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無題

全体公開 2708文字
2025-03-25 14:22:36

深夜、寒薙は腹を満たしに街を歩いていたが……

深夜。寒薙はスーツのジャケットを肩に羽織って街を歩いていた。白いスーツ姿は夜闇に良く映えている。
腹を空かせた寒薙は、食堂に行こうと思ったが踵を返して逆方向へ歩いた。治安の悪い城下街の、特に裏通りは厄介事で満ち満ちている。せめて御飯時くらいはゆっくりしたいものだ。そうして寒薙は露店の立ち並ぶ通りに入った。健康志向のものからジャンクフードまで、多種多様の選択肢が彼の前にはあった。
……どうすっかな」
酷く空腹だったので、丼物を食べることにした。揚げたての肉が乗った丼ぶりにがっつき、平らげる。こういう時の飯は美味い。空腹は満たされた。店主にご馳走様、と声を掛け通りを彷徨いていると何処からか声が聞こえてきた。
気になって、聞き耳を立てた。どうやら揉めている様だった。一人の男が、一方的に相手を責め立てているらしい。はぁ、と溜息を吐いたのが聞こえた。
「悪いね、君には用が無いんだ」
爆ぜる音がして、一帯が静まり返る。
……居るなら出てきたらどうなの」
声に従って、姿を現した。
「げっ」
ふたりの声がシンクロする。気まずそうに顔を顰めた後、舌打ちをした。一連の動作が、ぴったり重なる。
「どうしてあんたが此処に居る」
声の主である銀髪の男が、寒薙を睨んで言った。
「はっ、それはこっちの台詞だよ。情報屋」
情報屋と呼ばれた男は、足元に転がる死体をちらと見遣ると路傍に蹴飛ばし得物をしまった。
「折角美味い飯食ってきたってのになんてもん見せやがる」
そう言って寒薙は煙草を咥えると、蹴飛ばされた死体を見た。頭頂部が禿げかかった中年の男。急所を一発で撃ち抜かれている。即死だ。
「とか言って死体見るんだね、本当わけわかんない」
「るせえな。こんなもん見せてくれたんだ、酒に付き合えや」

□□□□□□□□

……有無を言わさず連れてくるのもどうかと思うけど?」
嫌そうな顔をして情報屋はカウンターに肘をついた。悪態をつきつつも、酒が飲めることに関しては満更でもないようだ。
「俺が飲みたいだけだからな。この果実酒、お前も飲むだろ?」
「はいはい、どーも」
呆れつつも情報屋は酒を呷った。グラスの中の酒は直ぐに無くなった。
「お前もなんだかんだで飲んでるじゃねえか」
「こうして居られるのも何時までだか……
グラスに残った氷をカラカラと鳴らしながら情報屋は呟いた。言葉の真意が解らず、黙って酒を飲む。
……寒薙。逃げるなら今だよ」
「はあ?」
人影で辺りが暗くなった。振り向くと、黒服を纏ったふたりの男がこちらを見下ろしていた。
……どちら様で」
冷めた目で情報屋は男を見る。片方の男は少し気まずそうに周りを一瞥した。
「此処じゃ話し辛い。表に出ろ」
情報屋は溜息を吐くと、溶けかけの氷が残ったグラスを乱暴に置いて立ち上がった。
「後で払うから。頼んだよ」
寒薙にそう耳打ちして情報屋は男たちと共に店を出た。どうも気にかかって仕方がないので、寒薙は店主にそっと尋ねてみることにした。
「なあ、さっきの奴らについて何か知らねえか」
「彼等ですか。ここだけの話……
小声で全てを知らされた。先日何者かによって潰れた裏組織の人間だという。恐らく、その「何者か」は情報屋のことなのだろう。仕事上、彼も寒薙も恨みを買うことは少なくない。今回もまたその類なのだろう。
「なるほどねぇ」
寒薙は扉の外を見遣った。

一方、外では情報屋は大勢の男に囲まれていた。恨み辛みを散々聞かされ、辟易していた。早いところこんな茶番から抜け出したい。得物を取らずに最後まで話を聞いている自分に褒美をあげたいとさえ思っていた。
……そういうことだ。首領の仇、取らせてもらう」
「数で勝とうっていう考えかい」
「死んでもらう前に色々吐かせてもらおうと思ってな」
「痛いのは嫌いなんだよねぇ。逆は好きなんだけどさ」
短刀と銃を構え、情報屋は周囲を見た。そして真っ直ぐ駆け、正面の男を踏み台にして宙を跳び、背面に立っていた男を斬った。着地と同時に寄ってきた二名を足払いし、得物を奪い懐に入れる。
敵対する集団を見る。後ろの方で動かずに居る人物が怪しい。目深に帽子を被った男目掛けて短刀を投げた。が、他の男によって短刀は弾き落とされてしまった。彼がこの集団の中のリーダー格のようだ。先程奪い取った銃を構え応戦する。
……は、分が悪いね」
何処かで油断をしていた。……気づいた時には遅かった。背後でカチ、と音がした。今少しでも動けば頭を撃ち抜かれるだろう。
…………ああ、ほんと最悪」
その言葉は、どちらの意味だろうか。
「よぉ! 情報屋ァ!!」
寒薙が愛刀の赤兎馬を携え現れた。
「マジで来やがった。だろうと思ったけど」
「おいおい、そこは有難く思うとこじゃねぇのかよ?」
既に彼の足元には数人の男が地に伸びていた。情報屋は舌打ちをすると背後の銃を持つ手首を掴み男を投げ飛ばした。
「まあ、感謝はしてあげるよ」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、情報屋は再び銃を構える。
「お前雪守はどうした」
「そこの帽子狙って投げたら落とされた」
「馬鹿かよ」
「いつも赤兎馬を忘れるあんたに言われたくないね」
「うっせえ」
寒薙は狼狽える男達に峰打ちを食らわせ、情報屋と背中合わせに立った。
「俺は雑魚蹴散らしてやっから。お前はその帽子の奴を蹴散らして来いよ」
「言われなくてもやるさ、余計なお世話だね」
言い終わると同時に情報屋は駆け出した。標的は勿論、帽子の男。
「オイ雑魚、 お前らの相手は俺だ! まとめて掛かってきやがれ!」
情報屋に近付こうとする男達を挑発し、寒薙は太刀片手に暴れた。

□□□□□□□□

……よお、片付いたか」
今この場で立っているのは情報屋と寒薙だけ。その他大勢は皆、地に伏していた。
「見て分からない?」
帽子の男を踏み付けて情報屋は寒薙を睨む。男は既に事切れていた。暴れているうちに始末したらしい。
「おらよ。お前のだ」
寒薙は男達を薙ぎ倒した後で拾った雪守を情報屋に差し出す。情報屋は奪うように取った。
「どうも」
「お前でも礼は言うんだな」
「は? 僕の事何だと思ってるの?」
「そんなカッカしなさんな。疲れただろ、飲み直そうぜ」
「あんたでもたまには良い提案するんじゃない? 少しは見直したよ」
「お前こそ俺のことなんだと思ってんだよ……
情報屋は雪守を鞘に収め、懐にしまうと寒薙より先に歩き出した。
「ほら、さっさと来なよ。礼に良い酒奢るから」
寒薙は初めて彼の優しい顔を見た。気がした。


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