第29回トワスト、テーマ「致命傷」作品です。制作時間は約50分。ランフォードとジェフの話です。
@xxxyueyunxxx
「ねえねえジェフ、たまにはゲームをしようよ」
「お前、前もそんなことを言わなかったか?」
あからさまに呆れ顔をしたジェフに、ランフォードは問答無用でコントローラーを握らせる。
「好きなゲームの新作が出たんだよ。このままではまた、家族ゲーム大会で私が負けてしまうんだ。頼むから遊ぼうよ」
ランフォードは期待の眼差しをジェフに向ける。見つめ合うこと数秒、大きなため息とともにジェフの視線が逸らされた。
「……一度だけだぞ」
「それでいいよ。ありがとう、ジェフ。楽しもうね」
ランフォードはゲームが大好きだが、ジェフはと言うとこの手のゲームには見向きもせず、家にもひとつも置いていない。レトロゲームも骨董品みたいなものじゃないか、と一度提案したことがあるのだが、それは黙殺されている。
予約して買った、すごろく式ゲームの最新作を、ランフォードはせっせとセットした。電源を入れて、いざ開始だ。
「ラン。これのルールは前にやったものと同じか?」
「そうだよ。新しいカードが出てきているけど、それは説明が出るからね」
最初はやるのを渋るが、一度やると言ってくれたら、身を入れてゲームをするのがジェフである。ゲームをする回数が少ないからと、油断は出来ない相手だ。何せ、頭の回転も良いし、ゲームをやる中であっという間に学習をしていくタイプだから。
いかな相手がジェフでも、私は手を一切抜かないよ。
最新作はどんな風になっているのかわくわくしながら、ランフォードはゲームをプレイし始めた。
ゲームの中にも年月がある。プレイ年数はお試しプレイということで、五年に設定した。このくらいの年数プレイすると、大体の要素を経験出来るから。
サイコロを振って、自分の汽車を進ませる。このゲームは、最終的に一番資産を持っていた者が勝ちなのだ。資産を集めるために物件を買ったり、はたまたカードで妨害したりするのである。
ランフォードはこのシリーズのゲームを、それなりの回数プレイしている。何度やってもそのたびに違うところがあり、飽きないのだ。家族皆で対戦が出来るのも大きい。
何度もやっている。すなわち、ある程度慣れている。そのため、ランフォードに誘われたときにしかゲームをしないジェフとは、経験という面で大きな差があった。
効率よく有効なカードを集め、コマを進め、目的地に積極的にゴールする。最後の一年に入った時、ランフォードとジェフの資産の差はかなり大きかった。
このまま順調に行けば大差で勝てる。
にこにことランフォードは汽車を進めていった。
――そのときだった。
「かかったな、ラン」
「え?」
横目でジェフの様子を窺うと、負けているにも関わらず、笑っていた。――あの笑みは、何かを考えているときのもの。鋭いシトリンの瞳も、全く力を失っていなかった。
ジェフがにやりと笑い、コントローラーを操作する。――彼が選択したのは、一枚のカード。
「あ……あああああ! 君、そんなものを持っていたんだね?」
「相手の手札は常に把握しておくものだぜ、ラン?」
血の気が引いていくのをランフォードは感じた。――まずい、これは一発で形勢が逆転する。大どんでん返しだ。
ランフォードの番だ。だがこの状況を変える手段も、カードも、何も持っていない――!
あえなく一瞬で、築き上げてきた資産は吹き飛んだ。――この局面でこの状況は、致命傷でしかない。
「油断禁物だな、ラン。――悪いが俺様、勝負事に負けるのは嫌いなものでな」
「ま……まだあと少しプレイ出来る時間は残っているよ、ジェフ。君こそ、私に足元をすくわれないようにね」
「忠告、痛み入るぜ」
そんなこと、少しも思っていないだろう、ジェフ――!
ランフォードはハンカチで額に浮かんでいた汗を拭き取ると、逆転の目を探し始めた。
「ただいま。――ランフォード。一体どうしたんです?」
「……ひどいんだよ。ジェフがひどいんだよ……」
「俺様、何もしていないぜ? ――勝負は勝負だ」
「――何だ、そういうことですか」
「何だって。ちょっとくらい私を心配してくれてもいいじゃないか、サティナ……」
さっさとキッチンへと入っていってしまった妻の背を見送ると、ランフォードは肩を落とすのであった。