
「なんだ!早く言えよ!」
「なんかすごく恥ずかしかった。そんなにわかりやすいチョコなんて知らなかったから…」
「おまえ、店員と相談しながら選んだろ」
「相談ってほどではないけど」
「おれのこと話した?」
「こういうのが好みだとか、そういう話なら」
「だからだ」
変だと思ったんだ。アジラフェルに本命チョコを渡す人間がいるなんて。
毎日おれのことが好きで好きでたまらないってオーラが駄々洩れのアジラフェルに付け入る隙があるなんて思い違いをする人間はいない、絶対に。少しおれの話をするだけで店員にだってバレバレなんだから。
「どっか飯でも行くんだろうなと思ってた、いつもみたいに」
「たまにはいいかなと思って」
「ありがとう。うれしいよ」
ブルーグレーの紙袋を再び受け取りながら、クロウリーはアジラフェルにキスでお礼をした。
「もしかしてきみからのチョコもあったりする?」
「あると言えばある」
「無いと言えば無い?」
「正確に言うとまだ無い。明日なんか作ろうかなと思ってた。一緒に」
「え!」
クロウリーがそう言うと、期待をいっぱいに孕んだ声色と子供のようにきらめかせた瞳が返ってきた。
「一緒に?」
「材料はひと通りはあるから、今日寝る前にでも何作るか考えよう」
「お菓子作ったことない、楽しみ」
アジラフェルは陽だまりのような笑顔を浮かべ、クロウリーをぎゅっと抱きしめた。
こんな毎日を過ごしていて、たかだかチョコレートひとつに誰がやきもちなど焼くものか。