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月の様に綺麗な人

全体公開 Δドラヒナ 11 4128文字
2025-03-25 17:07:55

成立後のΔドラヒナ前提で、Δみっぴきで中秋の名月ネタのお話です。ヒナイチくんの頭のアンテナが、どうにもウサギの様に思えて(誕生日も3/3ですし)、月の影と絡めて書いてみました。
東欧の月の影は女性の横顔だと聞きまして、祖国にいた頃の若い隊長のエピソードを追加しました。Δ隊長の捏造した元カノが出ます。ご注意下さい。
Δ隊長の捏造した過去については、こちらのお話で書いた設定を踏襲しております→La revedere/さようなら(https://privatter.net/p/10831274)
2025 /09/17に上げました。

Posted by @kw42431393

 「今夜も、大活躍だったな。ロナルド。」
 「へへへそう?もっと、誉めろ、誉めろ~。」

 ロナルドと署に戻る道すがら、夜空を見上げる。綺麗な月が、私達を迎えてくれる。
 今日は、中秋の名月だ。
 今頃、それぞれの家で、丸い月見団子とススキが窓際に供えられ、皆、この月を見ているのだろう。
 もっとも、私達には切実な問題があるのだが。
 「月とお前達は、関係性が深いからな。今年の十五夜は満月ではないがお前達、特にサテツさんは大丈夫か?」
 「あ~、そうだった。明日はやばいかもなぁ、今まで俺達だけだろ?気にしなくてよかったんだけどよ。」
 そうかもしれない。彼ら同士なら、満月に狼になって大暴れしたところでう~ん、彼はトップクラスのパワーファイターだ。
 ロナルドがいないと、取り押さえるのが大変だと言っていた。
 「街の皆の事も、気にしないといけねえし。ゴウセツさんとも、相談しとくぜ。」
 「あぁ、そうして貰おう。助かる。」

 あの大侵攻の後、チームΔが結成され、この街というより、退治人、吸対、吸血鬼達の関係性がすっかり変わってしまった。
 本来、私達は三竦みの間柄なのだ。
 それが、協力して仕事をしているだけにとどまらず、私的な交流関係を築いている。
 とはいえ、私達の様に家族同然になっている者達は、珍しいと思う。
 「さ、帰ろうぜ。ドラルクが、月見団子用意して待ってる。あと、他にも色々作ってたぜ。」
 「そうか。楽しみだな。月見団子かなぁ、ロナルド。実は、毎度思っていたのだが。」
 ふいに浮かんだ疑問を口にする。最も、これが現実に起こっていないから助かるのだが。
 「何だ?」
 「お前は、月の影響を受けないんだな。」
 あの大侵攻で、ロナルドを取り押さえるのが、一番難儀だった。
 彼までサテツさん同様、満月の影響を受けて、暴れたり、イライラする様になったりしたらさすがに、私でも取り押さえるのは、難しいだろう。
 とにかく、身体能力がチートで、吸血鬼の弱点という弱点が、全て効かない男なのだ。
 それが、本人の悩みでもあるだが

 「あ〝~~~!!そういやそうだ。そこも俺は、吸血鬼らしくない!うえ~ん!!」
 あとついでに、頭が5歳で、無邪気でよかった。
 心から、そう思う。

 



 「ただいま、隊長。報告書も持ってきたぞ。」
 「ただいま~、ドラ公。さっそく、始めようぜ。」
 「おかえり、二人共。待っていたよ。」
 「ヌン、ヌン。」

 パトロールを終えて、今宵も私達は、この吸対の隊長室に足を向ける。
 今夜も始まる、私のいや、私達、三人と一匹の憩いの時間。
 優しく笑いながら、あの人がテーブルに今夜のおやつとほうじ茶を並べてくれる。
 「ちゃんと、秋の七草も備えてあるのか。綺麗だな。」
 「これまでは、そこまで気にしていなかったけれども。我々の仕事は、月とも関係性が深い。そして、夜の者達とも、協力しあって今があるのだ。縁起を担ごうと思って。」
 「こまけー事を、気にするなぁ。」
 「ヌー!」

 窓際に供えていた、月見団子。
 忙しい合間を縫って、貴方が作ってくれた月見団子。
 よく見ると

 「アハこれ、ジョンだ。背中に、黄な粉をまぶして、模様もある。」
 何だか食べるのが、勿体ない勿体ないけど
 「ん、うめえ。」
 「あ、2つもずるいぞ。ロナルド。私も食べたい。」
 「ヌー。」

 だって、働いた後なんだ。食い気には負けるよな。
 貴方が作ったものだから、猶更だ。
 「おいしい、おいしい。」
 「ヌイシ、ヌイシ。」

 夜の者達に力を与えてくれるお月様、特にシンヨコはホットスポットだ。
 お月様に供えた団子に、その力が宿ってますように。
 だから、今年も皆、怪我もなく、この街が平和でありますようにそう願いを込めて、咀嚼する。

 「ウフフそうであって欲しいものだね。さて、これで終わりではないよ。可愛いお嬢さん。」
 言われて顔を上げると、皿に乗せられて並べられたのは
 「わぁ、ウサギさんだ。これは、スイートポテトか?」
 ちょこんと座った、黄色くて小さなウサギが、こちらを見上げている。

 「そう、日本ではウサギなんだよね。君達を待っている間、こうして見ていたけれども、つくづく興味深いものだ。」
 「ん~。お月さんっていえば、ウサギじゃねえの?」
 「そっか、隊長はルーマニアだものな。で、どんな形なんだ?」

 スイートポテトを手に持って、窓辺に腰かけた貴方の隣に立つ。
 穏やかに笑って、こちらを見下ろしてくれるお月様みたいな貴方は

 「綺麗だな。」
 血色が悪くて、細くて、儚げな貴方には
 「そうだとも今宵も、母国のお月様はね。」
 まだまだ焼け着く様な、日の光の下より、朧気で涼し気な、月の光の下がよく似合う。

 「美しい女性の横顔をしているのだよ。君の様にとても綺麗な。」

 そう言って、口元にクッキーを一枚押し付けられた。
 驚いて、丸いそのクッキーを確認する。
 「わっ!?そ、そそそうなんだ。」
 「日本に来てよかった。太陽の加護を受けながら、月に包まれているウサギの様に元気で綺麗なお嬢さんを、手に入れられたのだから。」

 そう言って、貴方は私の手にそっとキスをする。
 月ではなく、貴方に見惚れていたなんて、ロナルドがいるここで言える訳がない。
 さりげなく、ジョンがロナルドの目隠しをしてくれているのが、救いだ。
 「ほ、本当に気障なんだ、から。」

 照れ隠しに、そのクッキーを少し齧る。
 満月の様に真ん丸なクッキーの中で、赤毛で髪の長い女の子が、嬉しそうにはしゃいでいた。



 『Ai grijă de tine.Pentru că ești slab.(気を付けてね。貴方は、体が弱いから。)』
 『Mulțumesc, plec.(ありがとう、いってくるよ。)』

 そう言って、私は日本行きの便に乗る為に、貴女に背を向けた。
 飛び級で博士号を取ったばかりだからまだ、20代そこそこの頃だ。
 大学で周りに同世代がおらず、心細くて俯いていた私に声をかけてくれた優しい女性だった。
 『当時の私』にとって、最も最愛で大切な女性と、離れ離れになるのは、辛くて、寂しい事だった。
 そうだったなら、当時の私は、何故日本の吸血鬼対策課に配属される事に対して、異議申し立てをしなかったのだろう。『ダンピールとしての力を使って市民を守りたい』という夢を叶えるだけなら、他にも選択肢があったにも関わらずだ。

 『Hei!Odată ce mă calmez, cu siguranță te voi contacta!Deci(ねえ!落ち着いたら、必ず連絡するよ!だから)』
 もう二度と、会えないのではないかそんな予感に、慌てて大声を上げた。
 もう一度、当時の私が愛したその青い瞳が見たかった。
 もう一度、『仕方ないわねえ、甘えん坊さんなんだから』と困った顔をして欲しかった。
 だけど、振り返ったそこに、貴女はいなかった。
 『Așteaptă-mă.(待っていて。)』  
 私より年上で、卒業後、既に弁護士として働いていた貴女は、忙しかった。
 私も博士論文、その後は日本に向かう為の手続きで、まともに会う時間さえ取れていなかった。その上、遠距離恋愛だお互い、どこかで別離を悟っていたのだと思う。

 『やっと、時間が出来た。そろそろ、連絡しようかな向こうは、深夜だ。また、次回にしよう。』
 『あ、彼女からRINE来てる。でも、もう出動があるからついてないな。また、落ち着いた時にしよう。』
 程なくして、私も忙しさにかまけて、RINEさえ打たなくなっていった。
 せいぜい月を見上げる度に、月の影に貴女の横顔を重ねて、ため息をつく程度になっていった。
 そもそも、私が貴女に対して抱いていた感情は、恋だとか愛だとか、呼べるものだったろうかいや、違ったのだ。おそらく、向こうもそうだったのだろう。
 新しい環境に不安で、本当は誰かに甘えたかった私にとって、頼れる姉の様な存在。
 面倒見のよい年上の貴女にとって、放っておけなかった弟の様な存在。
 お互い遊びではなかったけれど、そういう認識だったと思っている。

 どうして、そう断言出来るのかって?私が日本に来て、6年くらい経った頃だった。
 見上げる月の影が、女性の横顔ではなくウサギに見える様になった頃赴任先で再会した少女が、私に初恋を教えてくれたからだ。
 



 「どうしたんだ、隊長?なんだかうわっ!?」
 祖国の月を思い出したのは、ひさしぶりだ。
 かつて、月の影に貴女を重ねていたのにこの想いを自覚してからは、月の影はヒナイチくんになってしまう。
 勝手過ぎるだろうかでも、貴女も強い意志を持った人だったから、自身で選んだ誰かと共に、この月を見上げていると信じている。
 「うん心配ないよ。」
 苦笑して、目の前の初恋の女性を抱きしめる。

 この子は一回りも年下だと、もっと相応しい相手がいるはずだと、何度言い聞かせてもこの想いは、止める事は出来なかった。
 どんなに仕事に追われていても、時間を作って会わずにはいられなかった。
 君の前では疲れた姿を見せたくないと、乱れていた生活も改める様に心掛けた。
 君の笑顔が見たくて、疎かになっていた料理もする様になっていた。
 「どんなに飛び跳ねても、手を放す事はあり得ないから。君だけは永遠に。」
 
 この騒がしい街で再会した昼間は太陽の様に希望を纏い、夜はウサギの様に明日に向かって飛翔するどちらにも愛された少女だけは
 「ああ。私もだ永遠にあり得ない。」
 ヒナイチくんだけはこの腕から逃がす事さえ、お互い絶対にないだろう。
 

 
 
 


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