バレンタイン糸冬さんのネックレスに纏わるネタで付き合ってる桐糸ssです。短いほのぼのでちょっと甘い感じ。
ネタバレは特にありません。
@rikka_trpg801
お揃い
それを見かけたのは、デートの最中だった。
デートといっても、実際のところは任務先から職場への帰り道である。忙しい公安刑事が二人して完全な休みをもぎ取ることは難しいため、バディで動くこういった隙間時間をデートと称しているのだ。もっとも、そう呼んでいるのは糸冬だけだったが。
「桐島さん、これ見てください」
「何です? 急に」
立ち止まった糸冬に袖を引っ張られ、桐島は眉を顰めて振り返った。
糸冬が身を屈めて覗き込んでいるのは、露天商だ。多数のアクセサリーが所狭しと並べられており、値札には色で割引率の異なる値引きシールが貼られている。
商店街の創業祭に便乗して出店しているうちのひとつらしい。無許可営業ではなさそうだし、商品は大半が千円前後で高くとも五千円以下だ。比較的真っ当な露天といえるだろう。
「で?」
「これです」
隣に立った桐島に、糸冬が指差したのはネックレスだった。黒い紐の先に羽を模ったシルバーが付いたシンプルなもので、よく見かけるデザインだ。
「それが何か?」
「桐島さんがいつも羽飾りを着けているので、つい目に入ったんです」
そう言われて、桐島は「ああ、これですか」と耳飾りに触れた。材質は違うものの、一枚の羽というモチーフは共通している。
「はい。同じ耳飾りを糸冬が着けても似合わないと思いますが、このネックレスなら大丈夫かなと」
糸冬がネックレスを手に取り、胸元の辺りに掲げて露店の鏡を覗き込む。小さく頷いてから、「どうですか?」と桐島の方を向いた。
赤いマフラーに視線が行きがちではあるが、黒尽くめの服装にそのシルバーの輝きは良く似合っている。シンプルなデザインなので、他の服装にも合わせやすそうだ。
「良いんじゃないですか?」
素直な感想を伝えた桐島に、糸冬が『糸冬全』の仮面を僅かに外して口先を尖らせる。
「適当すぎ。仮にも恋人なんだから、もっとこう、『似合ってます』くらい言えないのかよ」
声を潜めて文句を言う恋人に、桐島は呆れた表情で溜息を吐いた。
「誰にでも似合いそうなデザインに、一々大げさに言う必要ないだろ? 大体、あんた元の顔とスタイルが良いんだから、大抵の物は似合うんだっての」
「な……っ!?」
不意打ちで容姿を褒められ、糸冬の頬が赤くなる。
動揺して視線を泳がせている糸冬の手から、桐島がネックレスを取って店主に差し出した。手際よく会計を済ませ、「まいど」という言葉と共に透明な小袋に入れられたそれを受け取る。
「はい、どうぞ」
差し出されたネックレスをまじまじと見つめ、糸冬が「いいの?」と呟く。
「気に入ってたみたいだし、そんなに高い物でもないんで。まあ、たまには良いでしょ」
口元を僅かに綻ばせた桐島が、糸冬の手を取りその上にネックレスを乗せた。落とさないように両手で包み込み、糸冬が赤らめた頬をマフラーに埋める。
「……ありがと」
「どういたしまして」
マフラー越しの籠った声で紡がれたお礼に、桐島がくすりと笑って踵を返す。その耳元で、ひらりと羽飾りが揺れた。
慌てて追いついた糸冬が、ネックレスを大事そうにポケットに仕舞う。
「休みの時とか、いつも着けるようにしますね」
「いや、気が向いた時だけで良いと思いますけど?」
「桐島さんだってその耳のやつ、いつも着けてるじゃないですか。お揃いにしたいです」
はにかんだような笑顔の糸冬に、桐島も僅かに頬が熱くなるのを感じながら肩を竦めた。
共通点は一枚の羽ということくらいで、並んでいてもお揃いだとは見なされないだろう。それでも、当人たちが認識していればそこには意味がある。
「ご自由に」
笑みを浮かべた桐島に、「はい」と糸冬が頷く。
そのまま並んで歩く二人は、帰り着くまでの短いデートを密かに楽しんだのだった。
(あとがき)
あんな匂わせ画像見せられたら書くしかないと思いました。本人たちだけがわかってるお揃い概念って良いですよね? 腐った人間にはもろわかりですが☺
桐島さんって本当にスパダリな言動が似合う! 糸冬さんもたぶん演じることはできそうですが、素でやるとなるとまごつきそうなイメージ……根がクソガキなのでw 自分がやろうとした格好つけを大体やり返されて、惚れ直しつつむくれててほしいです💕