それはあるいは、鮮烈で美しい愛の言葉
@fu_re_re_ra
《医者とかみさま》
なあ、きみ。実はな、少し心配してたんだ。
きみは医者だろう?
だから、歴史の中の人々を、本来の歴史で死ぬべき人々を、過度に助けようとするんじゃないか、ってな。
だが、蓋を開けてみれば、オレの杞憂だったみたいだな。
きみがそういう素振りを見せたことは、オレが見てきた限り一度もない。
ねえ鶴るん。歴史に影響が出るってことは、つまり、未来に生まれてくる多くの人が消えてしまうってことなんだよね。
ああ。
たとえば私が、百人のお年寄りが入院している病院の医者だとして
そこに、伝染病の人が一人、入院させてくれ、助けてくれ、って駆け込んできたとするでしょう
その人を助けるってことは、本来危険がなかったはずの百人を、伝染病に掛かれば即刻死ぬ百人のお年寄りを、全員殺す可能性を孕むことだよね。
だから、そういう場合は断る。
その人は、本来なら別の病院が助けてくれるはずだしね。なんでも助けるのが正しいわけじゃない。
それを決断するのが、医者なんだ。
だから、ちゃんとわかってるよ。
医療っていうのは、死ぬかもしれない人を助けるだけで、生きるはずの人を殺す可能性を孕む場合は『医療』じゃないんだ。
私が助けるべき人は、その人が助かることで他の人が死なない人だけ。それ以外の人はね、助けることが最初から許されていない。
それを正しく理解できる人しか、医者をしてはいけないんだよ
なあ、だいぶ意地悪なことを聞いてもいいかい
いいよ
それは、駆け込んできたそいつを見殺しにしたことにならないかい
そうだよ
彼女は、迷わず答えた。
だから祈るんだ。自分には許されないが、別の誰かが助けてくれますように。死んでしまったなら、同じような人が助かる世の中になりますように、って。
もしそれが罪だとしたら、それができる人しか医者になってはいけない。助かる人と助からない人を、人は決して自分で選んではいけないんだよ。
自分が助けて良い人だけを、全て助ける。そこに選択や選別は存在しない。それが医者なんだ。
命を選別した瞬間から、その人は医者ではないんだよ。
だから私は、選ばない。
助けて良い人だけを、一人でも多く助けられるように努めるよ。
それが医者。今までだってそうしてきたし、これからもそう。今日も明日も明後日も。
あのね、鶴るん
なんだい
私はね、助ける人と見捨てる人を。
自分で選んでいいのは、人間じゃなくかみさまだけだと思ってきたよ。
鶴るんは、どう思う?
……そうだな、オレもそう思うぜ。
神様にはそれが許される
だからオレたちは、オレは。
他を斬って、きみを生かすよ