成立後のΔドラヒナ前提で、Δみっぴきで中秋の名月ネタのお話です。ヒナイチくんの頭のアンテナが、どうにもウサギの様に思えて(誕生日も3/3ですし)、月の影と絡めて書いてみました。
東欧の月の影は女性の横顔だと聞きまして、祖国にいた頃の若い隊長のエピソードを追加しました。Δ隊長の捏造した元カノが出ます。ご注意下さい。
Δ隊長の捏造した過去については、こちらのお話で書いた設定を踏襲しております→La revedere/さようなら(https://privatter.net/p/10831274)
2025 /09/17に上げました。
@kw42431393
「今夜も、大活躍だったな。ロナルド。」
「へへへ…そう?もっと、誉めろ、誉めろ~。」
ロナルドと署に戻る道すがら、夜空を見上げる。綺麗な月が、私達を迎えてくれる。
今日は、中秋の名月だ。
今頃、それぞれの家で、丸い月見団子とススキが窓際に供えられ、皆、この月を見ているのだろう。
もっとも、私達には切実な問題があるのだが。
「月とお前達は、関係性が深いからな。今年の十五夜は満月ではないが…お前達、特にサテツさんは大丈夫か?」
「あ~、そうだった。明日はやばいかもなぁ、今まで俺達だけだろ?気にしなくてよかったんだけどよ。」
そうかもしれない。彼ら同士なら、満月に狼になって大暴れしたところで…う~ん、彼はトップクラスのパワーファイターだ。
ロナルドがいないと、取り押さえるのが大変だと言っていた。
「街の皆の事も、気にしないといけねえし。ゴウセツさんとも、相談しとくぜ。」
「あぁ、そうして貰おう。助かる。」
あの大侵攻の後、チームΔが結成され、この街というより、退治人、吸対、吸血鬼達の関係性がすっかり変わってしまった。
本来、私達は三竦みの間柄なのだ。
それが、協力して仕事をしているだけにとどまらず、私的な交流関係を築いている。
とはいえ、私達の様に家族同然になっている者達は、珍しいと思う。
「さ、帰ろうぜ。ドラルクが、月見団子用意して待ってる。あと、他にも色々作ってたぜ。」
「そうか。楽しみだな。月見団子か…なぁ、ロナルド。実は、毎度思っていたのだが…。」
ふいに浮かんだ疑問を口にする。最も、これが現実に起こっていないから助かるのだが。
「何だ?」
「お前は、月の影響を受けないんだな。」
あの大侵攻で、ロナルドを取り押さえるのが、一番難儀だった。
彼までサテツさん同様、満月の影響を受けて、暴れたり、イライラする様になったりしたら…さすがに、私でも取り押さえるのは、難しいだろう。
とにかく、身体能力がチートで、吸血鬼の弱点という弱点が、全て効かない男なのだ。
それが、本人の悩みでもあるだが…。
「あ〝~~~!!そういやそうだ。そこも俺は、吸血鬼らしくない!うえ~ん!!」
あとついでに、頭が5歳で、無邪気でよかった。
心から、そう思う。
「ただいま、隊長。報告書も持ってきたぞ。」
「ただいま~、ドラ公。さっそく、始めようぜ。」
「おかえり、二人共。待っていたよ。」
「ヌン、ヌン。」
パトロールを終えて、今宵も私達は、この吸対の隊長室に足を向ける。
今夜も始まる、私の…いや、私達、三人と一匹の憩いの時間。
優しく笑いながら、あの人がテーブルに今夜のおやつとほうじ茶を並べてくれる。
「ちゃんと、秋の七草も備えてあるのか。綺麗だな。」
「これまでは、そこまで気にしていなかったけれども。我々の仕事は、月とも関係性が深い。そして、夜の者達とも、協力しあって今があるのだ。縁起を担ごうと思って。」
「こまけー事を、気にするなぁ。」
「ヌー!」
窓際に供えていた、月見団子。
忙しい合間を縫って、貴方が作ってくれた月見団子。
よく見ると…
「アハ…これ、ジョンだ。背中に、黄な粉をまぶして、模様もある。」
何だか食べるのが、勿体ない…勿体ないけど…
「ん、うめえ。」
「あ、2つもずるいぞ。ロナルド。私も食べたい。」
「ヌー…。」
だって、働いた後なんだ。食い気には負けるよな。
貴方が作ったものだから、猶更だ。
「おいしい、おいしい。」
「ヌイシ―、ヌイシ―。」
夜の者達に力を与えてくれるお月様、特にシンヨコはホットスポットだ。
お月様に供えた団子に、その力が宿ってますように。
だから、今年も皆、怪我もなく、この街が平和でありますように…そう願いを込めて、咀嚼する。
「ウフフ…そうであって欲しいものだね。さて、これで終わりではないよ。可愛いお嬢さん。」
言われて顔を上げると、皿に乗せられて並べられたのは…
「わぁ、ウサギさんだ。これは、スイートポテトか?」
ちょこんと座った、黄色くて小さなウサギが、こちらを見上げている。
「そう、日本ではウサギなんだよね。君達を待っている間、こうして見ていたけれども、つくづく興味深いものだ。」
「ん~。お月さんっていえば、ウサギじゃねえの?」
「そっか、隊長はルーマニアだものな。で、どんな形なんだ?」
スイートポテトを手に持って、窓辺に腰かけた貴方の隣に立つ。
穏やかに笑って、こちらを見下ろしてくれるお月様みたいな貴方は…
「…綺麗だな。」
血色が悪くて、細くて、儚げな貴方には…
「そうだとも…今宵も、母国のお月様はね…。」
まだまだ焼け着く様な、日の光の下より、朧気で涼し気な、月の光の下がよく似合う。
「…美しい女性の横顔をしているのだよ。君の様に…とても綺麗な。」
そう言って、口元にクッキーを一枚押し付けられた。
驚いて、丸いそのクッキーを確認する。
「わっ!?そ、そそ…そうなんだ。」
「…日本に来てよかった。太陽の加護を受けながら、月に包まれているウサギの様に…元気で綺麗なお嬢さんを、手に入れられたのだから。」
そう言って、貴方は私の手にそっとキスをする。
月ではなく、貴方に見惚れていたなんて、ロナルドがいるここで言える訳がない。
さりげなく、ジョンがロナルドの目隠しをしてくれているのが、救いだ。
「…ほ、本当に気障なんだ、から。」
照れ隠しに、そのクッキーを少し齧る。
満月の様に真ん丸なクッキーの中で、赤毛で髪の長い女の子が、嬉しそうにはしゃいでいた。
『Ai grijă de tine.Pentru că ești slab.(気を付けてね。貴方は、体が弱いから。)』
『Mulțumesc, plec.(ありがとう、いってくるよ。)』
そう言って、私は日本行きの便に乗る為に、貴女に背を向けた。
飛び級で博士号を取ったばかりだから…まだ、20代そこそこの頃だ。
大学で周りに同世代がおらず、心細くて俯いていた私に声をかけてくれた…優しい女性だった。
『当時の私』にとって、最も最愛で大切な女性と、離れ離れになるのは、辛くて、寂しい事だった。
…そうだったなら、当時の私は、何故日本の吸血鬼対策課に配属される事に対して、異議申し立てをしなかったのだろう。『ダンピールとしての力を使って市民を守りたい』という夢を叶えるだけなら、他にも選択肢があったにも関わらず…だ。
『Hei!Odată ce mă calmez, cu siguranță te voi contacta!Deci…(ねえ!落ち着いたら、必ず連絡するよ!だから…)』
もう二度と、会えないのではないか…そんな予感に、慌てて大声を上げた。
もう一度、当時の私が愛した…その青い瞳が見たかった。
もう一度、『仕方ないわねえ、甘えん坊さんなんだから』と…困った顔をして欲しかった。
だけど、振り返ったそこに、貴女はいなかった。
『…Așteaptă-mă.(…待っていて。)』
私より年上で、卒業後、既に弁護士として働いていた貴女は、忙しかった。
私も博士論文、その後は日本に向かう為の手続きで、まともに会う時間さえ取れていなかった。その上、遠距離恋愛だ…お互い、どこかで別離を悟っていたのだと思う。
『やっと、時間が出来た。そろそろ、連絡しようかな…向こうは、深夜だ。また、次回にしよう。』
『あ、彼女からRINE来てる。でも、もう出動があるから…ついてないな。また、落ち着いた時にしよう。』
程なくして、私も忙しさにかまけて、RINEさえ打たなくなっていった。
せいぜい月を見上げる度に、月の影に貴女の横顔を重ねて、ため息をつく程度になっていった。
そもそも、私が貴女に対して抱いていた感情は、恋だとか愛だとか、呼べるものだったろうか…いや、違ったのだ。おそらく、向こうもそうだったのだろう。
新しい環境に不安で、本当は誰かに甘えたかった私にとって、頼れる姉の様な存在。
面倒見のよい年上の貴女にとって、放っておけなかった弟の様な存在。
お互い遊びではなかったけれど、そういう認識だったと思っている。
どうして、そう断言出来るのかって?私が日本に来て、6年くらい経った頃だった。
見上げる月の影が、女性の横顔ではなくウサギに見える様になった頃…赴任先で再会した少女が、私に初恋を教えてくれたからだ。
「どうしたんだ、隊長?なんだか…うわっ!?」
祖国の月を思い出したのは、ひさしぶりだ。
かつて、月の影に貴女を重ねていたのに…この想いを自覚してからは、月の影はヒナイチくんになってしまう。
勝手過ぎるだろうか…でも、貴女も強い意志を持った人だったから、自身で選んだ誰かと共に、この月を見上げていると信じている。
「うん…心配ないよ。」
苦笑して、目の前の初恋の女性を抱きしめる。
この子は一回りも年下だと、もっと相応しい相手がいるはずだと、何度言い聞かせても…この想いは、止める事は出来なかった。
どんなに仕事に追われていても、時間を作って会わずにはいられなかった。
君の前では疲れた姿を見せたくないと、乱れていた生活も改める様に心掛けた。
君の笑顔が見たくて、疎かになっていた料理もする様になっていた。
「どんなに飛び跳ねても、手を放す事はあり得ないから。君だけは…永遠に。」
この騒がしい街で再会した…昼間は太陽の様に希望を纏い、夜はウサギの様に明日に向かって飛翔する…どちらにも愛された少女だけは…。
「ああ。私もだ…永遠にあり得ない。」
ヒナイチくんだけは…この腕から逃がす事さえ、お互い絶対にないだろう。