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猫の日了遊2025

全体公開 了遊 11 2163文字
2025-02-21 23:18:45

了遊(付き合ってない)。遊作を猫の抱き心地にしたいらしい了見。

Posted by @d9_bond

 

 その日も、カフェナギのバイトが終わる頃に了見が顔を出した。
 彼はここのところデンシティ近くにいるようで、頻繁に店に寄る。バイトがない日は家に訪ねてくることすらある。
「今日も予定はないだろう。少し付き合え」
 そんなことを言う。断る理由もないので遊作はいつもついて行ってしまうのだが。
 最近は草薙も慣れたもので、遊作が上がる時間が近くなると「そろそろ彼が来る頃じゃないか」などと準備を促してくる始末だ。


 発端は、他愛ないともしょうもないともいえるようなものだ。
 その日遊作は学校帰りにカフェナギに向かっていた。そして広場に入ったところで了見と偶然出会った。別件で通りかかっただけのようだが、遊作はせっかくの機会と半ば強引に店へ彼を誘ったのだ。
 パブリックビューイングでイベントが開催されることもあり、そこそこ人出があった。何度か人とぶつかりそうになりながらも店へ向かう。
……猫のようだな」
 と、不意に了見が言った。
「何がだ?」
 この辺りに野良は少ない。ましてやこれだけの人混みの中で、と周囲を見回す遊作へ了見は付け加えた。
「お前の事だ。前から思っていたが、身のこなしがどうにもな」
 するりとぶつかりそうな人を避け、人の流れの間をするする抜けていく様がそれらしいと了見は面白がっているようだった。
「そうは言うが──」
 遊作は了見を振り返ったが、タイミングが悪かった。死角から、急ぎ足で歩いてきた人と運悪くぶつかってしまう。
 思わぬ方向からの衝撃に、完全に不意を突かれた遊作は体勢を崩して倒れそうになった。が、
「遊作!」
 転ぶ、と思った次の瞬間、暖かいものに抱きとめられる。
 ぶつかってきた人の謝罪を遠くに聞きながら、遊作はしばし固まっていた。転びそうになった了見が受け止めてくれていたが、案外勢いがあったためほぼ抱きしめられていた。
 ついでに言うなら、了見の手が驚愕に震えているようだった。
「硬い……
 猫じゃない、という茫然とした呟きに続きするりと胴回りを撫でられて変な声が出た。礼より先に苦情が出たのは致し方ないだろう。
「俺は男だぞ。何を期待していたんだ」
「期待ではない、予測とあまりに乖離していた」
「同じじゃないか……?」


 というわけで、猫の印象と裏腹に思いのほか細く抱き心地が硬かった藤木遊作の様を憂慮したらしい了見は、その一件以降頻繁に遊作を食事に連れて行くようになったのだ。しかも奢りで。
 当初は理由がないのにと固辞しようとしたのだが、自分の自己満足だからと譲らない。外食を断ると自宅に食材が届くので、そこはもう色々諦めた。
「毎回なんなんだ……
 はあ、と遊作はため息をついた。
 了見が積極的に顔を出してくれるのは嬉しい。店には基本的に徒歩で、場所によっては恐らく遠回りでそれなりに距離を歩かされるのは謎だが、一緒に過ごす時間が長くなるのでそれも悪くはない。
「猫の液体感を想像したところへこれだ。仕方あるまい」
「人のわき腹をいきなりつかむな……!」
「あまりに硬いし細いしつまめない。固体でしかない。猫はほぼ液体だと論文にもあったというのに嘆かわしい」
「俺は人間だが? おまえもしかして寝てないのか?」
「仮眠はとっている」
「ちゃんと寝てくれ」
「言われるまでもない。食事を済ませたら休息はとる」
「本当だろうな……?」
 人の食生活の心配をしている場合か、と遊作は半目になる。人は睡眠不足で簡単に思考能力が落ちるという。今の自分は了見の目に猫の姿で映っている可能性も考えられる。
 そういえば、と遊作は少し前に尊と連絡を取った際に見せてもらった写真を思い出した。彼の幼馴染が捨て猫を拾ったとかで、拾った当時のがりがりに痩せた子猫が今では面影もなくふっくらふわふわになっている写真だった。
(そういうことか? だとしても言われるほど細くも小さくもないというのに)
 半目になりながら隣を歩く了見を見る。背格好はそう変わらないように見える。
……まあ、俺より多少しっかりした体格かもしれないが)
 付け加えつつ、遊作は自分の胸元を見下ろした。制服の上からでも分かる程度には平らだ。次いで、先日転んだ際にしっかり支えられたことを思い出す。
…………まあ確かに、比べたら……あくまで比べたら、了見の方が体格は良いのかもしれないが)
 それにしても、現実の自分は結局猫ではないわけで。
 遊作は唸った。
「おまえ、俺を太らせて食べる気じゃないだろうな」
 呆れとからかい半々で言ってやると、了見はこちらを見て目を細めた。
 少しの間の後口を開く。
……そうだと言ったら?」
「そ──」
 その眼差しに、一拍言葉が止まった。
 どこか探るような声音が、撫でるような何かを含んだ目が、言葉を詰まらせた。
「そ?」
「──れは、遠慮したいんだが」
 了見はフ、と小さく笑った。
「冗談だ。そう警戒するな」
「ああ……
 そう言われても、先の違和感はぬぐいがたい。了見はこちらを楽しげな目で見ている。
「そもそも、今のままでは食いでがない」
……俺は言うほど痩せてない」
 そう返した遊作は、再度了見にわき腹をつかまれて声をあげた。

 


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