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無題

全体公開 1481文字
2025-04-09 23:12:29

かなり昔の以下略②

男は侵入者を追い掛けていた。絶対に捕らえなければならない。というのも理由があった。
召喚獣を召喚する際に使う結晶が奪われたからである。
「くっそ…………逃げ足速」
魔法を使って速度を上げているにも関わらず、魔法を使用していない相手に追いつけない。どんどん距離は開いていく。
「御苦労、あとは僕に任せな」
「キールさ……
釣竿を操り空中を滑空する彼。自分よりもずっと速い。流石永く魔法と付き合っているだけの事はある。男はキールを見送りながら、侵入者が捕まる事を祈った。

――まずいな。

ツクモはなんとなく危機を感じていた。追っ手が変わったからである。よりにもよって、国の重鎮にもなりうる存在。
『ご主人、どうするんです?ちょっとやばいんじゃありません?』
「馬鹿。そんなくらい分かってるよ……このまま走っても船には乗れないだろうからね。一度止まって無力化を図ってみるよ」
『そんなこと出来るんです?』
「やってみないと分からないだろ」
道を曲ったところで、ツクモは立ち止まった。間もなく、キールの姿も見えてくる。
「やあ、逃げるのを諦めたのかい。賢明な判断だね……気が変わらないうちにその結晶を渡しておくれよ。見逃してあげるから」
「確かに逃げるのは諦めたさ。でもこれは渡さない」
結晶をコイントスの要領で弾き、再び手中に収めた。
「僕らにとって大事なものなんだけれどな」
「僕ら……いや、ボスにとって大事なものになるんだけどな」
「甘く見られているのかな。僕は気が短いから、力ずくでも取り返させてもらうよ」
キールの指先から真っ赤な炎が上がる。陣が描かれた札を放ち、炎を消火した。
……札?見た事の無い魔法道具だね」
「オリジナルだからね。見たことが無いのも無理は無いよ」
急所目掛けて銃を撃つ。容易く避けられて思わず舌打ちをした。
「怖いくらい正確だね。僕が普通の人間だったらとっくに死んでいた」
「そりゃどうも。あんたが人間だったら事は早く済んだのだけれど残念だよ」
魔法と銃の応戦が続く。両者ともに引けを取らない攻防だった。

最後の弾倉が尽きた。もう銃は使えない。
「おや、弾が尽きてしまったんだね。可哀想に」
「あんたにハンデがついたよ。良かったね」
「いつまでその余裕が続くかな」
炎の壁に阻まれる。札ももう数える程しか持っていない。残された手は、ひとつしかなかった。

炎の壁に包まれてから数分。向こう側からは何もこない。
「降参でいいのかな、大人しく結晶を……
炎の壁を消した。彼の姿はあるが、それは偽物だった。
……馬鹿な」
前には炎、後ろは壁。逃げようにも逃げられない状況で彼はどうやって消えたのか。
「こっちだよ、魔法使い」
上から声が聞こえた。彼は空中浮遊していた。
……いつの間に」
「この札は万能でね。式神の役割も果たしてくれるからよく囮に使うんだ。札で空中浮遊なら数分間持つし使わせて貰ったよ」
……そんなことしたって」
釣竿に乗り彼の元まで飛んでいこうとしたその時だった。
「魔法でも風圧に耐え切れるのかい?」
上から小型ヘリが飛んできた。風圧でキールは飛ばされる。何故あの男は飛ばされないのか。よく見ると、ワイヤーが月に照らされて見える。それはヘリのところに繋がっていた。
……そういうことかい」
「そういう訳だ。諦めなよ、魔法使いさん」
彼の表情に既視感を覚えた。既視感の正体を掴めないまま、ヘリは去っていく。
……君は何者だい。前に一度、会ったような気がするんだが」
その問い掛けに答える者はもう居ない。


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