X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

災い転じて美味しくなった

全体公開 刑事探索者 6 19 3698文字
2025-03-06 21:38:43

アップルパイを作る🐸さんのss。刑事探索者たちも出ます。
ネタバレは特にありません。

災い転じて美味しくなった

「やっちゃった」
 刑事たちが集う宿舎の玄関で、大きな段ボール箱を抱えた的中が帰るなりそう言った。その後ろでは共に行動していたらしい糸冬が、同じく段ボール箱を抱えて「やっちゃいました~」と笑顔を張り付けている。
 出迎えた帰代が顔を引き攣らせながら、二人が抱えている箱を指さした。
「それは、何だ?」
「リンゴだ」
 的中の端的な答えに、帰代は「見れば分かる」と返す。箱の表にはリンゴの絵が描かれていたからだ。聞きたいのは、何故リンゴを二箱も持って帰って来たのかである。
「任務の帰りにひったくりを見かけて、矢先さんが追いかけて捕まえた――のは良かったんですが、その際に突き飛ばした犯人が八百屋さんに突っ込んでこのリンゴを駄目にしてしまったんです」
 無関係なのに商品を駄目にされた八百屋は、理由が理由であり相手が刑事ということもあって怒鳴りはしなかったが、迷惑そうな困り顔を的中へ向けていた。
 このままでは心証が悪いだろうと、糸冬は駄目になった商品の買取りを申し出て、その結果がこの二箱のリンゴである。
「経緯は分かった。で、こんなに沢山どうするつもりなんだ?」
「もちろん、食べます。糸冬は無駄なことが好きですが、食べ物を無駄にするのは好きではないので」
 笑顔で宣う糸冬に溜息を吐き、帰代はとりあえずリンゴの箱をキッチンへと運ばせた。リビングにいた他のメンバーが何事かと寄って来る。
「あっ、リンゴ!」
「えらく大量だな?」
 神無がぱっと顔を輝かせ、アキラはその量に軽く目を見開いている。
 遅れて箱を覗き込んだ聖は、一つ手に取り眺めて言った。
「ちょっと傷が入ってるし、あんまり日持ちしなさそうだね」
「道路にぶちまけちゃったので仕方がないです」
 糸冬が集まって来た面々に再度事情を説明している。その隣で、的中は反省しているのかいないのか読み取れない真顔で「吾輩、やっちゃった」と繰り返した。
 そんなやり取りを余所に帰代は箱から比較的傷の少ないリンゴを一つ選び出し、慣れた手つきで皮を剥いて櫛切りにした。適当な皿に盛ったそれをテーブルに置く。
「食べて良いの?」
「ああ。とりあえず味見してみないとな」
 甘酸っぱい香りに真っ先に気付き、神無は帰代にお伺いを立ててから手を伸ばす。それを皮切りに他の面々も一切れずつリンゴを手に取り齧った。
 そして、食べ終えての感想は――――
「リンゴだ」
「うん、まあ、リンゴだな」
 的中のストレートな感想に、アキラも軽く頷いて同意する。
 聖は「旬じゃないからねぇ」と苦笑しつつ、ティッシュで指先を拭いた。未来でより品種改良の進んだリンゴを食べなれている神無は、更に微妙な表情である。
「不味くはない……よ?」
「ああ、そうだな」
 神無の言う通り、不味くはない。ただ、特別美味しくもないのだ。
 これは、食卓に剥いてあれば食べるかもしれないが、積極的に手が出るような味ではない。生食で大量消費は望めないだろう。
「傷物とはいえ、安かったですし」
 糸冬が付け加える。高級ブランドでもない時季外れのリンゴは、値段相応の味ということだ。
 だが、安物とはいえこのまま腐らせるのは勿体ないし、気分も良くない。
――――仕方ない」
 溜息を吐き、帰代はエプロンを手に取る。
「帰代先輩、このリンゴで何か作るの?」
 神無が密かな期待を込めて見つめれば、帰代は調理道具や他の材料を出しながら答えた。
「悪くなる前に加工した方が良さそうだからな。とりあえず大半はジャムにする」
 傷物の果物の行先としては、至極妥当なものだろう。煮詰めることにより体積が減るし、日持ちもする。ご近所へのお裾分けもしやすい。
「大半ってことは、他にも作るんだ?」
 聖が流し目で問いかければ、帰代は準備を続けながら「まぁな」と返す。
 そして、キッチン周辺にいるメンバーの顔をぐるりと見渡してから、帰代は複数組準備した包丁とまな板を並べて指名した。
「量が量だからな……聖、神無、手伝え」
 手伝いを申し付けられ、神無は素直に「わかった!」と返事をした。甘い物を作るのは苦にならないタイプだ。聖は一瞬「えー」と面倒臭そうな声を出したが、帰代がじろりと睨めば両手をさっと挙げて「了解」と応える。
 かくして、キッチンにはリンゴを剥いて刻む音と匂いが立ち込め始めたのだった。


 ジャム用よりも大き目――一口サイズに切ったリンゴには砂糖を塗し、馴染ませておいた。鍋を取り出し、弱火にかけて温める。バターを入れて溶かしたら、砂糖を塗したリンゴを入れる。
 十人の食事を賄うキッチンの火口は多い。帰代がリンゴを炒め煮する隣では、聖と神無が交代しつつ大鍋でジャムを煮詰めている。
 ジャムの方にはバターは入っておらず、代わりにレモン汁が加えられている。その分黄色味の残った色になっており、一方帰代の鍋はシナモンも加えて少し茶色っぽくなっていた。
「こんなもんか」
 一足先に火を止め、帰代は鍋ごと中身を冷ましておく。その間にパイシートを取り出し、包丁でささっと切り分けた。形は凝らずに長方形だ。その方がロスが出ない。二枚一組にし、片方はフォークで穴を開け、もう片方には包丁で切れ込みを入れておく。
 鉄板のクッキングシートに並べたら、煮込んだリンゴをゴロゴロとパイ生地に乗せ、切れ込みを入れた方で蓋をするように包む。一緒にカスタードクリームやアーモンドクリームを入れるレシピもあるが、今回はリンゴの大量消費が目的なので無しだ。
 周囲をフォークでぐるりと押さえ、表面に卵黄を塗れば帰代のやることはほぼ終わりだ。
 後は予熱しておいた業務用のオーブンにそれらを入れ、スイッチを押すだけである。
「帰代先輩! 俺焼きたて食べたい!」
「わかったから、ジャムの作業に戻れ。あの量を焦がすと悲惨だぞ?」
 オーブンを覗きに来た神無を諭して持ち場に帰し、洗い物を済ませる。焼き上がりを待つ時間で、ジャム用の瓶の煮沸も終わらせておく。
 神無と聖の単純だが時間と労力のかかる作業によって出来上がったリンゴジャムが瓶詰までされた頃、オーブンから焼き上がりを告げるメロディーが流れた。
 蓋を開けて目で確かめれば、表面はこんがりきつね色に焼き上がっている。周囲にバターとリンゴの匂いが溢れ、リビングに散っていた他のメンバーも再び集まって来た。
「帰代先輩のアップルパイ……!」
「パイ生地は冷凍のやつだけどな? まあ、味は悪くないはずだ」
 大量のパイ生地を一から作るのは時間的にも材料的にも難しかったので、パイシートを使った簡易版だ。とはいえ、しっかり煮込んだリンゴがたっぷり詰まったアップルパイの味は期待できる。
「もう食っていいのか?」
 アキラもサングラスの向こうで目を輝かせている。本場の人間としても、焼きたてのアップルパイは見逃せないのだろう。
「構わないが、火傷に気を付けろよ? あと、一人二つまでだ」
「はーい!」
 返事をするが早いか、神無が自身の取り分を皿に乗せている。アキラや的中、糸冬もそれぞれ一つずつ皿に移すと、まだ熱々のそれに齧りついた。
 焼きたてサクサクのパイ生地の向こうから、熱々とろとろシャクシャクのリンゴが口の中に溢れだす。甘く、少しだけ酸っぱい味が口いっぱいに広がり、鼻の奥にシナモンとバターの香りが抜けていく。
「うまい」
「美味しい~!」
「あっつ!? でも美味いな!」
「美味しいです」
 ハフハフと熱を逃がしながら、頬を赤くした四人が口々に言う。目の輝きを見れば、それがお世辞でないことは明白だ。
 一足遅れてアップルパイにありついた聖も、「流石変ちゃん」と手放しに褒める。ジャム作りで疲れた身体に、アップルパイの甘さが染みた。
 帰代は当然とばかりに頷きつつも、満更ではない様子だ。まだ熱いパイを手に取り、口に運ぶ。思った通りの味を舌に感じ、口の端が自然と持ち上がった。
 玄関の方から、残りのメンバーが帰って来た声が聞こえる。アキラが「早く手を洗って来い! 良いもんがあるぞ~!」と声をかけている。どうやら彼らも、焼きたてのアップルパイを味わえそうだ。
 リンゴの季節ではないが、刑事たちの宿舎は美味しい甘酸っぱい匂いで満ちている。
 ちなみに、このアップルパイとリンゴジャムにより、大量のリンゴは一つも無駄になることなく無事に消費されたのだった。


(あとがき)
 パイを作る🐸さんというマロに触発され、どんなパイにするかアンケートを取り、結果としてアップルパイを作る🐸さんのお話になりました🍎 ちなみに参考にしたレシピは私が作ったことあるやつです。パイ生地は作ったことない……シートを切って四角く作ると、切り分けずに食べられるので中身が零れてしまわないのが良いんですよね~パイ生地も余らないし。そして、楽。何だか焼きたて食べたくなってきたので、そのうちリンゴが手に入ったら作ろうかな?


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.