動画『ロウワー/近侍4人本丸』の小説版です。必ず冒頭の注意事項を一読ください。
@4ninkawaii
以下の要素を多数含みます。
※多数の死亡(破壊)描写
※ショッキングな描写
※政府が真っ黒/独自設定
※どんな結末でも受け入れられる方向けです
動画『ロウワー/近侍4人本丸』の小説版です。
一部『さよなら、僕たちの世界 第3話』『ようこそ、失敗した世界 第4話』の内容も含みますが、いずれも観ていなくても問題ありません。
「一つだけ……彼らを助ける方法がありますが、試してみますか?」
一人力なく座り込んでいた大倶利伽羅へ、狐はそう問い掛けた。
噎せ返るような血の臭いが鼻を突く。
傍で倒れているのは、決して短くはない時を共に過ごした仲間達。そんな状況下においても、目の前の伝達係は決して表情を変えることはない。その口調は非常に淡々としたもので、まるで明日の天気でも尋ねているかのようだった。
言い訳をしておくと、普段の自分であればこんな馬鹿げた提案など決して乗らないだろう。
これが最初から出来過ぎた話だということも、頭のどこかでは薄々気付いていたのだ。
ただ、その理由は簡単だった。
大倶利伽羅は伏せた顔をゆっくりと上げる。
正常な判断がつかない程には、心身共に疲弊していたこと。
そしてもう一度、彼らと一緒に星を見に行きたいと思ってしまったこと。
「……聞かせろ」
ただそれだけだった。
*
五時間前――
「今日は久しぶりに俺達揃っての出陣だな。絶好の戦闘日和じゃねぇか!」
「思いっきり曇ってますけど……」
適当なことを言いながら背筋を伸ばす鶴丸の横で、燭台切は苦笑しながら空を仰いだ。
「今日は降るかな?洗濯物を干してから行くか迷うなぁ」
「そんなの非番の奴らに任せておけよ。なんてったって今日は……」
「大切な任務だ」
廊下が軋む音と共に、いつになく真面目な声が二人を呼び止める。燭台切と鶴丸は会話を止めて体ごと振り返った。
いつから聞いていたのか、そこには長谷部が腕を組みながら立っていた。
「今回は近侍……つまりは俺達四人で出陣するとしか聞かされていない。ただでさえ部隊の人数が少ないんだ。万全に整えておけよ」
「わーかってるって」
審査の日――近侍が四人になったあの日から、既に一年以上の月日が経過していた。
四人近侍という新体制は、意外にもすんなりと本丸の仲間達に受け入れられた。
経理面の相談は長谷部、戦術については大倶利伽羅、内番の相談は燭台切、宴会を開きたい際は鶴丸……といった具合で、適材適所に各近侍を頼れるシステムは思いのほか画期的だったようだ。
今回『四人での出陣』という命が下った時は驚いたものの、近侍の仕事が増えて出陣回数が減っていた彼らにとっては、久々に刀剣男士としての血が滾るもの。
それが未知なる戦場らしいということもあれば尚更であった。
「ところで……大倶利伽羅はまだ起きていないのか?」
そう言って長谷部は辺りを見渡した。
「そろそろ起こしに行かないとね。ほら、伽羅ちゃんは昨日別の部屋で寝たからさ」
新体制に伴い四人は同室となった。
本来近侍部屋は一人用だ。一人用にしては広いものの、大の男四人が使うにはかなり狭い。
本丸に人が増えたため、体よく部屋を空けさせられたのでは……という考えが頭を一瞬過ったものの、長谷部は審神者に聞けるはずもなく、その疑念は喉奥へ飲み込まれることとなった。
「明日は出陣だからしっかり休みたいって言ってたもんなぁ。俺達と一緒でも安眠できるってのに」
「鶴さん昨日も怖い映画観てたじゃない……」
廊下から聞こえる騒がしい声と、障子から漏れる日の光に揺り起こされ、大倶利伽羅はゆっくり瞼を開いた。
普段とは違う天井に一瞬だけ頭が混乱するが、すぐにいつもの近侍部屋ではないことを理解する。
昨晩は国永がホラー映画を観ると言い出した。普段なら早く寝ろと言う長谷部も珍しく乗り気で、光忠は絶対に観ないと言って騒いでいた。しかし寂しがり屋のアイツのことだ。結局一緒に観て、さぞ騒いだことだろう。
そんな日常にもとっくに慣れたものの、久々の戦闘に備えて気を整えたかったのもあり、空き部屋を借りて一人で眠ることにしたのだった。
何より今回は、自分が隊長に任命されているという緊張感もある。まぁこれは僅差ではあるが、自分が四人の中で最も練度が低いからなのだが。
支度を整えている最中、ふと風呂敷の中に入れていた固いものに手が触れる。
「これは……」
初陣の際、燭台切から半ば強引に渡された御守り。
一度だけ破壊を防いでくれるという話は、いまだ俄に信じ難い。
あれから何度も折を見ては返却を試みてはいるものの、適当な理由をつけては突っぱねられてしまっている。一度折れている手前、再び受け取るのも彼のプライドが許さないのだろう。
「……一応持っていくか」
大倶利伽羅は準備を終えて部屋を出た。
四人はゲートの前に立つ。
「どんな場所なのか分析できたか?事前にこんのすけに聞いてきたんだろう」
そう言って鶴丸は隣にいる長谷部を見た。
「先日突然地図上に出現したそうだ。ただ、時代も場所も不明だ」
「そんなところに行って大丈夫なの?」
燭台切が不安そうに尋ねる。
「今のところは敵の気配もないらしい。……変える歴史がないんじゃあ当然だろうがな」
「じゃあ戦えないのかよ!?」
鶴丸はブーブーと文句を言い始めた。
顔には出さないが、これには大倶利伽羅も少し落胆した。
「だから俺達が調査に行くんだろ」
「何があるか分からないってことだね。もしかしたら新しい敵がいるかもしれないし、油断せずに行こう」
いつものように燭台切が宥めつつ、四人は同時にゲートの中へ足を踏み入れた。
着いた先は開けた土地だった。
天候は曇り。大倶利伽羅は今にも降り出しそうな空を見上げながら、ぼんやりと早く帰りたいなと思った。
建物も人の気配もない。そればかりか、周りに生えた植物からさえも生気が感じられなかった。
「この感じ、どこかで……?」
長谷部は不思議そうに首を傾げる。
「とりあえず探索してみるか。手土産に資材の一つでも見つかるかもしれないしな」
次の瞬間、歩き出そうとした四人の足がぴたりと止まった。
目の前に禍々しい色の渦が現れる。闇――そう形容するのが相応しく思えた。
その渦は邪気を発しながら次第に広がると、すぐに全員が余裕で通れるほどの大きさまで成長した。
「……下がれ!」
長谷部が叫び、四人は刀を抜いて数歩下がる。
どこに繋がっているかも分からないその闇の中から、時間遡行軍がゆっくりと現れた。
「今までの出方と……違う……」
大倶利伽羅はぎゅっと柄を握り締めながら呟く。
見たところはそこまで強くはなさそうだ。
だけど……何故か嫌な予感がする。柄を握る掌が、じっとりと汗ばんでいくのを感じた。
「どうなってるの!?こんなの今までとは……」
「考えるのは後だ、全て圧し切る!」
機動力の高い長谷部が先陣を切って駆け出す。
瞬間、目の前にいた敵打刀の右腕は落ち葉のように宙へと舞った。敵は唸り声を上げながら地面へと伏す。
「はは、やるじゃねぇか長谷部」
「敵はそこまで強くない。あの穴を調べるためにも、まずは全て片付けるぞ」
長谷部の一言で四人は散らばると、各々敵を斬り倒していく。
確かに敵は強くはない。今の自分達の練度であれば容易に殲滅できるだろう。
だが何か……何かがおかしい。
数体目の敵の首を落としながら、大倶利伽羅は言い様のない疑念が晴れないままでいた。
「この辺りの敵は粗方倒したか……」
長谷部は戦場をぐるりと見渡しながら考える。
敵は強くないとはいえど、数だけは多い。数を倒せば疲労も溜まる。やはり全員で固まって戦うべきだろうか――
「……は…っ…?」
自分の身に何が起こったのか、すぐには分からなかった。
目の前に広がったのは確かに自分の鮮血であった。すぐにやってくる痛みと身を焼くような熱さがそれを物語っている。
しかし何より長谷部の頭を混乱させたのは、今しがた己の腹を斬ったのは最初に倒した敵打刀であり――斬り落としたはずの右腕が、しっかりと肩から生えていたことだった。
「長谷部くん!!」
近くで戦っていた燭台切が駆け寄ってくる。
燭台切の叫び声、そして遠くで倒れる人影から状況を判断した鶴丸は、すぐに大倶利伽羅へと指示を出す。
「伽羅坊、急いで敵を倒せ!粗方片付いたら俺に任せて、お前はゲートを開けろ!」
鶴丸はそう叫んで目の前の首を撥ねた。
応急処置は燭台切に任せ、まずは敵を片付けるしかない。
帰還のためのゲートは隊長しか開閉できないのだ。
そしてそれは、全ての敵を倒し戦闘が終わらないと開かない。本丸に時間遡行軍が入らないようにとの措置らしいが、そのシステムが二人を次第に焦らせていく。
燭台切は敵打刀を斬ると、すぐにしゃがみ込んで長谷部の腹を抑えた。
白いシャツがみるみるうちに赤黒く染まっていく。
傷が深い。血が噴き出す。間に合わない――
「長谷部くん、しっかり!ねぇ……死んじゃ嫌だよ!」
「……き…、が……」
「え?」
「てき…が、よみがえった……」
「何を言って……」
「……」
「長谷部くん!?……ねぇ長谷部くん!!」
長谷部がそれ以上呼び掛けに応じることはなく、燭台切の悲痛な叫び声だけが虚しく戦場に響いている。
「伽羅坊、早く帰還しろ!」
「……っ、分かっている!が、開かない!」
帰還用のゲートを開こうとするが、一向にそれは現れない。
「なんで開かねぇんだよ!敵は全部倒したはずだろ!?」
大倶利伽羅は何度も何度もゲートを開こうと試みながら、始めに感じた違和感がどんどん膨らんでいくのを感じていた。
帰還用のゲートは全ての戦闘が終わらないと開かない。
そして前に燭台切が折れた時とは違い、長谷部の体が消えていない。
この戦場は一体――
「長谷部!」
敵を倒し終えた鶴丸は燭台切達のもとへと駆け寄った。
「鶴、さん……」
放心状態で長谷部の体を抱き締めている燭台切の表情から全てを察し、刀を地面へと叩き付ける。
「……くそっ!!」
大倶利伽羅の様子を見るに、まだゲートは開かないようだった。
「どうなってんだよ、敵の取りこぼしはねぇはずなのに……!」
「……長谷部くん、最後に言ってた……」
「え?」
「敵が……蘇った、って……」
強い殺気。本能的にそれを感じ取り、鶴丸は辺りを見渡した。
「なんだよ、こりゃあ……」
自分の目を疑った。
そこにあったのは、先ほど確かに倒した時間遡行軍の姿だった。次々にゆらりと立ち上がり、ゆっくりとこちらに近付いてくる。斬り飛ばしたはずの腕も、足も、首も、まるで何事もなかったかのように戻っている。
「な、なんで……!?」
「全員御守りでも付いてるっていうのか?時間遡行軍様は景気がいいなぁ!?」
鶴丸は刀を拾うと返り血を袖で拭い、目にも留まらぬ速さで駆け出した。周囲の敵の首がまとめて宙を飛ぶ。
「長谷部の仇、てめぇらまとめて全員ぶっ殺してやるよ!」
全身に血飛沫を浴びながら、鶴丸の戦装束がどんどん紅に染まっていく。
燭台切は横たわる長谷部の瞼を閉じてやると、強く刀を握り締めて立ち上がった。
「……殺す」
大倶利伽羅もゲートを開くことを諦め、燭台切達への応戦へと回った。
しかしどれだけ斬っても、しばらく経てば敵の体は修復される。まるで感情を持たぬ兵隊のようにこちらに向かってくるのだった。
「くそ、ゾンビか何かかよ……」
非現実的な光景はまるで映画の世界のようで、大倶利伽羅は昔四人で観た陳腐な映画を思い出していた。
どれだけ倒したのだろう。
もはやこれは御守りの効果などではない。しかし、死ぬことのない時間遡行軍なんて聞いたことがない。
この戦場への出陣を命じた審神者は、このことを分かっていたのだろうか。そう言えば今朝はどこにもいなかった。
「伽羅ちゃんかなり疲労溜まってるでしょ。無理しないで、ここは任せて」
「それはあんたも同じだろ」
背中合わせで表情は見えないものの、背後の燭台切が肩で呼吸をしているのが伝わる。指の感覚がない。限界だった。
「貰った御守り、今日こそは返すぞ。元はと言えばあんたのもんだ」
「はは……それは伽羅ちゃんにあげたじゃないか。君は隊長なんだから、本丸に帰って……皆にこのことを伝えて」
「何を言って……!」
「長谷部くんも連れて帰ってあげてね。彼、ああ見えて本丸が好きだからさ」
燭台切は振り下ろされた敵大太刀の攻撃を受け止める。普段であれば容易く弾き返すはずのそれも、今の疲労状態ではとても耐えられない。
刀を持つ手が緩みバランスを崩したその体を、巨大な刃が勢いよく切り裂いた。
「光忠!!」
「光坊!!」
鶴丸は周囲の敵の首を跳ね飛ばしながら駆け寄った。
即死。素人目にも一目でそう判断できる傷跡を見て絶句した鶴丸は、ほとんど赤く染まった髪の毛を掻き毟りながらしゃがみ込んだ。
「なぁ伽羅坊……どうなってんだよ……なんで俺達がこんな目に合ってんだ……?」
大倶利伽羅は黙って視線を逸らす。
鶴丸の背後にいる敵の体が、虫にでも喰われているかのようにもぞもぞと蠢いている。体の修復が行われているようだった。
もう自分も鶴丸も、耐えられるだけの体力も気力も残っていない。
「……風の噂で聞いたことがあるんだ。帰還用のゲートを開く方法は二つあって、戦闘が終わることと……隊長のみが生き残ることだって」
「何を……言って……」
「つまり俺が死んでも、……御守りを持った隊長のお前だけは帰れる」
「何言ってんだよ、あんたも帰るんだろうが!ほらこの御守り……あんたが持て!」
御守りを押し付けようと手を伸ばすも、鶴丸はひらりと躱して、いつものようにニッと笑った。
「全滅しちまったら意味ねぇだろ?俺のことも、光坊のことも、長谷部のことも……お前には覚えていてほしいからな」
「俺一人で生き残ったところで何が残るって言うんだ!」
「あぁ、言い方がちょっと違ったかな」
返り血でべったりと汚れた袖で刀を拭いながら、鶴丸が振り返る。
「お前に生きていてほしいんだよ」
そう言うや否や、鶴丸は起き上がろうとする時間遡行軍を片っ端から斬り倒した。修復しかけの頭を足で潰し、腕を蹴飛ばし、腹に刀を突き立て内臓を引き摺り出す。
「国永、待て!」
大倶利伽羅が手を伸ばした瞬間、地面に伏していたはずの敵の腕が高く突き上げられ、その刀は真っ直ぐに鶴丸の腹を突き刺した。
「ははっ……驚かせて、くれるじゃねぇか……」
「国永!!」
鶴丸は最後の力を振り絞って敵の頭に刀を突き立てると、そのまま崩れるように倒れ込んだ。
「国永、おい!目を開けろ!おい!」
先程まで鶴のように舞っていたその体は、もうぴくりとも動かなかった。
「……」
大倶利伽羅は座り込んだまま、その場から動くことができなかった。
ゲートを開いて帰らなければ、いずれまた敵は立ち上がるだろう。しかし今はもう、その気力すら沸かなかった。
「……?」
「静かだ……」
どれだけ時間が経っただろうか。
辺りを見渡しても、敵が蘇る気配がない。
終わったのか?このタイミングで?
「戦闘お疲れ様でした」
ふいに背後から掛けられた事務的な声に、大倶利伽羅はゆっくりと振り返る。
そこには本丸にいるはずの伝達係――こんのすけが佇んでいた。
「俺はゲートは開いていない……お前、どこから……」
「燭台切光忠、鶴丸国永、へし切長谷部は死亡。これより本丸へ帰還します」
「これはどういうことだって聞いてるんだ!」
質問に答えない狐に苛立ちを顕にしながら、大倶利伽羅はやり場のない怒りをぶつける。
何も分からないまま帰れというのか。俺一人で?冗談じゃない。
「そうですね……貴方達四人は近侍として、ずっと密に過ごしてきました。その気持ちは分かります」
分かります、と言う割には、その表情は一切変わらなかった。
「一つだけ……彼らを助ける方法がありますが、試してみますか?」
「……は?」
大倶利伽羅は顔を上げる。
助ける方法?何を言っているんだ。
「現在、政府が秘密裏に研究しているとある力があります。それは刀剣男士自身が、歴史を変えたいと強く願った地点へと戻れるというもの」
「戻、れる……?」
「審神者の力を借りずとも時間遡行が出来るようになれば、戦局は更に有利になりますから。今の貴方であれば、三人が生きていた地点へと戻れるでしょう」
「歴史を変えることは許されないと……」
「だから秘密なのです。まだ研究段階ですからね。口外すれば相応の処分が下るでしょう……貴方にも、彼らにも」
こんのすけはさらに一歩大倶利伽羅へと近付く。
「貴方は過去に戻る以上、今願っている歴史へと導くほかなくなる。……つまりは、この出陣をはじめから無かったことにはできない、というわけです」
逃げることは許されない、と言いたげな狐の瞳が大倶利伽羅を見つめた。
「それから……敗北を勝利に変える、という改変以外は認められません。彼らに戦場の詳細を話す、逃がす、御守りを装備させる、等がこれに当たりますね」
「……」
「過去に戻る。三人と共にここに出陣する。そして勝利する。この条件を満たすまで、貴方は何度も同じ時を繰り返すことになります」
「……」
「どうしますか?」
もう二度と動くことのない、かつての仲間へと目線を向ける。
光忠ならどうするだろうか。お人好しなアイツのことだから、提案に乗るだろうか。
国永は……分からないな。驚きを求めて力を手に入れるかもしれない。
長谷部は断るだろうか。審神者の命だと言われたら、飲むのだろうか。
俺なら――
*
「それにしても本当に面白かったな、昨日の光坊は!」
「叫びすぎなんだお前は」
「だから普通の映画を観ようって言ったの!」
耳に飛び込んできた懐かしい声に、はっと目を覚ます。
白い天井。温かい布団。体の傷も疲労も、まるで夢だったかのように消えていた。
襖が勢いよく開けられると、廊下を歩いていた三人は驚いて目を見開く。
「なんだ伽羅坊?これから驚きの目覚めを提供してやろうと思ったのに」
「伽羅ちゃんがいないから、昨日は大変だったんだよ」
いつもと変わらない笑顔。
つい先程までの血の臭いが嘘のように、春の陽の香りが鼻の奥をつんと突き刺さした。
「どうした大倶利伽羅。お前、汗が酷いぞ」
長谷部は大倶利伽羅の様子に気付くと、心配そうに声を掛けた。
「なんでもない。出陣の準備をしてくる。……あんた達も、準備は万全に整えてくれ」
「お、おう」
「伽羅ちゃん、朝ごはんは!?」
不思議そうな表情を浮かべる三人を背に、大倶利伽羅は再び部屋へと戻る。
顔を見ていると、全てを話しそうになった。
話してしまいたくなった。
そんな気持ちをぐっと堪えながら、小さな手帳を開いた。
『1回目、失敗』
戦場は曇り。あの時と同じだった。
「この感じ、どこかで……?」
長谷部は首を傾げる。
「とりあえず探索してみるか。手土産に資材の一つでも見つかるかもしれないしな」
「待て」
一人で歩もうとする鶴丸を、大倶利伽羅が制止する。
「……何があるか分からない。敵が出てきても、四人で固まって行動するぞ」
「なんだ、慣れ合いは嫌いと言うくせに珍しいな」
「あんたは特にだ、長谷部。最初に突っ走るなよ」
「え?あぁ……」
面食らった顔をしている長谷部を余所に、大倶利伽羅は刀を抜く。この会話の直後に来るのは分かっていた。
四人の前に禍々しい闇が立ち込める。
「……下がれ!」
「どうなってるの!?こんなの今までとは……」
何もかも同じだ。
同じことを繰り返しては、負ける。
「敵がいつもとは違う!例え倒しても絶対に油断するな!」
戰場において、大倶利伽羅が率先して指揮を取る発言をするのは珍しい。長く共に出陣してきたからこそ、三人の目には不自然に映ることだろう。だが、そんなことを気にしている余裕もなかった。
「ははは伽羅坊、隊長だから張り切ってんなぁ。今日はお前に従う……ぜっ!」
鶴丸は迫ってくる時間遡行軍を一刀する。
即座に大倶利伽羅がとどめの一撃を加えた。協力すれば余計な立ち回りも減り、疲労を抑えられる。
あの時――前回の戦闘で、最終的に敵が起き上がることはなかった。つまり不死身ではない。持ち堪えれば希望はある。
「ど、どうなってるの!?あの敵は、さっき斬ったはずなのに……!」
「御守りでも装備させてるってことか?時間遡行軍様は景気がいいようだ」
しばらくして、体を修復された敵がゆらりと起き上がる。
前回の戦闘ではここで油断して長谷部が斬られたが、幸いにもまだ誰も失っていない。
「……敵は倒しても蘇る!修復が終わる前にとどめを刺せ!足元まで油断するな!」
大倶利伽羅の号令で緊張が走り、四人はぎゅっと柄を握り締めた。
とにかく、前回斬った数まで何としてでも倒す。誰一人も欠けることなく、最後まで。
――おかしい。
「はぁ……はぁっ……」
大倶利伽羅は息を整えながら、痛みと疲労で朦朧とする頭を必死で回していた。
既に前回の倍以上の回数は倒しているはずだ。しかしいくら斬れども、時間遡行軍は何事もなかったかのように立ち上がり続けている。
燭台切達の体力も限界が近付いているようだ。
「くそっ、一体どうなってるんだ……あいつらは不死身なのか……?」
長谷部は負傷した左足を引き摺りながら呟いた。
疲労のせいで全員軽くはない怪我を負っている。折れているであろう足の痛みに耐えながら、大倶利伽羅は焦燥感に苛まれていた。このままでは嬲り殺しだ。
「何か……何か、この戦闘を終わらせる条件があるんじゃねぇか」
鶴丸は脇腹を抱えながら、必死で体勢を立て直している。雪のように白かった戦装束は真っ赤に染まっているが、それを染めているのは敵の返り血だけではないだろう。
条件。
前回と今回の戦闘で、敵の蘇生が終わった時点での状況の違い。大倶利伽羅の体が小刻みに震え出す。
それは、まさか――
「ぐっ……!」
バランスを崩した鶴丸がその場に膝をついた。多量の出血により、もはや立つことさえままらなくなっているようだ。
「まずい、敵が……!」
今の長谷部の足では間に合わない。
「鶴さん!!」
鶴丸を庇うように、燭台切は敵太刀の前へと飛び出す。受け身を取るタイミングが若干遅れた。
「光坊!!」
刃は体を容赦なく斬り裂き、燭台切は頭から崩れ落ちた。
「光坊……おい光坊、しっかりしろ!」
「逃げろ国永!早く!!」
必死に燭台切へ呼び掛ける鶴丸のもとへ、大倶利伽羅は駆け寄った。折れた足は思うように動かない。
長谷部も同時に走り出したが、間に合わない――
敵の刀は鶴丸の頭上へと真っ直ぐに振り下ろされた。
「国、永……」
「……くそったれ!!」
長谷部は声を荒らげながら、敵の首を思い切り撥ね飛ばした。
遠くの方では少し前に倒した時間遡行軍の体の修復が始まっている。
ゲートはやはり開かない。前と同じだった。
「大倶利伽羅……お前は無事か」
長谷部は大倶利伽羅のもとへと歩み寄ると、血塗れた刀を袖口で拭った。
「……」
「最初に感じたこの戦場の違和感だが……あれに似ているんだ」
大倶利伽羅は顔を上げる。
「演練場だ。植物から生気が感じられないのも、死んだはずの体が一向に消滅しないのも、よく似ている。……そんなはずないのにな」
その違和感は大倶利伽羅も感じていた。彼の言葉で、自身が感じていた違和感の点と点が繋がり始める。
「まさか……」
「なんだ、何か分かったのか?」
考えたくない。
これが全て仕組まれた戦場で、自分をひたすら過去に戻すことが目的だとしたら――
「大倶利伽羅?」
長谷部も助からないじゃないか。
「……長谷部」
遠くで時間遡行軍が立ち上がり始める。まだ諦めず戦おうと身構える隣の男に、大倶利伽羅は問いかけた。
「あんた、生きたいか?」
「え?」
突拍子もない質問に、長谷部の声が思わず裏返る。
「ま、まぁ……死にたくはないが……」
しまった、不自然すぎた。
自分から問いかけておいて、大倶利伽羅はなんと返すべきかと言葉を探す。
「しかし、お前と……燭台切と鶴丸もいなければ、意味がない」
「……」
「どうやら俺は、こいつらのことが思った以上に大切だったらしい。こんなことになるなら、普段からもっと優しく接してやればよかったのに……馬鹿だよな」
悔しさと哀しみが入り混じったような長谷部の顔を、大倶利伽羅は黙って見つめた。
「俺よりも、同じ家に長くいたお前の方が辛いだろう。もうお前は無理せずに俺に任せて――」
そうだ……全員で帰らなければ、意味がない。
この世界が失敗に終わったとしても、まだ始めからやり直せるのだ。自分ならば。
「長谷部」
過去に戻る、という言葉は使えない。
それなら。
「未来で待っていてくれ」
それだけ言うと大倶利伽羅は刀を構え、敵に向かって駆け出した。
一瞬不思議そうな顔をした長谷部も、意を決したように後を追った。
『2回目、失敗』
「それにしても本当に面白かったな、昨日の光坊は!」
「叫びすぎなんだお前は」
「だから普通の映画を観ようって言ったの!」
もはや見慣れた天井。
大倶利伽羅は布団から跳ね起きると、すぐに襖を開けた。
見慣れた光景。大倶利伽羅の姿を見つけた三人は笑った。
「なんだ伽羅坊?これから驚きの目覚めを提供してやろうと思ったのに」
「悪いが、俺はやることがある。あんた達は出陣の準備を万全に整えてくれ」
「お、おう」
「伽羅ちゃん、朝ごはんは!?」
大倶利伽羅は一人、審神者の部屋へと入る。
審神者は昨日から留守だった。
それ自体は取り立てて不自然なことではないが――
「何か……何かあるはずだ。手がかりが」
次々に引き出しを開ける。幸いにも私物はそこまで多くはないようだった。
時折見たことのない菓子の袋や、家族のものと思われる写真を見つけながら、思えばこの男のことを何も知らないなと思った。
報告書の束を持ち上げた際、引き出しの底からかさりと音がする。
「……手紙?」
そこにあったのは二通の手紙だった。
乱雑に放置されていたとも、丁寧に隠していたとも取れるそれを拾い上げ、大倶利伽羅は中身を取り出す。
一通目の日付は忘れもしない――近侍の審査が行われた日の数日前だった。
『この度は我々の計画に賛同頂き誠に感謝申し上げます。
これから長期に渡りお手数をお掛け致しますが、契約通り相応の報酬はお約束致しますので何卒ご了承ください。
この計画において何より重要なのが、仲間を助けたいと強く願う刀剣男士の存在です。
しかしどれほど親交が深い刀同士でも、歴史を変える提案に乗る者は決して多くはないでしょう。
さて、貴本丸には以前、折れた燭台切光忠の魂を呼び起こし、刀剣男士として蘇らせた者がいると伺いました。
大倶利伽羅、鶴丸国永、へし切長谷部。
些か陳腐な表現ではありますが、刀剣男士同士の絆……奇跡の力が起こした一件であったと言えるでしょう。
特に、慣れ合うことを嫌う大倶利伽羅の協力。審神者に忠実なへし切長谷部の告発。これらも非常に興味深い点でした。
そこで我々は、この四振を利用させて頂きたいとご提案したのです。
まずは彼らの絆をより強固なものにするべく、彼ら四人を近侍に任命してください。
突然任命するのも不自然ですので、何かで競わせて最終的には同点にする、というシナリオがよろしいでしょうか。
演練場が必要であればお手続きください。
それからしばらくは様子を見て頂き、一年後にまたご連絡ください。我々もそれまでに、この力の実用化に向けて更に研究を進めていきます。
良い報告をお待ちしております。』
大倶利伽羅は震える手で二通目の手紙を開く。
心臓の鼓動が速くなる。喉奥が渇いて、上手く息が出来なかった。
その日付はつい一週間前。
『ご報告ありがとうございました。
彼らの仲に確信が持てたとのお言葉に、我々研究チームも非常に安堵致しました。
まずはそちらの四振へ、新たな戦場への調査任務を与えてください。
システム上、隊長を任された者が歴史を繰り返すことになりますが、誰に任せるかは一任致します。(御守りを持つ刀がいれば、その者をお勧め致します)
演練場に手を加えた戦場を手配させて頂きましたので、準備が出来次第出陣をお願い致します。
時間遡行の力を一度得てしまえば、仲間を救う未来に辿り着くまで、永続的に時を繰り返すこととなります。時間遡行軍には予め御守りの効果が無限に発動するよう手を加えておりますので、その点はご安心ください。
我々としても時間遡行の力は計り知れないものであり、刀剣男士の肉体がどれほど耐えられるかを測る必要があります。
実験に賛同いただいた審神者様のご協力、そして四振の犠牲を無駄にすることなく、この力の早期実用化を――』
最後まで読むことなく、大倶利伽羅は手紙を引き裂く。やり場のない悔しさを拳に込めて、何度も何度も床に叩き付けた。裂けた指の皮から血が滲み、畳の縁を汚す。
仕組まれていた。何もかも全て。
それもこの戦いからではなく――近侍を決めたあの日から。
自分達四人が近侍として過ごし、重ねてきた毎日は、全てこの馬鹿げた実験へと繋がっていたのだ。
大倶利伽羅はやっとの思いで立ち上がると、審神者の部屋を後にする。
これ以上この場所にいて、燭台切達に探しに来られると厄介だった。実験のことを知れば、きっと四人まとめて始末されるだろう。今ここで審神者やこんのすけに詰め寄ってもきっと同じだ。
自分にできることは、ただひたすらあの戦場へと赴き――自身の体が壊れるその瞬間まで、三人が殺されゆく様を眺めるだけ。
「……ふざけるなよ」
拳が震える。先程手紙を読んだ時とは異なり、これは激しい憤りによるものだ。
そちらがそのつもりなら、俺は絶対に勝利してみせる。誰一人も欠けずに四人で。
大倶利伽羅は手紙に書かれていた『奇跡の力』という言葉を思い返す。確かに笑えるくらい陳腐な表現だ。
それでも今は、もう一度それに縋る他なかった。
「伽羅ちゃん……僕たち、ここで終わりなのかな」
燭台切は弱々しい声で問い掛ける。強く抑えているその右肘からは血が滴り、先に続くべきものが消えていた。
利き手と反対の左腕で振るう刀では、今から向かってくる敵を満足に倒すことはできないだろう。
「これじゃかっこつかないよね……鶴さんも長谷部くんも、結局守れなかった」
大倶利伽羅は残された片目で敵を捉えながら、隣の男はいつもこんな状態で戦えているのか、とぼんやり思った。
「なぁ光忠……あんたは、国永と長谷部を救えると言われたら、どうする」
「なんだいその質問。伽羅ちゃんは魔法でも使えるの?」
燭台切はくすくすと笑う。無理をしていつもの笑顔を作っているのが伺えた。
「そうだ」
「ふふ、そっか」
「でも、なかなか上手くいかない」
「僕も使ってみたいなぁ、魔法。鶴さんも長谷部くんも生き返って、もちろん伽羅ちゃんも助かって、また皆で笑えるのなら……なんだって差し出せるのにね」
時折声を詰まらせながら、燭台切は力なく呟いた。
「その魔法、俺が使ってやる。だから信じて待っていてくれないか」
「伽羅ちゃんが言うと、本当に何とかなっちゃう気がするな。不思議だよ」
そんなはずないのにね。
最後に見た彼の瞳は、涙でいっぱいに溢れていた。
『3回目、失敗』
『10回目、失敗
敵の蘇生に気付くのが遅れたため、国永が敵に不意を突かれて死亡。長谷部が光忠を庇って死亡。その後も疲労に耐えきれず、光忠が敵に斬られて敗北』
『16回目、失敗
顔色が悪かったのか、国永に勘付かれる。適当に誤魔化したが注意する必要あり。その後、光忠と国永(ほぼ同時)長谷部の順で斬られる』
『17回目、失敗
前回の失敗を受けて極力会話を避けるようにしたせいで、上手く連携を取ることが出来なかった。国永は俺を庇って死亡。光忠と長谷部も疲労に耐えきれずに敗北』
『22回目、失敗
敵の攻撃を避けきれずに長谷部が斬られる。その後しばらくは持ち堪えたものの、疲労による負傷で国永が死亡。光忠は俺を庇い、敵に斬られた』
『58回目、失敗
光忠が斬られ、それを庇った国永も続けて死亡。間近で見て動揺した長谷部が、敵の攻撃を受け止められずに斬られる』
『102回目、失敗
蘇った敵に動揺した光忠が斬られる。激昂した国永と長谷部は前回よりも疲弊するのが早く、戦闘終了となった』
『150回目、失敗
長谷部が致命的な重傷を負って介錯を頼む。それを受けた光忠は戦意喪失し、そのまま斬られる。のちに国永も敵に斬られて死亡』
『202回目、失敗
国永が足を負傷し、庇って戦った長谷部が死亡。その後光忠と二人で持ち堪えるも、疲労に耐えきれずに光忠が斬られる』
『253回目、失敗
思い出したくない』
『260回目、失敗
光忠が敵の蘇生に動揺して斬られて死亡。その後、怒りに身を任せて戦った国永が敵に斬られる。疲労に耐えられず長谷部も死亡する』
『324回目、失敗
俺が重傷を負って倒れる。三人は俺を庇うように戦ったのち、攻撃に耐え切れず死亡』
『351回目、失敗
光忠、長谷部、国永の順に死亡』
『360回目、失敗
光忠、国永、長谷部の順に死亡』
『362回、失敗
長谷部、光忠、国永の順に死亡』
『378回目、失敗
国永、長谷部、光忠の順に死亡』
『381回目、失敗
光忠、国永、長谷部の順に死亡』
『382回目、失敗
光忠、国永、長谷部の順に死亡』
『391回目、失敗
長谷部、光忠、国永の順に死亡』
『395回目、失敗
長谷部、国永、光忠(ほぼ同時)』
『401回目、失敗
光忠、国永、長谷部』
『402回目、失敗
長谷部、国永、光忠』
『425回、失敗
光忠、国永、長谷部』
『436回目、失敗
国永、長谷部、光忠』
『444回目、失敗
光忠、国永、長谷部』
『455回目、失敗
国永、光忠、長谷部』
『461回目、失敗
長谷部、国永、光忠』
『474回目、失敗
長谷部、国永(ほぼ同時)、光忠』
『488回目、失敗
国永、長谷部、光忠』
『499回目、失敗
光忠、国永、長谷部』
『500回目、失敗』
『505回目、失敗』
『511回目、失敗』
『523回目、失敗』
『534回目、失敗』
『540回目、失敗』
『558回目、失敗』
『602回目、失敗』
『614回目、失敗』
『620回目、失敗』
『625回目、失敗』
『631回目、失敗』
『652回目、失敗』
『679回目、失敗』
『687回目、失敗』
『702』
『710』
『715』
『725』
『751』
『768』
『798』
『800』
『811』
『850』
『877』
『896』
『901』
『920』
『947』
『994』
『995』
『996』
『997』
『998』
『999』
「それにしても本当に面白かったな、昨日の光坊は!」
「叫びすぎなんだお前は」
「だから普通の映画を観ようって言ったの!」
起き上がるや否や、大倶利伽羅は布団の上に激しく嘔吐した。
そういえば昨日は光忠が張り切ってコロッケやら何やらを作っていたか。目の前の吐瀉物をぼんやりと眺めながら、もう遠い昔の昨日を思い出していた。
震える体を起こすことができなかった。
初めて怖いと思った。
999回目の世界。
それまでずっと感情もなく、恐れを知らないゾンビのように戦ってきた時間遡行軍の一人が、初めて口を開いたのだ。「おかしい」と。
時間を繰り返しすぎた弊害か、そのせいで敵側の身体にも何らかの変化があったのかは定かではない。
燭台切達は大倶利伽羅以上に驚き固まっていた。
当然ながら、時を繰り返していない彼らの戦闘はこれが『1回目』である。敵が蘇るのも、言葉を発するのも今回が初めての経験であり、疲弊しきった脳では理解が追い付かないのも無理はない。
「何か特別な力を使って戦闘を仕掛けてきている可能性がある」
「調べなくては」
「何言ってんだ、こいつらは……?」
時間遡行軍は動揺している鶴丸の左腕を容赦なく跳ね飛ばした。
「鶴丸!」
反射的に鶴丸の元へ駆け寄ろうとする長谷部だったが、折れたその足が彼の機動についていけるはずもなく、数歩踏み出したところで激しく転倒してしまう。時間遡行軍は長谷部の足へと鋭い刃を突き立てた。絶叫が上がる。
「長谷部!」
「伽羅ちゃん、危ない……!」
瞬間、背中に鋭い痛みが走った。
立っていることもままならず、その場に倒れ込んだ。傷だらけの体を引き摺りながら燭台切が這い寄ってくる。
敵は自分達を殺すつもりはないようだった。
霞む目を開くと、時間遡行軍の一人が鶴丸と長谷部の体を持ち上げている。
「国永、長谷部……目を覚ませ……おい!!」
二人は必死にまだ動かせる手足をばたつかせるものの、弱々しい抵抗も虚しく、二人を抱えた敵の姿は闇の渦の中へと消えた。
残された時間遡行軍がこちらに向かってくる。
「ねぇ伽羅ちゃん……僕たち、一体どこへ連れていかれるの……」
膨大な時間を繰り返したせいで、頭のどこかで死に対する恐怖が薄れていたのかもしれない。
死なずに生かされることの方がよっぽど地獄だった。
「またあれを繰り返すのか、今回も……」
時間遡行軍のバグが時を繰り返したことによる弊害なのであれば、今回も同じことが起こる可能性が高い。
またあんな仕打ちを受けるくらいなら、いっそもう死んだ方が楽に決まっている。
耳にこびりついて離れない仲間の断末魔を振り払うように、大倶利伽羅は頭を抱えた。心臓がバクバクと波打つ。
「……伽羅ちゃん?」
はっとして顔を上げたそこには、見慣れた三人の姿。
しまった……部屋を出るのが遅れた。
燭台切は布団の上に飛散した吐瀉物に気が付くと、汚れるのも厭わず大倶利伽羅の側へと駆け寄った。
「伽羅ちゃん大丈夫!?どこか悪いの!?」
大きな掌が額に触れる。
「熱はないみたいだけど……」
「お前の昨日のコロッケで食あたりしたんじゃないか」
「長谷部くん5個食べてピンピンしてるじゃない」
軽口を叩き合う彼らの顔も今は見れない。大倶利伽羅は俯いたまま、何を言ったらいいのか分からず口を噤んだ。
「伽羅坊、とりあえず着替えたらどうだ?体調が優れないってんなら今日の出陣はやめとけよ」
燭台切は汚れたシーツを手際よく外していく。
三人が出て行った部屋には再び静寂が訪れた。
諦めよう。
とても長かったが、今ようやく決心がついた。
自分がずっとグズグズと諦めきれなかったせいで、彼らをあんな目に合わせてしまった。
またあの仕打ちを受けるくらいなら、あの光景を見るくらいなら、ここで出陣せずに全員で刀解された方がよっぽどマシだろう。
布団の上の大倶利伽羅は、ただひたすらに時が過ぎるのを待った。
「伽羅ちゃん、出陣できるかな」
廊下を歩きながら、三人は大倶利伽羅の様子を憂いた。
「とりあえず隊長は無理だな。長谷部、俺に替えておいてくれるか」
「あぁ、構わないが……あいつ、隊長だから昨日は張り切って一人で寝たんだろ。嫌がるんじゃないか」
「だからこっそり替えておくんだよ。とりあえず審神者には報告しとくか」
そう言って鶴丸は審神者の部屋の襖をガラリと開けた。声掛けもノックもしないのが彼流のやり方だ。昔はそれを諌めていた長谷部も、もはや慣れたのか何も言う事はなかった。
「あれ、留守なのかな。いつも出陣の時はいるんだけど」
燭台切が不思議そうに首を傾げる。
「大事な出陣だって言っておいてどこ行ってんだよ。……何か所在が分かるもん置いてねぇかな」
そう言うと鶴丸は躊躇いなく引き出しを引っ張り出した。先程の言葉など建前で、あわよくば何か面白いものでもないかと探っている様子だ。
「おい鶴丸、勝手に漁るんじゃない」
「ん?これは……手紙か」
引き出しの下に隠されていた二通の手紙。鶴丸はそれを手に取ると、光に透かしながら差出人を確認している。
「鶴丸、お前いい加減に……」
「そうだよ、ラブレターかもしれないよ」
「いや……これは政府からの手紙だ。あいつ政府のとこにでも行ってんのかな」
そう言って封筒の中身を取り出した。
勢いよく開けられた襖の衝撃で、布団の上の大倶利伽羅はびくりと体を揺らす。
見上げてみると、青ざめた顔の三人が立っていた。
「どうして黙っていたんだ!」
長谷部の怒鳴り声が部屋に響く。
全身の血の気がさっと引くのを感じた。彼らに黙っていたことなんて、一つしかなかったから。
「あんた達……まさか……」
鶴丸は黙って二枚の紙を投げる。乾いた音を立てて落ちたそれはまさしく、はるか昔に大倶利伽羅も読んだ、あの政府からの手紙だった。
「全部、聞かせてくれるよな」
大倶利伽羅が全てを話し終えてから随分と時間が経ったが、誰一人として口を開ける者はいなかった。
あれだけ威勢のよかった長谷部もずっと絶句したままで、燭台切は目に涙を浮かべたまま黙っている。
鶴丸は審神者と仕組んだドッキリかとも言いたくなったが、目の前の男がそれを出来るほど器用ではないことは、彼自身が一番よく分かっていた。
「伽羅ちゃんがずっと抱えていたのに、どうして僕は気付くことが出来なかったんだろう」
燭台切は膝を抱えてしゃがみ込んだ。微かに鼻をすする音が、静かな室内ではやけに大きく聞こえた。
「大倶利伽羅、こんなことを聞くのは酷かもしれんが……お前はどうしたいんだ、これから」
「……」
大倶利伽羅は再び押し黙る。
これまでも些細な変化が起こる度に、今回は成功するのではという淡い希望に縋っては、何度も絶望してきた。
ここは千回の中でもかなりイレギュラーな世界。全てを知った状態で出陣すれば、もしかして何か戦局が変わるかもしれない。そう思ったのは確かだ。
それでも駄目だったら。また捕まったら。最悪の可能性を考え始めてしまうと、やはり今できるだけ苦痛のない方法で――
「審神者に言おう」
三人の視線が一斉に鶴丸の元へと集まる。
「俺達が知った以上、この実験は成り立たないはずだ。こんなふざけた真似はここで終わらせる」
「しかし、そんなことをしたら俺達は……!」
「こっちにも交渉の余地くらいあるだろ。口外しねぇ代わりに他の本丸に移るとか、いっそ別の世界に飛ばしてもらうとか、なんでもいいよ。もうお前が傷付かないならな」
大倶利伽羅ははっとして鶴丸の顔を見た。初めて見る程に真剣な顔。燭台切と長谷部も同意見と言わんばかりに頷いている。
「……近侍用の連絡端末で主に繋ぐ。俺達が知ったと知れば、すぐに戻って来られるだろう」
長谷部はそう言って緊急連絡用の端末を取り出す。これを使うのは初めてだ。
「主も政府の命で動いたのだろうから、きっと本心ではない。いいようにしてくれるさ」
だからもう、一人で抱えるな。
その一言で、ずっと目の前にあった霧が晴れていくのを感じた。一人で抱えるべきと思っていたそれは、仲間に託してみると随分と軽いものだったのだと今更気付く。
「伽羅ちゃんが頑張ってくれたぶんを、繋いだ希望を無駄にはしたくないから……今度こそ皆で、笑える未来に行こうよ」
燭台切は涙を浮かべながらも、自信に満ちた表情で笑った。彼のこんな顔を最後に見たのは、もう随分と昔のことのように感じる。
「そうだな……こんなことなら、もっと早くあんた達に相談すればよかった」
口元が緩むのも、目頭が熱くなるのも、堪えるのが難しい。人の体は厄介だった。
「今度こそ、上手くいく気がする」
『1000回目、失敗』
その部屋は天井まで真っ赤に染まっていた。
目の前で横たわる燭台切と長谷部の姿を見て、大倶利伽羅は膝から崩れ落ちた。
結論から言えば、審神者は端から話など聞く気はなかったらしい。
実験に気付いた三人はバグだと見做されたのだろう。彼は自身の部屋に結界を張ったのちにどこかへ逃げ、残された四人の前にはあの禍々しい闇の渦が出現した。
審神者の部屋はいくつかの部屋が連なっているようで、燭台切と長谷部は、自分達が敵を食い止める間に結界を破れる箇所を探すよう促した。
過去に戻れる大倶利伽羅と隊長の鶴丸が死んでは意味がない。必ず持ち堪えると約束した二人の体は、もう二度と動かなかった。
結界が弱い場所も、出口が見つかることもなかった。
「っ……!」
緊張の糸が切れたせいか、斬られた腹がズキズキと熱を持って痛みだす。
そう言えば今朝は御守りを持つのを忘れていた。いつの間にか隊長も鶴丸へと変更されていたらしい。
つまり、このまま自分が最後に死ねれば全てが終わる。
「……これで本当に終わりか」
もうそれがいいのかもしれない。
きっと自分の死に場所はここだったのだ。
ゆっくりと瞼を閉じかけたその時、自分を呼ぶ声で現実へと引き戻される。
「伽羅坊!!」
鶴丸は大倶利伽羅の高さまで腰を低く落とすと、真っ直ぐに目線を合わせて言った。
「ここは俺に任せて、お前は過去に戻れ」
「……は?」
いつもの笑えない冗談か。そう言いたくなったものの、彼の瞳からそれが本気だということを理解する。
「何言ってるんだ…出来るわけがない!そんなことをすれば、この世界はここで終わってしまう。あんた一人取り残されることになるんだぞ!」
「ここでお前が折れたら何もかも終わりだ!!」
言い終わらない内に、鶴丸は大倶利伽羅の肩を強く掴む。
掴まれたその手は小刻みに震えていた。彼の疲労も限界に近いようだ。
「四人一緒に生き残るために、ずっとここまでやってきたんだろう」
残された鶴丸はどうなるのだろうか。
またあの仕打ちを受けるのか。世界と共に消滅するのか。次の世界の鶴丸にも影響が出るのか。大倶利伽羅には分からなかった。
「大丈夫だ、俺が何とかする。光坊も長谷部も……もちろん、過去に戻った後のお前のことも。だから信じてくれ」
鶴丸は大倶利伽羅を引き寄せると、その肩に額を埋める。
「あぁ、でも……だけど……」
「ここで俺達が生きたこと、忘れないでくれよ」
忘れるわけがなかった。
忘れられるはずがなかった。
千回交わした言葉も、最期の表情も声も、全てを覚えている。
自分が忘れてしまえば、誰も知らない。彼らの死は無意味なものになってしまうから。
「なんであんたは、いつもそうなんだ……」
零れた涙は彼には見えないはずだが、きっとばれているのだろう。それは鶴丸も同じだった。
「……背負わせてごめんな。お前に託すよ、全部」
「――――――――――――――――、――――――!」
「―――――――――」
「―――――――――――――――!」
何も聞こえなかった。
何度も見た白の天井には淀んだ靄がかかり、視界は墨を流した夜のように暗い。本丸がおかしくなったわけではないことは分かっていた。
おかしいのは、自分の体だ。
「――――――?――――――――――――――――――――――」
「―――――、―――――!?」
適当に相槌を打ってその場を離れた。
千回と聞いたやり取り。慣れとは恐ろしいもので、繰り返し染み付いた感覚のおかげで、聴覚と視覚をほとんど失ってもどう振る舞えばいいのか何となく分かる。
大倶利伽羅は身支度も最低限に整えると、慣れたゲートの前へ立った。
燭台切達がいつどのタイミングでやって来るのかも、どんな順番で並ぶのかも、何を話してどう歩き出すかも全部把握している。
この世界の彼らは何も知らない。
全てを聞いて涙を流し、力を合わせようと笑い、一人で抱えるなと抱き締めてくれたあの世界の三人は、もうどこにもいない。
これだから慣れ合いは嫌なのだ。
一人だけで抱えていたから、千回も繰り返し耐えて戦うことができたのに。
今はただ、どうしようもなく辛かった。
「実験はここまでですね」
大倶利伽羅は乾いた地面の上で倒れていた。1001回目の戦闘が終了したらしい。
霞む目を凝らすと、会話をする二匹の狐の姿が視界の端に映った。不思議と声だけは、やけにクリアに耳へと入ってくる。
「ここまでの回数を持ち堪えたとは、このシステムの導入もいよいよ現実味を帯びてきましたね」
どこから見ていたのか、身体に支障を来たしていることに気付かれていたらしい。
つまり自分は、もう用済みということらしかった。
「しかし実験の証拠を残すとまずいですね。ここでは肉体は消えませんから……三振の体は別の時代へ、適当な記憶でも付けて飛ばしましょう」
狐はそう言って三人の体に手を翳す。燭台切と鶴丸と長谷部の体は、たちまち煙のようにその場から消えてしまった。
「大倶利伽羅はどうしますか?」
「バグとして処理すれば不自然ではないでしょう。四振の刀は刀解を」
早く油揚げが食べたいなどと談笑する声を遠くで聞きながら、大倶利伽羅は作り物の空をぼんやりと見上げた。
こいつらや審神者からしてみれば、全国に無数に存在する刀剣男士の内のたった四人。また新たに鍛刀すれば、代わりはいくらだっている。
そもそも自分だって、あの日こんな力を望まなければ、本丸へ帰り新たな三人と過ごす未来もあったのかもしれない。仲間を喪う哀しみもいずれ時間が解決したのだろう。
でも、それでは意味がないから。
自分にとっての燭台切光忠と鶴丸国永とへし切長谷部は、あいつらだけだったから。
まだ諦めるわけにはいかなかった。
「……させない」
転がっていた刀を握り締め、ゆっくりと立ち上がる。全身が痛い。もはやどの骨が折れているのかすら分からない。
「大倶利伽羅!?なぜまだ立てる力が……」
「どけ」
こんのすけ達に軽く峰打ちを食らわせると、非力な狐はごろんとその場に転がった。
大倶利伽羅は残された三人の刀を徐に拾い上げていく。血と脂でべったりと汚れ、刃毀れも酷い。彼らが必死に生きた証だった。
「何を……何をする気ですか」
やっと起き上がったこんのすけ達はひどく怯えている様子だ。なんだ、そんな顔も出来たのか。
「お前らには関係ない。黙ってそこで見ていろ」
三振の刀をまとめて抱え、その切っ先を自身の胸元へと真っ直ぐに向ける。その手の形はまるで何かの祈りのようにも見えた。
「まさか連結を!?」
「待ちなさい!一度記憶をもった刀を連結するなど……!」
これがどういう結末を迎えるのか、大倶利伽羅にだって分からない。ただ自分の直感で、こうするべきだと判断した。
「お前達には誤算だろうけどな、俺には移動した並行世界の記憶がある。そのぶんだけエネルギーを積み重ねて来た。そして俺だって神の端くれだ……分かるか」
そう、千回の失敗にだって意味はある。
あいつらの、四人で生きて戦った世界を、ただの一つだって無駄にはさせない。
「何を、考えているのですか……」
「俺がこいつらの世界を作る。何度も何度も殺されて最後は捨てられるなんて、そんな終わり方には絶対させない」
「待ちなさい!」
こんのすけ達がこちらに向かってくる。
「このループから抜け出すことが不可能なら……俺が絶望のない世界を作ってやる」
「大倶利伽羅!!」
「そのためなら俺はなんだってする」
痛みはなかった。
胸に深く突き刺さした三本の刃は、身体に吸い込まれるかのように消えていく。
大倶利伽羅はすぐさまゲートを開くと、逃げるようにその中へ潜り込んだ。
「大倶利伽羅……待ちなさい!」
闇雲に時代を弄ると、いつの時代かも、どの場所かも分からない地点へとやって来られたらしい。草をかき分けながら進んだ先、目の前にあったのは古びた廃屋。屋根も柱もボロボロに朽ち果て、もう何年も人の出入りがないように思えた。
「……ここでいいか」
屋敷の中から結界を張る。これでこの廃屋が自分達以外から見えることはない。政府もこれ以上追って来られないはずだ。
長く蓄積した世界のお陰なのか、皮肉にもいつの間にかこんな力まで使えるようになっていた。
朽ちた畳の上で、大倶利伽羅は倒れるように横になる。
雨風に長年晒された畳はカビと腐敗臭が酷い。しかし、不思議と嫌な感じはしなかった。
「ひどく……眠いな」
受けた傷や疲労のせいなのか、自身の中に新たな世界を生み出してしまった副作用なのか、自然と瞼が重くなる。
三人は無事に入れただろうか。
今眠れば、きっと俺もそこへ行ける。
所詮は一人の付喪神が作り出した世界。
きっといつかは崩壊する日が来るだろう。
そこが仮初めの楽園だとしても、どうか壊れるその瞬間までは、彼らにとって苦しみも絶望もない世界であってほしい。
そして願わくば最後まで、俺達近侍四人だけの本丸でありますように。
「……だからさ、やっぱり宇宙人が攻めてくるのがいいと思うんだよ」
「それなら本丸は派手に爆発しないとな」
あれは遠い昔の記憶。
いつの深夜だったか、鶴丸がB級映画を観ようと言い出した日のこと。
それは想像以上につまらない内容で、全員早々に飽きては酒を煽り、皆ほどよく酔いが回っていた。
だからあんな話を始めたのだと思う。
エンドロールの最中、「自分ならもっと上手く撮れる」と豪語した鶴丸と長谷部は、思い思いに理想のシナリオを語り合っていた。
「そんな話怖いだけでしょ?僕はやっぱり平和な世界がいいなぁ。敵もいなくて、みんなが仲良しなやつ」
「いいじゃねぇか!時間遡行軍とも仲良しってか。奴らの結婚式に呼ばれるなんてのも面白そうだ」
「面白いのかな、それ……」
設定は滅茶苦茶だった。
それでも酔いのせいか、ふわふわとした頭でそんな与太話を聞くのも悪くなかった。
「出てくる敵が全員、急に関西弁で話し出したら楽しくねぇか?呪いの人形なんかがさ」
「緊張感なさすぎだろ。……これB級通り越して、Z級映画になってないか?」
「伽羅ちゃんはどんな話がいい?」
「動物や……虫とも話してみたい。犬とかネズミとか」
「ははは、そりゃあ平和だな!」
「ネズミが出てくる時点で僕は平和じゃないんですけど」
「……やめたやめた。こんなシナリオで撮ったって、俺達しか面白くないだろ」
本当はそれだけで十分だったんだ。
誰に理解されなくとも、俺達だけが面白い世界であれば、それだけで。
次はそんな世界になればいい。
大倶利伽羅は瞳を閉じながら、そう願った。
完