第28回トワスト(遅刻参加)テーマ「古びたトランクケース」参加作品です。制作時間は約50分。サティナとランフォードの話です。
@xxxyueyunxxx
日が暮れて、外もだいぶ暗くなってきた。
静かなキッチンでひとり夕食の用意をしていたサティナは、鍋の火を止めながら首をかしげた。
「おかしいわね。ランフォードは家にいるはずなのに、来ないわ」
大体食事の出来る頃になると、ランフォードは家にいればキッチンに現れるのだ。今日のご飯は何だね、と。匂いでわかっているはずなのに、つい覗きたくなるらしい。それが今日は、全く姿を見せる様子が無い。今日のご飯はカレー――あまり辛すぎるのが得意ではないランフォードに合わせて甘口寄りの味だ――なのに。
「確かソレイユは、正君と遊びに行ってるからまだ帰ってこないし。……一度、様子を見に行っておこうかしら」
昼食を食べてからずっと静かなのに気付いたサティナは、ランフォードがいるであろう部屋に向かってみることにしたのである。
ランフォードがいるのは、どうやらランフォードの私室兼寝室のようだ。――それは、魔力でわかる。魔族は皆、それぞれ特有の波長を持った魔力を持っている。魔力を探してみたら、ランフォードの魔力は昼間と変わらずそこにあったのだ。
「ランフォード」
「ん? 何だね、サティナ?」
入っていいよ、と中から返事があったので、サティナは部屋の中に入ることにした。
部屋の中央に、ランフォードは座り込んでいた。古びた、トランクケースを開けて。
「……ランフォード。それは?」
「ああ。君には見せたことがなかったかね? これは、私の宝物のひとつなんだよ」
ランフォードが手招いてくれたので、サティナはランフォードの隣に座る。そして一緒にトランクケースの中を覗き込んでみた。
「随分といろいろ入っているんですね」
「そうだろう? ここには大切なものを、いろいろとしまってあるからね」
例えばそれは、古びた鍵だったり。また、仮面舞踏会で使うような仮面だったり。中身は本当に、様々であった。
「このトランクケースはね。少し前にジェフと一緒に買ったものなんだよ」
少し前。半永久的な生命を持つ魔族にとっての少し前だから、それは何年前なのやら。
「少し、ですか。それ、百年ではきかないのでは?」
「ええと、二百年前くらいかなあ」
やっぱり。それなら、このアンティークと見紛うような古びた雰囲気にも、納得がいく。
「街を行くのに、このくらい持ってないと不自然だったからね。入った店で気に入ったものを、ふたりで買ったんだ。少しずつ違うところはあるけれど、ほとんどお揃いのトランクケースをね」
「そのトランクケースを、今も持ち続けているというわけなんですね」
「その通りだよ。実はこのケースは、持ち手のところが外れかけていて、もうトランクケースとしては働けない。――でも、せっかく友とふたりで買ったものは、捨てられないだろう? それでこうして宝物入れにして、たまに中身を見ていたんだよ」
どこかの社交界で使ったのかもしれない白手袋に、空の小瓶。――小瓶には何が入っていたのだろう? 香水だったのかも知れないし、それともランフォードのことだ、お菓子だったのかも知れない。
一見がらくたに見えそうなものも入っていたが、ここに入っているということは、それもランフォードの大事な物――宝物なのだろう。
「ちょっと。これ、私が大昔に渡した……!」
トランクケースの片隅に、見覚えのある古びたネクタイを見つけたサティナは、それを箱から放り出そうとした。だがそれは果たせない。ランフォードがサティナの細い手首をそっと掴んで、そのまま手を包み込んでしまったから。
「これも私の宝物だよ、サティナ。君が初めてくれたものだよ? 捨てるなんてとんでもない」
ランフォードが微笑んで顔を覗き込んでくる。頬が自然と熱くなり、心臓の音が煩いくらいに鳴り響くのがわかった。――この人には、かなわない。
「さあ、そろそろ行こうか。君が呼びに来てくれたということは、もうすぐ夕ご飯なんだろう? 今日は何を作ってくれたんだね?」
「――きっと、あなたの大好物ですよ」
宝物がいっぱいのトランクケースを大事そうにランフォードがベッドの下にしまい込んでいる。――あのようなケースが複数あってもサティナは不思議には思わない。ランフォードは、今までの思い出を何一つ捨て去れない、そんな男だから。
いつの間にか、この人を待つ時間も心地よくなったわね――サティナは立ち上がりながら、ランフォードの作業を見守ったのである。