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お蔵入り確定演出

全体公開 双六陸受け 22 57 4120文字
2025-04-05 17:35:39

👼👿(+👻🐱🔥クラブ)
リクエストより ドッキリを仕掛ける👿の話
シナリオネタバレなし

 

 「これでよし、と……撮れてるよな?」

 テレビのそばに定点カメラを設置した双六陸は、レンズを覗き込んで自分の姿が映っていることを確認すると画角内のソファに腰を下ろした。
 今日陸は、動画配信者の相方にして同棲相手である環雅にドッキリを仕掛けるのだ。
 きっかけは他の動画配信者との交流で、ドッキリ企画は視聴率が伸びると強く念押しされたのである。
 自分よりもうんと聡い雅を長期間にわたって騙し通すことは難しいと考えた陸は結局、自分に恋人が出来たと切り出して反応を見るという企画に決めた。

 「……みーちゃん話があるんだけど……みーちゃん話があるんだけど…………

 ぶつぶつと口の中で最初のセリフを呟く陸は、緊張した様子で両手をぎゅうと胸の前で握りしめる。
 雅曰く、陸は嘘をつくことが壊滅的にへたくそらしい。視線が泳いだりどもったり、一度でも不審な素振りを見せたら自分のことを知り尽くしている雅はあっという間に見破ってしまうことだろう。
 そうして何度も頭の中で予行練習を繰り広げていると、撮影を終えて帰宅した雅がリビングの扉を開いて顔を出した。

 「ただいまーって、りっくんまだ起きてたんだ」
 「み"っ……?!」

 緊張で声が裏返った陸は、慌てて咳払いをして誤魔化す。首を傾げたまま部屋を覗いている雅を見上げると、陸はこくりと唾を飲んで努めていつも通りに口を開いた。

 「み、ちゃ……はなしが、あるんだけど……
 「話?」

 不思議そうな表情を浮かべる彼にこくりと頷けば、急ぎの話らしいと察した雅はコートと鞄を部屋に置いてリビングへ改めて顔を出す。
 ソファの隣に腰掛けた彼は、これから嘘をつくという緊張と罪悪感で冷え切った陸の手を取って改めて首を傾げた。

 「どしたん?」
 「……えと、そんな大事な話じゃなくて、」
 「そんな感じには見えないけど、なぁに?」

 陸が話すまで静かに待ってくれている雅は、撮影のスイッチが入っていない自分だけが知るプライベートの姿だ。
 このドッキリ動画を上げることになったら、普段の雅の姿も動画として世に出すことになってしまうのだろうか。
 何故だかそれがどうしようもなく惜しいような気がした陸は、どうしてそんな気持ちを抱いたのか分からないまま意を決して口を開く。

 「恋人が、できた」
 「…………は?」
 「おれに……恋人ができて、だからその……こうして一緒に暮らしていると色々……迷惑?掛けそうだし、一人で暮らした方がいいのかなぁって……

 続けたセリフは例の配信者たちから教わった言葉の流用だ。活動に支障が出るかもしれないから報告をする、という流れが一緒に暮らしているなら一番自然だと教わったのである。
 どうにか噛まずに言えたことにほっとした陸は、雅の表情を伺うようにちらりと視線を持ち上げた。

 「へ、」

 そこにあったのは、怒りも悲しみもない無表情を浮かべる雅の姿だ。
 その冷たい眼差しに思わず背筋が冷えた陸が小さく声を漏らせば、彼が逃げ腰になる前にその手を雅が捕まえた。

 「活動やめんの?」
 「い、いや……やめたくない、けどこれまでみたいに時間が取れなくなるかなって」
 「じゃあ投稿ペース落とす?」
 「んー……お前に悪いし、新しいメンバーとか考えてみても、」
 「……あ?」

 それまで淡々と訪ねていた雅の声が、急激に冷えていく。思わず陸がびくりと肩を震わせて視線を逸らせば、同時に掴まれた腕へ鈍い痛みが走った。

 「い、ッ……!」
 「りっくん以外のヤツなんかいらねーって」
 「みやび、」
 「……なぁ、どんな女?いつ知り合ったの?俺の知ってる人?」

 矢継ぎ早に紡がれる言葉は陸の返事を期待していないのか、それとも聞きたくないのか分からない。
 腕に痕が残るのではないかと思うほどの強い力を込められた陸が、顔を歪めたまま雅を見上げれば、睨まれていると捉えたらしい雅の方がびくりと揺らす。

 「…………そいつはほんとに、俺よりりっくんのこと好きなの?」
 「みー……ちゃん……?」

 消え入りそうな震える声に驚いた陸が瞬きをすると、そこには悲しげに表情を歪める雅の姿があった。
 それまでの温度のない表情など見る影もない。いつも見慣れた環雅の、らしくない哀しい顔だ。
 どうしてそんな顔をしているのだろうか。そんな疑問に頭を埋め尽くされてしまった陸には、彼の言葉を噛み砕く余裕が残されていなかった。

 「なんで、」
 「……なんでって、言わなきゃわかんない?」

 ふっと笑った雅が身を寄せる。
 至近距離で目にする整ったかんばせと、自分から目を逸らさない硝子のような瞳を前に、陸は反射的にキスをされると理解した。
 思えばあの時陸は、両手を突っぱねたり顔を逸らしたりして雅を避けることができたはずだ。
 ところが陸の取った行動は、咄嗟に両目をぎゅうを閉じるだけだった。彼の頭の中には『雅を拒絶する』という選択肢が毛頭なかったのだ。

 小さく息を呑んだ雅が距離を詰める。
 すぐ近くで雅の吐息を感じた陸はふるりと睫毛を揺らし、ますます身をこわばらせて雅の裾を掴んだ。

 「………ふ、」

 唇の端に小さく吹き出した雅の吐息が触れる。
 この状況で笑うことなどあるだろうかと薄目を開けた陸は、そこにあったいつも通りの雅の笑みに思わず目を丸くした。

 「みや……
 「逆ドッキリ大成功〜!」
 「……へ?」

 ぱっと体を離した雅が両手を広げてテレビの方へ視線を向ける。そちらには確か、カメラが隠してあったはずだと陸は朧げな頭で撮影のことを思い出した。

 「ぁ、え……ドッキリ……?」
 「りっくんカメラ丸見えだから!流石に部屋入った瞬間分かるって!」

 帰宅した雅はどうやら、リビングに顔を出した瞬間から陸が隠したつもりでいたカメラの存在に気がついていたらしい。
 勘の良い彼はこれから陸がドッキリを仕掛けると気がついて、更にそんな陸に対してドッキリを仕掛け返すことを思いついたのだろう。
 唖然と口を開く陸を助け起こした雅は、撮影モードの笑顔を浮かべてカメラへと手を振った。

 「ということで逆ドッキリ、急に俺がメンヘラになったらりっくんはどうする!?でしたー!」
 「メンヘラ?」
 「ごめんりっくん!怖かったよな!もう演技終わったから大丈夫!」

 明るい声で笑った雅に抱きしめられた陸は、ようやく自分が小さく震えていたことに気がつく。
 嘘をついた後悔か、雅の豹変か、何が怖かったのかは分からないが、自分はどうやら相当怯えた顔をしていたらしい。
 安心させるように背を叩く雅の腕の中でカメラの存在を思い出した陸は我に帰ると、ぼすぼすとその背を叩きながら抗議の声を上げる。

 「お前もうちょっとやり方あっただろ……!怖かったし、キスされると思ったじゃんか!」
 「ごめん!ごめんって!でも俺も急に解散みたいな話持ちかけられてびびったのはマジだから!これでおあいこってことにしよ?」

 仲直りー、と言いながら自分を抱きしめる雅の腕の中で、確かに自分のついた嘘は悪趣味な部類だったかもしれないと思い直した陸は口ごもった。
 そんな陸の頭を撫でて笑った雅は、毎度恒例の動画の締め文句を口にしてカメラに向かって手を振る。
 そんな彼の隣でぎこちなく手を振った陸は、動画の締めが撮れたことを確認するなりカメラを止めることも忘れて彼へと平謝りするのだった。

 ※
 
 カーペットに額を擦り付けて平謝りする陸と、そんな彼の顔を上げさせる苦笑いを浮かべた雅の姿を最後に終了した録画を見た火霊幽火は振り返る。

 「陸ー、これ結構面白いのにお蔵入りなの?」

 それまで撮影の段取りを確認していた陸は顔を上げると、その録画が件のお蔵入りとなったドッキリ企画であることを確かめて苦い表情を浮かべた。

 「あー……うん、雅がダメって」
 「まぁ解散ネタは苦手な人もいるし、なにより雅の逆ドッキリの刺激が強いからかなぁー」
 「確かに……そうかも……?」

 あのあと、録画を止めて謝り倒した陸に対して雅は、ドッキリだと分かっていたし怒ってはいないけれど投稿するのはやめようと告げたのだ。
 嘘をついた罪悪感もあったため特に理由を聞くことなく了承した陸は、幽火の言葉を聞いて確かに寸止めとはいえ動画でキスはいかがなものかと顔を赤らめる。
 そんな陸を見上げていた幽火は、陸が撮影の準備に取り掛かっていることに気がつくとハッとした様子で立ち上がって駆け寄った。

 「ごめんごめん陸、俺も手伝うよ」
 「……うん、ありがと幽火」
 「いいっていいって!今日は雅いないし、困ったことがあったら俺たちのこと頼ってくれよなー!」

 陸が運ぼうとした機材を半分持つ幽火は、撮影時のクールな立ち振る舞いとは打って変わって明るく笑う。
 そんな彼の眩しさに素直に礼を言った陸は、自分と幽火の対談企画の録画準備を整えていった。
 一方幽火は、未だ陸たちのパソコンのお蔵入りの録画を眺めている円とセンリを振り返って声を掛ける。

 「ふたりも支度しといてよー。雅帰ってきたらそっちの撮影するんだからなー」
 「あー……うん、わかってるって」
 「うっせー、とっとと撮影行って来い」

 相変わらず適当に幽火をあしらう二人だが、幽火は特に気にした様子もなく撮影の支度へ戻った。
 陸と幽火が撮影部屋へ向かい声が遠ざかったことを確かめた円とセンリは、どちらともなく静かに顔を見合わせる。

 「これは……お蔵入りだろうな」
 「あぁ。だってさぁ、」

 ガチじゃん、こんなの。

 ぽつりと重なった声と同時に、玄関から雅のものらしき盛大なくしゃみが聞こえる。
 家主もといクソデカ感情男が帰ってきたことに気がついた二人は、お蔵入りフォルダの閲覧履歴を消してパソコンを閉じ、何事もなくそちらに向かうのだった。




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