妙信と六花のお話です。依頼の帰り
@lianmiso
「あーあ、今日の稼ぎもねぇじゃねぇか。畜生。」
「少しはあるでしょう?誰かさんがあの時、目先の利益に目が眩んで飛び込んでいかなかったらもう少し利益があったかもねぇ」
今日の依頼は掃除の依頼で早く片付ければその分ボーナスがつく仕事だった。
普通に片付ければいいのに金に目が眩んだ妙信が無茶なやり方で家具を破壊。弁償することになった。
額を払えば利益は雀の涙。あるだけまだましだ。
それでも腹が立つ。
大股、がに股、乱暴に先を進んでいた妙信が足を止める。半身を捻れば六花がくすくすと笑っていた。
「なんだよ、俺が悪いってのか」
「いいえ、止めなかった私が悪いかもしれないわねぇ」
鼻歌なんて歌いながら六花は妙信の一歩後をついてきていた。
上機嫌だ。
勝っても負けても得をしても損をしてもいつも彼女は笑顔だ。
妙信の癪に障る。
「余裕なこって」
「余裕が無かったら見える物も見えないわよ。お金に対する気持ちが一直線すぎるわぁ。ほら、見てごらんなさいよ。見事な夕焼けよ」
妙信が足止める。
夕陽が空を焦がしながらゆっくりと傾いていく。2人を照らして影が伸びる。
ポケットに手を突っ込んで妙信が足を動かした。
「夕陽じゃ腹も膨らまねえよ。こっちに落ちてきて食えるっつーなら話は別だがな」
「あら、居酒屋でよぉく冷えた太陽みたいなトマトでも食べたいの?」
よく冷えたトマトにビール。夜が近づくと共に居酒屋は活気溢れ、歓楽街から外れたこの道にも焼き鳥の匂いが風に乗りやってくる。日本酒でキュッとやるのも良い。
ごくりと妙信の喉が鳴るが、今日も財布の余裕がありやしない。
貯めてたツケを払わなければ後輩から命を狙われかねない。
「売れるじゃねぇか。本当に落ちてくりゃいいのによ。そんなん現実的じゃねぇや。考えるだけ損だな。腹が減るだけだ」
「そうねぇ」
六花もまた歩き始める。
「なんでお前が悪いと感じる」
「貴方に見惚れてなかったら指示は遅れてなかったわぁ」
息を呑む。勢いづけて振り返るが六花はいつも通り笑うだけだった。
『誰にでも言うんだろ』なんて口に出せずに妙信は足を進める。
「サイボーグなら的確な指示をしてもらいたいもんだな。それか効率的なアドバイスをよ」
「それじゃあそこの角を曲がった先のお店でアイスをのんびり食べるのはどうかしらぁ。効率的なアドバイスだと思わない?」
「俺は食わんぞ。お前、本当にサイボーグかよ」
「知ってるでしょう?」
するりと六花が妙信の左腕に絡みつき、しなだれかかる。人のように暖かく、柔らかくて大きいものが妙信の腕に当たる。
故郷の山に咲く白い花の爽やかで涼しげな花の香り。なんの花かはわからない。
故郷は嫌いだが花は嫌いではないといつ話したか。酔った勢いだったか。
作り物だ。計算尽くだ。わかっている。
それでも、想い人からの温もりならば。
「………仕方ねぇなぁ。怒ったまま食っちゃあアイスも溶けちまうからな。浮かばれねえよな。化けて出て念仏唱えんのも面倒だ。」
「一緒に行ってくれるの?」
「チャージだよ。たまにゃいいだろ。俺にとってチャージっちゃあ、キンキンに冷えたビールとキンキラキンな金だがな」
「それは仕事が大成功した時に取っておきましょ。今日はベターだった結果をアイスでお祝いしましょう」
ぐいと六花が近づく。距離は近づいても心の距離までは昔のようには戻らない。
それでも彼女と夕陽の下を歩ける事は―――
(なんて俺の柄じゃねぇや)
「あの夕陽、ライターの代わりになりゃあいいのに」
「倹約も程々にしなさいね?」
後ろに影伸ばし、2人は歩く。
目指すは六花ご贔屓のアイス屋だ。