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花吹雪の舞う頃に

全体公開 トワスト 2261文字
2025-04-05 19:14:31

第31回トワスト、テーマ「桜吹雪」作品です。制作時間60分。朝恵と真雅(ジェフ)の物語です。

 春休みも、もうすぐ終わりになる。

 そんなある日、朝恵ともえは両親の営む衣料品店の隣で骨董品屋『清遊堂』を営む男、黄真雅こうしんがに連れられて少し遠くの大きな公園へと来ていた。

「おにいちゃん。さくら、まんかいだね」

 この公園には、桜がたくさん植えられている。今が盛りと咲き誇る花は、遠くから見るとまるで雲のようであった。

「そうだな。――少々盛りを過ぎている気もするが、零れ桜も良いものだ」

 朝恵と手を繋ぎ、空いた手には荷物を持った真雅の顔を見上げると、真雅は笑っているようであった。

……こぼれざくら? おにいちゃん、さくらはまんかいじゃないの?」

「満開だな。ただ、少し咲きすぎている気もする。――ほら、朝恵ちゃん。花びらが空を舞っているだろう? そういう頃合いの桜のことを、零れ桜って言うんだ」

 真雅に言われてよくよく観察してみると、確かに桜の花びらはひらひらと、舞い落ちている。零れ桜。それはどこか綺麗な響きの言葉だと朝恵は感じた。それと同時に、真雅の知識の多さを、すごいと思う。絶対学校の先生よりも真雅は何でも知っていると、朝恵は確信しているのだ。

「朝恵ちゃんは、そろそろお腹が空いたんじゃないか? 花筵を敷いて、お昼にするとしよう」

「花むしろ?」

「レジャーシートのことだぜ。花見に来ているなら、こう呼んだ方が風流だろう?」

 それはそうかも知れない。朝恵は大きくひとつ、頷いたのである。




 お昼ご飯として、真雅は弁当を用意してくれていた。卵焼きに唐揚げ、金平ごぼうにおにぎり――どれも朝恵の好きなものばかりだ。

「食べられないものは無かったか?」

「だいじょうぶだよ、おにいちゃん。わたしのすきなものばかり」

「それは何よりだ」

 朝恵がおにぎりをひとつ手に取って食べるのを、何故か真雅は緊張のおももちで見つめている。

「うめぼしのおにぎりだね、おにいちゃん。おいしいよ」

「それなら良かったぜ。それは、俺様の家で漬けた梅干しを使っているからな」

「おにいちゃんはうめぼしもつくれるの? すごい! わたしのいえでは、スーパーでかってくるんだよ」

「俺様、化学調味料の味があまり好きでなくてな。それで梅干しも、家で作っているんだ」

 家で食べる梅干しとは全然味が違うが、とても美味しい。あっという間に朝恵はおにぎりをひとつ食べきってしまった。

「他もどんどん食べてくれよ。朝恵ちゃんが喜んで食べてくれると、作った甲斐がある」

「うん。ありがとう、おにいちゃん。おべんとうをつくってくれて」

 割り箸を割りながら、朝恵は空を見上げる。先ほどから弱い風が吹いているが、その風で桜の花びらがはらはらと、舞い落ちていた。青い空に淡紅色の花びらが舞う様は、まるで絵のようであった。花の色が、空の青によく映えている。

「おにいちゃん。さくらの花びら、おちていくのもきれいだね」

――お、朝恵ちゃんは桜の散り際の美しさもわかるのか? なかなか風流だ。俺様の美学には叶っている」

 美学。――ときどき真雅が口にする、難しい言葉だ。真雅の表情は明るいので、悪い意味の言葉ではなさそうだが。

「その歳で花吹雪までも愛でられる。是非、他の花も共に鑑賞してみたいものだ」

「おにいちゃんといっしょになら、わたし、何でも見にいきたいな」

……そうか?」

 朝恵は真雅の顔を見上げる。真雅の白い顔は、ほんの少し桜色をしているように見えた。

――これだけ桜吹雪が舞っているなら、あれも見られるかも知れないな」

「あれ?」

「後で見に行ってみよう。散歩がてらな」

 あれとは一体何なのだろう。

 何かわからなくとも、真雅の見せてくれるものなら何でも楽しみな、朝恵であった。




 お昼ご飯を終え、片付けを済ませたふたりは、手を繋いでゆっくりと広い公園を歩く。

 橋に差し掛かったとき、真雅は橋の下を指し示した。

――予想通りだ。見事な花筏が出来ているぞ」

 欄干の隙間から橋の下を覗き込むと、そこには桜の花びらが水面一面に広がっていた。花びらは水の流れに吹き寄せられ、流れていく。

「とてもきれいだね、おにいちゃん」

「そうだろう。これは花吹雪の舞う頃にしか、見られない景色なんだぜ。――上から見てみるか、朝恵ちゃん?」

 真雅は何をするんだろう。上からは見てみたいが、小さな朝恵では背丈が足りないのに。

 理解出来ていない朝恵に笑ってみせると、真雅は朝恵の身体を抱き上げてみせた。背の高い真雅に抱えられると、視界がだいぶ高くなる。

「すごい! 上から見るともっときれい! ありがとう、おにいちゃん! でもわたし、おもくない?」

「全然重くないさ」

 真雅の顔も近くに見える――朝恵が真雅の方を見ると、鮮やかな笑みが返ってきた。

「ねえおにいちゃん。花いかだ、ちかくで見たら、どんなふうに見えるの?」

「そうだな。それは俺様見たことが無いな。――よし、見に行ってみるか」

「いいの?」

「ああ。あっちにボートがあるみたいだからな。それで見に行ってみよう」

 真雅に下におろしてもらうと、また手を繋ぐ。

 ボートに乗るのは初めてだ。ボートの上からの桜や花筏も、きっととても、綺麗なのだろう――

 ゆっくり歩きながら、朝恵は花吹雪の舞う空を見上げたのであった。


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