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地元での人付き合いが全然違う二人
@a_yuuzora
成人式で地元に帰った際強制的に入れられたメッセージアプリに、メンバーの一人から結婚の連絡が来たらしい。水上はそれにさっさと欠席の連絡を入れ、それを意外に思う生駒に対して言った。
「わざわざ貴重な時間と金をかける価値があるとも思えへんので。だって、そのコミュニティを離れたら疎遠になるのって普通ちゃいます?」
彼は大阪に帰っても地元の友達と遊ぶこともないし帰ったという連絡もしないらしい。
言われてみれば、帰省したときの話を振っても、ほとんど家に籠って実家にある本を読んで過ごし、早々に飽きて三門に戻ってきたと言うことが多かった。
生駒は地元の友達とは頻度が減ったにしろ連絡はするし、近所に住んでいる従兄弟と遊んだりもするし、そこから伝わってプチ同窓会みたいな集まりをすることもある。帰省期間は家族よりも地元の友達と遊んでいる時間の方が多いくらいだ。
「そりゃイコさんはトークデッキ無限に持っとるしお喋り好きやからそうでしょうねえ。俺は別に数年前同じ教室で過ごしただけの奴らと喋ることなんて特にないっちゅーか、住んでる場所もライフスタイルも違う人間と喋るのなんの得にもならんしダルいって思ってまいます」
「そ、そうなん?」
「ボーダーのこと聞かれても機密であんまり話されへんし」
「それは確かにな」
なるほど同じ時期に帰省しても過ごし方って全然違うもんなんやなあ、と生駒は考えてから数瞬後、水上のその過去の人間関係を捨てたような物言いにぞっと背筋が凍った。
生駒と比べると水上は狭く深い人付き合いをする傾向なのはなんとなく知ってはいた。だが暮らしを変えると過去の人間関係をすっぱり切り替えるということは、未来の自分たちが『切られる側』になるのではないだろうか。そんな考えが過る。
例えば、二人の内どちらかが、あるいは両方がボーダー外で就職して地元や三門以外の場所に引っ越したとき、生駒は時間をとって水上にあって積もる話でもしたいと思うけど、誘ったとして水上は来てくれるだろうか。連絡だって取り続けていたいと思うけど、鬱陶しいと思われたりしないだろうか。もしそうだったらあまりにも寂しい。
一度コミュニティを抜けたらさっぱり他人になってしまうのなら、そうならない関係でありたい。先輩と後輩だとか、隊長と隊員だとか、戦友だとか、そんな枠を超えて。
「俺、お前のことを弟みたいに思っとるよ」
静かな思考のパニックを通過してアウトプットされたその言葉は、生駒も言った瞬間「なんか違うな」と思うような少しズレた感覚があった。ただ、簡単に縁が切れる間柄ではなく、もっと近しい、例えるなら家族のような関係でありたいと思っただけだ。そして年の近い同性の家族といえば兄弟だ。だから『弟』という言葉が出た。
それを聞いた水上は、いつも眠たげに重い瞼を見開いて驚いたような顔をした。
「いきなり何の話すか。まあイコさんが脈絡のない話すんのはいつものことですけど」
「俺ん中では脈絡あるんやけど」
「伝わってないんで、無いと同じっす」
「さよか」
「で? 俺がイコさんの弟、ですか。……ははっ、ないない。想像もできませんわ」
「そ、そんな否定せんでもええやん」
「だってイコさん、俺の兄貴と全然似てへんもん。兄貴は性格悪いし足癖悪いし無口だし、そのくせ悪態つくときだけ雄弁に喋りよる男ですよ、イコさんと正反対っす」
そうだ、水上には実の兄がいたのだった。本物の家族の立ち位置を簒奪するみたいな言い回しをしてしまった気がして、生駒は焦る。
「いやいや、水上を実家のご家族から取ろうとかそんな意味やないで!」
「分かってますよ、例え話でしょ」
「ウン」
「イコさん一人っ子やから知らんのでしょうけど、兄弟ってそんなエエもんちゃいますよ。些細なことで喧嘩もするし、殴り合いになることもあるし」
「エッそうなん!?」
「手が出てたのは小学生の頃ですけどね。海も昔はやってたんちゃうかなあ。――俺はイコさんと、もっと穏やかで良好な関係築けてると思ってますよ」
「流石にお前と殴り合いしようとは思わんわ」
水上にとっての兄弟関係がそういうものなのだとしたら、生駒が彼に求めている関係は例えるなら何になるのだろう。歳が近い同性で、ちょっとやそっとでは切れない縁で繋がっていて、何年経ったって離れていたっていつでも連絡を取り合っていてもいい関係とは。いや、そもそも離れたくなんてないのだけど。でも水上の進路に差し出口を出せるような立場ではない。
そう考えながらちらりと水上を見ると、その金色の瞳に複雑な色が宿っているのが視界に映った。熱く燃えているような、それでいて今にも泣きだしそうな、何かを諦めているような、それらすべてを覆い隠し平静を装っているような。
水上が時折見せるその感情の意味を訊きたくなった。そこに生駒が求めている答えがあると直感が囁いている。
けども、「イコさんを兄だなんて、到底思えへんな」と念押しするような言葉に心がすこし挫けてしまって、明確な言葉にならなかった問いは喉の奥に消えてしまった。