第27回トワスト(遅刻参加)、テーマ「雛人形」作品です。制作時間は約35分。ランフォードとジェフのお話です。
@xxxyueyunxxx
バレンタインデーを過ぎると、街の様子は一変する。
少しだけ設けられたホワイトデーコーナーに、雛菓子のコーナー。チラシ置き場には早くも父の日や母の日という字が飛び交っていた。
「今年ももうすぐ雛祭りだねえ」
買い物に入ったデパートに飾られていた雛人形の前で、突然ランフォードがそんなことを口にした。
「……そうだな。もうじき、そんな日だ」
どうもお内裏様とお雛様の並びに馴染めない、と内心思いながら、ジェフは返す。久方ぶりにこちらの世界のこの国に来てみたら、昔とは逆の並びが主流になっていたのだ。――これも時の、流れなのだろう。
「ランの家では、飾るのか?」
ランフォードには娘がひとりいる。そしてランフォードがその娘を目に入れても痛くないくらいに大事にしていることを、ジェフもよくわかっていての、問いだった。
「雛人形かね? もちろん、飾るよ。雛祭りは女の子のお祭りだからね」
雛祭りにはケーキも買って祝うんだよ。微笑んでランフォードがそう言うので、ジェフは低く笑った。――ケーキを食べたいのは、お前だろう。全く、ランフォードらしい。
「君は飾らないのかね、ジェフ?」
「俺様か?」
「そうだよ。確か君、いつぞや立派な雛人形を手に入れていたじゃないか」
よく覚えているな。ジェフはその鋭いシトリンの瞳を軽く見開いて、肩をすくめた。――確かにジェフは、雛人形を所持している。だがそれは、あくまでコレクションとしてである。扱いは、骨董と同じだ。
「何故俺様が飾るんだ。俺様が独り身なのはお前も知っているだろう」
「雛人形も、たまには外の空気を吸いたいかも知れないよ?」
「虫干しなら、たまにやっている。だから飾る必要は――」
そこで不意に、脳裏にひとりの少女の姿が思い浮かんだ。隣の、衣料品店の一人娘だ。不思議なくらい、ジェフと気の合う子。一緒にいて、心地良いとさえ思える少女。栗色のお下げ髪が、軽く揺れる。
桃の節句は、無病息災を願う日だ。――あの子のことを祈って、俺様も雛人形を飾ってみてもいいのかも知れないな――
「どうしたんだね、ジェフ?」
「いや。――前言を撤回する。俺様も、飾ろう。桃の節句に、祈りを込めてな」
せっかくだから桃の花も欲しい。雛菓子は昨今いろいろ出ているが、やはり雛あられだろうか。
「それがいいよ。人形のためにも、君のためにもね。――君はケーキを用意しないのかね? 予約しておいた方が確実だよ?」
「俺様はいい。……もしケーキが欲しくなったら、当日に自分で焼くさ」
しかし――何故ランは、俺様のためにもと言ったんだ……?
先ほどのランフォードの言葉についてジェフは考えてみたが、デパートを出る頃になっても、その言葉の意味だけはついぞわからなかったのである。