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自分のものには名前を

全体公開 神無三十一受け 11 33 3983文字
2025-03-06 16:53:12

カルみと(+☕️さんと🐸さん)
シナリオネタバレ🎃と🐸あり

 

 その日神無は、時間遡行犯罪者の事件調査のため久しぶりに過去の世界での滞在が決まった。
 業務後からの移動であったため、いつも以上に体力を消費して疲れ果ててしまった神無は宿舎の玄関に荷物を置いてぺたんと座り込む。

 「つ……かれたぁ……
 「お、三十一ちゃんいらっしゃい。長旅ご苦労さま」

 呟く神無に気がついた聖がリビングから顔を出してひらりと手を振った。
 どうやら深夜の宿舎で起きているのは聖と、神無のことを迎えに行った帰代だけのようだ。
 へとへとの神無を見下ろした帰代は、彼の荷物を取り上げると先に靴を脱いで廊下へ上がる。

 「あありがと、帰代先輩……
 「荷物は部屋に運んでおくから、はやく風呂に入って休みなさい」
 「うん……お風呂借りるねー

 仕事は明日からの予定であるため、今夜は少しでも体を休めて備えなければならない。
 帰代の言葉に大人しく頷いた神無は、疲労の滲む笑顔を浮かべてよろよろと着替えを手に大浴場へ歩いていく。
 その背を見送った聖は困ったように肩を竦めると、帰代の抱える荷物を半分預かって二階へ足を向けた。

 「相当お疲れみたいだねぇ、あの子。普段は結構我慢しいなのに隠す余裕もなさそうだ」
 「あぁ……業務後の時間移動はやめさせた方がいいな。あいつの体がもたない」

 時間を移動するには相応の体力を要する。移動の理屈はある程度理解しているが、その詳しい原理が未解明のまま利用している代物を具合の悪い神無に使わせることだけは避けたい。
 明日にでも職場で直談判するつもりでいる帰代を援護するために、このあと神無の視診についてを資料にまとめておこうと考えた聖は思い出したように口を開いた。

 「そういえば洗い物やっといたよ。食器乾燥機にかけたから、これで家事はおわり」
 「よし、でかした」
 「俺たちも明日早いし、とっとと風呂入って寝るかぁ」

 神無を迎えに行ってくると言って深夜に出掛けた帰代を見送った聖は、彼が帰宅次第するつもりだったらしい皿洗いを片付けておいたのだ。
 なにかとセクハラを働く彼だが、こういった気遣いにはどこまでも長けている優しいやつである。素直に礼を言った帰代は頷くと、神無の荷物を部屋に置いた。
 明日は神無と共に事件の調査が決まっているふたりは、早く風呂を済ませて寝てしまおうと
風呂場へ向かう。

 「三十一ちゃん、俺たちも入っていいー?」
 「もちろん!今湯船空いてるよー!」

 先に洗い場に向かったらしい神無の返事を聞いた聖は、脱衣所で服を脱いで風呂の支度を整える。
 隣の帰代も同様にさっさと服を脱ぐと、タオルを手に浴場の扉を開けた。
 古く使われていなかった宿舎をリフォームする際に、風呂の順番待ちが出来る限り発生しないようにと風呂場を広くしたお陰で、男三人が入っても窮屈さはあまり感じない。
 さっと湯で体を流して湯船に浸かれば、遅くに到着する神無に合わせて沸かし直した温かな湯が体を包み込む。
 ほっと息を吐いて肩まで浸かった帰代がちらりと顔を上げれば、浴場に顔を出した聖は洗い場の神無を見つめていた。

 「聖?なにして……

 声をかけた帰代は、振り返った彼の表情を見て顔を顰める。
 良いことを思いついたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべる彼の『良いこと』は、被害を被る側からしてみれば全く良くないことだ。

 「三十一ちゃん、背中洗ってあげよっか?」
 「へ!?」

 案の定下心がありそうな提案を投げながら、彼はにじにじと神無のそばへにじり寄っていく。
 機嫌良くボディタオルで体を拭いていた神無は、それまで聖と風呂で接触したことがあまりなかったのか驚いた顔を上げた。
 普段ならこの程度のセクハラは聖の呼吸とみなして放置するが、さすがに移動をして疲れた神無を餌食にするわけにはいかない。
 そう盛大なため息を吐いた帰代は、次の矛先が自分になる覚悟をして声を上げる。

 「おい聖、今日はその辺に……

 ところが、帰代がそこまで言いかけると聖がぴたりと足を止めた。
 おや、と眉を上げる帰代の一方、風呂場にも関わらずだらだらと冷や汗をかいた聖は両手を上げて降参の姿勢を取りながら背後へ後ずさる。

 「や……やっぱりやめとこっかなー、三十一ちゃん嫌がってるし〜……
 「聖先輩って自制とかできたんだ……
 「ん?俺のこと発情した猿かなにかだと思ってる?」

 大人しく引き下がっていく聖を意外そうに見送った神無は、ふたりのために早く洗い場を空けようとさっさと体を洗い始めた。
 そんな彼に手を出すことなく帰代の元へと歩いてきた聖は湯船に体を沈めると、少しだけ名残惜しそうに神無を振り返る。

 「……どういう風の吹き回しだ?」

 そんな彼を呆れた様子で目を細めて見守っていた帰代がそう尋ねれば、あっさり神無から離れた理由を問われたのだろうと察した聖が苦笑いを浮かべる。

 「いやぁ……俺もまだ命が惜しいっていうか、ねぇ?」
 「はぁ……?」

 帰代の尻を撫でて大外刈りを食らっても懲りなかったあの聖が、神無へのセクハラを命を惜しんで止めるとは。
 今後の参考にしようと考えた帰代が首を傾げて言葉の続きを促せば、聖はちらりと神無の背中に視線を送る。
 それを辿るように顔を上げた帰代は、神無の腰を見た途端思わず露骨に顔を顰めてしまった。

 「うわ、」
 「あれねー……たぶん三十一ちゃんには見えない位置だから気付いてないんだろうけど」

 神無の細くしなやかな腰にぽつりと浮かぶ赤色は、おそらく恋人が残したキスマークなのだろう。
 あの位置では鏡で的確に映しでもしない限り、神無自身が気づくことはない。
 つまりあの印は、周囲の人間への明確な威嚇と牽制ということになる。

 「縞斑狩魔ァ……
 「あーお母さん怒っちゃった……

 そんな腹黒い真似をする神無の恋人の忌まわしい顔を思い浮かべた帰代がイライラと組んだ腕を指で叩き、聖はそんな過保護な彼の様子にますます苦笑いを浮かべる。

 「神無!風呂を出たら保湿してやるから少し待ってなさい!!」
 「わ、わかった……?」

 何故か怒っている帰代に、神無は不思議そうな表情を浮かべながら首を縦に振った。
 分からないなりに返事をする素直な神無の姿に比例して、ますます募る彼の恋人への苛立ちのままに帰代は舌を打つ。
 隣の聖も流石にフォローは難しそうだと笑うと、大人しく湯船の縁に両腕を付いて神無の背中を眺めた。

 「あんなことしなくても、宿舎の子たちは三十一ちゃんを横取りなんてしないのになー」
 「横取られるとは思ってないからひとりで行かせてるくせにな。ったく、めんどくせぇ……

 本当に神無が狙われる危険があると考えていたら、きっと縞斑は何がなんでも同行することだろう。
 それをしないのはおそらく、宿舎の人間が神無に恋愛感情を抱いていないと確信を持っているからだ。
 神無にもそういった気がないことを再三確かめた上で行かせているくせに牽制しておかないと気が済まない、全く余裕のない男である。

 「他の奴らに見られたらどうすんだよ……ここには虫刺されだと思って良かれと指摘するようなガキがいるってこと分かってんのかアイツは……
 「ははは……まぁ、見せるためなんだから仕方ないんじゃね?」

 聖の含みのある言葉は、どうやら帰代以上に縞斑の行動の意図を理解しているらしかった。
 怪訝な表情のまま帰代が首を傾げれば彼は、きっともっと機嫌悪くなると思うよ、と笑って前置きをしてから言葉を続ける。

 「ほら、この前風呂が壊れて銭湯行っただろ?」
 「あぁ……そんなこともあったな」

 矢先が掃除中に給湯機のネジを抜いてしまったことによって故障した風呂を修理するまでの数日間、宿舎の刑事たちは揃って近くの銭湯で風呂を済ませていた。
 それまで神無は広い湯船というものに無縁だったらしく、宿舎の風呂以上に広いその空間をテーマパークのようにはしゃいでいたのだ。
 広い湯船に仲間たちと浸かって、風呂上がりには冷えたコーヒー牛乳を飲み、銭湯ライフを満喫していた神無はおそらく、元の世界に戻って縞斑にその話をしたに違いない。
 そこまで想像を巡らせた帰代は、ひとつの考えに至ってひくりと頬を引き攣らせる。

 「……まさか、」
 「あれ付けた三十一ちゃんのこと、さすがに他の客がいるところには連れていけないだろ」

 神無のことを大切な弟として可愛がっている宿舎の刑事たちならば、腰にキスマークを付けて知らずに色気を纏う神無のことを他の人間に晒したりしないだろう。
 縞斑は神無の肌をどこぞの男たちに晒さないために、帰代たちの後輩を可愛がる感情を利用することにしたのだ。
 
 「良い度胸だなあの犯罪者……
 「ほんと彼頭回るなぁ、刑事のままだったら何より心強いのに」

 縞斑が時折警察上層部に向ける棘のある言い方から察するにおそらく、過去に何かがあったのだろう。
 未来の事件に関わるであろうその理由を詳細に聞くことは叶わないが、警察組織を辞めてもなお彼は元後輩の神無を気に掛けている。
 想いを通じ合わせて共に歩む覚悟をしているのであれば、聖からは何も言うつもりはない。
 一方帰代はというと、犯罪者との繋がりという点において前々から抱えている私怨も相まってイライラと体を揺すっていた。

 「……なんで神無はあんな男がいいんだ

 思わず漏れたその呟きは本当の母親のようで、堪らず吹き出した聖の顔面には次の瞬間問答無用で風呂桶が炸裂するのだ。



 


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