雨呼鳥の籠

@tkaruno
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2015-11-12 22:17:52



#11月12日はいいヒィッツの日

……という事でタグをフリー素材にしてみたものの、言い出しっぺの法則もあるのでヒィッツ単独SSを一本。
相変わらずオリキャラ出まくりです。他のBF団メンバー出てきませんw




 朝から降り続いている雨は霧雨に変わり街を濡らしている。
 そんな雨であったから通りは人通りもまばらだ。車の数も少なく、普段のこの時間帯を考えれば閑散としていると言ってもいい。おかげで通りの店もどこか活気がない。
 その中でも一際古い喫茶店ではマスターがカップを磨き直そうかと棚に腕を伸ばした所だったのだが、予想外にドアベルが来客を告げ、マスターはそのままの姿勢で入口に顔を向けた。
「失礼、まだ店は開いていなかったかね?」
 懐古趣味な木製のドアを開け、一人の青年が姿を見せる。マスターはその顔を見止めると、
「いいえ、大丈夫ですよ。お久しぶりですな」
そう言って体をドアの方へ向き直し、ニッコリと笑ってみせる。
「それは良かった。雨で冷えた体を温めたかったのでね」
 霧雨に湿ったコートを脱ぎながら、ヒィッツカラルドは肩を竦めて笑った。


※ ※ ※ ※ ※


 決して広くはない店内に熱いマンデリンの芳香が漂う。
 カウンターから差し出されたコーヒーを受け取ると、ヒィッツはホゥ、と感嘆を漏らした。
「相変わらず良い趣味だ」
 カウンターの壁に誂えられた戸棚に並ぶカップは一つとして同じ物はないが、見る者が見ればどれを取っても骨董品並に価値の高い物だとわかる。それを惜しげもなく使うのがこの店の流儀だ。
「なに、道楽の延長みたいな物ですよ。それに食器は使わなければ無意味でしょう」
 初老のマスターは穏やかに笑った。
 窓の外は銀色に染まって見えるが重厚なドアはほとんど物音を通さず、店内は僅かに流れるジャズのオールドナンバーだけが響いている。実際この店は普段から通り沿いなのに車の音も聞こえないような穴場なのだが、いかんせんドアが目立たず店も小さいのであまり立ち寄る人は無い。
「こういった店が残ってくれている事は嬉しいが……マスターにとってはどうかね?」
「それほど気にしませんね。これ以上店を大きくするつもりもないですから、常連さん相手に日々の糧を稼げる程度で十分です」
 そう言ったマスターは小さな菓子皿に焼き菓子を二つほど載せ、
「近所にパティスリーができましてね。ここの焼き菓子はコーヒーに合いますよ」
 これはサービスですのでと付け加え、マスターはヒィッツの前に皿を置いた。
「ありがたく頂こう。今日は朝食を食べる時間も無かったのでね」
「それはそれは……なんでしたら軽い食事でも準備しましょうか?」
 言いながらマスターはカウンターの端にある小型の冷蔵庫に足を向けたが、ヒィッツは軽く手を振ってそれを制し、
「なに、仕事が終わればディナーの約束がある。マスターの手を煩わす事もない」
そして菓子皿の焼き菓子を一つ頬張ると、その味に満足したようにコーヒーを口にした。



 カラン、とドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
 マスターが笑顔で迎える。
 ヒィッツが何気無くドアの方へと顔を向けると、中肉中背の男が店の中に入ってきた所だった。霧雨の中、ヒィッツと同じく傘もささずに歩いてきたのか長めの丈の黒いコートがうっすら湿って光沢を帯びている。少し俯くような格好だったので顔はよく見えなかったが、そこそこの年齢ではあるようだ。
「足元がお悪い中ようこそ。コートはどうぞそちらに」
 言いながらマスターは入口の脇にあるポールハンガーを手で指し示したが、男はコートを脱ごうとはせず、
「……ミスタ・ヒィッツカラルド?」
「人の名を訊ねる時は顔を上げてはどうかね?」
 ヒィッツが気分を害した声音で答える。
 途端、男はカッと目を見開いた顔を上げ、目にも止まらぬ速さでコートの下から拳銃を構えた腕をヒィッツに向けた。

 パチンッ!

 まるで高級レストランでギャルソンを呼ぶような悠々とした仕草で、ヒィッツが一つ指を鳴らす。
 次の瞬間、男の手の中の拳銃がまるで輪切りにされた野菜の如くバラバラになって床に散らばった。男の殺意で見開かれていた筈の目が驚愕のそれに変わる。
「ついでに言うならターゲットの顔と名前は頭に叩き込んで来ることだな。相手の名前を訊ねてから武器を出すなど、映画かぶれの素人丸出しだ」
 そう言ってヒィッツは左手でカップを取り上げ、少し冷めてしまったコーヒーを飲み干した。
 男は明らかに状況が不利だと悟ったのか手の中に残っていた銃のグリップを放り出すと、踵を返して店から飛び出そうとした。しかし、

 パチンッ!

 再び響いた、小気味良いフィンガースナップ。
 ヒィッツの右手から放たれた軽快な音は死神の刃と化し、一瞬で寸分狂わず男の首を切り落とした。


※ ※ ※ ※ ※


「――――結局マスターの手を煩わす事になってしまったな。申し訳ない」
 不本意だといった風に眉を顰めると、ヒィッツは立ち上がってマスターに一礼した。
 ヒィッツが出来うる最小限の範囲で使った能力であったが、首と胴が離れた男の切断面からは赤黒い液体が流れ、ドアの下に飛沫を付けて床に広がっている。それでもこの程度で済んだのはヒィッツの力の制御のなせる業だが。
「どうぞお気になさらず。こうした“後始末”も私の仕事ですから」
 マスターの表情は穏やかな笑顔のままであったが、もしここに第三者がいればその笑顔の下に潜む冷淡な気配に竦み上がったことだろう。
 これほどまでに飄々と態度を崩さず『穏やかな古い喫茶店の店主』を演じるそれは、過去にどれだけの修羅場と経験を積んできたのか計り知れない。
 そんなマスターの言葉と態度にヒィッツは満足そうな笑顔を浮かべると、
「やはりここは素晴らしい店だ」
 そう言いながら右手を差し出した。ヒィッツの“最強の指”である手を差し出されるという事は最大級の賛辞であることをマスターは理解している。
「お褒めにあずかり光栄です」
 今度はどこか誇らし気な笑顔で、マスターはヒィッツと堅い握手を交わした。



 気がつけば窓の外は銀色から白色に変わっている。どうやら雨は止んだらしい。
「さて……仕事も片付いた事だし、そろそろお暇しようか」
「今度いらっしゃる時には紅茶もご用意しておきますよ。そろそろ良い茶葉が出回る時期ですから」
「それは楽しみだ」
 和やかな会話を交わしながらヒィッツはポールハンガーにかけておいたコートに袖を通す。同時に、未だ足元に転がったままだった男の首を靴が汚れないように避けてドアに手をかけると、
「『コーヒー代』はいつもの口座に振り込むよう手配しておく。後で確認しておいてくれ」
「心得ております。いつもご利用ありがとうございます」
 マスターは深々と頭を下げた。ヒィッツは口角を上げると、
「それでは、また」
 新しい染みで重厚さを増したドアを開け、ヒィッツは明るくなった通りへと消えていったのだった。




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