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無題

全体公開 1604文字
2025-04-09 23:07:43

かなり昔の。唐突に始まり唐突に終わる

月夜の住宅街。屋根を駆ける影ひとつ。黒の一張羅、黒いトレンチコート。少し伸びた銀の髪が月に煌めく。

……ツクモ。目標の場所に到達した」
通信機を介して報告する。向こう側の声は満足げに返事をした。
『よろしい。そこからは遂行の為に行動してくれ。何かあったらまた連絡するように。いいね』
……はいはい」
心配症な上司の顔が浮かぶ。盛大に溜息を吐いて適当に返答し、通信を切った。
『はいは一回でしょ~、マスター』
通信を切って間もなく、電子の声が聞こえる。
「その呼び方やめてくれる?あんたのマスターは僕じゃないんだから」
『むう。でも私を助けてくれたのはあなたです』
「助けたつもりないんだけど」
軽い身のこなしで地上へ降りながらツクモは電子音と会話する。
『そんなつもりは無くとも私は感謝してるんですぅ。ムキにならないでください~』
……切るよ」
通信機の電源に手をかける。
……こほん。さーせんした。反省してます』
電子音は態とらしく謝罪の言葉を並べた。
……で、要件は」
『ほんとご主人は仕事バ…………仕事熱心ですよねえ。今回もハッキングするんです?』
「相手によるな。その時はよろしく頼むよ」
『了解~、それじゃご主人。頑張ってください』

裏口から錠を破壊して侵入した。以前ならピッキングして侵入していたが現在はそういう訳には行かない。トラップも仕掛けられたりする場合もある。現に引っかかって痛い目を見た時があった。こういう時に技術の発達が恨めしくなる。
入ってすぐに人影を見つけた。組織の構成員だ。麻酔銃ですぐに眠らせその場をやり過ごす。

標的以外は殺すな。

そんな掟の下で動いている。それ故の行動だ。ツクモは深く息を吐いた。不殺が不得手だからだ。麻酔もそう長く持つものではない。銃を構えたまま、建物内を進んでいった。

何人か眠らせ、また何人か昏倒させた頃だった。コンピュータとモニターが並ぶ部屋に到達した。無人のようだ。電源を入れる。パスワード認証をしないと中を見ることが出来ないように仕組まれていた。
……零式」
『はいはぁい』
先程の電子音……零式の陽気そうな返事が聞こえた。
「仕事だ、このコンピュータに繋ぐから入って調べて欲しい」
左眼に仕込んだコンタクトレンズにコンピュータを映し出すと、ポケットから小さな端末を出してコンピュータに接続した。
『あ~ちょろいですね。数秒で済ませてきますよっと………………はい、終わりました。で、これが中身ですけど。どうします?』
次々に映し出される情報をひととおり眺める。この組織の機密情報のようだ。依頼されたものであることを確認した。
「本部に転送して。確認してもらう」

それから数分後。転送した情報が依頼されたものであることが分かりツクモはすぐさまこの場から立ち去ろうとした。のだが。
「あ?お前か?裏口から入り込んだ奴ってのは」
運悪く人に見つかった。まだ麻酔銃を撃たれても昏倒させられてもいない構成員だ。
……面倒臭いことになってきた」
窓を叩き割り外へ出る。さほど高い所ではないので容易く着地すると街中を駆けて行く。
「待てやコラァ!!!!!」
相手も必死でツクモを追ってくる。
「うざ……
ツクモはポケットから札を出した。紅い文字で陣が描かれた札だ。それを相手に向けて投げる。札はひらりと舞うと紅い炎を出した。
「こんな銃社会に魔法か?笑わせるなよ」
炎をかいくぐり男は近付く。炎の向こう側に立っていたはずの彼は、消えていた。
「上だよ、ばぁか」
パイプにしがみついた状態で麻酔銃を撃った。追っ手の脅威は無くなった。
……君はコレを馬鹿にしているようだけど。使いようによっては中々重宝するんだよ。まあ、昔はこんなもの自体疎んじている所はあったけど」
燃え尽きた札の燃えかすが夜風に舞う。ツクモは夜闇に溶けて消えた。


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